海洋諸島連合
バハリク三国から見て東南の海に浮かぶ島々…。
古来より海運の要衝として交易で栄えた。
例えば、地元の海産物や南方の物産を大陸の諸民族に売りつけたりした。
島々はときに相争うこともあったが、バハリク三国の勢力が強まるにつれ、
各個に交渉するよりは、商業連合として結束し、共同で利益を最大化するのが得策と考えた。
彼らは海洋諸島連合と自称している。
だが、近年、連盟の会議では、三国への不満が頻出している。
「やつらは自分が中心でないと気が済まない」
「交易にあたっての制約が多すぎる」
三国は大陸に君臨し、我が物顔だ。
取引先相手も限られている。彼らが南域と呼ぶ地方はまだ経済力が育っていないし、三国交渉相手があるといっても、実質バハリク国が連合との交易を管理統制をしている。
これ以上の発展を望むには、第三勢力の出現が必要なのだが…。
三国の北方は高い山々。
西域と呼ばれる草原地域にいくには、三国を通らねばならない。
気長に対等で自由な交易を求めていくしかないのだろうか。
連合の人々はそう思っていた。
しかし、あるとき…。
「南域の諸領から連名で、交易拡大の交渉を求めてきました」
これまでも小規模に密貿易まがいの取引は行っていた。
それを正式な窓口を設け、交易を拡大したいという。
文に三国の名前は出てこない。
共通言語としてのバハリクの言葉を使っているが、たどたどしい。
どうも、独自の動きに感じる。
南域の領主のうちの一人が直接会って話をするということで、
連合の盟主アルパは直接会うことための段取りを進めた。
後日、アルパは直属の部下とともに、南域の海岸沿いの領主ハレドと会って話を聞いた。
「私は商売のかけひきはよくわかりません。正直なところをお話ししましょう」
ハレドがいうには、南域は大規模な干ばつで食料難が予想されている。
しかし、中央は何ら援助してくれない。
自分たちで解決するしかない。そのために、かつてないことだが各領主が集まって対策を話し合っている。
その一環として、これまでは中央政府に統制され、おおっぴらにできなかった連合との取引をもっと大規模に行いたい。
あと、できれば借りる形式でいいので、食糧支援をお願いしたい。
そういうことだった。
アルパは回答した。
「わかりました。私の一存では決定できませんが、連合の会議で検討しましょう」
アルパはそういいながらも、すでに頭の中で損得を考え始めていた。
バハリクに無断で大規模な取引をすれば、不興を買うのは間違いない。
まして、彼の提案には鉄鉱石が含まれており、リスクを負うのは南域同じだ。
それを覚悟の上というのも気になる。
南域を支援するようなまねをして、想定外の事態に巻き込まれ、共倒れになったら最悪だ。
だが、海洋諸島連合のように、南域もまた連帯を組もうとしている。
これは自立の芽生えであり、力を持ち始めるきっかけにもできる。
我々連合が積極的に支援すれば、あるいはバハリク三国の権威を弱らせ、交易の主導権を握れるかもしれない。
そう、彼らは遠慮して「交易の拡大」といっているが、援助してもいい。
これは、将来のより安泰で大きな利益をえるための投資である。
「ところで、あなたがた領主の間に、盟主というか、まとめ役はいますか?」
「はい、ペロセポネというものを盟主と仰いでいます」
そうだ。
急激に栄えるためには、強い牽引役が必要だ。
あまり南域の人名には詳しくないが、おそらく女性だろう。
女性という点も、知名度向上に役立つ。
その器に足るかどうかは、情報収集した上でだが、
ペロセポネの名をあげるために、各商人に噂を流させるのも良い。
いっそ、鉄鉱石の加工技術も伝えて武力も伴わせてしまうのはやりすぎか?
商人はどこにでもいる。
南域には、連合の息のかかった商人は少ないが、今後、支援の名目で大勢送り込めるだろう。
商人を通じて、人を、情報を買うこともできる。
各領主の側近に人を送り込み、徐々にペロセポネを強固な力を持つ君主として祭り上げるよう、誘導してみるのもおもしろい。
先ほどは話し合うといったが、程度の差こそあれ、この方向性に興味を持たない島主はいないだろう。
彼らは商人である。
必ず儲かる方法は何か。
自分たちが儲かるための仕組みを自分たちが作ることである。
そのために世界をも動かす。
西域では大規模な武装勢力が帝国を脅かしており、南域にかまう暇がないという。
世界は、あまりにも彼らに都合よく動いていた。
世界がそれぞれの理由で動いていた。
その中心に、ペロセポネという名前があった。
しかし、当人は渦の中心で、身動きがとれなかった。
後世、英雄と呼ばれるペロセポネ。
彼女は、超人でもなんでもない。
運命に巻き込まれつつも、必死に最善を尽くそうとした、かよわい、ただの一人の人間だったのである。




