第15話 クラフトマイスター
ここはブラックウルフの巣だった場所。前に来たから、よく覚えてるよ。
そして、目の前には僕の前から姿を消したエルフさんが居るけど……エルフさんの顔をよく見ると、辛そうな表情をしていたんだ。
疲れきった顔って言ったほうが良いのかな? 今にも倒れそうな状態でフラフラしているよ。
「貴方は、私を捕まえに来たんじゃないのね」
「捕まえる? なんでかな?」
「……だって私は、追われ身だもの」
「そうなの? 僕は、この異世界には詳しくないからよく分からないや。元々、ここら辺の住人じゃないしね」
「そうなのね……それなら、良かったわ……敵対しなくてすむもの……痛っ!」
頭を抑えて地面に倒れこんじゃった。助けないと……
「大丈夫かい? 水と食べ物いる?」
「……殺意や悪意も感じないし、貴方は危険な人じゃなさそうね。ありがたく頂くわ」
【英雄の宝箱】から、白銀の館で集めた食材を取り出す。流石にシロガネの森で採取した食べ物を衰弱し始めた人に食べさせるわけにはいかないしね。
シロガネの森で取れる食材って、みんな摩訶不思議の味だからね。
「新鮮な食材に……卵まであるのね。こんな危険な森でよく取れたわね」
「少し離れた場所に屋敷があるんだ。卵は…なんか、朝になると金の鳥が現れて産んでくれるんだ。その後、どこかに飛び立っちゃうんだけどね」
「………私を馬鹿にしているのかしら?」
「いや、本当だって! 実際、今日も出くわしたしね」
【【【オゲゴゴゴオオ!!】】】
金色の鳥は本当にいるんだって、たまに金色の卵も産んでくれるんだ。
どうやら、白銀の館の餌場を巣にしているみたいでね。
朝方になると突然現れて、庭園に生えている雑草とか穀物を勝手に食べては、卵を産んで勝手に去って行くんだ。
【【【オゲゴゴゴオオ!!!】】】
何なんだろうね?
あの子達は。そんな可笑しな話をエルフさんにしたら、こんな回答をされたよ。
「フェニックスの子供かもしれないわね」
「フェニックスの……何?」
「……ステラ世界の伝記で、フェニックスの雛は安全な場所を住みかにするの。それが、その白銀の館なんじゃないかしら? 私の目でも見えない結界が張られているようだし、貴方の住んでいる家って、この世界で一番安全な場所なんじゃないかしら?」
「白銀の館が?……まぁ、たしかに頑丈な結界みたいなものはあるね」
「……そうなのね。良いじゃない素敵」
不敵に笑ってるよ。このエルフさん、なにか企んでいるのかな?
「貴方、心が少し揺らいだわね。私の企みに警戒しているのかしら?」
「は? いや、そんなことないけど……」
なんで、僕が少し動揺してるのが分かったんだろう。
「揺らいではいるけど。敵意はまったく無し……貴方、不思議ね。心が読みづらいわ」
「……君は人の心が読めるの? 凄いね」
「凄い?……あぁ、心が読めるは大げさ過ぎたわね。私は人の心の変化には特別敏感なの。そうなるように昔から訓練してたのよ」
「そ、そうなんだ。凄い人なんだね。君ってば」
「凄い人? フフフ、私は人じゃなくてエルフ族よ、エルフ族……貴方、面白いことを言う人なのね。気に入ったわ!」
可愛いらしく笑う、エルフの女の子。
「そ、そう……僕は、白銀蓮って言うんだ」
そんな女の子に、なぜか自己紹介する僕。
「白銀蓮?……なんだか変わったお名前なのね。なんだか遠い国の人みたいだわ。白銀蓮って、言いにくいわね。レンって呼べばいいかしら? レン! 私の名前はエレンミア・アグラリエン。西の国からやって来たの」
「エレンミアさんですか。よろしく……」
「エレンでいいわよ。レン! ご飯を作ってくれているんだしね」
また、可愛いらしく笑う。エレンさん。
〖マスター、その女の子から直ぐに離れて下さい。フラグが建ってしまいますので、白銀の館に帰りましょう。私の忠告に従わない場合は、マスターに後でお仕置きします。それは、大変なお仕置きをしますので覚悟していて下さいね。マスター!〗
さっきからイヴさんの怒声が聞こえて来るけど、今は無視しよう。
イヴさんの話を1から10まで聞いてると大変だからね。
それにお仕置きっていっても、どうせ可愛い悪戯しかされないと思うし。無視してみようかな。
白銀の館から持ってきた鍋に水、野菜、卵を一気に入れてかき混ぜる。そして、火を着けて鍋を温めていくよ。
「レン、貴方……お料理下手なのね。野菜の大きさも形もバラバラだし、調理法がとんでもないわ」
エレンさんが、残念に鍋を見つめてそんなことを言い始めたよ。
これが男の子料理だって言うのに何を言ってるんだい。
鍋の中は具材たっぷりの紫色になっていたよ。美味しいそうだね。後は、よくかき混ぜながら煮込めば完成。
「エレンさん。これは僕独自の調理方法、ごった煮だよ。後で白銀の館にあった不思議な調味料で味なんてどうにでもなるから気にしなくていいよ」
「もう、その発言でアウトよ。ちょっと貸してみなさい、私が料理というものを教えてあげるわ」
「あっ! ちょっと! 僕のスキルレベリングができなくなるじゃないか」
呆れた顔で僕から調理用のお玉を奪い取ってきた。なんだい、この人は初対面の時といい。結構強引なエルフさんだね。
「グロい色ね。貴方、料理を冒涜しているのかしら? 嘗めすぎよ」
「いやいや、渾身のできでしょう。僕が料理しても爆発を起こさないんだからさ」
「爆……発? レン、貴方の調理センスの無さがよく分かったわ。これは貴方が食べなさい、私が新しく料理を作ってあげるから待ってなさい。私が美味しい料理というものを味合わせてあげるから」
すごい暴言を吐かれているんだけど。エレンさんとは今日会ったばかりなのに、この言われよう。悲しいよ、僕。
「そ、そう……なら、僕は外に行って採掘しているね。鉱石とか魔石がないと、錬金術も鍛冶もできないからさ」
「錬金術に鍛冶?……貴方、そんなできるの? 料理もこんなにすごいのに」
「ううん。違うよ……これから身に付けるんだ。必死になってね」
そう、覚えなかったら地球には帰らせてもらえないからね。
「そうなのね。分からないことがあったら、私に聞くといいわよ。私はこう見えて、追われるようになるまでは、魔法大学の教師だったから錬金術と鍛冶のスキルもある程度取得しているもの」
「そうなんだね。分かった。何かを分からないことがあったら、お願いするよ。行ってくるね」
「ええ……食材は良いのが揃ってるわね。食材は……」
エレンさんが、ぶつぶつ食材を見ながら独り言を言っているね。食材と対話とかしてるのかな? エルフの特殊能力かなにかで。
〖マスター……あの方を、いえエレンミア様を白銀の館に連れて行きましょう。大賢者様ですよ〗
イヴさんが何かを言ってるけど、怖いから話は聞かないよ。今は、急いでスキルレベルを上げないといけないんだからさ。
そうだ。ステータスを開いて、どれぐらい上がったか確認しようかな……
【錬金術】必須スキル一覧
〈採取レベル7〉〈料理レベル5〉〈調合レベル2〉〈錬金基礎知識〉〈家事レベル3〉〈合成〉〈分解〉〈抽出〉〈溶解〉〈栽培レベル5〉
【鍛冶】必須スキル一覧
〈瞑想レベル2〉〈金槌レベル3〉〈鍛練レベル5〉〈修繕〉〈採掘〉〈細工〉〈鍛冶知識〉〈石工〉〈解体〉〈整備〉
なんか、知らないうちに色々と上がってるね。良かった良かった……そして、ここでは、採掘、石工……休んでいる時に瞑想も上げられそうかな。
〖マスター、あの方は高名な大賢者エレンミ ア様です。追われて弱りきっているのでしたら、手篭めにしてお持ち帰りして下さい。そうすれば、あの方はマスターに絶大な叡知を授けてくれます……私の話を聞いています? マスター! この嫉妬深い私が、可愛い女の子を白銀の館に招待していいと言っているんですよ!〗
僕は悟ったよ。イヴさんの話はとりあえず、聞き流してスキルレベルを上げようね。真白のために家に帰りたいんだ。
「骨、骨と……後は、さっき、森の中で集めた蔦を巻いて……簡易ピッケルの完成~!」
〖異能『技巧』の能力補整により……〈細工〉のスキルレベルが上昇しました。レベル2です〗
「本当に? いや、スキルは上がりやすくていいね。ねえ? イヴさん」
〖ふんっ! 知りません……マスターの作業が終わったら、ちゃんとしてあげます。今は、スキルのレベル上げに集中すればいいんじゃないですか?〗
なんだかツンツンしてるね。イヴさん……そっとしておこっと。
岩肌に綺麗な鉱石や魔石が顔を出している。それを【鑑定】で種類を調べてと――――
「……鉄鉱石にアルトマイルかぁ。元、ブラックウルフの縄張りだったから、鉱石や魔石が大量だね。それとやっぱり鑑定スキルは便利便利」
とりあえず、即席で作った骨のピッケルをおもいっきり振り上げて、鉱石の岩壁に向かって叩きつける!
パキンッ!という金属音とともに、鉱石の一部は砕けて、骨のピッケルは砕け散った。
「骨のピッケル脆すぎない?……その代わり、鉄鉱石が手に入ったけどさ」
澄んだ黒色で綺麗な石盤が太陽の光で輝いてるよ。
「綺麗な色だね。骨ピッケルはなくなったけどさ」
〖また、作ればよろしいかと。あんな、雑な作り方で、よく鉄鉱石を採掘できたものだと感心します……おまけに瞑想、採掘、石工のスキルの習熟度、熟練度、精密度まで上昇しているのは以上です……異能『技巧』の成長補整というものは異常です〗
「
そうなんだね。それじゃあ、気をつけて異能の力とは向き合っていくよ。忠告してくれてありがとう。イヴさん」
〖なっ/// マスターが、そんな不意打ちを言うなんて……油断していました〗
イヴさんが照れてる?……あり得ない。
「イヴさんが照れてる?……あり得ない」
〖心の聞こえが駄々漏れてますよ、マスター〗
「あっ! ごめん、イヴさん。本音が出ちゃったよ」
〖……本音を出さないで下さい。作業を続けましょう、日が暮れてしまいますからね。休憩中は精神統一して、〈瞑想〉スキルを高めるのです〗
「りょ、了解……アドバイスしてくれて、ありがとう」
〖はい。私は異世界での、マスターの案内役ですから当然です〗
当然なんだ。普段は物騒なことしか言わないけど。
なんだか頼もしい……なんかスキルのレベル上げを、忙しされている気がするのは、僕の気のせいかな?
〖………(地球ではマスターの実妹、異世界では美しい顔立ちの大賢者エレンミア様。これ以上、お邪魔虫を増やすわけにもいけません。やっと、マスターの案内役になれましたのに。パートナーですよ。パートナー! なのになんで次から次へと美少女がマスターの前に現れるんですか? マスター!!……どちらにも深い仲になるまえに、対策しなくてはなりませんね)〗
うーうー、イヴさんが唸ってるよ。相変わらず賑かな人だな。
「骨ピッケル作成よし! 蔓で結んだだけだけど……さっきよりも早く作れたのは〈細工〉のスキルレベルが上がったからかな?」
〖習熟度も上がったからでしょうね。マスター、次は向こう側の岩盤を叩いてみて下さい。おそらく、珍しい魔石が出てくる気がします〗
「あっちの岩盤?……了解」
砕いた鉄鉱石を【英雄の宝箱】に回収して、イヴさんに言われた場所へと移動する。
「岩肌の色が違うな七色に光って目がチカチカするよ」
〖……チカチカですか。珍しい魔石がありそうですね〗
「珍しい魔石?……掘ってみるね」
珍しい魔石と聞いて、好奇心が沸いてきた。骨ピッケルをおもいっきり振り上げる。
ガキンッ!という、さっきとは違う重低音が周辺に響き渡る。骨ピッケルは砕けた……そして、岩盤が砕け散って、色とりどりの魔石が飛び出してきた。
「うわぁっ! これが魔石かい? 綺麗な形だね。昔、父さんと行ったことが宝石屋さんに置いてあったジュエルみたいだね」
〖……そうですね。ビンゴだとは思いますが、量が多すぎる気がしますが。全て頂いてしまいましょう、マスター〗
「了解。全部、回収しちゃうね」
どれもこれも綺麗な魔石だなぁ。この異世界の魔石の価値がどれくらいなんだろう?
その後も、骨ピッケルを作っては岩盤を砕いて、鉱石や魔石を回収。骨ピッケルを作っては岩盤を砕いてを続けながら、休憩中は目を閉じて瞑想みたいなことをしたんだ。
〖おめでとうございます。マスター、鍛冶スキルに必要な瞑想、金槌、細工、修繕、石工、整備のスキルレベルが上昇しました。上昇の結果は、ステータス画面でご確認できます〗
【鍛冶】必須スキル一覧
〈瞑想レベル5〉〈金槌レベル4〉〈鍛練レベル6〉〈修繕レベル3〉〈採掘レベル5〉〈細工レベル4〉〈鍛冶知識〉〈石工レベル4〉〈解体〉〈整備レベル2〉
なんか、沢山上がったね。凄いね……初日にしては、上がりすぎじゃないかな?
〖お疲れ様でした。マスター、今日の採取と採掘は終了です。エレンミア様の元へと戻りましょう〗
「う、うん。分かったよ。イヴさん」
……なんで、エレンさんを様付けで呼んでるのかな?
◇◇◇
「ごめん。エレンさん、採掘に夢中になっちゃって……待たせちゃったか?」
「あら? お帰りなさい。レン……いいえ、私の方も、料理作りに夢中になっていたから大丈夫よ。丁度、私が作った料理が完成したから食べましょう」
僕が戻って来ると、エレンさんは優しく微笑んでくれた。
「え? 数時間も料理してたの?……僕が洞窟を出てから何時間経ってたっけ?」
〖5時間くらいですね〗
「5時間!? ごめん、エレンさん。待たせちゃったね。本当にごめん」
「え?……何を謝っているのかしら? レンは。別にいいわよ、珍しい食材で料理ができて楽しかったもの」
「そ、そうなんだ。それなら良かったよ。アハハハ」
お、怒られなくて、良かった!!
〖……(この方が大賢者エレンミア様。本物は迫力が違いますね……是非とも、白銀の館へと拉致して。マスターの色々な師匠になって頂きましょう。この方のありとあらゆる知識をマスターの物にするためにも。フフフ。住みかは庭園にでも住まわせとけばいいですしね。絶対にマスターと私の家には上がらせませんけどね)〗
イヴさんはブツブツ念仏みたいなのを唱えてるし、怖いんだけど。
◇◇◇
エレンさんに一生懸命謝ったよ。5時間も待たせるとか、とんでもないこと仕出かしちゃったからね。
……そして、そのエレンさんは全然気にしてなかった。
ううん、僕のことよりも食材について真剣に見つめたり、できた料理の味見に神経に考えごとをしているんだ。
そして、料理の実食タイム……僕は、自分の料理のセンスの無さにやっと気がつけたんだよね。
「おえぇ……僕が作ったごった煮料理。美味しくないんだけど」
「……でしょうね。あんなメチャクチャな調理方法で料理なんて作ったら絶対に失敗すると思ったわ。でも、ちゃんと自分で作った料理を残さずに食べられたことは凄いわ、レン。良い子良い子ね」
「ゲホゲホ……ちょっと! なんで、僕の頭を撫でるんだい?」
「ん~? レンが頑張ったからかしら?」
「な、なんだいそれ……」
エレンさんに、いきなり頭を撫でられたからビックリしちゃったよ。
「結構、身体を動かしてたんだから、まだ私が作った料理は食べられるわよね」
「う、うん。まだ、お腹空いてるかな」
そこら中で、採掘してたからね。まだまだ足りないや。
「それじゃ、私が作った料理をどうぞ。多分、すごく美味しいと思うわ」
「ありがとう。エレンさん」
エレンさんが持っていたお皿かな? 可愛いらしい猫の絵が、描いてあるお皿に美味しそうな煮込みスープ料理が入ってる。
そして、猫の絵が描かれたスプーンを手渡された僕は、スープをスプーンですくって一口口の中に入れた。
「……お、美味しい! すごく美味しいよ! エレンさん」
「でしょう? そんな料理を毎日食べたいと思うでしょう?」
僕の隣に座った状態で、嬉しそうに笑うエレンさん。僕が美味しいそうに食べるから喜んでくれているのかな?
「う、うん! こんな美味しい料理なら、毎日食べたいと思うのは当たり前だよ」
「そう。なら、毎日食べさせてあげるから、私を貴方の住んでいる場所……白銀の館に住まわせてくれないかしら?」
あれ? エレンさん。なんか悪い顔してない? いや。でも、今はエレンさんが作ってくれた料理を食べるのに集中したい……美味しすぎるよ。エレンさんの手作り料理!
〖!……了承して下さい。マスター! これは、チャンスですよ!〗
それは完食したタイミングだった。さっきまで静かだったイヴさんが、そんなことを言うもんだから……つい返事をしちゃったんだよね。
「う、うん……いいよ!」
なんて、状況を把握しないまま言っちゃったんだよね。僕。
「あら? 本当に? ありがとう。レン! 丁度、匿ってもらえる場所を探していたのよ。助かるわ」
〖上出来です。マスター、これでマスターのマスターをゲットできました。やりましたね〗
「……あれ? 僕、今……とんでもないことOKしちゃった?」
美味しい物を食べていると人って、それに集中しちゃうんだよね……それは、僕もそう。
だから、エレンさんが白銀の館に住むって話を理解したのも、煮込みスープを完食した後のことだったんだ。
「え? エレンさん。白銀の館の住み込みメイドさんとして働くの?」
「ええ、これからよろしくね。レン」
こうしてエレンさんは、僕のメイドさんになったんだ。




