↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/19

不穏なる戦場跡

「イナたちの後に続いて、

うねるように続く古の小道を進むにつれて、

うっそうとした木々が次第にまばらになり始めた。


オークに追いかけられた大混乱と、

そこから間髪入れずに叩きつけられた


『魔王への推薦』


という全く予想外の提案のせいで、俺の脳内は完全にキャパシティをオーバーしていた。歩きながら、俺はずっと喉に引っかかっていた疑問をイナに投げかけた。


「なぁ、そもそもなんで新しい魔王が必要なんだ? 先代の魔王には一体何があったんだよ」


イナは歩みを止めず、

前を見つめたまま静かに口を開いた。


「かつて、この世界のあらゆる種族は、

互いに不可侵を誓う『平和の条約』

を結んでいました。

しかし……人間の国のある者が、

魔族に対してその条約を裏切ったのです。

ベースとなる関係は一瞬で崩壊し、

人間と魔族の間の凄惨な血みどろの戦争へと発展しました。私たちの魔王様と、

その部下であった他の守護官たちが命を落としたのは、その戦争の中でのことです」


「でも、なんで魔王が負けたんだ?

魔王ってめちゃくちゃ強いんだろ?」


俺は率直な疑問を口にした。


「ええ、

その強さに疑いの余地はありませんでした」


イナの声音に、深い苦渋が混じる。


「しかし、彼の前に立ちはだかったのは、

人類最強の『勇者』。それだけではありません。

その傍らには、人類最強の『聖女』が付き従い、

勇者を援護していたのです」


ナスが腕を組んだまま、

重々しい声で言葉を挟んだ。


「私たち魔族は、

あの戦争で文字通り全滅寸前まで追い込まれました。かつて滅ぼされた、

あのダークエルフたちのようにな……」


「じゃあ、

一体誰が残されたあんたたちを救ったんだ?」


「竜族です」


イナが答えた。


「彼らは私たちの最も親しい同盟。ですが、

彼らが動くのは『我が主が敗れた時』

という条件の元だけでした。彼らは今、

新しい魔王が誕生するまでの間、

私たちを保護してくれているに過ぎません。

……何より悔しいのは、人間たちがこの戦争の全責任を私たちのせいに仕向けていることです。

本当に腹立たしい。ですが、先代の魔王様の最後の願いを果たすことこそが私の義務。

あの裏切りの裏にある真実を、

私は必ず突き止めてみせます」


リサが悲しげに、

しかし諦めたようにため息をついた。


「ですが今でも、人間たちは何事もなかったかのように私たちの国へと足を踏み入れてきます。

私たちはこれ以上の大ごと(トラブル)

を望んでいませんから、まるで何も起きていないかのように、

ただ彼らを放っておくしかありません。

……不公平だと思いませんか?」


「あぁ……俺の夢の平穏な引きこもり生活が完全に終わったわ」


俺は深い、深い溜め息をついた。


「自分に誓ったんだ。何があってもこういう面倒事(トラブル)には巻き込まれないって。

……クソ。

ここに来てすら平穏に暮らせねぇのかよ。まぁ、

今更どうしようもねぇけどな」


イナは力強く、

しかしどこか慰めるように俺を振り返った。


「心配いりません。あなた方二人が、

私たちの魔王となるにふさわしい存在だと証明された暁には、私たちは全力であなた方の平穏を守り抜くと誓いましょう」


「……あぁ、そいつは本当に期待してるわ」


俺は完全に落胆した目で呟いた。


そんな会話を交わしながら進むうち、

俺たちは突如として、木々が完全に死に絶えた、

広大で不気味な荒涼とした場所へとたどり着いた。


その瞬間、俺の左肩で濡れた洗濯物のようになっていた黒い塊が、

ハッと目を覚ましして小さな鳴き声をあげた。


「どうした、ミクロ?」


ナスがその荒地を見つめながら、低い声で言った。


「これこそが、私が先ほど言っていた場所です」


「……ここは一体、なんなんだ?」


俺はその禍々しい空気に身震いした。


「ここは世界最大の戦場跡。

かつてダークエルフたちが全滅して以来、3000年以上もの長きにわたって存在し続けている場所です。ここはかつて、

誇り高きダークエルフの国家でした。そして……我が主が討ち取られた場所でもあります」


ナスが言葉を言い切るよりも早く、

俺の肩からミクロがひょいと地面に飛び降りた。


「おいミクロ、何するんだよ!?」


ミクロがその四本の足を硬い地面につけた瞬間、

あまりにも恐るべき異変が戦場全体を襲った。

地響きと共に、広大な戦場跡のいたるところから、ドス黒い不気味な瘴気(ミアズマ)が地から湧き上がり始めたのだ。それは、ダークエルフが滅びてからの3000年以上の長きにわたり、この世界最大の戦場に置き去りにされてきた無数の戦士たちの『魔素(まそ)』であり、無念の『魂』

そのものだった。


次の瞬間、ミクロの小さな身体が、

まるで空間を喰らい尽くす『ブラックホール』

のように激しく脈打ち始めた。

地から湧き出た莫大な瘴気が、渦を巻いてミクロの身体へと猛烈な勢いで吸い込まれていく。


「な……ッ!?」「下がりなさい!!」


俺と魔族の幹部たちは、凄まじい大気の圧力に圧し潰されそうになりながら、

必死に足を踏ん張って後方へと飛び下がった。

風が咆哮をあげ、

空間が引き裂かれそうなほどの暴風が吹き荒れる。


やがて、ミクロが戦場に満ちていたすべての魔素を完全に喰らい尽くしたとき、

大気はピタリと静まり返った。しかし、

俺たちの目の前に残された光景は、

想像を絶するものだった。


そこにいたのは、敵も味方も関係なく、

かつてここで戦ったあらゆる種族の戦士たちの『魂』だった。彼らの顔に苦悶の表情はなく、

誰もが信じられないほど穏やかな、

救われたような笑顔を浮かべ、ようやく自由になれたことを喜んでいるようだった。


さらに、イナたちの目が驚愕に見開かれた。

魂の群れの中に、ひと際巨大で神々しい光を放つ存在――先代の魔王の姿があったのだ。

先代の魔王は、かつての部下であるイナたちを優しく見つめ、

声にはならない何かを語りかけるように、

静かに微笑んだ。そして次の瞬間、

彼はゆっくりと俺の方を振り返ると、

敬意を込めるように、かすかにその頭を下げた。


そして、先代の魔王の魂は、

他のすべての戦士たちの魂と共に、静かにその場からかき消えるように消滅していった。


魔族たちは完全に硬直していた、

今しがた目撃した、あまりにも規格外で不可能な現象が信じられなかったのだ。


しかし、静寂は長くは続かなかった。突如、

ミクロの丸っこい身体の中で圧縮されていた膨大な**魔力(まりょく)**が暴力的に暴れ狂い、

黒紫色の電撃となって周囲に炸裂した。

その莫大なエネルギーは、

まるで明確なターゲットを見定めたかのように、

俺の胸元めがけて猛烈な勢いで突進してきたのだ。


「うおっ、おい! 待て! ファイアウォールなしで勝手にデータをダウンロードしてくんじゃねぇ!!」


俺は本気でパニックになって絶叫した。


そのエネルギーが俺の体内に定着した瞬間、

すべてが狂い始めた。血管を何かが強引に駆け巡る、息の詰まるような奇妙な感覚。

痛みはなかったが、

全身が天文学的なレベルで重くなった。まるで、

大型戦艦のフリートをまるごと両肩に叩きつけられたかのような重圧だ。


俺が立っていた地面が、凄まじい悲鳴をあげた。

轟音と共に地面が完全に崩落し、

俺の足元を中心に、直径数メートルに及ぶ巨大なクレーターが抉り開けられたのだ。

数歩離れた場所にいたミクロも、

周囲の重力が完全にねじ曲がったせいで、

俺とまったく同じ対称的なクレーターの底へと沈み込んでいた。


二人の放つ、

一切の容赦のない絶対的な威圧感は空間を歪め、

光の屈折すらも変えてしまっていた。


魔族の幹部たちは完全に絶句し、その顔を、

深い畏怖と本能的な恐怖で完全に強張らせていた。


「これこそが、彼らの真の力……」


イナは声音を震わせ、

その絶対的な威厳を完全に崩した。


一秒の躊躇もなく、

イナは即座にその場に膝をつき、

崩落した地面に両手をフラットに叩きつけた。

ナスも、リサも、

そして小さなルーンまでもが完全にシンクロし、

一瞬で頭を深く垂れた。その荒廃した戦場跡で、

彼らは厳かな、永遠の忠誠を誓った。

彼らの心は完全に決まっていた。


新しい魔王は、今、彼らの目の前に立っている。

煙の上がるクレーターの底で、

重たい足を踏ん張りながら、俺は完全に白目のドン引き顔で自分の両手を見つめた。


「おい、マジで言ってんのかよ!?」


俺の絶叫が、静まり返った戦場に滑稽に響き渡った。


「俺はただ平穏に引きこもりたいって言っただけだろ!

なんで俺の猫は生態系を破壊する掃除機になって、俺は立ってるだけで惑星を破壊し始めて、

あんたたちは俺をラスボスみたいに扱ってんだよ! こんなの契約書に書いてなかったぞ!」


ミクロは、自分の毛並みから放たれる世界を圧し潰すような重たいオーラなど一ミリも気にする様子もなく、ゆっくりと俺の方を振り返ると、いつも通り暢気に、気の抜けた鳴き声をあげるのだった。


「……にゃぁ」」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。