第4話 ハチャプリ それはジョージアの生活食
豊心君は家庭科室に来るたびに、パニス・クアドラトゥスに拝み始める。
チラリと僕を見て、拝めと合図するが、そんなことをするわけがない。
しかし周りはそうは見てくれなかった。
家庭科室に祭壇を作り、黒いパンを崇める変な3人と思われているのである。
どうやったら誤解が解けるのだろうか。
僕は無宗教者です。
と大声で言って回りたい。
先生方からも注意を受けたが、真奈美さんが歴史的なことのレプリカだからというと、みんな何も言わなくなった。
真奈美さん、まじで何者なの?
放課後、部室に集まり、豊心君が拝み終わった後に言った。
「今日はスポンサー様の為のパンを作る」
「へえ。どんなパンかしら」
「ハチャプリだ」
「ハチャプリ?」
「ジョージアのパンだ。ハチャはチーズのことで、プリはパン。つまりチーズ入りのパンってことだ」
「チーズのパンね。私は好きだけど、よくあるじゃない」
「今回はハチャプリのアジャリアだ!」
しかし僕と真奈美さんは知らないのでリアクションが取れない。
豊心君も「アジャリアだ!」なんて言ってこちらがノーリアクションなので、ちょっとムッとしている。
とりあえずスーパーに買い出しに行った。
「ハチャプリというのはねえ、地域によって違うんだよ。イメレティ地域のも好きなんだけどね。ハチャプリはジョージアでは特別な料理じゃない。朝食にも、軽食にも、夕食にも食べられている。生活に根付いたパンなんだ」と豊心君。
強力粉と薄力粉を混ぜ、牛乳、水、卵、塩、砂糖、油、ドライイーストの入ったボウルに入れて混ぜてこねる。
40分発酵させる。
その間に数種類のチーズを細かく切っておいて、卵と混ぜる。
これが中身。
発酵が終わったら生地を伸ばすのだが舟形にする。
分かりやすく言うと、目の形にする。
縁は高めにしておく。
中身を入れてオーブンで焼く。
途中で取り出し、卵を乗せてまた焼く。
出来上がったらバターを乗せる。
真奈美さんのテンションが爆上がりだ。
卵とチーズの暴力。
バターも溶けて、カロリーって何それ?状態。
見た目良し、味良し、材料もスーパーで手に入る。
なのに日本では全く知られていない。
豊心君はこういう美味しいのに知られていないパンは、世界にはたくさんあるという。
真奈美さんの命令で、豊心君がイメレティ版も作らされていたが、そちらもチーズたっぷりで美味しそうだった。
僕は思わず聞いてしまった。
「明日は何のパンを作るの」
「ほう。友久もパン教に入信か」
「なんでそうなる。明日のこと聞いただけじゃないか」
「そうだねえ。なににしようか。気分は北欧かな」
「デニッシュパン?」
「ハズレ。まあ楽しみにしておいてよ」
そう言うとまた拝みだした。
この人は変人だけど、パンの知識だけはすごいなと思った。
そして明日が待ち遠しいのに僕自身が驚いた。




