ようやく魔力を抑え込めたぞ
「俺は頭の上の金の王冠の重みに頭痛を覚えながら、巨大なロイヤルバルコニーの上で完全に硬直していた。目の前に広がっていたのは、見渡す限りの地平線の果てまで首都を完全に埋め尽くした、数千、数万もの魔族の領民たちの狂気的な大歓声の海だった。その圧倒的な群衆のスケールに、俺の胃は完全にひっくり返りそうになっていた。
イナがすぐ隣に歩み寄り、その声を鋭い囁き声へと落とした。
「エイン様、領民たちへお言葉を。
あなたとミクロ様のご紹介を正式に行ってください。国中の者が、
新たな最高支配者の声を求めております」
俺は生唾を飲み込み、手汗をびっしょりとかきながら、なんとか大理石の手すりの前へと進み出た。
「あー……皆、聞いてくれ。
俺の名前はエインだ。で、
こっちにいるのがミクロだ」
俺の声が広大な広場へと大音量で響き渡った。
「いいか、話はシンプルにいこう。
俺はトラブルも御免だし、戦うのも御免だ。
それから書類仕事の類は死ぬほど嫌いだ。
あんたたちが俺たちに静かな住処と、
毎日の飯さえちゃんと保障してくれるなら、
何の問題も起こらない。ただ、
俺を静かに部屋の中に引きこもりらせてくれ」
一瞬、呆気に取られたような静寂が広がった。だが次の瞬間、数千人の魔族の領民たちが一斉に、激しい歓喜の涙を流して泣き叫び始めたのだ。
「聞いたか!?
我らの新たな主の知恵は完全に絶対だ!」
下にいた一人の領民が男泣きした。
「人間どもの退屈な政治ごっこを完全に拒絶しておられる!己の神の如き絶対力を静寂の中で培うために、完全なる孤立を求めておられるのだ!」
「真の暴君にふさわしい、
容赦のない簡潔な言葉だ!」
鎧姿の将軍が誇らしげに咆哮した。
「エイン様万歳! ミクロ様万歳!!」
公の場への御目見えが終わるや否や、イナは即座に目を閉じ、杖を掲げて濃密な古の呪文を唱え、俺とミクロから溢れ出ていた莫大な**魔力**を再び強引に圧縮した。ものの数秒で、空間を圧し潰しそうだったあの異常な重圧は完璧に消え去り、ホールの死んだような静寂が戻ってきた。
ステージの端に立っていたブランが、ようやくその静かなトランス状態から復帰した。あいつは歩み寄ってくると、その目を完全にイナの姿だけにロックしたまま、大仰で芝居がかった深い一礼を捧げた。
「実質、
ついに私が己の領海へと戻る時が来てしまったか」
ブランの声には、これでもかと恋煩いのメロドラマ的な響きが滲み出ていた。
「だが絶望することなかれ、私の愛しいイナ様! たとえあなたの心が未だ私に対して固く閉ざされていようとも、私の大海原は常にあなたの国の盾としてそびえ立つ。たとえこれから数千年がかかろうとも、あなたへの我が愛が揺らぐことは決してない!」
あいつは俺の方を振り返ると、
軽く顎をしゃくった。
「さらばだ、魔王クン。
我が最愛の姫をよろしく頼むぞ」
それだけ言い残すと、ブランは最後の最後までイナの名残惜しそうな視線を送りながら、颯爽と去っていった。
(マジで言ってんのかよ……)俺はあいつの後ろ姿を見送りながら、完全に白目のドン引き顔で心の中で呟いた。(あのトカゲが今まで魔族を守ってきた理由が完全に分かったわ。政治的な同盟とかじゃねぇ、あいつはただの筋金入りのストーカーだ。)
ようやく、俺とミクロはプライベートな自室へと送り届けられた。一日の全ての骨折り損を洗い流すために柔らかいマットレスにバタンと倒れ込もうとしたその時、部屋の扉がギギギと重たい音を立てて開いた。ナスが恭しく一礼して入ってき、そのすぐ後ろには、光る魔導書を胸元にぎゅっと抱きしめた、極度に恥ずかしがり屋の小さな魔族の少女、ルーンが縮こまりながら付いてきていた。
「非礼をお許しください、エイン様」
ナスは深く頭を垂れた。
「イナ様より、あなたとミクロ様を城の地下室へとお連れするよう、厳格な命令を受けております。
本日、隠蔽のヴェールが一度完全に崩壊してしまった以上、お二人は即座に己の内なる魔力を手作業で完全に抑制し、隠蔽する術を学ばねばなりません」
俺は深い、絶望の溜め息を漏らした。
(マジかよ……一息つく暇もくれねぇのかよ。)
あいつらは俺たちを城の最深部へと連れて行き、螺旋状の石の階段を下りて、頑丈に補強された巨大な地下室へと行き着いた。部屋の壁には、城の外にエネルギーが一滴も漏れ出さないよう、古の魔力吸収ルーンがびっしりと並んでいた。
「あ、あの……」
ルーンはナスの巨体の後ろからひょこっと顔を覗かせ、その声を小刻みに震わせながら蚊の鳴くような声で囁いた。彼女は俺の顔を見ると、その顔を一瞬で真っ赤に染め上げ、緊張で両手の指先をモジモジと小刻みに動かした。
「エ、エイン様……どうか、
私を怒らないでください。魔力を抑え込むのは……その、胸の奥で、ものすごく巨大な息を限界まで我慢するような感覚なんです。もし、うっかりそれを漏らしちゃったら、部屋ごと……その……大爆発しちゃうかもしれなくて。あの、このマニュアルを持ってきたので、もしよければ、お役に立てれば……」
「大爆発!? それを今言うんじゃねぇよ!!」
俺は本気でパニックになって絶叫した。
「いいか、俺は自分がなんでこんな力を持ってるのかすら分かってねぇんだぞ! 巨大な魔法の息を我慢しろなんて、できるわけねぇだろ!!」
俺は深く息を吸い込み、体内の圧倒的な気配を核へと強引に押し込めようとした。
ドォン。
紫色の魔力の衝撃波が視覚的に外へと放たれ、石壁を激しく振動させた。
「違います、エイン様!
集中が完全に散漫になっております!」
ナスは総執事としての容赦のない規律で、腕を組んだままビシバシと叱責した。
「表面を押し出すのではなく、
核をしっかりと固定するのです!」
「もう一回だ!」
俺は歯を食いしばりながら唸った。もう一度根源の魔力を抑え込もうとしたが、絶対器の純粋な密度が激しく抵抗してくる。
ピキピキ。
床の魔力吸収ルーンが危険な熱を帯びて輝き始め、凄まじい負荷のせいでひび割れ始めた。
「ひゃぅ!? エ、エイン様、ダメです!」
ルーンは後ろからパニックの声をあげて、両手をぶんぶんと振り回した。
「流れが完全に逆です!
急激に圧縮しすぎています!
お願いですから爆発させないでください!」
三回目の挑戦で、俺は完全にコントロールを失った。足元の重力が一気に崩落し、突風のような重たい大気の破裂音が地下室全体をガタガタと揺らす中、俺はその場に激しくよろめいた。
「これで三回目の失敗ですね、我が主よ」
ナスは眼鏡の位置を直しながら、
厳格な眼差しで溜め息をついた。
「生まれたての魔族の兵士ですら、二回目の挑戦で基本的な隠蔽くらいはこなします。もっと精神的な規律を洗練させてください」
「うるせぇ! これ、元々俺のエネルギーじゃねぇんだよ!」
俺は激しく息を切らしながら言い返した。俺は最後にもう一度だけ目を閉じ、あいつらの説教を完全にシャットアウトした。俺の魂の奥底で巨大な保管庫の扉がドカンと閉まり、この規格外のパラメータを床板の遥か下に強引に鎖で縛り付けるイメージを描く。
スーッ……
大気が完全に静まり返った。輝いていたルーンは一瞬で冷え込んだ。地下室を圧し潰しそうだったあの異常な重圧は完璧に消え去った。ついに、やったぞ。
「ふぅ……やっとかよ」
俺は額の汗を拭いながら呟いた。俺は誇らしげに振り返り、隣の石の台座を見下ろした。
「はっ! 見たか! なぁ、
ところでこいつはどうなんだよ?
こいつはどうやって自分の魔力を隠蔽して――」
俺はフリーズし、顎が石の床に激突する勢いで外れかけた。
ミクロはすでに完璧にちょこんと座っており、頭の上の小さな金の王冠を片方の耳の横に少しだけ傾けていた。あいつの気配は完全に、完璧に隠蔽され、ゼロにロックされていた。あの駄猫はゆっくりと俺の方を振り返ると、いつも通り不敵に、完全に俺を見下したような表情を浮かべた。その顔はまるで、『僕の方がお前より優秀だにゃ、ふんっ』とでも言っているかのようだった。
「こ、この裏切りモフモフの塊……! テメェ、一発で成功させやがったな!?」俺は本気で呆気に取られて叫んだ。
「素晴らしい! 実に、どこまでも完璧です!」
ナスは俺の存在を完全にスルーして、その顔を純粋な、底知れない心酔の表情へと一瞬で溶け込ませた。
「ミクロ様の身のこなし、まさに非の打ち所がございません! これほどまでに圧倒的なパラメータを、王者の如き超然とした態度でコントロールされるとは……真に、至高の領域です!」
ルーンは魔導書をぎゅっと抱きしめたまま、慎重に一歩前に出ると、その大きく丸い好奇心に満ちた目で俺をひょこっと見つめた。
「あ、あの……私の非礼をお許しください、
エイン様。ですが……一つ、
お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、なんだ?」俺はなんとか支配者としての威厳を取り戻そうとしながら言い返した。
「私、さっきからあなたとミクロ様のステータスを鑑定しているのですが……お二人の持っているその奇妙な力は、一体何なのですか?」ルーンは蚊の鳴くような声で静かに囁いた。
「奇妙な力?」俺は瞬きをした。
「はい……エイン様の力は、『無限の魔力容量』
と表示されています。そしてミクロ様の方は、
『死魔力の捕食』。ですが……お二人とも、
スキルが一つも存在しないのです。
この世界に生きるあらゆる種族は、
その固有のアルティメットスキルと共に、
最大で四つのスキルを必ず所持しているはずです。なのに、お二人の画面は完全に空白なんです」
「つまり、俺たちはただの異常者ってことか?」
俺は首の後ろをさすりながらボソッと呟いた。(スキルがゼロ? 容量が無限? 最高だな、俺のステータス画面は、俺の平穏な引きこもり生活と同じくらい完全に壊れてやがる。)
「まぁ、この力については、俺が自分でなんとか解明してみるわ」
ルーンの目がかすかに輝き、その両頬が一瞬でリンゴのように真っ赤に染まった。
「も、もしよろしければ、エイン様……この城の中には巨大な書物庫がございます。あなたの力になれるような本を、私、一緒にお探しいたします。あそこには魔法に関する本が、本当にたくさん並んでいますから」
「おぉ、完璧じゃねぇか! 頼りにしてるわ、
ルーンちゃん」俺は微笑みながら右手を伸ばし、彼女の小さな頭を優しくペロペロと撫でるようにポンポンとした。
「ひゃぅ……っ」ルーンは恥ずかしそうに小さな悲鳴をあげ、小さなツノを真っ赤に染め上げながら魔導書の中に完全に顔を埋めて縮こまった。
「そういうことであれば」ナスは滑らかに言葉を挟み、その目を鋭く光らせながら台座のすぐ横へと一歩踏み出した。「私はミクロ様がいくつかのスキルを修得できるよう、全力でお手伝いいたしましょう。最高支配者たるもの、その (兵装)も等しく神々しくなければなりませんからな!」
ミクロは自分の前足をペロペロと舐め、総執事の狂信的な戦略など完全に無視して超然としていた。
過酷な一日を生き延びた最高のご褒美として、リサとメイドたちがついに夕食を俺たちの部屋へと直接運んできてくれた。巨大なトレイの上には、完璧に調理された地元の肉料理やロースト、そしてミクロのための新鮮な魚が山のように積み上げられていた。飯がテーブルに置かれた瞬間、俺とミクロは我を忘れて猛烈な勢いで喰らいつき、胃袋が限界まで膨むまで飢えた獣のように平らげた。
「あぁ……最高だ……」俺は満足感に満ちた溜め息を漏らし、背後のクッションへと完全に沈み込んだ。「これだけが、ラスボス扱いされる中で唯一、完全に最高だと言える部分だな」
だが、俺たちのこの束の間の平穏は、外の世界の現実から完全に隔離されていた。




