第13話 トルコの1年で1か月しか食べられないパン
真奈美さんがたまにではあるが、期間限定パンを買ってくる。
それを豊心君にあたえている。
豊心君は眺め、匂いを嗅ぎ、十分観察してから味わって食べている。
最近、豊心君が真奈美さんに手なずけられていると思わざるを得ない。
食べ終わったので僕が豊心君に聞きたかったことを聞く。
「冷やして食べるパンってないの?」
こうも暑いと、パンも冷たいのがいいと思う。
「パン工場で作られた菓子パンやフルーツサンドぐらいで、本格的なパンだとないな」
僕は世界のどこかにはあると思っていたので、がっかりした。
「クリームパンとか菓子パンじゃ不満か?」
「そんなことはないけど……」
それはそれで手軽だし美味しいのだが。
焼きたてのパンを冷やして食べる。
この発想は世界にはない。
冷やしクロワッサンや冷やしフォカッチャならいけそうな気がするんだが。
どうやら僕も毒されてきているのかもしれない。
「日本の期間限定パンとはちょっと違うけど、特定の時期にしか作られないパンならいくつかあるよ」
「期間限定なんてのがあるんだ」
「大まかに言うと、宗教行事や季節の行事に合わせたものだね。イースターやクリスマスが有名だな」
「ああ。ドイツのシュ・シュト」
「シュトーレンな。あれはクリスマスのパンとして有名だな」
「なるほどね。イースターとクリスマス以外にもあるの?」
「あるよ。ではそのうちの1つを作ろうじゃないか」
強力粉、ドライイースト、塩、砂糖、水。
レシピには牛乳を入れるのと入れないのがあるが、今回は入れてみた。
特徴は模様をつけることだ。
そしてツヤだしの卵を塗ってゴマを振りかけて焼く。
「これはね、イスラム教のラマダンという断食を行う月に食べるパンなんだ。断食といっても日の出から日没までだけどね。イスラム暦で1年に1か月、そういう月があるんだ。それでこれは、日没したら食べるパンなんだ」
それはふわふわの生地にほんのり甘く優しい味だった。
「なかなか面白い話ね。さっきそのうちの1つって言ったけど他にもあるの?」と真奈美さん。
「あとはスペインのパンがあるよ」
「作りなさい」
「準備が必要」
「では次回に」
こうして次回のパンも決まった。
もうすぐ夏休みも終わる。
普通の高校生は祭りやプールや海などに行っているんだろうな。
僕がため息をつくと「友久君は夏を楽しんでいないって顔だね」と真奈美さん。
「そんなことは」
「なんならお祭りでも行く?」
「いいんですか?」
「また豊心君が作ってあなたが屋台で売るんだけどね」
「お店側かい!」
僕は強く断った。




