内乱の兆し
南は独立を宣言した。
東はそれを援助する。
西には好戦的な統一勢力ができた。
北には伝説の魔道士がいる。
四方を不穏な空気に囲まれると、神聖国にも不穏な空気が流れはじめていた。
人々が陰ながらささやいていたことを公然と唱えるものも出てきた。
「神聖朝は本当に神の代弁者なのか?」と。
もともと、不満はくすぶっていたのだ。
生まれながらにしての身分や経済の格差。
ときに理不尽に思える施政。
役人の不正や怠慢。
しかし、この時代、身と食の安全こそが支配者に求める最大の欲求であった。
それさえ満たされていれば、他は些事であった。
ところが昨今、不穏な空気に包まれつつある。
「朝廷が神の代行者なのであれば、なぜこのような情勢になったのだ」
暴徒が群れをなし、政府公舎を襲うことが何度かあった。
その鎮圧部隊にいたフマ・アイマスは次第に疑問に思ってきた。
「このまま朝廷の言いなりでいいのか?間違っているのはだれだ?」
この思いの蓄積が、後日、歴史上の重大な出来事につながる。
***
神聖朝は混乱していた。
西域、南域の情勢に加え、北域に派遣した調査団が帰ってこない。
北域の遺族は当然、事情究明を求めて押し寄せてきたし、皇国や帝国からの陳情が絶えない。
それにくわえて昨今、集団で朝廷を批判する動きも出てきた。
「それどころではない!」
率直なところだ。
我々は庶民の生活を守るために、日々苦心している。
そこに、よくわからない不満をあげる集団が各地で発生しているという。
あまつさえ、中には暴徒と化しているケースもあるらしい。
怒りの矛先が違うだろう。
憎むべきは外にある。
目の前のことに忙殺され、周囲が見えなくなっている官僚や政治家には、庶民の声は届かなかった。
半ば怒りに近い感情で政府高官は暴徒の鎮圧を指示する。
余裕のなさがなせるのだが、短い言葉で指示された側は「朝廷が聞く耳をもたない」という印象を持つ。
そうなると、間に立つ者も「なぜ」を深掘りしなくなる。
「とりつく島もない」という印象を抱いてしまうからだ。
最終的には「問答無用で鎮圧せよ」。
治安部隊には、そのような命令となって届く。
民衆はそれを政府の声として感じ取る。
中には暴動を起こさず、ただ訴えようと詰めかけただけのものたちもいた。
それらも暴徒として処理されることさえあった。
鎮圧部隊は暴徒の処理を上官に報告する。
すると、朝廷はただの陳情者まで「暴徒」として記録を残す。
実態よりも多くの暴動が起きていると勘違いしてしまう。
政治と実態の乖離である。
中には実情を知り、問題点に気づく官僚もいた。
しかし、この四方に難題を抱える現状で、『被害妄想』と思われてしまっている集団について朝廷内で議論できる空気ではなかった。
傲慢になっていたのかもしれない。
調停の神バハリは、その力で調和をもたらす。
その性質は国家としても継承してしまっていた。
長らく、逆らうものがいない平和。
周辺四方域どころか、皇国、帝国の二国も神聖朝には逆らえない。
話し合いで解決する必要がなければ、政府に意見を調整する仕組みが整うはずもない。
そのひずみが、ここに噴出してきたのかもしれない。
神はその場に君臨すれば威光によって平穏をもたらすことができる。
しかし、それだけだ。
人間たちが思うほど、万能ではない。
その苦みを、今かみしめながら、書いている。




