第46話 スペインで豚の脂と呼ばれるパン
朝、時間ギリギリで豊心君がやってきた。
「ギリだったね。寝坊でもした?」と僕が言うと、
「逆。早起きして部室で仕込みをやっていた」と豊心君が言う。
「仕込み?」
「ああ。発酵に暖かい場所で8〜12時間かかるからな」
「そんなに」
「そこの2人、静かにしろ」と先生に怒られた。
放課後、豊心君と部室に行く。
「なんか生地が渦巻いているね」
「ああ。そういうものだからな」
豊心君が生地を確かめオーブンに入れる。
「ところでなんて言うパンだい?」
「エンサイマーダというスペインのマヨルカ島のパンだ」
「どんなパンなの?」
「エンサイマーダ。直訳すると豚の脂」
「豚の脂だって!」
「面白いパン作ってるじゃない」といつの間にか来ていた真奈美さんが言う。
「ああ、バターの代わりにラードを使っているからな」
豚の脂と聞くとあれだが、ラードと聞くと聞こえが良くなる気がする。
オーブンで焼き上がると珍しく豊心君が飲み物を作り始めた。
「なに作ってるの?」
「ホットチョコレート。エンサイマーダとの組み合わせは昔からある食べ方だ」
3人で焼き上がったプレーンな豚の脂、もといエンサイマーダを食べ、ホットチョコレートを飲む。
ラードが効いているのか味わい深い。
表面のパリパリ感と、中のふわっとした層が美味しい。
なんかリッチな味だ。
3人が食べ終わると、真奈美さんが言う。
「来週、また出かけるから」
「どこにですか?」
「スウェーデン。この前の真梨が出た大会でのお礼よ」
「もうすぐ期末考査なのですが?」
「それがなに? 豊心君、あなたにはまた大会に出てもらうから、準備しておいて」
「何を準備すればいい?」
「bulleって知ってるわよね」
「ああ。甘いパンとか菓子パンみたいなものだろ」
「そう。お題はbulleを作ること。何のパンを作るか楽しみにしているわ」
「bulleか」
「Bröd- och Chokladeventet(パンとチョコレートの祭典)っていうのだから。それでチョコレート作りの実演や販売もあるから、真梨も行くって」
僕は、あのチョコレート信者も来るのかと思った。
豊心君を見ると、腕を組み、早くも思案しているようだ。
帰ったら期末考査対策に勉強でもしておくかと思った。
真奈美さんが帰った後に気が付いた。
今回はフィンランドの時と違い、豊心君のみの参加だ。
僕、行く意味ないんじゃ。




