第59話 イタリア・秘境パン探検ツアー(山奥の栗粉が主役のパン)
「来週イタリアに行くから」放課後真奈美さんが突然言いだした。
「来週って普通に授業があるんですが」
「今回は長いわ。一週間ぐらいかかるかも」
僕の話は無視ですかい。
「イタリアならローマかミラノか? あるいはフィレンツェをはじめとするトスカーナ地方とか」と豊心君。
「そんな大きな街じゃないわ」と真奈美さんが言う。
「地方都市?」と僕が言う。
「もっとすごいところも行くわよ。題してイタリア・秘境パン探検ツアー!」
この言葉に豊心君のテンションが爆上がりだ。
「よし。さっそく行こう」と豊心君。
「来週って言ったでしょ」
秘境パン探検ツアー。
僕は嫌な予感しかしなかった。
そしてイタリアに行く日になった。
豊心君はずっとテンションが高い。
飛行機を乗り継ぎ、イタリアのピサ空港を目指す。
機内で僕が真奈美さんに質問をした。
「それで真奈美さん。イタリアのどこを目指すんですか?」
「レニャーノというところよ」
「聞いたこともない場所ですね」
「そりゃ、カゾーラ・イン・ルニジャーナにある小さな集落だからね。人口100人ちょっとよ」
「少なっ。うちの学校の一学年より少ない」
「そこにね、イル・フォルノ・イン・カノアラっていうパン屋があるの。もちろんその集落で一軒だけね。そこに小麦粉、大量の栗粉、少量のジャガイモ、オリーブオイルで作られたパンが売られているの」
僕が豊心君に「知ってた?」と聞く。
豊心君は悔しそうに、「知らなかった」と言う。
豊心君が知らないパン。
秘境ツアーの最初から、とんでもないところに行くことになった。
2度の乗り換えでピサ空港に着く。
そこからはレンタカーで移動だ。
車も、運転手も真奈美さんが手配をしてくれた。
アプアーネ・アルプスとトスカーナ=エミリア・アペニン山脈の間にある村。
周囲は山と森林で、栗林が多いという。
石造りの古い家。
近代的な観光リゾートという感じではなく、農村として形成された古い集落であった。
そしてついに目的地のイル・フォルノ・イン・カノアラっていうパン屋に着く。
僕たち3人は店に入る。
店主は日本人が来たことに驚いているようだ。
Marocca di Casola。
今回の目的のパンである。
見た目は濃い茶色。
そして栗の匂いがする。
割ってみると中は明るい茶色。
割った感じは、詰まった感じがあるが、柔らかい。
店主は甘いものにも、塩気のあるものにも合うという。
まずはそのまま。
甘い。でも普通のパンの甘さじゃない。
食感はふわふわ系ではなく、密度のある、少し重たいパン。
それは小麦粉で作るパンと違う、不思議な味だった。
現在、このパンを定期的に作っているのは、ここだけだという。
人口わずかな山間の集落。
そこで僕たちは、栗を主役にした不思議なパンと出会ったのであった。




