第21話 マラケタ どこの国のものなのか
お昼時間、クラスの女子たちがお弁当を食べている。
「夕子の肉じゃが美味しそう」
「でしょでしょ。肉じゃがって、うちの実家のところが発祥なんだ。だからよく作るんだよ」
「えっ?夕子私と同じとこで生まれたんだ」
「そうなの?」
「うん。おばあちゃんが肉じゃが発祥の地っていってたもん」
「いいところだよね」
「呉は」
「舞鶴は」
「「うん?」」
「肉じゃがって広島の呉が発祥でしょ」
「いいや、京都の舞鶴が発祥だって」
その後も2人は言い争った。
周りが止めに入るまで。
「発祥がはっきりしない食べ物って、結構あるんだ」と僕が言う。
「パンにもあるよ。しかも結構。カレーパンややきそばパンなんかはどこが発祥かわかっていないな。世界でもクロワッサンとか」
「えっクロワッサンってフランスじゃないの?」
「いや元はオーストリアのキプフェルというパンが祖先という説が有力だ。フランスは現在のクロワッサンを完成・普及させた国だと言っている状態だ」
「へえ。そうなんだ」
「世界では今、まさに発祥がどっちかを言い争ってるパンがあるよ」
「それはどことどこが言い争ってる、なんていうパン?」
「マラケタっていうパン。ペルーとボリビアだ。最初はパン職人とかパン業界だったのが、今は国レベルになりつつある」
「それは興味深い話ね」と真奈美さんがいつの間にか僕の後ろにいて、言ってきた。
「全く同じパンなの?」と真奈美さん。
「いや材料はかなり似てるが微妙に違う。製法もね。そして見た目も似てるが違う」
「では今日はその2つの国のパンを作りなさい」
こうして今日のパンはマラケタに決まった。
放課後、噂のマラケタ作りが始まった。
材料は、小麦粉、水、塩、ドライイースト、砂糖。
「チリ版は砂糖が少量、もしくは入れなくてもいい。一方ボリビアは、砂糖しっかり。そしてチリは発酵時間が短く、ボリビアは長い」
「それが材料と製法の違いだね」
「そしてチリは2個の生地を横にくっつけ、それを少し伸ばして、中央を棒などで強く押して「8」のような形にする。2個を接合して4分割状にする」
「なるほど」
「一方、ボリビアは楕円形の細長い生地にして、表面に切れ込みを入れる」
「あとは両方とも、220℃くらいで20分ほど焼く。焼くときに熱湯を入れて蒸気を作る」
そして2つのパンが完成した。
3人で食べる。
「僕はチリ版の方がいいな。パリッとして、内部は比較的ふわっとしてる感じが良い」
「私はボリビア版。香ばしくて、パンを食べてるって感じが強い」
豊心君は両方のパンを食べると「パンに国境はない」と言った。
「そうね、それが真理かも知れないわね」
「一応2国では今、議論になってるけど、チリ政府とボリビア政府が外交ルートで正式に「マラケタの所有権」を争っている、という状況ではないんだ」
「双方落としどころが見つかるといいね」
「でも実はここにペルーが参戦してきて、マラケタはうちのものだと……」
「どうなってんだいったい」
「今すぐペルー版も作りなさい」と真奈美さんの声が響き渡った。




