第62話 イタリア・秘境パン探検ツアー(カットーリカの船乗りパン)
レンタカーで高速道路に乗る。
目指すはエミリア=ロマーニャ州カットーリカ。
アドリア海沿岸のリゾート都市だ。
「次の店はね。お目当てのパンは週末にしか売らないのよ」
「だから今日(土曜日)なんですね」
「そう。一応私が行くって連絡入れてあるから大丈夫なんだけどね」
「……」
真奈美さんの力はイタリアでも通用するのか。
「それで、次はどんなパンなんですか?」
「ビズラってパンなんだけど」
「ビズラだと」豊心君が食いつく。
「さすがね。知っているとは」
「リング状のパンだ」
「ドーナツみたいなもの?」
「いいや。人の腕が通るほどの穴の大きさだ。漁業文化そのものと結びついた保存食で、昔の漁師はこれを一本の紐に通して、ビズラの首飾りのようにして肩から下げたり、船内に吊るしたりしていた」
「大きいのか」
「数日海上にいる漁師にとって、ビズラはほぼ必需品で、硬くなったら、水やワインに浸して柔らかくして食べていた」
「なるほど、漁師のためといってもいいパンなのか」
「そう。穴があるから紐で運べる。まとめて吊るせる。船の高いところに吊るして、海水や害獣から守れるといった具合だ」
「いまも漁師は船に持っていってるの?」
「まさか。というか、今作っているパン屋は一軒だけで、それも真奈美さんの話では週末だけだというからな」
「今回も一軒だけなのか」
そうしていると目的地であるトリンカンティベーカリーに着いた。
3人でお店に入ると、たくさんのパンなの中にビズラがあった。
真奈美さんを見ると「お待ちしていました」みたいなことを言っている。
3人でビズラを食べる。
「硬い……」と思ったら、噛むと中は柔らかい。
そして乾燥した部分はグリッシーニみたいにぽりっ、ほろっと崩れる。
豊心君が水に漬けて食べ始めている。
ぼくも真似をした。
やわらかくなったビズラを食べる。
正直味は微妙。
でもこんな食べ方は初めてだった。
真奈美さんはいつの間にかスープに漬けて食べている。
いつの間に頼んだんだ。
店を出ようとすると豊心君が残りのビズラを全て買っていた。
そして紐を通してネックレスに。
見ていると歩きにくそうだけど、本人が満足しているようなので、なによりだ。
「でも豊心君、そんなに買って食べられるの??」
「このパンは保存食だぞ。一週間は大丈夫だろ。つまり日本にも持って帰れる」
僕は空港でビズラの首飾りを腕に通している豊心君を想像した。
空港で「これはなんだ?」と問い詰められてる豊心君を想像したら笑いが止まらなかった。




