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カミビト  作者: Goinkyo.
大バジク・ウル国

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17/24

草原にて台頭するバジク族

エルゲン帝国の西方には広い大草原が広がる。

三国に比べ高台に位置し、寒冷な気候から、農作物にはあまり適さなかった。

また、馬に乗って移動生活をする好戦的な民族が闊歩していたため、

三国は西方に居住域を広げてこなかった。


その草原の騎馬民族と一口に言っても、様々な部族が存在する。

彼らは時に小競り合いを行い、時に協力し、時には一つの部族を滅ぼすこともあった。


だが、ある程度の勢力圏はあっても、決まった土地を持たない彼らには、

三国のような国家的な概念は生じにくかった。


しかし、諸勢力を統合しようと動き出す、一つの勢力があった。

バジク族である。


***


エライラが生活する集団では、よく大人たちが噂していた。


とある部族が、いくつかの部族を武力で従えていると。

中には降伏や協調をしなかったため、「ミナゴロシ」にあった部族もいると。


恐ろしい。


でも心配していても仕方がない。

目の前の生活で精いっぱいだ。

絞った家畜の乳を運びながら、「きっと大人たちがうまくしてくれるだろう」と期待した。


***


バジク族はなぜ諸部族を統合しようと考えたのだろう。


三国と対抗する勢力を作り上げたかったのか。

歴史に名を残したかったのか。


それとも、「ただできそうだったからなんとなく」なのか。


それは、わからない。


バジク族の長は、私から見てすら、心の中を図りかねる異端の人物だった。

いや、彼は本当に人間だったのだろうか。

『アル』が気まぐれで人間の世界に遣わした何かだったのではないだろうか。


それならば、私が心を読めなかったのにもうなづける。


もし人間だったとしたら…。

彼には、心がなかったのかもしれない。


***


エライラのいる部族では最近はやり言葉があった。

「いうことを聞かないと、バジクが来るぞ」

そうやって脅かして、遊びに乗じて子供たちをしつけていた。


最近、さらにバジク族は勢力を広げたらしい。


刃向かった部族どころか、協力的だった部族まで滅ぼした。

よくわからないが、対等な関係が続くのを嫌ったとかいう噂だ。


内部での権力争い?


そういうものらしい。


だが、こうして平和に暮らしている分には、

「ミナゴロシ」なんて遠い出来事に感じる。

仮に彼らがやってきたとしても、こんなのんきな集団の命までは取らないだろう。


***


バジク族の長は、合理主義だった。


長年、自分たちに協力した部族すら、自らの覇権の足かせになると見るや、だまし討ちにした。


ある程度、勢力が強まると、他部族に二択を迫った。

最初に降伏したものは良し。

そうでないものは、皆殺しか奴隷待遇にした。

そういったことを実行し、意図的に少数を逃がすなどして噂を広めさせた。


少しでも反抗すれば怒りを買う…。


恐怖を与え、大多数の部族に反抗する気をなくさせた。


しかし…。

降伏したらしたで、奴隷とまではいかないが、

若い男は前線に駆り出され、その拒否権がない。


そしてバジク族の決定は絶対であり、各部族の自治はほとんどない。


ただし、新たな部族を支配下に入れると、生粋のバジク族に近い権利を手に入れるシステムだった。


なので、被征服部族にとっても、前衛で盾にされているだけではない。

バジク族の勢力拡大に自発的に貢献するシステムができあがっていた。


だが、積極的な戦いを忌避する部族もいる。

バジク族は、それらを許さなかった。


***


エライラたちは、西域のさらに西へ西へと旅立っていた。


「どうして今まで住んでいたところを離れるの?」


草原の民は季節ごとに住処を変えるが、ほとんどは決まった場所を順番に回る。


「エライラも大きくなったから、話してもいいかな」


父は簡単にだが説明した。


エライラの部族にもバジク族から降伏を求める書が来た。


しかし、エライラの部族の意思はこうだ。

「自衛のためならともかく、他者を征服する軍には協力できない。

あなたがたのやることに邪魔だてはしないから、放っておいてくれないか」


そもそも、草原の民をすべて吸収しつくしたら、次はどこを攻め立てるつもりなのだろう。

東方の定住民族たちから土地や資源を奪うつもりだろうか。


どこまで膨らむつもりなのか。

膨らみすぎた風船は破裂する。


それに巻き込まれたくはなかった。


返事の使者は、かろうじてその場では殺されはしなかったものの、

傷だらけになって帰ってきた。


当時の、しかも草原の移動生活でのことである。

全身に傷を負えば、死に等しい。

話し合いに赴いただけなのに。


部族の長たちや使者となった青年の肉親は

バジク族に対して憎しみを抱いたものの、

戦っても勝ち目はない。

すぐに逃亡のための出立を決めた。


西へ。

西へ。


しかし…。


当方から金属音とともに多数の馬が駆ける音が、エライラたちに着実に迫っていた。


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