第11話 合宿
夏休みに入った。
学校がある日は毎日のように通っていた部活に行かないというのも、寂しいというか不思議なものだ。
新たなパンが食べられない。
ちょっと残念な気持ちでいたのだが、すぐに真奈美さんから合宿に行くという連絡があった。
2泊3日ということで、何をやるんだろうと楽しみにしていた。
そういえばパン作りと散歩って言ってたなあ。
でも軽井沢だとイメージは乗馬とテニス。
夏休みの良い思い出になると僕は思った。
軽井沢へは電車で向かった。
車内で真奈美さんが豊心君に言った。
「材料は揃えておいたわ。着いたら早速作ってもらうから」
「材料があるなら問題ない」
「選んだ4つのパンはどれもすぐ出来るんでしょうね?」
「もちろん。選りすぐりの4品だ。早い。手間がかからない。お客がなにも付けないで食べられる。この条件は全て満たしている」
「それにハチャプリのアジャリアも加われば、文化祭でいけるわね」
「俺としては、もっと見栄えのするやつの方がいいと思うんだけどなあ」
「私も見栄え重視の方がいいのよ。でもあなたの為よ」
豊心君は意味がわからないらしく考え込んだ。
僕は豊心君に聞いた。
「4つのパンってどんなの?」
「フィンランドのユーストサルヴェット、レバノンのマナキッシュ、アメリカのコーンブレッド、ブラジルのポンデケージョだ」
僕は名前を言われても全くわからなかった。
唯一アメリカがトウモロコシのパンだと思うぐらいだ。
それらにハチャプリのアジャリアがあるので5種類も作るの大変だなあと思った。
電車は何回か乗り換えたが2時間もかからずに軽井沢に着いたのである。
軽井沢に着くとタクシーで別荘へ向かった。
金持ちすげえ。
別荘は木々に囲まれたところにある2階建ての家だ。
金持ちすげえ。
中に入り、荷物を置くと、豊心君は材料の多さに驚く。
「なんだこの量は?」
「5つのパンの材料よ」
「多すぎるだろ?」
「これでも7~8割に抑えたのよ」
大量の小麦粉に冷蔵庫にはびっしりと各種チーズが。
これ全部作るのか。
てか食べられるのか。
「では豊心君。早速ハチャプリから作り始めて」
「一体何個分なんだ」
「ハチャプリは30。他は40個分」
豊心君が動揺した。軽井沢に着くなり190個のパンを作ることになったのである。
「いやおかしいだろ。こんなに作るのは?」
「なにか勘違いをしていない?これは合宿って言ったでしょ。文化祭に向けての予行練習。文化祭ではもっと多く作ってもらうわ」
「こんなに作ってどうするんだ?」
「作ったのは販売するわ。友久君がね」
「えっ?僕が?」
「当然でしょ。文化祭では豊心君がパンを作り、友久君が販売」
「2人だけでパンを作って売れと。真奈美さんは?」と僕が言う。
「私は監督だから。豊心君何してるの早く作りなさい」
それから豊心君はパンを作りだした。
唯一時間と手間のかかるハチャプリから作り始め、残りの4つも作っていく。
数時間後、続々とパンが出来上がっていく。
出来上がったパンは、真奈美さんのお付きの人がトラックに積んでいってくれた。
そして僕も乗るように言われ、商店街に。
そこにパン直売所ののぼりを立てて、パンを並べていく。
僕がレジの使い方を習い、あとは袋詰めを教わると店を開けた。
お客が入ってくる。
僕は覚えさせられたパンの説明をしながら、パンを売っていく。
少しすると別のパンが届く。
こうして1日目が終わった。
僕は真奈美さんに完全に騙されたと思った。
「豊心君2人で真奈美さんに文句を言おう」
「友久。ここはパンの天国かもしれない」
驚くことに豊心君は不満ではないようだ。
むしろ、たくさんパンを作れることが嬉しいらしい。
翌日も同じ作業になった。
軽井沢まで来て、パンを作りパンを売る。
一体何の意味があるんだろうか。
最終日も朝からお昼まで作っては売る作業をした。
そしてようやく解放されたのである。
僕は疲れ切っていたが真奈美さんに文句を言いたくなった。
「そう言えば散歩もするとか言ってたのに、作って売るだけじゃないですか」
「そうね。では行きましょう」
真奈美さんが言うと近くを15分ほど歩いて、散歩は終了した。
最後に真奈美さんが軽井沢ベーカリーマップなるものを見せてきて「2店ぐらいなら行く時間あるわ」と言った。
豊心君は大喜び。
有名なお店2店に入りパンを買い満足した様子だった。
やっぱりこの人おかしい。
夜には地元に戻ってきた。
「では週に2日は集まりましょう」と真奈美さん。
こうして合宿は終わったのである。




