第48話 スウェーデン旅行の本来の目的
豊心君が今回の旅行は明日からが本番と言う。
スウェーデンに来たついでに大会に参加をねじ込んだ真奈美さんの謎の力には、恐怖すら感じる。
「それで今回の本来の目的は?」
「幻のパンを食べに行く」
「幻のパン?」
「ああウップランズクッブというパンだ」
「どういうパン?」
「その名の通りウップランド地方のパンでな、蓋付きの円柱の型に生地を入れ、湯煎で焼き上げる。つまりオーブンとかじゃないんだ」
「湯煎で焼くって」
「そして発酵に最低5時間かけ、湯煎での焼成は4時間、型から取り出した後、10時間以上かけて冷ますんだ」
「時間かけすぎ」
「パンに使用するシロップはスウェーデン産に限られる。規定により原材料のライ麦、小麦はウップランド州産で、製造地もウップランド州内に限られている」
「条件厳しすぎ」
「しかも1991年に商業生産がいったん途絶えたんだ。その後復活したんだが、現在も作っているところはごくわずかだ。まあ個人レベルでは作ってる人もいるだろうが」
「なるほど幻のパンだ」
「だから現地に食べに行く」
そういった豊心君の目は輝いていた。
翌日、真梨さんと別れて3人でウップランド州に移動。
そして、お店というか製造所というか、小さな建物にたどり着いた。
事前に予約をしていたので、話はすんなりだった。
そして気さくに作り方や実際に作っているところも見せてくれた。
最も古いレシピは1852年だそうだ。
その場で実際に食べてみる。
シロップのはっきりした甘みにライ麦の酸味、後味にわずかな苦みがあり、ものすごく密度の高いライ麦蒸しパンという感じだ。
「甘酸っぱい風味があり、塩気のあるトッピングに特に合うんだ」と言って僕らにチーズを渡してくれた。
チーズと一緒に食べると確かに合う。
こうしてお礼を言って、店を出たのである。
「いやあすごかったね」と僕が言う。
「貴重な体験ができた」と豊心君も言う。
「じゃあ帰りますか」と僕が言うと、
「まだもう1か所ある」と豊心君が言う。
「もう1か所?」
「そうだ。次はエーランド島に行く」
僕らはカルマルというところに向かった。
エーランド島には橋を渡って行く。
橋の全長は約6kmだ。
エーランド島に着くと目的地を目指す。
「次はどんなパンなの?」
「パンというより小麦自体がかなり珍しいんだ。エーランド小麦又はオーランド小麦と呼ばれていて、古い在来系小麦なんだよ」
「スペルト小麦ってやつ?」
「正確には、スペルトを祖先・起源とする独特の在来小麦だな。1回は絶滅したが、遺伝資源として冷凍保存・保管されていたんだよ」
「なんかすげえ」
今回向かったのはカフェである。
そこであるパンに注目。
有機エーランド小麦+サワードウ。
出てきたのは田舎風のパン。
まずはなにも付けずに1口食べる。
コクがあり、少しローストしたようなナッツの風味だ。
そしてなにより香りが良い。
コーヒーとバターを付けて、このパンの味を楽しんだ。
スウェーデンで幻のパンと幻の小麦を食べた。
とにかく貴重な経験だった。
豊心君も真奈美さんも笑顔である。
いつかきっと今日のことを思い出す日が来るだろう。




