魔族との初の祝宴
「目が赤く輝く四頭の魔界の軍馬の鉄の蹄が止まり、車輪が重々しい音を立てて静止すると、壮麗な黒い馬車はついに魔王国の首都の巨大な黒曜石の門へと到着した。馬車が公の通りへと差し掛かったその瞬間、通りの静寂は、領民たちの地鳴りのような凄まじい大歓声によって一瞬にして粉々に粉砕された。数千、数万もの魔族の領民たちが石畳の通りの両脇を完全に埋め尽くし、人間たちの国への外交出張を見事に成功させた俺たちの帰還を祝して、旗をぶんぶん振り回しながら喉が張り裂けんばかりの声で咆哮をあげていたのだ。
俺は馬車から宮廷の中庭の一寸の濁りもない地面へと足を踏み出し、その胸から死ぬほど重たい溜め息を大きく漏らした。
イナの方を振り返り、その美しい顔を見つめながら、エインは次の指示を厳格にアナウンスした。
「イナ、リサに伝えて、城のメイドたちに今夜の宴会の準備をパパッと進めさせてくれ。首都にいる全ての魔族を宮殿の外に集めるんだ。他の種族どもと外交和平協定を無事に締結できたからな、
その成功を祝して、特大の大宴会を執り行うぞ」
イナの目はその瞬間、深遠な、感情に満ちた絶対的な熱い光を宿して大きく見開かれ、その高貴な表情は深い、尋常ではない敬意の語調へと一瞬で溶込んでいった。
「なんと慈悲深いご決断ですか、エイン様。
歴史的な国際条約の成功を、すべての領民を宮廷に招いて分かち合われるとは……。真に、あなた様の至高の知恵は我ら全員の道標です。ただちにリサと城内の従者たちにこの旨を伝達いたします」
「あぁ、分かった……。とにかく、
飯の量だけは完全にパッキングしておいてくれよ」
俺は首の後ろをさすりながらボソッと呟いた。
通りを埋め尽くす大群衆の社会的圧力が、ようやく俺の肩からパッと離れていくのを感じていた。
国中への公式の告知が正式に完了すると、中庭の騒がしい喧騒は静かに背景へと退いていった。首都の全域が、今夜の大宴会に向けて猛烈な勢いで活気あふれるお祭りの準備へと突入していく中、エインとミクロは宮廷の最奥にある寝室の聖域へと音もなく退散した。
俺は頭の上の重たい王冠を外す気力すら起きず、高貴な礼服を着替えることすら一から十まで完全にパスした。ただ目の前にあった高級な絹のベッドへとバタンと倒れ込み、そのまま泥のようにぐったりと崩れ落ちた。俺のすぐ隣では、人間の国での暴飲暴食のせいで長旅の寝汗をかいていたミクロが、その限界までパンパンに膨んだ胃袋をマットレスの上にズルズルと引きずりながら這い上がってきた。エインとミクロは、ついに自分たちの寝床へと疲れ果てて辿り着き、一瞬にして一切の骨折り損のない平穏な爆睡の底へと深く、深く沈み込んでいった。
コン、コン。
巨大な黒曜石の扉を叩く突如たる鋭い音が、俺たちの深い眠りの静寂を強引に破った。俺は重々しい声を漏らし、扉が滑らかに開かれる中でゆっくりと瞬きをして目を開けた。リサがそのお馴染みのメイド服を完璧に着こなして優雅に部屋へと踏み込み、
腰から深く一礼を捧げた。
「お休み中のところ失礼いたします、エイン様、
ミクロ様」
リサの声には、
プロの礼儀正しさと熱烈な期待が満ちていた。
「大宴会の準備が完全に整いました。
首都にいる全ての魔族がすでに宮殿の外に集結し、
我が主
方のお出ましを首を長くして待っております」
俺は再び深い絶望の溜め息を漏らし、片手で顔を覆った。よっこらしょと起き上がると、未だ寝ぼけて完全に超然としているミクロを恭しく両腕に抱きかかえ、そのまま己の肩の上へとダランと担ぎ上げた。最奥の寝室から大理石の巨大なバルコニーへと足を踏み出すと、眼下の中庭には、敷き詰められた石床が見えなくなるほどの凄まじい領民たちの大群衆(海の如き人混み)が広がっていた。俺の姿が公の前に現れたその瞬間、首都の地盤そのものを激しく振動させるほどの大咆哮が沸き起こった。俺は軽く右手を掲げ、その声を国家全体へと力強く響かせた。
「今夜は、お前たちの新しい支配者
としての俺たちとの初めてのお祝いだ! そして、
諸国との外交和平協定を無事に大成功させた記念すべき夜だ!」
俺は元暴走族の頭としての絶対的な自信を声音に乗せ、その唇に暢気な不敵な笑みを浮かべた。
「だから魔族ども、今夜は思いっきり楽しんで、己の限界まで全身全霊で祭り(フェースト)を喰らい尽くしてくれ!」
一瞬の間、大群衆は息を呑んで静まり返った。だが次の瞬間、暴力的なまでの質量を持った凄まじい大歓声の壁が室外から爆発したのだ。
「ウオォォォォーーーッ!!! 乾杯だ!!!
我らが全能の支配者様に栄光あれ!!」数千、
数万の聲音が誇らしげに咆哮した。
「エイン様万歳! ミクロ様万歳!!」
俺は大理石の巨大な階段をゆっくりと下り、領民たちが熱狂している大宴会の会場のド真ん中へと真っ直ぐに飛び込んでいった。夜の空気の中に豪快な笑い声が響き渡る中、木の机のあちこちでコップがガタガタと激しく衝突し合った。
群衆の中を通り抜けていくと、魔族の高貴な貴族の一人であるガラックが前へと進み出、
深く敬意に満ちた深い一礼を捧げた。
「お元気そうな姿を拝見できて嬉しく存じます、
エイン様! ミクロ様も! それで、人間の国への外交出張はいかがでしたか? あいつら、
あなた様に対して不調法な無礼
を働きはしませんでしたか?」
俺は首の後ろをさすりながら、少しだけ浅い、力力のない苦笑いを浮かべた。肩の上のミクロの体重の位置をパッと直しながらボソッと呟いた。
「旅自体はそれなりに楽しめたよ、
少し骨折り損の疲れが出たけどな。で、
あんたが言ったその無礼
に関してだけど……あづら、
本当に筋金入りのルードだったわ」
ガラックの豪快な笑みはその瞬間一瞬で消え去り、その毛深い眉を激しい怒りの質量でへし折らんばかりに狭めた。
「やはり、あなた様に対してそこまでの無礼を働いたのですか!?」
「あぁ、マジで言ってんだよ。あいつら、魔族のことを完全に上から目線で見下してやがるからな」
俺は暢気に肩をすくめて指して正直に白状した。
すると、もう一人の有力な貴族魔族であるマラコアが、完全に真剣な表情を顔に張り付かせながら、流れるような動作で俺たちの会話に介入した。
「会話への割込み(インターラプション)をご容赦ください、エイン様. ……それでもなお、あなた様は奴らの領土に対して血の署名
を刻んでこられたのですか?」
「あぁ、その通りだよ」
俺はカケラほどの迷いもなく即座に言い返した。
「何しろ、俺の脳内には平穏な暮らしのことしかねぇからな。一枚の書類にサインするだけで、あの軍隊の山を俺のベッドから遠ざけられるなら、俺は何度でも喜んでサインしてやるわ」
ガラックは数秒間、完全なる畏怖の眼差しで俺の顔を凝視していたが次の瞬間、その目に深遠な、
純粋な心酔の涙を溢れ出させた。
「なんと素晴らしい、感服すべき御存在ですか、
エイン様! それに引き換えミクロ様は……完全に愛くるしい(アドラブル)です!」
ガラックは突如として、地鳴りのような豪快な大爆笑を爆発させ、俺の肩の上でまるで中身の抜けたベルベットの袋のようにダランとぶら下がって爆睡している、王冠を載せた黒猫を指差した。マラコアもまた力強く頷き、その張り詰めていた真剣な表情を、誇らしげな不敵な笑みへと一瞬で溶込ませた。
「乾杯にございます、エイン様!」
マラコアが巨大な杯を掲げ、俺たちは夜空の下で、三つのコップをパパッと激しく衝突させて大音量の乾杯を交わした。
酒を一口喉へと流し込みながら、
俺の脳裏に突如として、ずっと保留
にしていた疑問がフラッシュバックした。
「ところで、今ふと思い出して聞き忘れてたんだが。魔王国の都市の総数って、
正確には全部でいくつあるんだ? 俺の知る限り、あんたたち二人はそれぞれ別の都市を統治
(ガバイン)してるはずだけど、
なんで俺の前にはさっきからこの二人の市長
(メイヤー)
しか姿を現さねぇんだ?」
マラコアはその高級な礼服の位置をパッと直し、声音を少しだけ落として我が国の領地構造を説明し始めた。「それに関しましては、我が主。魔王国の領土には全部で四つの都市しか存在せず、それを統治しているのは現在三人のみでございます」俺は瞬きをし、脳内でパパッと簡単な引き算の計算をした。
「じゃあ、残りのもう一つの都市はどこにあるんだ? そして、その最後の一つの都市は一体誰が統治してるんだよ?」
ガラックは酒を一口飲むと、その顔を少しだけ引きつらせ、気まずい不快感の表情へと歪ませた。「それに関しましては、我が主……。あの『北の都市』を統治している一人の貴族魔族は、たとえ魔王様が相手であろうとも、一から十まで完全に限界を突破した傲慢な無礼の態度を崩しない男勝りの狂犬でございます。あの女はいつでもあのような調子で、先代の魔王様ですら、あいつのことは完全に好きなように私物化させて放置しておりました」
俺は片方の眉をピクッと上げ、完全に死んだ魚の目のドン引き顔になった。
「あー、要するに、ただの筋金入りの頑固者
(スタボーン)ってことだな」
「まさにその通りにございます、我が主」
マラコアが力なく苦笑いした。
「じゃあ、あのもう一つの空いている管理されてない都市はどうなってんだ?」
俺は二人を見比べながら聞いた。
「そちらは、イナ様が首都から常に間接的に監視されております」
マラコアが冷静に報告を続けた。
「彼女が書類仕事(手作業)の事務処理を完全に統括しているおかげで、完全な更地にならずに崩壊を免れている現実でございます」
「あぁ……なるほど、だからか」
俺はボソッと呟き、その目の前に広がる大歓声の祭りを見つめながら、元暴走族の頭としての冷徹な好奇心の火花を少しだけ脳内に灯した。
そしてその唇に、小さく、
暢気な不敵な笑みを浮かべた。
「よし、それじゃあ近いうちに、
俺がその魔王国の各都市を一つずつ直接遊びに
(エクスプロールに)行ってやるよ」
俺の言葉を聞いた瞬間、
ガラックとマラコアは即座に揃って頭を深く垂れ、
その顔を純粋な期待感に紅潮させた。
「それでは、あなた様のお越しを首を長くしてお待ちしております、エイン様!」
「あぁ。どんな場所なのか楽しみにしてるわ」
俺は酒をもう一口喉へ流し込みながら暢気に言い返し、夜空へと高く燃え盛るお祭りの炎を見つめるのだった。」




