第30話 パネトーネ それは失敗の多いパン
昼休み、豊心君はパンを3個ほど急いで食べると、廊下へ向かった。
「どこへ行くの?」
「部室だ」
僕も気になったので付いて行く。
部室に行くと豊心君はパンの生地作りをする。
「今日はずいぶん早くから作るんだね」
「これは発酵にかける時間が長いからな。今作れば、午後の授業の間に発酵させられる」
そう言うとしっかりとこねた生地にレーズンとオレンジピールを入れ、ボウルにラップをした。
「これでよし」
そういうと教室に戻って行く。
豊心君は2つの授業を受けたら休み時間にまた部室に。
「ガス抜きをして型に入れて、また発酵させてきた」
そうして今日最後の授業を受けた。
放課後、部室に行くと、型に入った生地が大きくなっている。
表面に十字の切り込みを入れ、中央に少量のバターを置いてオーブンで焼き始める。
「このパネトーネというパンには有名な伝説がある。ただし真偽は定かではない。まあほんとかどうかわからない言い伝えだな」
「どんなの?」
「15世紀のミラノで、クリスマスの宴会が開かれていた。料理人がクリスマス用の豪華なデザートを作っていたところ、デザートを焼きすぎて焦がしてしまった。厨房にいた見習いの青年、トニーという人が、これに小麦粉やレーズンなどを入れて発酵させて作ったのがこれだ」
「そんな逸話があるんだ」
「実際このパンは失敗しやすいんだ」
そう話しているとパンが焼き上がった。
すると豊心君は長い棒のようなものをこの大きなパンの横に刺した。
「なにしてるの?」
「これを逆さに吊るして冷ますんだ。普通に置いとくと、パンの重みで、生地の形が崩れたりするんだよ」
逆さに吊るされたパン。
不思議な光景だ。
いつの間にか真奈美さんも部室に来ていた。
「新たな儀式みたいね」と言う。
豊心君はその言葉を聞くと、祭壇を見つめて考え込む。
考え込むな。
そこに吊るしたパンを飾ったら、怪しすぎるだろう。
パンが冷めてきたので3人で食べる。
まず、ふわふわなのに、繊維のように縦に裂けるのに驚いた。
そしてもちろん美味しい。
「さすが豊心君。このパネトーネは成功だね」
「当たり前だ。俺が作ったんだからな」
でもよく見ると、横の一部がへこんでいる。
それは言わないでおこうと思った。
食べ終わると真奈美さんが豊心君を見た。
「古代エジプトのパンについては詳しい?」
「もちろんだ」
「では銀座でパンを作ってもらうわ」
「えっ?」
銀座でパンを作ると聞いて豊心君が驚いた。




