第41話 フィンランド・ヘルシンキ プッラフェスティバル
放課後、部室で真奈美さんが突然言い出した。
「来週フィンランドへ行くわ」
「そうなんですか。行ってらっしゃい」と僕が言う。
「何言ってるの。あなたたちも行くのよ」
「なんで!」
「フィンランドにプッラってパンがあるの。豊心君は知ってるよね?」
「もちろん」
「それで来週、フィンランドでプッラフェスティバルがあるから私たちも出るわ」
「まさか」
「そう、豊心君が作って友久君が接客ね」
「ちょっと待って下さい。いきなりすぎませんか? 学校や親はどうするんですか?」
「学校にはもう許可をもらっているわ。そしてあなたたちの親にもね」
そういえばここ最近の夕食は豪華だった。
そして昨日結構なお小遣いをもらった。
まさか……
「じゃあさっそくプッラを作ってみるか」と豊心君。
ちょっと豊心君、なんでなんとも思わないの?
中力粉に牛乳、ドライイースト、砂糖、卵、無塩バター、塩。
そしてカルダモンを入れる。
プッラの生地は甘い生地にカルダモンの香りがポイントなのだ。
「プッラなんだけどね、形は様々なんだよ。丸いのや3本の細長い生地を編んで三つ編みにしたものや、生地を巻いたものもあるんだ。あとはコーヒーパンなんて呼ばれたり、粒砂糖がかかっていることが多いのが特徴だな」
甘い生地にカルダモンの特徴的な匂いがしてきた。
「じゃあ定番のを作っていくか」
豊心君がフィリングを作っていく。
「コルヴァプースティと呼ばれるやつで1番有名だ。バター、砂糖、シナモンを巻き込んでいる」
「カルダモンとシナモンは合うね」
「次はヴォイシルマプッラという、これも人気だ。焼く前の生地にくぼみを作って、そこにバターと砂糖を入れる」
「予想通りの味だけど、美味しいね」
「次なんだがラスキアイスプッラ。ジャムまたはアーモンドペースト+ホイップクリーム。ジャムはラズベリーやストロベリー。ちなみにジャム派とアーモンド派で論争が起きている」
「なにその論争。フィンランド怖い。僕はアーモンド派だね」
「とまあ、この3つが代表ってところだね」
「それで豊心君はどうするの? 僕はクリームチーズにナッツが合うと思うな」
「友久。俺らは日本代表として出るんだよ」
「まさか」
「そう。そのまさかだ」
「寿司とラーメンか」
「そんな訳ないだろ。すでに30種類ぐらい候補があるけどね」
翌週、13時間のフライトでフィンランドのヘルシンキに着いた。
さっそく会場に向かう。
僕と豊心君が大きな荷物を持って。
会場には15店以上の地元のパン屋が出店している。
そこへ日本から高校生がやってきたので、みんなが注目している。
そういえば言葉はどうするんだと思ったが、真奈美さんが通訳をしてくれている。
豊心君は早速プッラ作りに。
手のひらよりも少し小さめの丸いものが、たくさんできてきた。
そこへフィリングを乗せていく。
まずはあんこ+バター。
次は抹茶+ホイップ。
キーマカレー+チーズ。
明太子+マヨネーズ。
甘いもの系と食事系を作っていく。
僕はカレーと明太子は攻めたなと思った。
しかしこれにもう1品加わることになった。
天むすである。
おにぎり+エビ天。
甘いカルダモンが効いたパンに俵型の天むすが乗っている。
ストロングスタイルすぎだろ!
謎の日本の高校生が、独自のプッラを出したので、フェスティバルに来ていた人たちが、たくさん集まってきた。
そしてあんこ+バター、抹茶+ホイップを渡していく。
あんこ+バターはかなり好評だ。
抹茶+ホイップは若干、好みが分かれたようだ。
しかし、概ね受け入れられている。
キーマカレー+チーズはカルダモンがスパイスなだけあって、意外と喧嘩をしない。
チーズが甘い生地とカレーの間をつなぐ役割で良い感じである。
明太子+マヨネーズは、やや不評だ。
一見明太子にマヨネーズでまろやかさになったので合うかと思われたが、甘い生地とは合わない。
これには豊心君も攻め過ぎたかといった感じだった。
最後に天むすである。
出した瞬間会場がざわついた。
年配の人がこれはプッラに対する冒涜だと言う。
プッラにご飯がデンと乗っかっているだけであるから。
「待って下さい。これは日本の伝統的な食べ物のおにぎりと天ぷらを合わせたものです。ここ(フィンランド)には、カレリアンピーラッカ(第5話参照)という牛乳粥を挟んだパンがあるじゃないですか。だから、この見た目はともかく、組み合わせはカレリアンピーラッカのリスペクトです」
自分で言っておきながら僕は思った。
この天むすを乗せたのは豊心君である。
なんで僕が必死にフォローしなきゃいけないんだろうと。
何人かが恐る恐る食べ始めた。
意外や意外。
受け入れられてるみたいだ。
食べた人たちが感想を言い合っている。
しかしその後激しい口調の人たちが出てきた。
真奈美さんに何を怒っているのか聞いてみた。
「エビの尻尾を食べる食べないでもめているのよ」
ああそう。
でもまあ全体的には成功なのかな。
明太子は不評だった。
抹茶も好みが分かれた。
天むすでは冒涜とまで言われた。
それでも、フィンランドの人たちは食べて、議論して、笑っていた。
来てよかったと僕も豊心君も思ったのだ。




