↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/66

第3話 パン狂のパン教

月曜日の放課後、酸っぱい匂いのする部室で、豊心君が僕と真奈美さんに話し始めた。


「2人はパニス・クアドラトゥスというパンを知っているか?」


僕と真奈美さんは首を振る。


「これは古代ローマで日常的に作られていたパンだ。今日はこれを作る」


僕はそんな大昔のパンが食べられるのかと少し興奮した。


どうやら真奈美さんもである。


「ポンペイの遺跡は知っているかな。火山で埋没した都市なんだが、そこでパニス・クアドラトゥスが炭化した状態で発見されている。だから当時のパンの形が、かなりよくわかるんだ」


僕は初めて聞いたその話に少し興奮した。


「レシピについても色々研究されていて、今回はそれに基づき作ってみようと思う」


僕と真奈美さんは拍手をした。


「これが私が復元レシピを参考にいろんな資料を見た結果だ」


スペルト小麦粉 405g


全粒小麦粉 405g


発酵種 400g


水 約500〜530g


塩 24g


イースト 12g


「この発酵種400グラムというのは、二日前に仕込んでおいたものだ」


豊心君が小さな容器を持ち上げる。


蓋を開けた瞬間、酸っぱい匂いが部室に広がった。


「スペルト小麦と水を同量で混ぜて、室温に置いておく。二日ほどすると気泡が出て、酸味のある匂いになる。今回はこれを発酵種として使う」


「これ、食べられるの?」


真奈美さんが恐る恐る尋ねる。


「もちろん。むしろ、これがないと始まらない」


豊心君は平然としている。


そして、粉を合わせ、発酵種を加えた。


水を少しずつ加えながら、手で生地を捏ねていく。


塩とイーストを加え、さらにこねる。


やがて生地を発酵させる。


膨らんだ生地を取り出すと、豊心君はそれを丸くまとめた。


「ここからが重要だ」


豊心君はパンの側面に紐をぐるりと巻きつける。


そして上面に、放射状の線をつけた。


「これが、出土したパンに見られる特徴的な形だ」


「へえ……」


僕は、まだ焼いてもいないパンを眺めた。


丸い生地の上に、花びらのような切れ込みが並んでいる。


豊心君はそれをオーブンに入れた。


200℃前後で30〜45分焼く。


3人がオーブンを見つめる。


茶色い大きな丸いパンの完成だ。


パンを切ってみる。


ザクザクと音がする。


断面は現代のパンと比べると膨らみが弱いものの、間違いなく見た目はパンである。


3人でそのまま食べてみる。


「パン!」と豊心君。


「いやこれパンだから」と僕が言う。


「これは興味深い」と真奈美さん。


「若干モサモサするが、おいしい」と豊心君。


これには僕も同意した。


古代ローマのパンは、二千年近い時間を越えて、僕たちの目の前に戻ってきた。



*これは完全再現レシピではありません



さて、いい話風になったが、この話はまだ終わっていない。


豊心君がまたパニス・クアドラトゥスを作り始めたのだ。


「何やってるの?もうお腹いっぱいで食べられないよ」と僕が言う。


豊心君はニヤリと笑う。


「これは別目的だ」


そしてまたパニス・クアドラトゥスが完成した。


豊心君がそれを持つ。


そしてなぜかイタリアンレストランに向かう。


真奈美さんが一声かけると、中に入れて「どうぞ」と言って窯を貸してくれた。


僕は何が何だか分からなかった。


なんで店が貸してくれるんだ?


そして豊心君が窯にパニス・クアドラトゥスを入れる。


「何してるの?」と僕が聞く。


「炭にするんだ。ポンペイのに近づける」


少し経つとパニス・クアドラトゥスは真っ黒になった。


豊心君は真っ黒なパンを眺めながら、嬉しそうに笑った。



そして3人で学校に戻る。


部室に行くと、この前届いた大きな荷物を開封するように言われた。


「こ・これは!」


祭壇というか祠というか。


そして豊心君はガラスケースに先ほどの炭化したパンを入れた。


そして拝み始める。


パン教の誕生である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。