第43話 チョコレートの真梨
「私の親戚に協力してほしいの」と真奈美さんが言う。
またかと思った。
加奈子さんみたいな新たな狂信者が来るのかと。
「それでどんな人なんです?」と僕が聞く。
「彼女はチョコレート好きよ」
チョコレート信者か。
「いったい何を協力すれば?」
「彼女は真梨って名前なんだけど、今度チョコレートの大会に出たいって言ってるの。それでね、真梨は知識はすごいけど、技術が追いついていないの」
「なるほど」
「それでチョコレートパンを一緒に作ってほしいの」
やっぱり僕じゃなくて豊心君か。
豊心君が「わかった」と言う。
翌日、真奈美さんが真梨さんを連れてやって来た。
「はじめまして。真梨と申します」
礼儀正しい、常識人だ!
こちらも挨拶をする。
「今度つくばで行われる世界チョコレートフェスティバルに参加したいのですが、何を作っていいのか分からなくて。そこでパンの専門家がいると聞いたので相談しに来ました」
豊心君が「チョコレートを使ったパンなら協力できる。お菓子やケーキは無理だ」と言う。
「パンでも構いません。むしろ過去の大会を見ると、パンで出場している人は少ないので、狙い目だと思います」
「チョコレートのパンというと、海外だと、ブリオッシュ生地の中にチョコレートを入れるのが多いな。しかし日本は多種多様だ。日本のパンを参考にしてみるか」
「はい。ぜひよろしくお願いします」
低姿勢で礼儀正しい。
真梨さんは本当に真奈美さんの親戚なのか?
「チョコを中に入れるか、コーティングするか……」と豊心君が考えている。
「真梨さんはそんなにチョコレートが好きなんですか?」と僕が聞く。
「はい。それはもう。最近はチョコレートのお風呂に入って全身チョコまみれになりたいですね。頭からチョコレートを被れると思うとわくわくしますね。それでチョコと一体化する。なんて素晴らしいんでしょうか。使用するのはカカオ70%ぐらいのがいいですね」
やっぱダメでした。
「ところであの祭壇と絵は?」
「あれはパンの神です」と豊心君。
「素晴らしいですね。私もチョコレートの神様が欲しい」
「友久君調べなさい」と真奈美さん。
僕がノートパソコンで調べていく。
「最古のチョコレートは約5,300年前(紀元前3300年ごろ)。エクアドルにあるサンタ・アナ=ラ・フロリダ遺跡でカカオが利用されていたのが最初らしいです。ただ食べるのではなく、飲料だったみたいですね。そして、味も現代とはだいぶ違ったのではないか、とのことです」
「再現できるのですか?」
「無理ですね」
「作れるなら16世紀のアステカ(ナワ族)のチョコレート飲料まで待たないと。固形のチョコレートなら、1847年に初めて成形された食用チョコレートバーですね」
「そんなに新しいんですか……」
なんで食べ物好きって神様作りたがるんだろ?
「では神様は一旦保留で。チョコレートパンを研究しましょう」
それからはチョコレートパンの日々が始まった。
日本のチョコあんぱんにチョココロネ、チョコチップパン。
イタリアのチョコラータ・デニッシュ、スイスのチョコレート・ツォップ、オーストリアのチョコレート・クランツ。
日本のチョコクロワッサンは興味深かった。
各パンメーカーが作っているものが違うからだ。
普通の板チョコが入ったチョコクロワッサン。
生地にチョコを練り込んで棒状のチョコを包んでいるチョコクロワッサン。
外に出ている部分は板チョコだけど、パンの中身はチョコクリームのチョコクロワッサン。
チョコクロワッサンにしても各社違うのが面白い。
しかし……もうチョコレートパンは食べたくない。
限界だ。
食事パンを食べさせてくれ。
限界と感じた頃にようやくオリジナルチョコレートパン作りが始まった。
僕はまだチョコレートパンを食べさせられる日々が終わらないと思い、逃亡しようとした。
その時真奈美さんがチーズパンをくれた。
久々にチョコレートパン以外のパンを食べて、僕は感動した。
これで、また数日間耐えられると思った。
そんな時に僕に異変が。
オリジナルで作られたチョコレートパンを食べているうちに、チョコレートに対する味覚が異常に鋭くなったのだ。
「このパンにはもっとビターな方が良い。このパンでは食感が弱い。チョコにアーモンドなどのナッツを入れるべきだ」
「友久どうしたんだ」と豊心君。
「チョコレートハイね。チョコを限界まで食べて、味覚が鋭くなったのね」と真梨さん。
僕の意見が取り入れられ、オリジナルパンが完成した。
あとは真梨さんが自分でパンを作れるようになるだけになったのだ。




