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第12話 レベル足らず

 起きた……どうやら寝てたみたいだね。


「痛たた……布団じゃない?」


 ベッドの上から這い出て床に落ちたみたいだね。


 そして、ここは………


「……また異世界に来たの?……真白と一緒に」

「ん……兄さん。行かないで……」


 ベッドの上。真白が僕の服を掴みながら寝ている?


「寝かせておこう……イヴさん」


〖はい、おはようございます。マスター〗


 普通に返事をしてくれた。怒っては……ないみたいだね。


「なんで、真白が異世界に一緒に来られたの? これもイヴさんがやったの?」


〖はい、答えられません〗


「答えられない? なんで?」


〖ルールになりました。なので答えられません〗


 ルールってなにさ。こんな危険な場所に真白を連れてきておいて、無責任だな。


〖ですが、ご安心下さい。マスターの妹さんのレベルが、適正値まで上がるまでは庭園からは出られませんし。スキル【世界渡り】でいつでも、地球へと妹さんだけは帰還できます〗


「……あの? 僕は?」


〖マスターの場合は、私が課す教育強制カリキュラムに合格しなければなりません。できなければ、異世界ステラに永久に居ていただきます〗


「何それ? 理不尽過ぎでしょう!」


〖決定事項です。諦めて下さい〗


 イヴさんの過酷なカリキュラムに合格しないと地球に帰れない?


 ……前回があんな死にそうな思いをして痩せたのに? 今度は何をやらされるの?


「……ちなみに教育強制カリキュラムって、何をすればいいの?」


〖魔道具か武具を、自分自身の手で一からつくり上げて下さい。そうすれば、地球へと返してあげます。マスターなら簡単ですよね?〗


 ……なんで、ちょっと挑発気味に言ってくるんだろう。


「魔道具か武具?……それって、異世界のお話によくある鍛冶みたいなもの?」


〖相違ありません。それでは、早速始めて下さい。ちなみに材料は自分で一から集めて下さい。それからマスターの妹さんは、マスターが教育強制カリキュラムを合格するまでは、家から出られないので安心して下さい。なので、妹さんが起きたら、ささっと地球へと帰して下さいね……今すぐ起こして帰ってもらって下さい〗


「いや、話が長いって、イヴさん」


 すごい早口だった。

 それにイライラしてる風に聞こえたよ。なにを怒ってるんだろう? イヴさん。


「それにしても……魔道具か武具を一つ作れば地球に帰れるなんて、今回は楽なカリキュラムだね。前のダイエットなんて、何十回と死を覚悟したことか」


 たしか僕は、新しいスキルで【錬金術】と【鍛冶】を取得したんだよね。


 それなら、どちらかのスキルを使えば魔道具も武具も簡単に一から作れるはずだ。


〖…………〗


「スキル発動【錬金術】………あれ? 何も起きない」


〖エラーエラー、【錬金術】を使用するレベルが足りません。スキルの習熟度、熟練度、精密度を上げて下さい。そして、スキルツリーを伸ばして下さい。まずは調理スキル系統の取得をオススメします〗


 イヴさんが嬉しそうな声で説明してくる。すごく嬉しそうだよ。強制ダイエットの時みたいにさ。


「【錬金術】のスキルが使えない?………それじゃあ、【鍛冶】? スキル発動【鍛冶】………また、何も起きない?」


〖エラー、エラー、【鍛冶】を使用するレベルが足りません。スキルの習熟度、熟練度、精密度を上げて下さい。そして、スキルツリーを伸ばして下さい。まずは採取と採集スキル系統の取得をオススメします〗


 さっきと似たようなことを、イヴさんに説明される。


「……あれ? もしかして、【錬金術】も【鍛冶】のスキルも、ちゃんとレベル上げしない使い物にならないの? それじゃあ、もしかして今回も条件達成まで地球に帰れない?」


〖頑張って下さい。マスター、今回は私も、マスターにアドバイスできます。良かったですね〗


「……い、い、い……」


〖良い? そんなに異世界に幽閉されて嬉しいんですか? 良かったです〗


「嫌だぁぁ!! 家に帰らせてよ。イヴさん!!」


〖ですから、ご自身のスキルを磨いて下さい。そうでなければ、異世界永久暮らしですよ。マスター、良かったですね〗


 僕は叫び、イヴさんは凄く嬉しいそうだった。


「兄さん。私が兄さんを美味しく食べちゃうんだから……むにゃむにゃ……兄さん……」


 そして、真白は幸せそうな寝顔でまだ眠っていた。



『白銀蓮』

職業 中学生

レベル101

体力 1001

魔力 501

攻撃力1001

防御力801

俊敏しゅんびん性1001

叡知えいち1201

生命力401

運命力1002

魔法【回復(中)】【異常回復(中)】

異能『技巧』

スキル【世界渡り】【英雄の宝箱】【鑑定】【錬金術(使用不可)】【鍛冶(使用不可)】〈神の拳レベル2〉〈神の槍レベル1〉

称号 【黒狼の狩人】

 



◇◇◇


 白銀兄妹が異世界ステラへとやって来た同時刻、シロガネの森の中級エリアでは、リゲル王国騎士団演習が行われていた。


【ピシャアア!!】【ピギャァア!!】


「はあぁぁっ!! 斬る!!」


【ピュア!?】【プ…キュア!?】


 シロガネの森中級エリアを縄張りとしていた、ブラック・ウルフの群れが、突然居なくなったことにより。シロガネの森の生態系は少し揺らいでいた。


 中級エリアの新たな生息縄張りにするべく、大量にモンスターが集まり始めていたのだ。


「また、ベビースライムの群れですか。危険地帯からは、中級エリアにやって来るのは弱いモンスターばかりですね。アグニル騎士団長」


「シロガネの森は、危険地帯ほど環境が良いからな。水源も食べ物も……わざわざ劣悪な環境に来る強いモンスターは、いないだろう。リール」


「まぁ、そうですが……いいんです? 姫様をリゲル王都に帰さずに一緒に訓練させるなんて、シロガネの森には暗殺エルフがさまよっているんですよ」


 副騎士団長リールが、ベビースライムの群れの方へと目を向ける。


「私の経験値となって下さい。ベビースライムさん!」


【ピギャァア!!】【ビギュウウ!?】


 そこにはベビースライムを容赦なく斬りつける、リゲル王国第一王女。ソフィーリア・リゲル・ミリアムスの姿があった。


 断末魔の叫びを上げながら、消滅するベビースライム。


【【【ピギャァア!!】】】


「アハハハ! 凄い! どんどんやって来ますね。こちらですよ。ベビースライムさん~!」



「随分と楽しそうにモンスターを狩ってますね。ベビースライムが、やっと増え始めたのに。あれではまた、数を減らしませんか? アグニル騎士団長」


「以前のように、いきなり大量にいなくなるわけでもないだろう。それに姫様ならいい……しかし、姫様がベビースライムを倒してもドロップ品が一切出ないのは気になるな」


「(また姫様を甘やかすんですか? アグニル騎士団長は)………そうですね」


 もう一度、楽しそうにベビースライムを倒しているソフィーリアを見つめるリール。


「納得いかないだろうが。リゲル王のご命令なんだ。姫様がある程度自衛できるようになるまで、育て上げてほしいとな。丁度、騎士団の演習も兼ねられて、その方がいいだろう。姫様は私の近くに居るのが、一番安全だとリゲル王が判断したのならそれに従うまでさ」


 アグニルは、ソフィーリアを大切そうに見つめていた。


 それも当然の話だった。

 アグニルとソフィーリアは幼少の頃から共に育った親友同士であった。


「アグニルちゃ~ん! 私、レベルアップしましたわ~!」


「ソフィーリア様。本当ですか? 良かったです」


 お互いに嬉しそうに手を振るアグニルとソフィーリア、それをリールは見つめていた。


「……そうですよね。それは仕方ありませんよね……アグニル騎士団長」



◇◇◇


(君は大切な人だよ。真白……)


(兄さん、ダメダメダメ!! 私たちは義理でも兄妹なんだよ? でも兄さんが良いなら、真白は兄さんの全部を受け止めちゃいます! 私を大切にしてね。お兄ちゃん~!)


 ドサッて音が聞こえた。それで、お尻がすごく痛い……


「………………すごい良い夢見ちゃった」


 ベッドから落ちちゃったの?


「あれ? また寝ちゃってたの? そういえば、兄さんがベッドに居ない……兄さんは!?……クンクン……何? この良い匂い」


 辺りを見渡す。すると台所みたいな場所で、エプロン姿の兄さんが立っていた。


「料理センスが壊滅的な兄さんが、料理してるの?……止めなくちゃ!」


 兄さんに家事をさせちゃ駄目。力を入れ過ぎて絶対に物を壊すんだから。


「――――――!!」


 1人でブツブツ何か言ってる? 


「何をしてるの? 兄さん! 兄さんが料理なんてしたら爆発が起きちゃうの……に?……え? 美味しそうな。オムレツ?」


「………おはよう、真白。今、朝食を作ってる所なんだ。まだまだ未熟者だけど、お腹空いてるならテーブルに置いてあるものを好きに食べていいよ。その後、地球に帰ってもいいしね。僕は、レベリングしないと帰れないけどさ。エヘヘ……エヘヘ」


 兄さんの顔に精気がない。やつれている、いったい私が眠ってる間に何が起こったの?


「………わ、わかってるよ。全部残さず食べるってば。その後、ちゃんと運動……え? 素材を集めながら走り回れだって? そんな横暴……

『なら両方のスキルを使えるようになるまで地球に帰さない』? そんな理不尽だよぉ!」


 ……それに、兄さんはさっきから誰とお話しているの?


「あの、兄さん。今のこの状況は何? なんで、兄さんが料理を作っているの? 爆発しちゃうのに」


「……え? あぁ、うん。簡単に説明するとね。僕と真白は、僕の部屋にあった鏡を潜って異世界に来ちゃったんだ。それでね……えっと、スキル【世界渡り】」


 兄さんが、突然スキルとか言い出した。


 駄目だよ、兄さん。もうすこしで中学校を卒業なのに、昔の私みたいに中二病をこじらせるなんて。


 やっちゃ駄目……じゃなくて、そんな黒歴史を思い出さなくていいの、真白。


 今は、兄さんの中二病を阻止しないと。


「……と? 兄さん。なんでこれがここにあるの? お爺ちゃんの部屋にあった扉が」


「この扉をくぐれば、真白だけは、いつでも地球に戻れるよ。良かったね、真白。異世界に監禁されないですむよ。僕みたいにね……アハハハ」


 兄さんがうつろな目で笑ってる。少し怖い。


「この扉を潜ればいいの?……開けるよ、兄さん」


「うん……地球への帰還おめでとう、真白。僕は弾かれるんだけどね。アハハハ……笑えないや」

「弾かれる?……全然、そんな事ないよ? 鏡から抜け出して……兄さんの部屋に普通に入れるよ」


「羨ましいよ。僕は、案内役さんを怒らせたせいで、永久異世界ライフになりそうなんだけどね。アハハハ」


 兄さんの心が壊れちゃった。このままじゃ、私みたいに中二病に目覚めて黒歴史を作っちゃう。


 止めて人生の軌道修正をしてあげなくちゃ。




「え?……兄さんの部屋の隣に空き部屋があって、その真ん中に押し入れがあったの?」


「うん。それで、潜ってみたら異世界に来れたんだ」


「……そう、なんだ」


「そうそう、そうみたい……それで、来る度に死にそうな思いしてるんだ。強制的にカリキュラムをね。やれって言われるんだ……怖いよね。異世界」


 兄さんの目が怖い。


 私が目を覚ました後、一緒に食事を取ってるんだけど。


 テーブルには、簡単な料理ばかり並べられていた。


 オムレツに何かのサラダかな? 見たこともない野菜が、お皿に入ってる。


「あぁ、その野菜かい? シロガネの森で自生していた、食べられる野草だから大丈夫だよ……すごく苦いけどね。食べる?」


「苦いの?……じゃあ、試しに少しだけ……はむっ!」


 異世界のお野菜。そのフレーズの好奇心には逆らえず、レタスに似た野草を食べて見たんだけど。


「………んん!? すごく苦いぃぃ!! お水、お水!!」


「はい、お水だよ。真白」


「んんん!(ありがとう!)……んんんくぅ………ぷはぁ!! なんて物をすすめてくれたの? 兄さん! そのお野菜。すごくすごく苦いんですけど!」


「そう?……食べられる物がこれしかないと、慣れるものだよ。真白……苦いけど今では普通に食べられるようになったんだ。僕」


 私の目の前で、さっきの苦味しかない野草を平然と食べる兄さん。


 すごい……じゃなくて、顔はすごい無表情で食べてるのは、身体は拒否反応を示しているからじゃないの? 兄さん!


「……兄さん。顔のつやが良くなってる?」


「そうなの? それよりも僕は、地球に帰ってラーメンが食べたいよ。真白、助けてよ~! 食べてよ、真白。みんなさっき取ったばかりのれたて食材だよ」


 兄さんは涙を流しながら、苦いお野菜がふんだんに入ったサラダを無心で食べていた。


「………うん。よく考えてから頂くよ。兄さん」


 そして、私はその後も何度か、野草を食べられるか挑戦してみたけど駄目だったの。


 すごくすごく苦い。全部のお野菜が苦いよ。


「お水お水……なんで、普通に食べれるの? 兄さん!」


「………お残しすると、カリキュラムが追加されるから、無理矢理食べているんだよ。真白」


「カリキュラム? 私が眠ってる間に、本当に何があったの?」


「うん、色々あるよね。異世界に来るとさ」


 ……兄さんの身体が激変した理由が、なんとなく分かった瞬間だった。


 こんな野草なんて食べてたら、身体もムキムキになって、身体も艶々《つやつや》になって、私の理想の身体の兄さんになっちゃって。しゅごいよ、お兄ちゃん。


「……真白、口からよだれが出てるけど大丈夫?」


「へ? よだれ!?」





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