第14話 英雄とエルフ
真白が戻って来るかもしれないから、少し庭園で待って作業をしているんだ。
庭園にも、色々な野草や薬草が生えていて面白いね。
それに、畑みたいな場所があって、野菜みたいなのがなっているんだ。何個かもぎ取って収穫しちゃった。
〖………マスターの異能『技巧』の能力補正により、〈採取〉〈栽培〉スキルの習熟度、熟練度、精密度が上昇しました。それぞれ、スキルレベルが3に上昇しました〗
「嘘? 本当に? いやー、1時間くらいしか作業してないのにね? 幸先がいいや。アハハハ」
〖…………そうですね(早い、私の想定よりも早すぎます。マスター、これは不味いですね)〗
よしよし、順調だね。このまま、今日だけで採取と栽培のスキルレベルはカンストしちゃうかもね。
「真白は……来る気配が全然ないね。イヴさん」
〖そうですね。今頃は、母君に甘えているのではないでしょうか?〗
「母さん?……あぁ、そうか。地球だと今日は土曜日だもんね。ていうか、地球と異世界じゃあ、時間の経過って違うんだよね?」
〖はい。それはこちら側である程度は調整できます。マスターが痩せたことによって、こちらでも需要が出ましたので良かったです。私のお姉様達に大人気ですよ。来週の学校には行けるように調整しますので、お任せ下さい〗
「そ、そうなんだ。色々と分からないけど。分かったよ」
需要って何? お姉様に大人気ってどういう事。
調整するって何を?……そもそもイヴさんって何者なんだろう。人智を越えた何かとかかな?
うん! 怖いから考えないことにしよう。今は、真白のためにスキルアップが最優先だね。
〖今日は、絶対に妹さんは異世界側には来られませんので、シロガネの森の探索などいかがですか? 数日前にマスターが中級エリアのブラックウルフを狩り尽くしたので、安全に素材の採取や採掘ができますよ〗
「ブラックウルフを狩り尽くしたって……あれは、イヴさんが強制的にダイエットとか言って、やらせたんじゃないか」
〖愛ゆえの鞭です、仕方ありません。マスター〗
それで、僕が死んだら元も子もないじゃないか。
「外か……たしかに、庭園で採取してるよりは効率よくスキル上げできそうだし、行ってみようかな」
〖はい、張り切って素材を集めましょう。その方がマスターは1人になれますので〗
「なんで、イヴさんが嬉しそうなの? 森の中に何かあるの?」
〖……何もありません。ただ、マスターが1人きりなので、私がマスターと喋りやすくなるだけです〗
「そうなんだ……まぁ、その方がスキルについて相談できるから、いいかな」
〖はいっ!〗
なんか、イヴさん。嬉しそうに返事をしてくれたなぁ。
……その後は、庭園を出てシロガネの森の中を歩き始めたけど、たしかに森の中は静かだった。
「ブラックウルフと追いかけっこしている時は、この森に自生している、木の実や野草に助けられたんだよね。お肉は食えなくなったんだけどさ」
悲しいね、さようなら僕のお肉人生……
〖いえ、マスターは数日後、お肉は食べられるようになります。今は急激に痩せたことで、身体が拒否反応を示しているだけですので〗
「嘘?…………本当に?」
〖はい、本当です……(これからは、マスターのカロリーコントロールを完璧に行い、完璧な体型を維持させて頂きますが)〗
衝撃の真実、それじゃあもしかして……
「また、色々と食べてもいいんだね? 特大ステーキとかさ!」
僕は目を輝かせて、最高の未来を思い浮かべたよ。イヴさんの次の言葉を聞くまでの間はね。
〖いえ、させません。私がマスターを太らせません。食事管理も徹底的に行わせて頂きます〗
なんてことを言われてこの話は終わったよ、悲しいね。
シロガネの森の中は本当に素材の宝庫だった歩くだけで、何かしらの調合に必要な物が自生していて。
新しい素材を見つける度にイヴさんが、素材について丁寧に説明してくれるんだ。
その後はスキル【鑑定】で、野草や木の実を見つけては採取やら腹ごしらえをして、色々な素材をゲットした。
〖〈採取〉のスキルレベルが上昇しました。現在、レベル7です……早すぎます〗
「まぁ、素材が簡単に見つかるね。これなら、採取系は直ぐにカンストできるかな?」
〖残念ですが、そうですね。もっと取得難易度を上げるために、より高度なスキル取得を中級のランクアップ時は用意しておきます〗
さらっととんでもない発言してない? イヴさん……まさか中級のスキルも、僕に覚えさせる気なの?
〖ちなむに、マスターがおやつ代わりに食べている木の実や野草は、他の地域では絶対に生えず見つけることが困難な珍しいものです〗
「そうなの?……そこら中に生えてるのにさ。【英雄の宝箱】の中に入れておけば、腐らないから大量に入れちゃったんだけど良かったかな?」
〖はい、他者に奪われて食べられるよりはいいです。どの木の実や野草も食せば食す程に、身体能力や知性が上昇していきますから〗
なるほど。だから最近、身体が軽いんだね。
………ていうか、その木の実や野草。沢山食べちゃったんだけどさ。どうなっちゃうの? 僕の身体。
「まぁ……あんまり深く考えたら駄目だね。うん、考えるのを止めよう。今は、スキルレベルを上げないといけないと。あっ! シュンソクの実だ。お腹減ったから食べようっと……美味っ!……しまった。また食べちゃったよ」
〖好き嫌いなく食べられるようになって、成長しましたね。マスター、骨格が変化するくらいに成長して、イヴは嬉しいですよ〗
時々、イヴさんはとんでもなく恐ろしいことを、さらっと言うから怖いよね。
◇◇◇
普通に森の中を探索していただけなんだ。なのに、居ないとか言われていたモンスターに会っちゃったよ。
【キシャアアアア!!】
馬と竜が合体したようなモンスターに出くわして、追いかけ回されてるよ。
「今のシロガネの森は安全じゃなかったの? イヴさーん!」
〖……可笑しいですね。あれは、西の国に生息しているパイコーンリバーと言うモンスターです。なぜ、生息できるはずがないシロガネの森に迷い込んだのでしょうか?〗
「そんなの僕が知りたいってばあぁ!!」
ブラックウルフの群れのボスと同じ位の大きさのモンスター……戦って倒した方がいいかな?
いや、もしも戦いが長引けば、探索時間が減ってしまい。スキルのレベリングが遅れちゃうか。
〖不確定要素すぎますね。マスター、逃げることをお勧めします〗
「え? 逃げるの? 戦うんじゃ……もしかして、今の僕のレベルだと倒せない感じ?」
〖いえ、倒せるような気はするのですが……おそらく、この獲物を狙う誰かが来そうな気がするのです〗
「獲物を狙う誰か? 何それ?」
〖はい、新たな私の障害物……〗
モンスターに追いかけ回されながら、イヴさんと話し込んでいると、森の奥からフードを深く被った人がモンスターへと急接近して来たんだ。
「スキル発動〈暗殺レベル7〉―――『深淵切』」
【ギャシャアアア!?】
「凄いね。一瞬で、あの巨体のモンスターを倒しちゃったよ」
〖………マスター、早急にその場から避難して下さい。その場は危険です。そこはいけません、なんせその女の子は……〗
イヴさんが必死で逃げろって、言ってくれたんだけどさ……少し遅かったかな。
「貴方、何者? 急に強い気配がしたから来てみたんだけど。どこから現れたのかしら?」
「えっと…………お屋敷かな」
「……お屋敷?」
短剣を首元に押し付けられてる。いつの間に間合いを詰めてきたんだろう? 速度系のスキルかな?
それと、フードを深く被っていたから、さっきまで思い出せなかったけど。
「この森にお屋敷なんてあるの?……見たこともないのだけど。私への敵意は……無いみたいね。」
フードを取って素顔を見せてくれた。肩まで伸びる銀髪に青水晶のような瞳、綺麗な本当に綺麗な顔立ちと……長耳。
この人はブラックウルフの巣で、僕やソフィー様達を攻撃した銀髪エルフの人だ。
「君、心が揺らいでるわね。敵意はないみたいだけど……私の姿を見られたなら、消させてもらうわ。『深淵静寂』」
「へ?……いや、姿を見せてきたのは、そっちの方だよね?……あれ? 消えた!?」
一瞬で姿が薄くなって消えた。それに森の中に薄い霧みたいものが出てきた。
〖マスター、私の敵が出現しました。無力化しましょう、バトルスタートです。拳術スキルは間合いを詰められた場合だけ使用して下さい。今回の相手は、中距離で間合いを取りながら一気に攻めてくるタイプだと思われますので、棒術スキルで対応しましょう。殺りましょう〗
「そんな、早口で言われても分からないよ。それに、最後の殺りましょうって、物騒すぎるよ! 〈神の槍レベル1〉〈棒術レベル10〉……それと骨、骨っと……」
とりあえず、イヴさんに言われた通りにスキルを発動して、武器を取り出す……まぁ、武器と言ってもブラックウルフの骨なんだけどさ。
ちゃんとした武器が欲しい場合は、リゲル王国の街か王都まで行かないと手に入らないって、イヴさんに言われたんだ。
それじゃあ、買いに行こうよって僕が言うとさ。
〖マスターが街で声をかけられるので、却下します。武器は自らの手で生み出して下さい。【鍛冶】スキルで、自らです〗
……なんて言われたから、モンスターと戦う時は骨を武器にして、戦ってるよ。
「骨……ねぇ? イヴさん。やっぱり街まで行って、ちゃんとした武器を買いに行かせてよ。異世界で使う日常品とかも買いたいしさ」
〖駄目です。マスターにこれ以上、変な女の子との出会いはさせません。それよりも今は、戦いに集中して下さい。来ますよ〗
「来る? いやいや、殺意の気配なんて何も感じな……左!?」
いきなり後ろから現れた? 両手に短剣を構えて振り上げ来てる。
「な!? 私が背後に居ることに気がついたの? やるわねっ! 『影爪』」
「つっ! 骨、骨っと……あれ? 動きが遅い?」
両手に持った骨で、振り上げられたエルフさんの短剣を防いでいく……それにしても、このエルフさんの攻撃かなりスローモーションだね。
バキンッ!と骨と短剣がぶつかり合って、森の中に響き渡る。
僕が持っていた骨は砕け散って、エルフさんが持っている短剣には少しだけひびが入った。
「私の攻撃が防がれた?……距離を取るわっ!」
「腹部に蹴り? 骨を取り出してガードと……」
「骨って……嘗めないでほしいわねっ!」
エルフさんの前蹴りが飛んで来るけど、簡単に受けられそうだったから、あえて攻撃を骨で受け止めた。
「蹴りも簡単に防ぐのね。動きは戦い慣れてなさそうなのに、やるじゃない」
「いや、そう言われても……いきなり襲われたら対処するしかないじゃないか……言ってる間に、また消えたし」
霧も少しずつだけど濃くなっている。だけど焦りはない。
直前で現れた時の殺気と、あの娘のスローモーションの動きなら、攻撃された直前で回避も防ぎも簡単にできるからね。
〖最近、この隣国周辺で有名な、はぐれエルフですね〗
「はぐれエルフ? あの娘がかい?」
〖はい、銀髪に端正な顔立ちの容姿に加え、高度な暗殺スキルを使っているので間違いありません〗
「隣国のはぐれエルフ……ねえ? やっぱり、そのうち街か王都に行って情報収集させてよ。僕はもっと、この世界の情報について知るべきだと思うんだけど」
〖必要ありません。この異世界ステラでの、マスターの交遊は私1人だけで事足りていますので。それ以上のキャパシティーは存在していません〗
キャパシティー……何だいそれ? イヴさんのエゴ丸出しじゃないか。この案内役さん、本当にわがままだね。なんとか説得しない……
「よそ見してる余裕なんて、ないと思うのだけど?」
「おっとっ! 骨、骨っ!」
「つっ! これも防ぐなんて……貴方、本当に何者なの?」
ボーッとしてたら、エルフさんが現れて攻撃してきた。それを【英雄の宝箱】から取り出した新たな骨で防いで、骨は砕けて、短剣にひびがまた入る。そして、エルフさんは消えた。
僕は、とある名案を……イヴさんを説得する名案を思いついたんだ。
「イヴさんのお願いを1つだけ。僕が叶えられる範囲で1つだけ何でも聞いてあげるよ」
〖……はい? 何ですか? マスター、今は戦闘中ですよ。早く、あの銀髪エルフを倒して島流しにするのです〗
何をとんでもない事を言い始めてるんだろう。
「だから、僕を街や王都に行かせくれる許可をくれれば、イヴさんの言うことを、僕のできる範囲で何でも聞いてあげるから。許可をちょうだ……」
〖了承しました。言質も取りました。記録も取りました。ありがとうございます。マスターの異世界での情報収集を許可します〗
「そ、そう。ありがとう……イヴさん」
〖はい。将来が楽しみですね。マスター〗
「将来?……ま、まぁ、いいや、街に行ける許可もらえたしね。アハハハ」
早口で言われたから、最後まで何を言っているのか聞き取れなかったけど。
いいや、それよりも今は、エルフさんとの戦闘にそろそろ集中しなくちゃね。
「……しかし、あれだね。だんだん、エルフさんのどこに居るかの気配がわかってきたよ」
〖発動させたスキルの効果が弱まってきたのでしょう。狩るなら今です、マスター〗
「狩るって……相手はモンスターじゃないんだからさ」
〖……………そうですね〗
10メートルくらい離れた木の影に居るのは分かってるんだけど。いきなり襲いかかっても警戒されるだけだし、どうしようかな?
(さっきから独り言が多い人ね。精霊使いなのかしら? そうだしたら、普通は精霊の光の粒子が飛び回るはずなのに、それが無いのはなぜ?)
いたいた、フードを深く被って暗闇に紛れてるつもりなんだろうけど。すぐに見つけられたよ。
「あの~、考えている最中に申し訳無いんだけどさ」
「はっ!? いつの間に私の居場所を特定したの? くっ! 〈暗速レベル5〉」
「あっ! ちょっと待ってってば! 僕の話を聞いてよ!……逃げられちゃったよ」
〖……放っておきましょう。どうせ、このシロガネの森を出たら。あの銀髪エルフは捕まるだけですから〗
「……そんな辛辣な言い方しなくてもいいのに。イヴさんって本当に女の子に厳しいよね」
〖当たり前です。ふんっ!〗
ふんっ!て……機嫌悪くなってるし。エルフさんはどっか行っちゃうし。どうしたものかな。
◇◇◇
最初に復讐の旅に出たのは、姉を暗殺者に殺されたからだった。
(姉さんっ! 誰がこんな傷を? 姉さんは、この国でも最強の騎士だったのに)
(……エレン、幸せになってね。私の分まで……沢山沢山、幸せになってね。お願い……ね)
(姉さん?……姉さん、しっかりして! 姉さん)
あの時の姉さんは、腹部を剣で貫かれ、死ぬ寸前だった。
数日後に付き合っていた彼との結婚式を挙げるはずだったのに、ただその場に居合わせたという理由だけで刺されて死んだ。
(ウハハハ……死んでやんの。馬鹿なの? まぁ、殺したのは私なんだけどね。依頼終わり~! じゃあな、あんたの代わりに死んだお姉さんに感謝しな。バイバイ~!)
(貴様は……暗殺者?……待て! 貴様が私の姉さんを殺したのか? 貴様がぁぁ!!)
なんて事を思い出していた。目を瞑りながら……
「…………眠ってた?」
「そうみたいだね」
「!? どうして、この洞窟に? 『影爪』」
「ちょっ! いきなり攻撃してくるなんて、骨、骨っと!」
骨?……また武器でもない物で私の攻撃を防ごうとしているの?
「ふざけないでっ!」
「うわぁ……力強いね」
一瞬の怒りに身を任せて、武器を手荒に扱った罰が当たったんだと思う。
私の愛刀の短剣、パキンッ!バキンッ!って音を立てて折れてしまった。
「………嘘? 私の武器が壊れた?」
「ごめん……悪気はなかったんだけど。いきなり攻撃されて条件反射で防いじゃった」
放心状態の私に、痩せた金髪の男の子が申し訳なさそうに、謝罪してくれている。敵意もない目を向けている……どうやら、私を捕まえる気はないみたい。
「(今の私だと戦えないし、降参するしかないかしら。武器は……またどこかで造らないといけないわね)………貴方、何なの? こんな、モンスターの巣だった洞窟にやって来るなんて。さらに、私の武器まで壊して」
「いや、先に攻撃してきたのはそっちなんだけどね。なんなら弁償するよ。新しいのをね……とりあえず、この洞窟で、鉱物を採掘させてほしいかな。お願い」
「採掘?……この私の家で?」
これが彼とのちゃんとした会話だった。彼、レン君との運命的な出会いが。




