第16話 英雄と師匠
銀髪長耳の可愛いらしいエルフさんが僕の隣に立っているよ。
エレンさん、僕のメイドさんになってくれる人だね。表情は目を輝かせて、ワクワクしてる。この館に何か面白いものでも見つけたのかな?
「ここが、レンの家、白銀の館なのね」
「う、うん……多分ね」
「多分?……結構、広い庭園ね。住みやすそうだわ」
エレンさんが、家の《《庭園》》に住むことになったんだ。
庭園の中を見渡している銀髪のエルフさん。名前は、エレンミア・アグラリエンさん。
西の国からの逃亡者で、追われているから匿ってと言われてOKしちゃったんだよね。
イヴさんも絶対に連れて帰って、庭に住まわせた方が良いってずっと言ってるしさ。だから、白銀の館まで連れて来たんだ。
「イヴさん……本当に良かったの? エレンさんを白銀の館の中に通しちゃってさ」
〖何の問題もありません。大賢者エレンミア様は、これからのマスターには絶対に必要な存在になります。庭園で放し飼いにしておくのが良いのです〗
また過激なことを言ってるよ。イヴさんは、本当にお口が悪いなぁ。
「放し飼いって、動物やモンスターじゃないんだからさ」
〖冗談です。ですがエレンミア様は、怪物のようにお強いですよ。なぜか、暗殺系のスキルを使用されていますが、本来は……〗
「本来は?」
「本来はどうしたのかしら? レン」
「うわあぁ!? エレンさん!?」
「……そんなに驚かれると、落ち込んでしまうわ。レン」
「ご、ごめんなさい……エルフさん」
気配が一切無かった……森で出くわした時とは全然違うや。まるで忍者みたいだ。
……あぁ、そうか。森で戦闘した時は、エレンさん。
お腹を空かしていたから、全力を出せなかったんだね。そらなら、今のが、エレンさんの本当の実力ってことなのかな?
「……なんだか色々と考えているのね? レン」
「え?」
「飢え死ぬところで、ご飯も貰ったし。住みかも提供してくれるんだから、私ができる範囲で悩みを聞いてあげてもいいわよ。これでも、お姉さん。教える専門家なのよ」
エレンさんが、胸元から眼鏡を取り出して掛けた。なんだか、すごく知的に見えるなぁ。
「そ、そうなんだ?……じゃあ、錬金術とか鍛冶とか教えてって言ったら教えてくれるのかな?」
「錬金術に鍛冶かしら?……フフフ、私の得意分野よ」
エレンさん……いや、後に僕の大切な恩師になるエレンミア師匠は、可愛いらしくウインクしたんだ。
「【錬金術】と【鍛冶】の初級スキルを覚えないと。元、居た場所に帰れない?」
「う、うん。何を言っているか分からないけどそうなんだ。真実が言いづらいと言うかね……(ねぇ? イヴさん)」
〖………………〗
また、イヴさんの黙り時期が始まったよ。イヴさんの存在をエレンさんに言っていいか聞いたら、機嫌悪くなっちゃって……後で機嫌直してあげなくちゃね。
「帰れない?……それは【世界渡り】のスキルを使えば行ける別世界、地球と言う場所かしら?」
「え? エレンさん。地球のことを知ってるの?」
「えっと……えぇ、名前だけは知っているわ。ステラの世界に関わる"原初の本"を読んだことがあるのよ。それで覚えていたの」
「原初の本? そんな本に地球のことが書かれているんだね。初めて知ったよ」
イヴさんの方からは、一度もそんな話を聞いたことはないけどね。
「限られた一部の人しか閲覧できないのよ。そう……レンは、地球からやって来た人なのね。だから、普通の人とは違う気配がしてるのかしら? まぁ、そういうのは今後調べればいいわね」
「調べる? 僕を?」
「あら? 自分を研究対象にすることはとても大切よ。何でも……自身の精神、肉体、感覚、記憶、その全てが研究できるじゃない。自分を知見する。大事で素敵なことだと思わないかしら?」
エレンさんが、眼鏡越しにウインクした。最初にブラックウルフの巣で対峙した時とは別人みたいに見えるね。
これは僕の予想なんだけど。最初に対峙した時も、森で出くわして戦闘になった時も、エレンさんには余裕がなかったんだと思う。
僕も快斗達に苛められて、追いかけ回されていたから分かるんだ。
人っていうのは、肉体的に追い詰められれば、精神的にも追い詰められていくことをね。
「……エレンさん。大変だったんだね。色々と」
「え? えっと……そうね。色々と大変で復讐も
果たせていないわね。私は」
「復讐?」
「えぇ、復讐……そのためにこのリゲル王国にやって来たの。私の大切な姉さんを殺した人に復讐するために、自分の全てを捨てて。この地へとやって来たの」
エレンさんは目に涙を浮かべながら、ここまでの経緯を僕に話してくれた。
「あ、あの……泣きすぎよ。レン。どう反応すれば困ってしまうわ、私」
「そんな……ぐすぁ……実のお姉さんを目の前で殺されるなんて。それで……魔法大学も止めて……うぐぅ……生まれ育った国では、暗殺者扱いされて、一人で旅をするなんて……これまで大変でしたねぇ……えぐぅ……」
僕は、エレンさんの壮絶な過去を聞いて、大粒の涙を流して泣いていた。
なんで、こんな凄い人が不幸な目に会わないといけないのさ。この異世界、理不尽すぎるよ。
「あ、ありがとう?でいいのかしら?……(とても感受性が高くて、純粋な子なのね。こんな子じゃあ、私の心眼も無意味になるはずだわ)」
「ぅぐぅ……エレンさん。この白銀の館でゆっくりしてね。長旅の疲れ、ちゃんと癒してよ」
「え、えぇ、ありがとう。レン……でも、私は白銀の館の中には、入れないのでしょう? そういう約束で庭園に入れてくれたんだもの」
「へ?……あ…そ、そうだね。そういう約束だったの……忘れてたよ」
イヴさんとのね……そうだった。ブラックウルフの巣を出る前に、エレンさんと、そんな約束をしたんだった。
(……庭園の中なら住んでもいい……よ)
(それでいいわ。ありがとう、レン!)
みたいなやり取りしてた……すっかり忘れてたよ。
「お互いに、まだまだ隠していることはあると思うけど……錬金術と鍛冶を学びたいなら、私が一から教えてあげるわ。レン」
「……へ? いいの? 今の僕じゃ、エレンさんになんのお返しもできないのに」
「お返し?……もう貰ってるわよ。こんな、立派な庭園に住まわせてもらえるんだから、十分だわ」
いや、家の中じゃなくて、外で暮らさせるんだけど? それをお返しって言わないと思うんだけどさ。
「……どうにか、エレンさんが家の中で暮らせるように交渉してみるよ。多分、すごく抵抗されるだろうけどね」
「? よく分からないけど。別に私は大丈夫よ。自分で簡易的な家を庭園に建てた暮らすだけだもの」
……凄い返答が返ってきたよ。流石はエルフさんだね。クラフトとか大得意なのかな?
「それよりも。早速、レンのスキルレベルを上げていきましょうか? 覚悟はいいかしら? レン」
「え?……いやいや、何を言ってるのさ。エレンさ」
「もう、君は私の弟子になったのよ。レン……君」
「レン君?」
いきなり、レン君呼びになった? エレンさんの何かのスイッチが入ったのかな? 教師スイッチみたいなものが?
「えぇ、私は教え子には「君」を付けるのよ。レンは……そうね。私のことをエレンミア師匠か、お師匠様とでも呼びなさい。修行中の間だけだけど。良いわね! レン君」
「は、はい。分かりました。エレンミアお師匠」
「へぁ!? う、うむ……師匠の呼び方としては上出来ではないかしら?」
エレンさん……ううん、エレンミアお師匠が僕の先生になってくれるんだって。何この展開? 予想だにしなかったんだけど。
「しかし、この庭園……」
「どうしたの? お師匠」
「火事場、家畜小屋、調合室まで完備されているのね。まるで、魔法大学にあった修行場にそっくりだわ」
「修行場? この世界には、そんなところがあるんだね」
地球でいうところのアウトレット施設みたいなものなのかな?
「レン君。最初は、錬金術に必要なスキルを上げていきましょう。その方が、効率的に鍛冶も覚えられるもの」
「錬金術から? あれ? でも、僕にアドバイスをくれる人は、同時進行が良いって言っていたよ」
「そんなことをすれば、どっちの必見スキルを優先して上げているのか、分からなくなるわ……その人はあまり効率とか考えない、その場の感情で物事を決めるタイプの人なのね」
うわ! 凄い的確にイヴさんの雑な性格を言い当てるよ。エレンお師匠……凄いね。
「レン君のスキルステータスを見せてもらってもいいかしら? 錬金術のステータスだけでいいわ」
「え?……は、はい。お師匠」
お師匠の可愛い顔が真っ正直に……ち、近いなぁ。
「ステータスって、僕以外の人でも見れたんだね」
「……(それは私が特別だから、見れるだけよ。レン君)」
【錬金術】必須スキル一覧
〈採取レベル7〉〈料理レベル5〉〈調合レベル2〉〈錬金基礎知識〉〈家事レベル3〉〈合成〉〈分解〉〈抽出〉〈溶解〉〈栽培レベル5〉
「採取、料理、栽培は高いのね。錬金術の必須スキルのレベリングを始めて3ヶ月位、経ってるのかしら?」
「ううん、今日からだよ。今日の朝から始めたんだ。お師匠」
「今日から?………(かなり早いわね。見た目は若いけど、レン君はもしかして、どこかの王族なのかしら? それで特別訓練を受けて、スキルのレベリングが上げやすいとか?)」
なんか、お師匠が顎に手をおいて、考える人になっちゃったよ。
僕、何かまずいことを言っちゃったかな? 『技巧』の異能で、スキルが上げやすいとか、ちゃんと説明した方がいいのかな?
「……まぁ、スキルが上がりやすいなら、それに越したことはないわね。最初は、〈合成〉のスキルを上げていきましょうか。それと平行して、〈錬金基礎知識〉も教えていってあげる」
「えっと……う、うん。了解です。お師匠」
あれ? 僕のスキルが上がりやすいことで、悩んでたんじゃないのかな? 僕の気のせいかな。
「手に入れた素材を出してもらえるかしら? 調合を始めましょう。レン君……(人には人の事情があるから、深く聞いては駄目ね。この世界には、突然変異して竜人や首無し騎士みたいな変わった存在だって居るのだもの。レン君も、そういう類いなのね。きっと)」
エレンさん……じゃなくて、お師匠の教え方は、すごく丁寧で分かりやすかった。
それに何でも知っていて、知見っていえばいいのかな? そういう知識への考え方がすごく深いんだ。
基本的な調合も的確で早いし、必ず覚えないといけないところや、やり方を僕が覚えるまで根気よく教えてくれる。理想的な先生だね。
「なるほど、アカマムリとコウボウ草を合わせると惚れ薬になるんだね。調合って面白いね。お師匠」
「そうね。調合は面白いけど、危ない側面もあるから気をつけてやりなさい……(〈調合レベル6〉?……数十回、調合を繰り返しただけで、もうこんなに上がったの? あり得ないわ。覚えも早いし、どうなっているのかしら?)」
「もっと、色々な調合を試してみるよ。お師匠」
ヤバいね。調合がすごく楽しいよ。
「そ、そうね。気をつけながら、マスターしていくのよ……(天才って言えば、それで終わりだけど。それでも、成長速度が速すぎる……レン君の今後のためにも、この子の身体を調べてあげた方がいいかもしれないわね)」
◇◇◇
もうすぐ、中学生を卒業するのに、ママに甘えた私が愚か者でした。
〖ママッ!ママッ!大しゅき~!〗
〖まぁまぁ、真白ちゃんは本当に甘えん坊さんね~! 良い子良い子ね~!〗
〖うん。真白、ママが大しゅきっ! お兄ちゃんも大しゅき~!〗
スマホの動画に映っているのは、夕方までの私……白銀真白。
一日中、ママに可愛がられていたママ大好きっ子です。
現在、異世界に滞在している兄さんの様子を確認しに行くため、兄さんの部屋に居るんだけど。
「ママの策略にハマっちゃった……こんな動画を兄さんに見られたら、嫌われちゃうよう!」
自暴自棄になってる。ママの母性に負けて沢山甘えちゃった……楽しかったよ。ママに甘やかされて楽しかった。
「楽しかったったけど。なんで、その様子を動画に撮ってるの? ママァァッ!!」
マインドをリセットするためにも、異世界に行こう。兄さんが心配だもんね。
「待っててね。兄さん、私がちゃんと兄さんを家に連れて帰って、私と同じ目に遭ってもらうんだから……それと、兄さん無事かな?」
私と離れて、絶対に心細いはず早く運命の再会を果たしてあげなくちゃ。
「鏡の前に立って……いざ、また異世界に行っちゃいます……」
私は鏡の中に入っていった。
『ママちゅきちゅき~!』
『真白ちゃんは、本当にお兄ちゃんと一緒で私が好きね~! 私も2人が大切な家族として、大大大好きよ~!』
「真白ちゃん~! この動画、ご近所の人達に見せてあげたいから、加工してショート動画にしていいかしら? 真白ちゃん?……蓮の部屋でお楽しみ中かしら?……部屋の扉を開けるわよ。蓮~!……て、2人とも居ないわね? 2人とも、どこに行ったのかしら? もしかして、夜這いじゃなくて、夜逃げ? 若いわね~! 青春だわ」
◇◇◇
「男は黙って全裸正座待機だぜ~!……つうか、そろそろ囚人服が欲しいぜ、釈放されたらタバコも欲しいな。オイッ!」
「うるせえぞっ! 全裸変態野郎!! ぶっ殺す
ぞっ!」
「お~! お~! 相変わらず。口が悪いガキだな。向かい側の大犯罪者様よう」
ここは都内 東京留置所。公然わいせつ罪で捕まった、俺、黒木サイガはまだ捕まっていた。
そして、俺の反対側には、若いくせにとんでもない犯罪経緯を持つ悪ガキ、天草快斗が全身鎖に繋がられているぜ。喋りたくもねえな。
「くそ全裸野郎! 何、無視してやがる。ぶっ殺すぞ!」
本当に口が悪いねぇ……本当に、あれで中学生かい。
「……うるさいぞ。天草快斗静かにしていろ。君に面会だぞ」
「黒木メイヤッ!!! てめええぇっ!! これで、白銀の野郎の仇を取ったつもりか? てめえもいつかぶっ殺す!」
警察官の服を着た兄貴じゃねえか? 服を着れて羨ましいね。
俺にも寄越せよ……じゃなくて、あのクソガキ。俺たち兄弟の大恩人、白銀さんを殺った奴なのかよ。とんでもない野郎じゃねえか! 許せねえ。
「……楽に死ねると思うなよ。天草快斗、苦しませて逝け」
「はっ! その前にてめえの大事なもんを全部壊してやるよ。昔みたいにな! 俺が昔殺した、お前の娘の墓石でも暴いてやろうか? 黒木!!」
昔? 上手く聞き取れなかったな。兄貴とクソガキの間に何かあったのか?
「ケダモノが、特別面会だ……3分やる………教会からの頼みは断れないからな。じゃあな……」
「特別面会だぁ!? それよりもこの鎖から俺を解放しやがれ! 黒木ぃ!!」
兄貴が行っちまったぜぇ。イライラしながらな……そんで現れたのが。白衣を着た眼鏡学生か?
「相変わらず、騒がしいですね。快斗君」
「あぁ!? てめえは……夏目か? 俺を助けにきたのか?」
「助けに?……いえいえ、データを取りに来ました。黒木さんの許可はすでに頂いてるのです。なので、『混合異注射』……暴れて下さい。そして、データを取らせて下さい。今後の日本異能の発展のために」
何だ?何だ?何だ? 眼鏡っ子学生が、クソガキの背中辺りに何かの薬みたいなのを刺して……クソガキの身体が、でかくなってんのか?
「てめえ……それは何だ? 俺に何を注射した?」
「機密事項です。良かったですね。これで、ここからは出れますよ。快斗君……理性は吹き飛びますけどね。では、さようなら」
「てめえ……まさか俺の身体を暴走させやが……あがぁ!?……ウォオォォオ!!!」
「……これは凄まじいパワーですね。良いデータが取れそうです」
おいおい! クソガキは、化物みたいな姿になって、拘束されてた鎖を引きちぎって、眼鏡っ子学生は一瞬で消えたぞ? どうなってんだ!
【オオオォォォォアアア!!】
「うぉ! なんつう、迫力!? 壁を壊して、どっか行っちまった。どうなってんだ? オイ!」
〖深夜、東京留置所にて、凶悪異能者・天草快斗脱走。都内にて、暴れて周り負傷者多数あり。直ちに異能者を派遣し、これを無力化されたし〗
こんなアナウンサーが、留置所にずっと流れていたぜ……




