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第19話 英雄と悪童


 父さんにはいろなことを教えてもらった。


 人としてどう振る舞えばいいのかを、人を大切にするということ。


(人のことをあまり悪く思ってはいけないよ、蓮、真白。そうすると自分がゆがんでしまうからね)


 父さんが生きていた頃、口癖のように僕たちに言ってくれていた言葉だった。


 僕は父さんが死んだ後、その教えをなるべく守ろうと誓った。


 だから、快斗に向けてなるべく悪意を抱かずに接していこうと……友達として仲良くなろうとした時もあったんだ。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 黒いフードで姿を見られないように、街をかける。

 

 そして、遠くから殺意を感じる。おかしな気配の2人が廃工場の快斗の方を見ている?


 誰だろう……何のために? 


「謎ですね……快斗さんの今の姿。鬼龍院さん、あの《《薬》》に何をしたんですか? 私は快斗さんを直すために注射したんですが」


「そないな怖い顔で見んといて、夏目ちゃん。これも実験、実験やん。夏目ちゃんも好きやろう? 実験、《《獣》》と《《鬼》》の実験が出来て効率いいやん」


 何か話してるみたいだけど、遠すぎて話の内容までは聞こえない。


「貴方と一緒にしないで下さい。私はただ、快斗さんを治す予定だったんですから」


「治す? あのイカれた性格の奴をか? 夏目ちゃん。そりゃあ、無理やで。あの悪童は俺等と価値観そのものが違うんやからな」


「快斗さんと私達との価値観ですか?」


「そやでぇ、なんせアイツは……あん? なんかあっちで誰か来たやん。黒い化物? 何や、あれ?」


「……廃工場の視界も見えなくなってますね。黒い何かが広がっていく。結界系の異能者でしょうか?」



 僕の気配をさとられた? かなりの距離があるのに?……そろそろ着くし、快斗のことに集中しなくちゃ。


 家から飛び上がった後、上手く地面に着地。装備品の効果かな?


 黒狼のまところもで外から廃工場の様子を見えなくする。そして、僕の目の前には異形の何かが笑っていた。


「快斗……?」


【このにおい。間違いねえか。来れたのかよ。クソ豚野郎……久しぶりだな。キヒヒヒヒ!! アハハハハハハ!!!】


「……兄ざん……ゴホッ……ゴホッ……」


 家から出た瞬間。どす黒い殺意を感じた方向へと跳躍した。そして、着地した場所に化物と、僕の大切な家族がいた。


 象ほどの巨体、硬そうな皮膚には、快斗の顔が目が無い状態で埋めつくされていた。


 お腹と思われる場所には、一際ひときわ大きい快斗の小さい頃の顔が埋め込まれて、その顔を1つ1つが小さい声で何かを喋っていた。


 そして、色々な動物の部位が合体したような。キメラのような身体、その身体は、以前は本当に人間だったのか疑う姿だった。


 そんな姿の快斗の近くには、なぜかウエディングドレスを着た顔色が悪い真白と………傷だらけの母さんと血まみれ姿の一般人が倒れていたんだ。皆、意識がない。


「その姿は?……君は本当に、あの快斗なのかい? 君が皆に酷い目にあわせたのかい?」


【当たり前だろう。臭い臭いクソ豚野郎……しかし、よく来たよく来たぞ。豚あぁ……俺と真白の結婚式によく来たなぁ! アハハハハハハ!!!】


 何が面白くて笑っているのか、理解できないよ。今、目の前にいる快斗だった物は何なんだろう? 


「…………目が見えてないのかい? 快斗」


【なんだぁ? 相変わらず頭が悪いなクソ豚野郎。異能の制限と制約……等価交換も知らねえのか? 何かを差し出せば、何かを得られる。今の俺は、なぜか人を殺せねえ。それなら殺す相手を極限までしぼればいい………蓮。てめえだけを殺すために俺は両目を失ったぜ】


「…………は? 意味が分からな……は?……両目? 僕を殺すために……目?」


 しまった。つい、可笑しなことを言っちゃった。僕だけを殺すために……え?


【は? じゃねえよ、事実だぜぇ。クソ豚、人間の身体っていうのは本当にすげえよな。何かの感覚を失えば、別の感覚がおぎなおうと働き始める。お陰で俺は嗅覚が優れちまったぜえぇ! 蓮……今じゃ、クソ豚の体臭もかぎ分けられるくらいになぁ!!『硬化』+〈殴りレベル3〉……死ねやっ! クソ豚あぁぁ! おっ始めるぞおぉ! クソ豚調理タイムだあぁ!!】


「………兄ざん……逃げで……」


 快斗が攻撃を仕掛けてきた。


 獣の手のような物を触手のように何本も伸ばして、僕へと襲いかかる。


 そして、それを見た、真白は僕に逃げるように叫ぼうとしたんだけど。真白は上手く言葉が出てこない。

 

「真白の治ったはずの発作が再発している? 何で……まさか、快斗に何かのされたのかい。快斗……君は、僕の妹に何をしたんだ?〈神の槍レベル1〉―――『粉砕棍』」


【【【死ね、殺す、てめえさえ居なければ、クソ豚野郎、死ね死ね】】】


「つっ!……精神的にやりづらいね」


 僕へと伸びて来る、快斗の喋る触手をブラックウルフの骨で潰していく。


 気持ち悪い……まるで本物の人の頭を潰しているみたいだ。


 でも、もう闘いは始まっているんだ。意識は戦闘へと切り替えて……快斗を無力化しないと。


【ああぁ!? 俺が、れた女に何かすると思ってんのか? 逆にてめえは、真白に何もしてねえだらろうな? クソ豚野郎……俺はただ、近くの結婚式場を襲っただけだ。そして、俺の花嫁の真白にウエディングドレスを着せてやった。その後に、俺のことをみにくいと言った奴等をズタズタにしてやった。がなぁ! なぁ? 俺の真白、あの時は楽しかったよなぁ!? おい、真白! アハハハハハハ!!】


「……ゴホッ……ゴホッ……いや、私に触れないで快斗さん……ゴホッ……ゴホッ……発作が起きちゃうの」


【おっとっ! すまねえな。俺の真白。子供は沢山作ろうな……俺の真白。本番まで触らねえ約束だもんなぁ? イヒヒヒヒ!!】

「いやぁ……ゴホッ……ゴホッ……兄さん。怖いよ。快斗さんが……」


 快斗に意味不明なことを言われて、困惑している。


 真白は……快斗に話しかけられて、ますます咳き込んでる。このままだと、真白の体調が悪くなる一方だ。助けないと……


「僕の大切な妹から……真白から……離れろ。快斗っ!! 『粉砕棍』」


 僕は、白銀の館でお師匠に教わりながら作った初めての根棒武器『狼骨ろうこつ(ナマクラ)』を【英雄の宝箱】から取り出した。


 そして、快斗の元へと素早く距離を縮めて、快斗の一番大きい顔面に渾身の『粉砕棍』を叩き込んだ。


【ゲヘヘヘ!! クソ豚のそんな攻撃効くわけ……がああぁぁ!? ごあぁ!?】


 『粉砕棍』が直撃した快斗の身体は、工場内へと吹き飛んだ。


 出っ張っていた異形の部位は身体から分離して、周囲へと飛び散らせながら。


「……ゴホッ……ゴホッ……兄さん。その力…何? 快斗さんを吹き飛ばすなんて、兄さんって……ゴホッ……そんなに強かったの?」


「真白、今は、説明している場合じゃないんだ……真白、これを飲んで」


 ポケットから小瓶を取り出して、弱った真白にゆっくりと飲ませていく。


「……ゴホッ……兄さん…は……何?……すごく美味しくて……せき……止まった?」


「お師匠に手伝ってもらいながら、僕が作った回復薬だよ。状態異常と身体の傷なんか治せるんだ。真白はこれを母さんや快斗に傷付けられて、人質にされた皆に飲ませてあげて。その後は皆で安全な場所まで逃げるんだ」


「……コホッ……兄さんはどうするの? 兄さんも一緒に逃げないと。ここに居たら快斗さんに殺されちゃうよっ! 私、兄さんが快斗さんに殺されるなんて嫌だっ!」


 真白が僕の服を力強く掴んで……泣き始めちゃった。


「真白……僕は死なないよ。なんたって、僕は真白を守りたいから強くなったからね」


 僕は真白の掴んでいる手を優しく振り払い、工場内へと歩き始めた。


「……兄さん?……待ってっ! 兄さん。私を置いて行かないでっ! 1人にしないでっ! 兄さんっ! 死んじゃ嫌だよっ!」


「…………僕は死なないよ。真白や……母さんを……家族を守らないといけないんだから」


 後ろを向いたまま、真白に語りかけるように、そう告げる。そして、言い終わると同時に快斗の元へと一瞬で迫った。


「待って、兄さ……もう、居ない? 兄さんって……あんなに速く動けたの?」




【ふざけんなあぁ!! 俺の身体を吹き飛ばしやがった】【なんで、クソ豚に俺が吹き飛ばされねえといけねえんだ!】【俺と真白を離しやがって、ブッ殺してやる。体臭野郎】【なんで、格下のてめえに、この俺が敗北しなくちゃいけねえんだ! ボケがああぁぁ!?】


 快斗の身体の皮膚……いや、顔達と表現した方がいいのかな? 彼等?が僕を罵倒ばとうする。


「終わりにしよう。快斗……最初から君に勝ち目なんてないよ。僕は、君という悪から真白を守るために強くなった。今の君じゃあ、僕には勝てないよ」


【ムカつく言い方を言うんじゃねえ。クソ豚……たった一撃を俺に喰らわせただけで、ブブブ鳴くなっ! 腹が立つ。てめえは、常にムカつくんだよ。昔からなっ! 『硬化顔面』 俺の顔に押し潰されろや! 鈍足野郎!! イヒヒヒヒ!!】


 僕を罵倒していた、顔が大きな肉塊となって飛んでくる。


「快斗……諦めなよ。〈投擲レベル10〉―――『狼骨・五月雨さみだれ』」


 『狼骨ろうこつ(ナマクラ)』は、僕が初めて作った自作の武器なんだ。


 材料は、ベビースライム、ブラックウルフ、ドラゴホースの各素材を使った根棒武器。


 その武器特性は、使ったモンスター素材の力を少し引き出すことなんだ。


「……来い、ブラックウルフ―――『黒狼骨』」


【【【ウオオオオオオォォ!!】】】


 『狼骨ろうこつ(ナマクラ)』の先端から、ブラックウルフが何体も出現した。そして、快斗の方へと突っ込んで行く。

 

【なんだ? その見たこともない動物……いや、あれを俺は知ってる?】【……そんな今は、どうでもいい……クソ豚の分際で俺の攻撃を防いだんだぞ。どうにかしろ。俺】【そうだ……あれをやれ、本物の化物になれ。そして、あのクソ豚を殺せ!】


【【【殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!】】】


【黙れっ! てめえ等! お前等は俺だろうがっ! てめえ等は本物の俺に従っていればいいんだ! カス共】


【【【ああぁ!? 本体、てめえ……今、俺達になんて言った?】】】


 快斗の顔達が一斉に騒ぎ始めた。そして……


「あの1つ1つの皮膚顔にも意志が、ちゃんとある? その快斗達が……お腹の一番大きい顔面の快斗を攻撃し始めた?」


 異様な光景だった。

 今まで僕が生きてきて、一番と言っていいくらいの異様でグロテスクな光景。


【元はといえば、お前がでしゃばって、白銀の野郎を殺さなければ、蓮とも上手くやれていたんだ】


【お前は誰だ? どこから来たんだ? なんで、俺の心を汚しやがった……なんで俺の心を横取りした】


【責任取れ、責任……せめて、クソ豚野郎を殺して、真白とつがいにさせろ。そうじゃないと許さない。俺の身体を勝手に使ったことを許さない】


【止めろ! お前等!! 何してやがる? 俺の敵は、クソ豚野郎だぞ! いい加減にしろ! 俺は俺だろうが!! 俺の顔面を攻撃するんじゃねえぇぇ!! ギャアアア?!】


【死ね死ね……本体は死ね】


【死んで生まれからそう。そう、しよう……そうすれば、クソ豚野郎にも、蓮にも勝てるぞ。俺】


【そうだ。そうだ。本体は使い物にならないし、俺たちで蓮を殺そう】


【【【何が別の世界からやって来た本物の俺だよ。そろそろ、返せ俺達の身体を偽物野郎…………異能『硬化』………『硬化人間』】】】


「……理解が追いつけない。快斗の身体に何が起こっているの?」


 快斗の身体が変形していく。

 皮膚顔が無くなって……白い皮膚の人間に似た身体になっていく。


【【【俺の自我を支配していた奴を媒介に変化しよう。俺達を1つにまとめていくぞ……そして、殺すぞ。てめえを……クソ豚野郎………『硬化開花』】】】


 快斗だった肉塊は、つぼみのような姿になって、その蕾が花開いた。


 そして、その中から白い人型の化物みたいな快斗の顔をした何かが現れた。


「……来る!!」


 『狼骨(ナマクラ)』を振り上げた僕。すると目の前には、固そうな拳で僕を攻撃しようとしていた快斗がいた。


【テメェ、蓮。これでも反応できるのかよ。本当にテメェは蓮なのか?】


「この喋り方……快斗。君はいったい?」


 お互いに質問し合う。

 僕達……それと同時に、素早い動きで攻撃を繰り出していく。


【俺に質問してんじゃねえよ。格下の蓮……まぁ、いい。どうせ、テメェは俺に殺されるんだ。最後の質問くらいには答えてやるよ。俺は、心の中に何十人という別人格を飼っている多重人格者だ」


「快斗が……多重人格者?」


【おうよ。いつもは別世界から来たとか言う可笑しな奴を宿主にしていたが。もう止めだ……人格は統合し、俺の中に居た多重人格者共は俺、1人へと昇華された。《《異能は異質な程に育っていく》》、俺の師匠の言葉だぜ。蓮】


 快斗は、不気味な笑みを浮かべる。

 この笑み、覚えている。


 僕の目の前で父さんを殺した時の快斗の笑みだ。


「君は………いや、多重人格者なんて嘘だね。快斗。それは君の被害妄想だよ。さっきまでの君は……皮膚に現れていた全てが、君の本質なんだ。快斗」


【ああぁ!? なんだ。偉そうに! クソ豚野郎の蓮っ! 俺がてめえと対等に喋ってやってるんだぞっ! 喜んでひざまずくくらいのことはしろや。クソ豚】


「……ほら、言動がさっきとほとんど変わってない。君は君だよ。快斗。僕は、さっきの笑みで思い出した…君は、本物の悪童だとね。スキル発動〈神の拳レベル2〉」


 僕の両手が真っ赤に燃える。快斗を止めろと轟き叫ぶ……快斗を倒す準備が整った。


【その目……クソ豚野郎の蓮……テメェはいつも、そうやって俺を可哀想な奴を見るような目で見てきやがるっ! それがムカつくんだよ! 俺は、多重人格者だ! アイツにもそう言われた! 俺は被害者だ! 悪いのは俺じゃねえぇ! 白銀の野郎やテメェじゃねえか! 俺が真白に近付こうとしたら、邪魔しやがって! だから殺した。だから、テメェ等、白銀一族を俺が殺すんだろうがあぁ!! 『硬化』+〈殴りレベル3〉!! 蓮、お前を絶対に殺す!!】


「言いたいことは言い切ったかい? 快斗……来なよ。僕達の全部の因縁は、今日で終わらせよう。この一撃で全てっ!」


【クソ豚野郎!! 俺の目が見えないからって好き放題言ってんじゃ……ねえぞおお!! 死ねえええ!!】


 快斗の両拳が、どす黒く光る。

 それを僕へと向かって走って来る。


 そして、その快斗の動きは、僕からは、とても遅い動きに見えてしまった。


【テメェ……(何だ? その速い動きは?……こいつは本当に、俺にいじめられていた。蓮なのかよ?)】


「相変わらず遅いよ。快斗……さようなら。『黄金拳』」


【お前!! 俺を何だと思って……えぁ!?……ギャアアアアア!!】


 僕と快斗の両拳がぶつかり合う。そして、このぶつかり合いに勝ったのは僕の拳だった。


「……これまでの罪、ちゃんとつぐないなよ。快斗、君が傷付けたこれまでの人達のためにもね」


【ぐそぉ……がああぁぁ!?……白銀……蓮……テメエエェエ!!………】


 そして、その勝った両拳を快斗の顔面へと勢いを殺さずにぶち当てた!


「オラアアァァ!! これまで、父さんや真白にしたことは、この一撃で許してあげようっ! 快斗っ!!」


【蓮の分際で…ギギギ…ギャァ!?……ギャアアアアア!!】


 快斗の身体が両腕が崩れていく。そして白い身体はその場で倒れて動かなくなった。


「嘘つきで、傲慢で、暴力的だった快斗を殴れて……すごく気持ち良いっ!!…………本当にこれで最後……全部、終わったよ。真白、母さん……父さん」


 僕は快斗の顔面をぶっ飛ばして、ものすごい良い笑顔で笑っていた。

 

 スカッとした、人生で一番スカッとした最高の瞬間だった。


 長年に渡って真白を傷つけた快斗をぶっ飛ばせて、僕は嬉しかったのかもしれないね。


 


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