恋煩いの竜
「俺が豪華なベッドの上で完全に気絶し、滅多にない純粋で邪魔の入らない眠りの中に深く沈み込んでいる間にも、魔王国の歯車はすでに猛烈な勢いで回転していた。王城の中央奥深くの間で、イナは重装備の近衛兵たちの前に立ち、その表情を完全なる、妥協のない絶対的な威厳で包み込んでいた。
「この書状を受け取りなさい」イナは封印された羊皮紙の束を兵士たちに手渡した。「直ちに諸侯の魔族たちの屋敷、そして現在我が国の国境を保護してくれている存在へと届けるのです。我らの長い待ち時間がついに終わったと告げなさい。新しい魔王が、ついに到来したのです」
近衛兵たちは軍人らしい正確さで一礼すると、己の義務を果たすために即座に夜の闇へと消え去っていった。
最初の書状は、そのプライドの高さで知られる強力で影響力のある高位魔族、マラコアの屋敷へと直接届けられた。マラコアは書状の封印を破り、その優雅な筆跡に目を走らせたが、次の瞬間、その目は驚愕で限界まで見開かれた。
「何だと……。これは一体どういう意味だ!?」マラコアは目の前に立つ近衛兵を鋭く睨みつけた。「イナ様が、新しい魔王が見つかったと宣言しているだと?! その者は一体何者だ? どこから現れた? 我らの知らぬ間に王座にふさわしい存在が現れていたとは……。これはすべてが変わるぞ。イナ様には、直ちに謁見に向かうと伝えよ」
そして、最も重要である最後の書状は、本土を遥か彼方に超え、古代の保護者が鎮座する激しい大海原の境界へと送られた。兵士は巨大な崖の縁に立ち、彼らの国を保護してくれている竜を召喚するために、重たい角笛を激しく吹き鳴らした。
海水が暴力的に激しく渦巻き、深い青の底から巨大で神々しい巨体が姿を現したかと思うと、流れるような髪と鋭い眼光を持つ、息を呑むほど容姿端麗な男の姿へと変化した。これこそが、水の竜、ブランであった。
ブランは震える兵士から書状を受け取ったが、本文には目もくれず、ただ最下部にある署名をじっと見つめた。
「ああ、私の愛しいイナ様からの直筆の手紙ではないか!!」ブランは息を呑み、その顔は一瞬で純粋な、一切の混じり気のないロマンスの表情へととろけていった。「まさか……?! 彼女はついに、私の彼女への愛がこの深い海よりも深いということに気づいてくれたのか?! 直ちに首都へと飛ばねばならん! 私の1000年の待ち時間が、ついに報われる時が来たのだ」。
翌朝、重厚な木製の扉を叩く鋭い音が俺を叩き起こした。扉の外ではリサが完璧に洗練された姿勢で待機しており、朝食をとるために、俺とミクロを広大な廊下を通じて城の食堂へと案内した。
食堂は広大だったが、俺の注意力は、目の前に用意されていた信じられないほどの量の料理に完全に奪われた。完璧に調理された地元の肉、味付けされた野菜、そしてミクロのために特別に用意された、獲れたてのみずみずしい魚の山が皿に高く積み上げられていたのだ。
俺とミクロは一秒の躊躇すらしなかった。誰が宮廷の礼儀作法的な言葉を発するよりも早く、二人はすでに猛烈な勢いで料理へと貪欲にガツガツと食らいつき、テーブルマナーという概念を完全に放棄していた。俺はパンと肉を口の中に限界まで詰め込み、ミクロは顔中をソースだらけにしながら、文字通り魚を吸引していた。
リサはその傍らに立ち、顔をわずかに引きつらせながらも、その目には鋭く、重たい期待の光を宿して俺たちの食事風景を見つめていた。
「どうぞ、朝のお食事をお楽しみください、エイン様、ミクロ様」リサは上品に、深く頭を垂れて呟いた。
「むぐ……んぐ……これ最高だな!」俺は口の中に料理を詰め込んだまま、自分がどれほど不恰好に見えているかなど完全に無視してブツブツと言った。「掃除も、料理も一切なし……。起きてただ食らいつくだけ。案外、このパレス生活も悪くねぇかもしれないな」
食堂の長いテーブルの端では、イナが俺の混沌とした食事の進め方を静かに見つめながら、優雅な笑みを浮かべていた。「お気に召したようで何よりです、エイン様。よく食べておきなさい。今日は、言葉にできないほどに重大な日なのですから。我らの新たな魔王の布告が、すぐそこに迫っています。魔王国の全住民が、すでに城門の外に集まり、あなたの絶対的な威厳を一目見ようと、今か今かと待ちわびていますよ」
俺は肉を喉に詰まらせかけ、目を見開いた。「はぁ、何だって!? 今日?! 国中の魔族が今、外にいるのかよ!?」
俺のパニックにイナが答えるよりも早く、食堂の巨大な両開きの扉が、鼓膜を破らんばかりの凄まじい轟音と共に暴力的に叩き開けられた。
ドゴオオオオンッ!!!
「おおお、私のイナ様!!!」大げさで、演劇的な大声がホール中に響き渡った。
ブランは俺や猫のことなど完全に無視して部屋へと大股で踏み込み、ドラマチックに両腕を広げながらイナに向かって真っ直ぐに突進した。「私の目が、あなたのその美しく、威厳に満ちたお姿を最後に拝んでから、あまりにも長い時間が経ちすぎてしまいました! まさか、ついに私との結婚に同意するために、私をここへ呼び出してくださったのですか?! おお、私の1000年以上の長きにわたる待ち時間は、真に価値あるものでした! ついに信じてくれたのですね?! 私のあなたへの愛が本物であると、ついに分かってくれたのですね?!」
イナは瞬きすらしなかった。その顔は完全に死んだような拒絶の表情へと変わり、あからさまに身体を横へとそらすことで、あいつの突進を完全に回避した。「いいえ。全く違います」
ブランの周囲に漂っていたロマンチックなオーラが一瞬で粉々に砕け散った。その顔からは完全に生気が失われ、目の色も完全に白黒へと変わり、あいつは空中でそのまま硬直したかと思うと、滑稽なほど絶望的な音を立てて床へと真っ直ぐにぶ倒れた。
イナはピクリとも動かない竜を見下ろし、冷たいため息を漏らした。「私が送った書状を、お前は本当に読まなかったのですか?」
ブランは顔を床に完全に擦り付けたまま、ゆっくりと片手を上げ、震える指を食卓へと向けた。「あそこにいる……あの二人が……新しい魔王、なんだな?」
「その通りです」イナは滑らかに答えた。
俺はフォークを口元へと運ぶ途中の姿勢のまま完全に固まり、目の前でこの容姿端麗な男が披露した、完全なる大恥の生き様をじっと見つめていた。(おいマジで言ってんのかよ!? こいつ、一応古の伝説の竜なんだろ? なのに門をくぐって5秒で、女のために完全なピエロになりやがったぞ?!)
あまりにも気まずすぎる静寂を破るために、俺は喉を鳴らした。「あー……イナ、そこにいるそのイケメンな紳士は、一体どなたなんだ?」
「イケメン」という言葉が俺の口から零れ落ちたその刹那、ブランの死んでいた身体に一瞬で命の灯火が舞い戻った。あいつはまるでバネのように床から跳ね起き、髪をなめらかに整え、襟元を正すと、俺の顔の目の前という危険な距離まで一歩で踏み込んできた。そして、極めて批判的な眼光を向けながら、俺の身体を頭から爪先までじっくりと品定めし始めたのだ。
「この者が……。この者が、我らの新しい魔王なのか? ふむ……」ブランは俺の顔のあまりに近くでブツブツと呟いたため、あいつの瞳の中に自分の顔が反射して見えた。
「おい、いくらなんでも近すぎるだろ!」俺は本能的に椅子ごと後ろへと仰け反りながら反応した。
だが、ブランがそれ以上俺を値踏みするよりも早く、あいつの視線は、魚の骨の山の真ん中にちょこんと座っている黒い猫へと突如として落ちた。その表情は、批判的な品定めから、完全なる、雷に打たれたような衝撃の感動へと一瞬で変貌した。
「何だこれは……?! 何という見事な生き物だ!!」ブランの声は、激しい感情の昂ぶりによって激しく震えていた。「なぜ、これほどまでに完全に、完璧な姿をしているのだ?! まさか……。これは肉体を持った神の一尊なのではないか?! 私はこれまでの全人生において、これほどまでに息を呑むような美しい生き物を見たことがないぞ!」
宮廷の礼儀作法など一ミリも気にすることなく、ブランは猛然とミクロを掴み上げると、その重たい黒猫を天高くへと持ち上げて観察し始めた。「なぜ、このような素晴らしい生き物が海の中に住んでいないのだ?! これは完全なる世界の損失、いや犯罪だぞ!」
(この野郎、一体何について語り合ってやがるんだ?!)俺は完全に白目のドン引き顔で、心の中で絶叫した。(それ、一から十までただの普通の猫だろ! こいつ、これまでの人生で一度もペットってものを見たことがねぇのかよ?!)
イナは完全に呆れ果て、自分のこめかみを指で押さえた。「馬鹿なことを言うのはやめなさい、ブラン。水の中に猫がいるわけがないでしょう」
「そうなのですか? 真に、なんという凄まじい損失だ」ブランはそう言うと、ミクロを慎重にその絹のブランケットの上へと降ろした。そして、その目を本物の敬意の光へと細めながら、再び俺たちへと視線を向けた。「それを踏まえた上で……。あなた方二人は、確かに我らの新しい魔王として完璧な器かもしれない。その気配が隠蔽されている状態ですら、私はあなた方の存在の奥底から、限界のない、圧倒的な力の奔流を感じ取ることができる。あなた方が我ら竜族と同等の強さに至るのも、そう遠い未来の話ではなさそうだ」
ブランはドラマチックに手を胸に当て、演劇的な一礼を捧げた。「竜族といえば、自己紹介をするのを完全に忘れておりました! 私はブラン、水の竜です! この世界における、全海洋を支配する者です!」
(おいおい、また化け物が現れやがったな?)俺は心の中で冷や汗を流しながら、元ギャングリーダーとしての本能であの男を分析した。(全海洋だと? こいつ、実質世界規模のチートコードじゃねぇか)
「じゃあ……」俺はできるだけ何でもない風を装って、声に出して尋ねた。「あんた、完全に海の下に住んでるのか?」
「当然です」ブランは自信満々の不敵な笑みを浮かべ、その髪を滑らかにかき上げた。
「しかし……」
「しかし?」俺はオウム返しに呟いた。
「しかし、私はイナ様の心の真ん中に住む男になりたいのだ!!」ブランは再び両腕を大きく広げながら、堂々と宣言した。
(うわぁ……。こいつ、本気で別次元の妄想の中に生きてやがるわ)俺の魂は、あいつのあまりのキツさに口から半分抜けかかっていた。(俺、この男にだけは絶対に付いていけねぇ。歩くだけでエネルギーを吸い取られるわ)
イナは完全に嫌悪感を剥き出しにして、大きなため息を漏らした。「うわ、本当に気味が悪い」
ブランは彼女の拒絶を完全にスルーし、絶対的な、揺るぎない決意をその目に宿して一歩前に踏み込んだ。「たとえあなたにすでに新しい魔王がいたとしても、私はあなたの傍らに立ち、何があろうともあなたを保護し続ける。我がレディよ!」
(おいおい、もうこの安っぽい恋愛ドラマのセリフは一言も聞きたくねぇよ)俺は心の中で耳を塞いだ。(……待てよ。ちょっと待て。こいつ、イナに完全に執着してて、しかも全海洋を支配する伝説の竜なんだろ? ……これ、もしかして最高のチャンスじゃねぇか。もし俺が将来、世界がひっくり返るような大ごと(トラブル)に直面した時、この男を前に立たせれば、俺のケツを完璧に守ってくれる盾になる!)
最高のアイデアが、脳内に瞬時に閃いた。俺は元ギャングリーダーとしての最高の、最も味方っぽい営業スマイルを顔に浮かべると、食卓をバンッと力強く叩いた。




