第63話 イタリア・秘境パン探検ツアー(ファンゼルト・消えかけたパン)
ビズラの首飾りを腕に通している豊心君を乗せた一行はヴェローナに向かった。
ここが次の目的地ではない。
ホテルに宿泊するためだ。
この街発祥のパンというか、焼き菓子みたいなのがある。
パンドーロである。
高さのある星形のパンというかケーキというか。
見た目は大きなカヌレみたいなのに、切ってみると中はシフォンケーキのようにふわふわ。
バターと卵のコクが感じられるおいしいパンである。
そのままでも十分おいしいのだが、真奈美さんのようにクリームを塗って食べ……
また勝手にクリーム頼んでいる!
そして翌日は次の目的地へと向かう。
次はヴァッレ・ディ・テッラニョーロ。
つまりテッラニョーロ渓谷である。
目的のパンはファンゼルト。
テッラニョーロそば粉の薄焼きパンである。
真奈美さんが目的のパンを告げると、豊心君が解説をする。
「このパンは超ローカル食品という扱いだ。なにせ隣の谷でさえ存在を知られていないと言われていた。テッラニョーロの伝統食でそば粉を使った非常に薄いパンだ」
「行って食べられるよね?」と僕が言うと、
「私が電話しておいたから」と真奈美さん。
真奈美さんの電話によって確実にパンが食べられる。
いったいどういうからくりなんだろうと思った。
「それで生産量が極端に少なく、近い将来消滅する可能性があると言われていた。しかし最近、そば自体が保護対象になったらしい。だから正確には、小規模ながら栽培・加工を続けているといったところか。希少性には変わりない」
目的地に着いた。
アルプスの山々に囲まれた深い谷。
小さな集落が斜面に点在。
石造りの古い家。
いくつもの小さな集落が谷の斜面に散らばっているのが特徴だ。
オステリア33という店に入る。
ファンゼルトが出てきた。
そば粉で作った、厚めのクレープといった感じで、色は茶色っぽい。
そばの香りがする、薄く焼いた素朴なパンケーキ。
それを山のチーズやソーセージと一緒に食べる。
味はガレットに近い。
そばということで、どこか懐かしい気分になった。
豊心君が僕に聞く。
「美味しいか?」
「う~ん。チーズやソーセージの方が……」
「そりゃそうさ。美味しいから有名になったのではなく小麦の白いパンが貴重だった山の谷で、手に入るそばを使ってパンの代わりにしたものだからな」
そういいながら豊心君はおかわりをしていた。
小麦の白いパンが貴重か。
でも素朴な味で、いいじゃないか。
このままこのパンも残っていてほしいと願ったのだ。
横で豊心君が3枚目を食べているのを見ながら。




