第60話 イタリア・秘境パン探検ツアー(魔女の村の一軒だけのパン)
「これからどうするんですか?」僕は真奈美さんに聞く。
「次は西へ行くわ」
「西ですか」
「目指すは魔女の村よ」
「魔女の村!」
なんという魅力的な村だ。
魔女の村。
そう聞くだけでワクワク感が止まらない。
しかし、あることを思った。
真奈美さんが魔女なのではと。
再びレンタカーで移動。
またもや山村を目指した。
先ほどはトスカーナ側の山村。
今度はリグーリア側の山村を目指すという。
「なんで魔女の村って言うんですか?」移動中、僕は真奈美さんに聞く。
「ここで魔女裁判があったからよ。本当に魔女が住んでいるという意味ではないわ」
車は標高約780m、インペリア県のアルジェンティーナ渓谷にあるトリオーラという場所に着いた。
こちらは先ほどより人口が多い。
少し歩くと魔女博物館というのがある。
中を見たいが時間がない。
それに豊心君も真奈美さんも関心はなさそうだ。
そしてまたもこの村唯一のパン屋である、パニフィーチョ・アスプラナート・アンジョリーノにやってきた。
店に入ると、店主だけでなく従業員もいた。
こちらは先ほどの店より商業的なのだろう。
とはいえ、ここに来たのはここだけでしか作られていないトリオーラのパンを食べるためだ。
やや粗めの小麦粉とふすまを使い、ぬるま湯と塩で一晩発酵させて作る。
翌日、さらにイーストと小麦粉を加えて生地を発酵させ、ふすまを敷いた上で数時間休ませた後、浅く幅広のパンの形に成形する。
出来上がったパンは日持ちが良く、焼き上がり後約1週間は新鮮な状態で食べられるとのこと。
豊心君に聞くと、名前は聞いたことがあるとのことだった。
茶色の濃い大きな丸パンで、素朴といっていい見た目だ。
さっそく3人で食べてみる。
「硬い。でも、硬いのは皮だけだった。中は意外なほど柔らかい。そして噛むほど、小麦の匂いが出てくる。」
オリーブオイルがとても合いそうだと思った。
真奈美さんを見るといつの間にかオリーブオイルと一緒に食べている。
ずるい。
豊心君は噛みしめながらゆっくりと食べている。
先ほどの栗の甘いパンとは違う。
素朴で香ばしい、ちょっと全粒粉っぽい味。
小麦の甘みより、穀物の旨み・香ばしさが前に出る。
こちらも作っているのはこの店だけ。
今日はとても貴重な体験をした。
今度誰かに自慢をしたいな。
いいだろう。世界でここだけのパンを、こんな山奥の店で食べたんだぞと。




