13 思考
音が鳴った瞬間、ユニスはナツレに向かって走り出した。
(とにかく、剣の届く範囲に近づく、話はそれからだ)
一方ナツレは口から、海のさざ波のような音を響かせていた。
(一刻も早く)
「剣武 巧遅拙速!」
突進の力をそのまま剣先に伝える突きこみの技、ユニスの持つ技では最速の技だが、
「エディーカレント」
ズブッ、
という音ともに剣先はナツレの前に現れた水の渦に飲み込まれた。
「な、、」
ユニスは慌てて、剣を引き戻そうとするが、突進の勢いが仇となり、そして、あまりにも引き込む力が強かった。
剣は完全に渦の中へ、吸い込まれた。
次にユニスが取った行動はバックステップ
(やばい)
と本能的に体が動いたのだ。その結果、
「ブレーキングウエイブ」
とナツレの口から二次詠唱が呟かれると、渦潮が吸い込んだユニスの剣を粉々にして、ナツレの前方へ水と一緒に弾きだされた。
ユニスは辛うじて右腕で顔面を守っていたがノーガードの腹や足等前全体に突き刺さり、バックステップ取った以上に後ろへ飛ばされ、試験会場の結界壁へとユニスを叩きつけた。
「これが結果ですわ、私が得意なのは名前が示す通り、水魔術ですけど、」
ナツレは手に持ったユニスの剣の柄を
メキョッと
簡単に握りつぶした、指の間からはさらさらと欠片が零れ落ちる。
「基本の身体強化を使えば、この程度の事は簡単にできますのよ、さっきの移動速度も私ならもっと早くできますのに、、、
これで分かったですわよね、それでは」
ナツレはクルリと後ろ向いて、立ち去ろうとするが、
「待て、ナツレ~イダテル、まだ、試験は終わっていない」
と試験官は呼び止めた。
「終わって「まだだ、よく見ろ」
と試験官が指刺した先には体前面がまんべんなく傷だらけにし、背中を強打してもなお、立ち上がったユニスの姿だった。
「だから、どうしたんですか、指で押せばすぐに倒れそうでわないですか」
「だが、目がまだ生きている」
「ですが、「口答えするな、この試験においては私がルールだ」
その言葉にナツレは苦虫を嚙み潰したように顔を歪めながら、
「ウェイブ」
と詠唱するとナツレの周囲に不定形の水がプカプカと複数個浮かび、ユニスへと殺到した。
ユニスは辛うじて、それを躱し、結界壁に沿って走り出した。
その後を追いかけるように次々と壁や地面に水が激突し、その余波だけで少しずつユニスへダメージが蓄積されていく。
(ボロボロなんですから、速く降参しなさいよ、こっちが辛くなってきますわ)
とナツレが考えている中、ユニスとはいうと
(とにかく避ける)
それだけだった。
ユニスがデランドから最初に学んだことは
(どんな攻撃にも予備動作がある)
デランド曰く、例えば、殴るにしても筋肉の収縮、発露、温度など様々な事がどこへ向かうか教えてくれる。
(私は攻撃に夢中で相手の動きを観察する事ができていなかった、でも、さっきの衝撃で目が覚めた)
ユニスは直前にブレーキを掛けた先に水が激突する、その飛沫を被るように前傾姿勢で前に屈むと頭上を通り過ぎるように水が通り過ぎた。
(目は水やナツレの動きを耳は空気の振動を肌は湿気の濃淡を鼻はナツレの体臭を舌は空気の味を総動員すれば魔力感知がなくたって)
ユニスにぶつかる直前水は破裂し広範囲を襲うがユニスは結界壁を蹴り上へ上へと有効射程距離から逃れたユニスをただ濡らすに留まった。
(ですが、このままでは体力がなくなり、いずれ倒れる)
ユニスは決断する練習では一度も成功していないあの技をすることに
(エディーカレントの時はできなかったけど次こそは)
それまで、壁をグルグル回っていたユニスは突如反転し、ナツレに向かって走り出した。
(パターンとして、次に来る選択肢は)
考え続けるユニスに対して、ナツレは考えから、困惑へと変わった。
(あらゆる方向から撃っているのに何故当たらない)
ナツレは持久戦で勝つ選択肢は論外であった、ただでさえ、魔力なしに苦戦しているのにそんな狡い手は彼女のプライドが許さなかった。
そんな混乱の中の最初を繰り返すような突撃である。しかし、ナツレは油断していなかった、できるわけがなかった。
(ここですべて終わらせるくらいなさい)
「フリークウエイブ」
その詠唱により結界全体を包み込むような巨大な波が出現ユニスへと迫る。
(さあ、上下左右どこへ避けても必ず当たりますわ、これで終わりですわ)
ユニスは
(狙い通り)
と急ブレーキをかけ、両足を揃え、右腕を頭上へ構えた。
そして、
「剣武、心剣一閃」
そのまま、振り下ろした何も持っていない手で、
普通に考えれば何も起こらない、剣も魔力もなければただのごっこ遊びである。しかし、完璧な体幹、腕の振り、重心そして、何より、相手を必ず、切るという殺気が寸分の狂いもなく揃えば、
目の前の波が消し飛ぶ、
そう、世界をも騙され、現象が勝手に上書きされるのだ。
これぞ、異界の剣、魔力が付随しない神秘である。
開けた先には形容しがたいナツレの顔、完全に思考が停止している。
ユニスは心剣を振った勢いすらも利用し、ナツレへ接近し、顔面へと拳を当てた。
「それまで、」
試験官のその言葉により、様々な思いや考えが交錯した試験が終了した。
そろそろ、ハイブリッドを始めようか悩む、読みたい人はいるのだろうか。




