第40話 文豪とパン
放課後、豊心君とスーパーへ買い出しに行ってから部室に行くと、真奈美さんが本を読んでいた。
「真奈美さんって何の本読んでいるんです?」
「今は太宰治」
「走れメロス? 人間失格?」
「斜陽よ」
「太宰治、太宰治」と豊心君が呟く。
「豊心君どうしました?」
「確かパンを食べていたような」
「ちょっと調べてみますね」と僕はノートパソコンを立ち上げる。
「ステッキパンと言うものが好きだったそうです」
「ステッキパン?」と真奈美さん。
「再現した写真を見るとステッキのようなというか、傘の持ち手のような形のパンですね」
豊心君と真奈美さんがノートパソコンを覗く。
「レシピは載ってないけど、小麦については書かれてるね」と言って僕が読み上げる。
「アメリカ産のハード・レッド・ウィンター小麦を原料にして挽いた灰分が0.5%くらいの粉だったと推定されます。現在、当時と同じものはありませんが、現在の準強力粉の2等粉がかなり近いと考えられます。だって」
「なるほど」と豊心君。
さらに僕は別の資料を読み上げる「2014年の杉並名品復活プロジェクトによる復元では、完成したパンは「フランスパンのような味わい」で、皮はパリッと、中はしっとり、噛むほど小麦の味が出る素朴なパンになったと報告されている。だって」
「なんとなくイメージできた」
「豊心君」と真奈美さん。
「もちろん言われなくても作るよ」
準強力粉に水、塩、ドライイースト。
そして、こねてから発酵させる。
その後はステッキの形に成形。
長さ25cmぐらい。
二次発酵をし、その後クープ(表面に斜めの切れ目)を入れて焼く。
そして食べるのだが、バターやジャムを塗った記録はない。
なのでそのままかじることに。
「やっぱり何か塗るものが欲しいね。でも塩が入ってるからまあ、このままでもギリ食べられるかな」と僕が言う。
それは素朴なフランスパンのような味だった。
*正確なレシピは残っていません。このレシピは、当時の資料を参考に豊心君が考えたものです。
「調べると、夏目漱石もパンをよく食べてたみたいだね。ロンドンへの留学経験から洋食が好きだったみたいだし。パンに砂糖をつけて食べていた、かなりの甘党みたいだね」と僕が言う。
「甘そうだわ。太りそうで嫌」と真奈美さん。
「他にもあるの?」と豊心君。
「三国志や宮本武蔵で有名な吉川英治は、トーストに蜜をかけて食べていたみたいだね。船橋屋の黒蜜が好みらしく、執筆に疲れるとパンに黒蜜をぬって食べたみたい」
「友久君今すぐ船橋屋の黒蜜買って来て」と真奈美さん。
「嫌です」と僕が拒否をする「スーパーで売ってるので今日は我慢して下さい」
「仕方がない。友久君はわがままなんだから」
おまいう。
僕がスーパーに黒蜜を買いに行き、食パンをトーストして黒蜜をかけて食べた。
「甘い」
「甘いね」
「甘いわ」
「でも疲れてる時とかいいかも。それに結構好きかも」と僕が言う。
「なら今後レポートとかは期待するからね。文豪さん」と真奈美さんが僕に言う。
「他には福澤諭吉がパンにバターとかマーマレードを塗ったのを好んだらしいよ」
「それ普通じゃない」
「だね。今日の僕の朝食じゃんって感じだもんね」
「そうか俺も文豪の素質あったのか」と豊心君。
「えっ?」
「ならパン教の教典、書いちゃおうかな」
「いや、それはやめてくれ」
僕はこれ以上学校の家庭科室が、パン教に汚染されるのを拒んだのである。




