本当の悪は誰だ?
「巨大な円卓を囲む空気は、皇帝レジナルド・
フォン・ヴァレリウス七世がゆっくりとその場に起立した瞬間、尋常ではない緊張感で張り詰めた。
あいつは一つ咳払いをすると、
その鉄の意志を持つ絶対的な威厳により、
室内の全員を瞬時に無言にさせた。
「それでは、まず始めに、基本の紹介
(インストラクション)からいこう」
皇帝レジナルドの声は、冷徹な絶対王政の威権を伴って室内に響き渡った。あいつは巨大な円卓を見渡しながら言葉を重ねた。
「まずはこの開催国である超大国、ヴァレリウス帝国の支配者として俺自身が自己紹介をしよう。
さぁ、この歴史的な円卓に集いし諸国の支配者たちの正式な自己紹介を進めるぞ」
あいつのすぐ右隣に座っていた支配者が、
その優雅な法衣のシワをパッと直し、滑らかな、
透き通った声音で言葉を発した。
「私がケロス・サンストライダー皇帝だ。エルフ族の絶対的な気品と魔術的主権を代表してこの場に就いている。」
その隣では、鋭い爪と野獣のような特徴を持つ巨体の男が低く唸り、地鳴りのような太い聲音を石造りの聖域に響かせた。
「俺がアロン・ファングボーン国王だ。
獣人族の諸部族は、俺の純粋な腕力
だけに付き従う。」
複雑な鉄の装飾に身を包んだ古の頑丈な体躯の男が、机の向こうからぶっきらぼうに顎を引いた。
「そして俺がフロスガー・アンビル国王だ。
ドワーフ族の山々の拠点の絶対的な鍛冶技術を代表して言葉を伝える。」
その隣では、分厚いローブをまとった吸血鬼の長老が青白い手のひらを掲げ、その声を骨の髄まで凍りつかせるような死の囁きへと落とした。
「私はヴラド・フォン・ドレイク長老にございます。我らの最高支配者たるリリス女王は、
1000年前から現在に至るまで完全に深い、
解けない眠りに就いておられます。本日は彼女の絶対的な威権をこの身に預かって参りました。」
分厚い、毛皮の施された防寒鎧をまとった厳格な男が次に言葉を発し、
その目は氷のように冷たく凝固していた。
「俺がグレゴリー・フロストベアラー国王だ。
国境の凍てつく盾を死守する、
北の国の人間の国王だ。」
そして最後に、全ての支配者たちの鋭い視線が、
専用のベルベットの小さな特注玉座に腰掛けるミクロの隣の、俺の席へと向けられた。俺は軽く右手を上げ、暢気に顎を小さく引いた。
「俺はアスロミ・エインだ。で、こっちにいるのがミクロだ」黒猫の艶やかな毛並みを優しくペロペロと撫でながら、冷静な声音で自己紹介を終わらせた。
皇帝レジナルドは巨大な机に両手を突き、その上体を前方へと傾けた。
「我らがこうして和平協定の席に就くのは、
1000年前のあの条約以来のこと。しかし、
諸君らも知っての通り、
500年前には人間と魔族の間で大規模な衝突
(コンフリクト)が発生し、
それは瞬く間に血で血を洗う戦争(血生臭い戦争)へと変貌した。私は、あの悲劇が再び繰り返されないことを切に願っている」
皇帝がそのセリフを最後まで言い切るよりも早く、エルフのケロス・サンストライダー皇帝が鼻で大きく笑い、その見目麗しい顔を強烈な軽蔑に歪ませた。「しかし、あの時の誓約を最初にへし折ったのは魔族の側だ。奴らの理不尽な侵略こそが、国際平和を粉々に粉砕したのだ」
「その通りだ」
北の国のグレゴリー・フロストベアラー国王が即座にその会話に介入し、その唇に容赦のない、嘲笑うような歪んだ笑みを浮かべながら、俺たちを真正面から睨みつけた。
「先代の魔王が一体どんな悲惨な末路を辿ったか、今一度思い出すがいい。
狂犬のように惨殺された。それこそが、
裏切りに対する正当な対価だ」
ケロス・サンストライダー皇帝がさらに言葉を重ね、その声音からはこれでもかと見下した声音が滲み出ていた。
「これまでずっと、あのトカゲが盾となってお前たちを守ってこなかったならば、魔族という種族は今頃完全に滅亡し、この世界の現実から完全に消え去っていただろうな」
皇帝の玉座のすぐ後ろに直立していた勇者エゾは、白い胸の装甲の上でその太い腕を組み、
不敵な笑いを爆発させた。
「あぁ、
全くその通りだ! あの鬱陶しいトカゲには、
マジで俺の神経を逆撫でされっぱなしだからな。
おい、一体どんな手を使ってあのトカゲを私物化したんだ、
イナ? あいつに惨めな闇の呪いでもかけたのか、
それとも魔族特有の汚い騙し討ちでも使ったのかよ!?」
俺は首を少しだけ傾け、隣のイナの顔を見た。
彼女は完全に無言を貫いていたが、
その顎は限界まで固く噛み締められ、
その顔は激しい、骨折り損の屈辱のせいでリンゴのように真っ赤に染まっていた。そのすぐ隣では、
ナスもまた冷や汗をかきながら沈黙を維持していたが、ミクロの頭を優しくポンポンと撫でるその両手は、怒りの質量で小刻みに激しく震えていた。
この二人が、あいつらの傲慢な嘲笑を前にして、
なす術もなく沈黙を強要されている光景を見つめていたその瞬間、俺の胸の奥底で、何かが完全にドス黒く反転した。周囲の凄まじい社会的圧力の重さは一瞬にして消え去り、代わりに冷徹な、刃物のようなアドレナリンの火花が脳内を駆け巡った。
(あぁ……ここまで来てみりゃ、俺の平穏な引きこもり生活なんて、始まる前に完全に神話になっちまってる現実だわ。だったら、たった一日の静寂を勝ち取るためだけに、目の前の邪魔者を力ずくでねじ伏せてやるまでだ。)
俺が前の世界で完全に墓場に埋めてきたはずの、
あの容赦のない暴走族の頭
としての凶暴な人格が、
一瞬にして俺の脳内を完全に占拠した。
俺の唇に、冷酷で、
危険な笑みがパパッと浮かびそうになる。
(俺の邪魔をする奴らの口を、
まとめて完全に永遠に黙らせてやるか。
俺の欲しかった静かな暮らしなんて、
後でいくらでも手作業で構築すればいい。
この世界の現実が、俺をどこまで受け止めきれるか試してやろうじゃねぇか。)
俺は冷徹な意識を取り戻すと、巨大な机の上の大理石をドンと軽く叩き、あいつらの一方的な会話に強引に介入した。
「おい、 お間たち」俺の声は、室内のざわめきを一瞬で完全に消し去るほどの、低く、骨の髄まで凍りつかせるような聲音へと変化していた。
「ここでは確か、外交和平協定の話をしてるんじゃなかったのか? なぜ、さっきからそうやって魔族の側だけを一方的に責め続けてるんだ?」
勇者エゾは一瞬だけ呆気に取られ、俺の声音の変化に硬直したが、すぐに鼻の奥でクスクスと小馬鹿にしたように笑った。
「あぁ、悪い悪い、俺の落ち度だ」
「そもそも、
あの時の誓約を本当に破ったのが魔族の側なのか、俺は激しい疑問を抱いてるんだがな」
俺は上体を前方へと傾け、その目を皇帝の冷徹な眼差しへと真正面からロックした。
皇帝レジナルドの表情が完全に消え去り、
その計算高い冷徹な目が、
容査のない鋭い細さに狭められた。
「それは一体どういう意味だ、魔王」
「もしかしたら、人間(お前たち)の側の誰かが自分から誓約をへし折っておきながら、自分たちが被害者のツラをするために、その全ての罪を魔族に丸投げして擦り付けたんじゃねぇのか?」
俺の言葉には、カケラほどの容赦もない絶対的な拒絶が滲み出ていた。
勇者エゾの顔は一瞬で激怒の紅潮に染まり、
あいつの右手は暴力的な勢いで伝説の聖剣の柄へと叩きつけられた。あいつは完全に理性を失い、
怒髪天を衝く勢いで一歩前へと突進してきた。
「おい、テメェ……!
よくもそんな口の利き方ができたな、
あぁ!? テメェだって、
ただの普通の人間に過ぎねぇだろうが!
自分の同胞を裏切るつもりかよ!!」
「さぁな、俺自身、そんな大昔のことは一から十まで知ったこっちゃねぇよ」
俺は冷酷に、暢気に肩をすくめてみせた。
そして黒曜石の椅子に深く寄りかかり、
人間の支配者たちの幹部全員を、カケラほどの恐怖もない冷徹な眼差しで睨みつけた。
「だけどな、人間(お前たち)に一つだけハッキリと言っておきたいことがある。俺の個人的な見解としちゃ、人間は魔族なんかよりも遥かに底意地が悪くて残虐だわ」
謁見の間全体の全員が息を呑んだ。完全なる、
死んだような静寂が空間を支配する。
「何しろ、人間は自分の都合やくだらねぇプライドのためなら、同族(じぶんたちの仲間)
を何のためらいもなく、一瞬で慘殺
できる生き物だからな」
俺の言葉は、聖域の静寂の中に氷の刃のように冷たく響き渡った。
「魔族は生き残る(サバイバル)ために戦う。
だが人間は、強欲とちっぽけな虚栄心のために互いを屠り合う化け物だ」
「てめ、下衆野郎が……! ぶっ殺してやる!!」
勇者エゾは激怒の咆哮をあげ、その顔を完全なる怪物のような形相に歪ませながら、
光り輝く聖剣を一瞬で引き抜いた。正式に、
俺の首を文字通り撥ね飛ばすために、
容赦のない殺意の質量を乗せて突進してきた。
「そこまでだ、エゾ!」
皇帝レジナルドの容赦のない、絶対的な威厳に満ちた声が鉄槌のように室内に響き渡り、突進してきた勇者の身体をその場で強引に完全に静止させた。
皇帝は右手を掲げ、
怒り狂う戦士の動きを完璧に止めてみせたのだ。
皇帝レジナルドはその計算高い冷徹な眼差しを、俺の顔へと真っ直ぐにロックした。室内の大気圧が、天変地異レベルの異常な重圧へと跳ね上がる。
「ずいぶんと我らを侮辱
してくれるではないか、魔王。
お前は自分が口にした言葉の重量を、
真に理解しているのか?」
俺は目の前の強大な皇帝を見返し、
あいつの放つ凄まじい威圧感など一ミリも気にする様子もなく、超然とした態度でミクロの艶やかな黒い耳を優しくポンポンと撫で続けた。
「いいや、侮辱
だなんてこれっぽっちも思っちゃいねぇよ」
俺の唇に、冷酷で、
カミソリのように鋭い不敵な笑みが浮かんだ。
「お前たちがさっきから揃いも揃って魔族を嘲笑ってたんだ。これくらいで、
完全にちょうどいいお互い様だろ」」




