第47話 Bröd- och Chokladeventet(パンとチョコレートの祭典)
豊心君は大会で作るパンに難航していた。
お題が曖昧なうえに、スウェーデン流でいくか日本流でいくかが決まらないのだ。
一応スウェーデンで定番のカネルブッレ(シナモンロール)をベースにしようとは思っているのだが。
なんとか3つ試作を作ってみた。
・シナモンの代わりにクリームチーズを巻き、オールスパイス。
スウェーデン流のをアレンジした。
コーヒーに合わせるために、シナモンの代わりにクリームチーズを使い、スパイスでアクセントをつけたのだ。
・抹茶+すりごま。
こちらは日本流。
シナモンパウダーではなく抹茶パウダーを使用。
・ニッキ(肉桂)。
八つ橋などに使うものである。
シナモンと同じクスノキ科なのでシナモンと近い。
ニッキの方が辛味が強いのが特徴。
僕は豊心君が作った3つを食べてみた。
「どうだ?」と豊心君が聞く。
「クリームチーズのは1番良いね。スウェーデンのをリスペクトしている感もある。ただ」
「ただ?」
「無難だ」
次は抹茶のを食べた。
「抹茶とすりごまで日本の感じがするね。抹茶だけだと少し苦味が強くなるので、すりごまを合わせたのもいい。これも」
「これも?」
「ただ、日本のものにアレンジしましたって感じだね」
最後はニッキのだ。
「シナモンと似ている日本のニッキを使う発想は面白いと思うが」
「それで?」
「単にシナモンの代用品を使いましたって気がする」
「手厳しいな」
「その方がいいだろ?」
「まあそうだが」
再び豊心君が腕を組み考え始める。
僕は厳しすぎたかなあと思ったが、思ったことを言った方が豊心君のためであると信じた。
しばらく考えた後に豊心君が4つ目を作った。
豊心君を見ると、出来に満足しているのか、笑顔が見える。
海苔+クリームチーズ+オールスパイス。
甘いパンに海苔である。
さっそく食べてみる。
僕は海苔は味付け海苔だろうと思ったら、焼き海苔だった。
「味付け海苔は砂糖や醤油の味が入っているからだめだ」と僕の顔を見て言う。
海苔を生地に練り込むのではなく、フィリング側に使う。
「海苔は旨味を持つ。クリームチーズには酸味と脂肪がある。小麦の甘味とバターがそれをつなぐ。だから甘いパンでも成立する」
なるほどと思った。
豊心君はこれでいくと言う。
そして翌週、真梨さんも加えて4人でスウェーデンに向かった。
スウェーデンの首都、ストックホルムに着くと早速ホテルへ。
そして翌日は大会に参加だ。
翌朝、豊心君は早めに現地に向かった。
仕込みの為だ。
真奈美さんも豊心君に付いて行ったので、僕はチョコレート信者の真梨さんと一緒に行動をすることになった。
この祭典はパンとチョコレートの両方の祭典。
あちこちで職人がパンやチョコレートのお菓子を実演販売している。
真梨さんは最初は「今日はよろしくお願いいたします」なんて礼儀正しかったが、すぐに本性を現した。
店に行っては、隙あらば動画や写真を撮り、食べては買っての繰り返し。
途中から「フヒヒヒ」と謎の言葉を発しながら店を転々としている。
途中から僕は荷物持ちになり、ただついて行くだけ。
僕って今回荷物持ちだったんだと思った。
ようやく落ち着くと、「お昼はチョコレートパンがいいな」と言う。
まだチョコ食うんかい。
その後荷物をホテルに置きに行き、豊心君の元へ。
大会は始まっていた。
職人たちがそれぞれのbulleを出していく。
真梨さんはスウェーデン語もいけるので通訳をしてくれた。
そして豊心君の番がきた。
豊心君がパンを出すと、審査員がざわつく。
「この黒いのはいったい?」
「海苔です」
「海苔?」
「海藻です」
審査員がさらにざわつく。
困惑顔の審査員たちも食べてみると、驚いた表情になる。
「これは……Bulleだ」
「こんなBulleは食べたことがない」
と審査員同士で話している。
しばらくして結果が出た。
豊心君は「brons(銅)」と言われた。
審査員は今回かなりハイレベルだったという。
「豊心君残念だったね」
「う~ん周りみてたけど、みんなレベルが高かった。でも悔しい」
その夜は祝勝会にならず、かといって残念会でもない微妙な健闘会となった。
グローンカーカ。
オートミールなどのお粥を生地に混ぜて焼く、独特のパン。
柔らかく、素朴な味わいだ。
ポッテカーカ。
じゃがいもを使ったパン。
見た目もよく、もちっとした食感も良い。
ルッセカット。
サフラン入りの黄色いパン。
S字型でレーズンも良いアクセント。
ショクラード・カネルブッレ。
シナモンロールのチョコレート版。
真梨さんが美味しそうに食べていた。
これらのパンをみんなで食べた。
真梨さんが大量の荷物をまとめて帰国の準備をする。
僕も帰国の準備そしていたら、豊心君が言う。
「友久、今回の旅行、明日からが本番だからな」




