新魔王の戴冠式
「その通りだ、ブラン!」
俺は大声で割り込み、
あいつの意識を完全にこちらへと引きつけた。
「それこそが、
本物の男が愛する女に対して示すべき誠意だろ!
決して引いちゃダメだ!」
ブランの目は、一瞬で凄まじい、
雷に打たれたような感動の輝きで満たされた。
あいつは、まるで俺が世界の絶対的な真理を今手渡したかのような表情で俺を見つめた。
「だろ?! あなたは私の心を完全に理解してくれているのですね、魔王くん!?」
「エインです」
俺は滑らかにその間違いを訂正しつつ、
元ギャングリーダーとしてのフレンドリーな笑みを維持した。
「だけどあぁ、その通りだ!
あんたの気持ちは一から十まで完璧に理解できるよ。なんと言っても、俺も一人の男だからな!」
「ああ、魔王くん……!」
ブランは息を呑み、その目には本物の熱い男の友情の涙を浮かべながら、俺の手を両手でがっしりと固く握りしめた。
「あなたが私のこの胸の内を、
これほどまでに深く理解してくださるお方で、
私は本当に救われました!」
(よし! 完全にハメてやったわ!)俺は心の中でガッツポーズを決め、この伝説の化け物をいとも簡単に掌の上で転がした自分に、元ギャングリーダーとしての不敵な笑みを漏らした。(これで、最強の竜族クラスの肉壁を一枚確保したぞ!)
イナが食卓を激しく叩き、俺たちのこの滑稽極まりない絆の時間を完全に引き裂いた。
「いい加減にしなさい、お前たち!
他の諸侯の魔族たちや兵士たちは、
すでに謁見の間で首を長くして待っています。
直ちに移動しますよ!」
ミクロは、中身の完全に空になった魚の皿からゆっくりと顔を上げ、騒がしい竜のことなど一ミリも気にする様子もなく、いつも通り暢気に、
完全に満足しきった鳴き声をあげるのだった。
「......にゃぁーーお」」
「謁見の間の巨大な観音開きの扉がゆっくりと左右に開かれると、集まった数千人もの魔族たちの凄まじい地鳴りのようなざわめきが、一瞬で空間に流れ込んできた。リサはいつも通り完璧に洗練された所作で、俺たちを城の最奥へと案内した。その空間は闘技場ほども広大で、周囲はエリート魔族の貴族、頑丈な鎧に身を包んだ将軍たち、そして大勢の宮廷の従者たちで完全に埋め尽くされていた。
イナはホールの中心へと一歩前に出ると、その絶対的な、拒絶を許さない威厳に満ちた声で群衆を一瞬にして静まり返らせた。
「我が同胞たちよ! 長きにわたる待望の時間は正式に終わりを告げた!」
イナは俺たちの方へと右手を差し伸べながら厳かに宣言した。
「運命に選ばれし、
我らの新しい最高支配者の姿を拝むがよい!」
数千人もの視線が一斉に俺たちへと突き刺さる中、ついに前へと進み出る時が来た。俺は周囲に道を開けた群衆の間を歩いたが、その凄まじい社会的圧力の重さに、両足がガタガタと激しく震えていた。ミクロは俺の左肩の上に、重たい黒いタオルのように暢気に引っ掛かっている。大理石の階段の最上段には、純粋な黒曜石を抉って作られた、威圧感の塊のような巨大な魔王の玉座がそびえ立っていた。
(おいおいおい、嘘だろこれ……完全に後戻りのできない一線を越えちまったぞ!)俺は脳内で、異世界に放り込まれたどこぞの情けない冒険者のように全力でパニックの悲鳴をあげていた。(あんなクソデカい椅子に腰掛けちまったら、俺の平穏な引きこもり生活は完全に墓場行きじゃねぇか! 勇者からは目の敵にされ、暗殺者からは命を狙われ、終わりのない書類仕事の山に溺れるんだぞ! なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ! 俺はただ、責任ゼロのシンプルなアパートが欲しかっただけなんだ!)
階段を上り詰め、背後を振り返った俺は、この最悪の悪夢をさっさと終わらせるために巨大な玉座に腰を下ろそうとした。だが、俺のズボンがクッションに触れるよりも早く、ミクロが突然俺の腕の中からひょいと前方へ飛び跳ねたのだ。国家の最高儀式など一ミリも気にする様子もなく、その丸っこいお尻を最高玉座のド真ん中にどさりと落とも、いつも通り暢気に、猛烈な勢いで自分の前足をペロペロと舐めて毛並みを整え始めた。
ホールを埋め尽くしていた数千人のエリート戦士たちが、その瞬間一斉にフリーズした。最前列にいた有力貴族の魔族、マラコアは、その目の前の光景を凝視していた。彼の目は、強烈な困惑と、理性を必死に保とうとする複雑な表情で限界まで見開かれていた。
「人間……?」
マラコアは喉の奥でボソッと呟き、その視線を足を舐めている猫へと移しながら聲音を引きつらせた。
「そして、
あの小さな生き物が我らを支配するというのか? 一体、イナ様は何を考えておられるのだ?
……いや、決して軽率に判断してはならんな。
何しろ、イナ様直々にお選びになったお方なのだ。彼らの存在の裏には、必ずや深遠で、
恐るべき秘密が隠されているに違いない」
不穏な空気が爆発するよりも早く、宮廷の従者たちが戴冠式を完遂するために一歩前に出た。分厚いローブをまとった一人の老魔族の長老が大理石の階段を上り、黒く輝く、トゲのついた金の王冠を恭しく掲げた。老魔族は深く、敬意に満ちた一礼を捧げると、その王冠を俺の頭の上へと静かに載せた。そしてそのすぐ隣では、ナスが純粋な忠誠心で両手を小刻みに激しく震わせながら前へと進み出た。この総執事はミクロの神々しい存在に完全に心酔していたため、なんとミクロの頭にぴったり合う特注のミニチュア王冠を個人的に用意していたのだ。ナスは目に歓喜の涙を浮かべ、ミクロが未だに足をペロペロ舐めているその真っ最中に、小さな王冠をその頭の上へと厳かに戴かせた。
一方、ステージの完全に端の方に立っていたブランは、完全に見目麗しい人間の姿のままだった。彼は集まった群衆には一瞥もくれず、俺やミクロの規格外の気配など一ミリも気にする様子はなかった。胸の前で腕を組み、その目はイナの姿だけをじっと見つめており、その恋煩いの眼差しからは、カケラほどの羞恥心もない凄まじい惚気のオーラが漂っていた。
だが、二つの王冠が完全に頭に載せられたその瞬間、すべてが完全に狂い始めた。
俺たちの胸の奥底に眠る、あまりにも規格外で暴力的な根源エネルギーの質量は、隠蔽のヴェールで抑え込めるレベルを遥かに超越していたのだ。突如として、イナの展開していた魔法のヴェールが、ガラスが粉々に割れるような鋭い悲鳴をあげてひび割れ始めた。一瞬の魔力の漏洩の後、次の瞬
間
――ドゴオオオオォォォーーーーンッ!!!
隠蔽のヴェールが暴力的に爆発して吹き飛んだ。ミクロの体内、そして俺の休眠していた絶対器から、圧縮されていた凄まじい質量の膨大な**魔力が、大気へと一気に解き放たれて炸裂したのだ。城の上の空は瞬時にドス黒い漆黒へと染まり、紫と黒の禍々しい電撃の渦が空間を激しく引き裂いた。解き放たれた魔素**の圧倒的な物理的質量は、大気の圧力そのものを完全に粉砕してしまっていた。
イナはその凄まじい衝撃波に身体を震わせながらも、必死に足を踏ん張って杖を掲げ、荒れ狂うエネルギーの嵐を突き抜けるような大音声で叫んだ。
「我が偉大なる国の魔族たちよ!
誇り高く胸を張り、歓喜するがよい! これぞ、
我らの新たなる最高支配者の、
限界なき真の絶対力である!!」
魔王城の外、広大な広場には数千人もの魔族の領民たちが大群衆となって埋め尽くしていた。天変地異のような莫大な魔力の爆発が城から激しく噴出し、世界の空を絶対的な威厳で染め上げたその瞬間、領民たちは全員その場で完全に硬直した。だが、彼らはパニックを起こさなかった。それどころか、純粋な歓喜と、底知れない誇らしさの涙が、一斉に彼らの顔を伝って流れ落ちたのだ。
「あの空を見ろ!
あの圧倒的な力の質量……なんて美しいんだ!」
外にいた一人の魔族の領民が、その場に膝をついて男泣きした。
「俺たちの長い苦難の時代は終わったんだ!
ついに、
本物の神が俺たちを率いてくれるんだ!!」
「骨の髄まで響くぜ!
世界の法則そのものを書き換える魔王様だ!」
別の戦士が誇らしげに咆哮し、
頑丈な鎧の胸をドンドンと叩いた。
「最高支配者、万歳!!」
謁見の間の中では、俺は本気でパニックになって絶叫していた。体内に定着したエネルギーの重圧のせいで、全身が天文学的なレベルで重く、まるで大型戦艦のフリートをまるごと両肩に叩きつけられたかのような重圧だ。
(おい、マジで言ってんのかよ!?)俺の脳内でパニックが完全にキャパシティをオーバーしていた。(ヴェールが壊れた! 魔力が大爆発した! 空が完全に世界の終わりみたいな色になって、全員が俺を神様扱いしてんじゃねぇか! 俺はただ静かなアパートに行きたいだけなんだよ!)
だが、いつまでもそこに突っ立っているわけにはいかなかった。俺は死ぬほど重たい両足を力ずくで動かし、玉座の大理石の階段をゆっくりと下り始めた。正式に、城の最奥にそびえ立つ巨大な大門へと向かって歩き出した。俺のすぐ隣では、ナスが王冠を載せたミクロを、まるで国宝の遺物かのように恭しくその両腕に抱きかかえて歩いている。
俺たちがホールの真ん中の通路を進むにつれて、二人の放つ一切の容赦のない、重たい魔力の気配は、内部にいたエリート魔族たちにとってあまりにも圧倒的すぎた。マラコアも、将軍たちも、そして室内にいたすべての最高幹部の魔族たちが、俺たちが横を通り過ぎる瞬間に一斉にその場に膝をつき、その絶対的な質量の前にガタガタと激しく身体を震わせた。
「武器を抜くことすらなしに、これほどまでに圧倒的に重たい存在感を放つとは……」
マラコアは床に這いつくばり、顔を冷や汗でびしょ濡れにしながら、完全なる畏怖の眼差しで驚愕の声を漏らした。
「この二人は……この二人は、神の如き化け物だ」
俺たちはついに城の閾値に達し、巨大なロイヤルバルコニーの外へと足を踏み出した。俺は静かな出口を探すつもりで下を見下ろしたが、次の瞬間、俺の顎は石の床に激突する勢いで外れかけた。目の前に広かったのは、闘技場を遥かに凌駕する、見渡す限りの地平線の果てまで首都を完全に埋め尽くした、数千、数万もの魔族の領民たちの狂気的な大歓声の海だったのだ。
俺はボウリングの球みたいな王冠を頭に載せたまま、完全にフリーズしていた。数千人の大歓声を見つめながら、あまりの非科学的な恐怖に、魂が口から半分抜けかかっていた。
(……この次元ごと丸ごとクーリングオフしてぇわ。俺の平穏な暮らしは、始まる前に完全に神話になっちまったよ)
俺の脳内のパニックの静寂を破るように、ナスの腕の中でミクロは頭の上の小さな金の王冠の位置を少しだけ直すと、いつも通り不敵に、気の抜けた鳴き声をあげるのだった。
「……サマ、にゃぁーーお」」




