セルマ、自分よりも下手そうな雅樹から弓を習う
セルマは雅樹の腕前を全く信用していないのだが…
雅樹の指導が今始まる…
~第6話~
早朝、雅樹が目を覚ますと既に起きて雅樹の目覚めを待つセルマがいた。
『雅樹、おはよ。いつまで寝てんの?異世界人は余裕が有るわね~』
『セルマ、おはよう。早く起きすぎだよ。そんなに弓の練習楽しみにしてたの?』
『私は元々早起きなんです!』
『雅樹が寝てる間に仕込んだ罠で魚が捕れたから朝ごはん食べるよ!』
セルマの朝は早い。狩人でも、全く弓を扱えないセルマは罠を仕掛ける狩猟をメインにする。罠の確認の為にも早起きなのだ。
しかし…雅樹の言った通り弓の練習が楽しみで有ったのも事実。
照れ隠しに強い言葉で誤魔化す。
『おっ!鮎じゃん。夕べ見かけたんだけと素手では無理だから諦めたんだよね。』
『さっさと食べて弓、やるわよ!』
『でも、数が多過ぎないか?全部は食べないんだよね?』
『うん、どうしよう。捕れ過ぎちゃった。』
大量に罠に掛かった鮎…このままでは痛んでしまう。フードロスは俺の嫌う所だ。
『じゃあ、開いて干すか…』
『何それ?』
『ナイフ貸して。』
セルマからナイフを借りた俺は手際よく鮎を開いていく。
『セルマ、塩ちょうだい。』
『ん。』
セルマは初めて目にする作業に興味を持つ。
『後は風と太陽に当てて乾いたら完成。その間弓の練習しよう。』
残った鮎を焼き朝食を済ませる。
食べながら俺は考える。
弓道の和弓とセルマの弓は違う。同じ教え方ではダメだろう。
『まずは、あそこに目印付けたから射って。』
『わかった。』
セルマは無造作に弓を引く。本当にただ弦を引っ張るだけだ。
そして適当に的の方を向くといきなり蔓から手を外す。
バイン…ヒュ~ン…ポトン…
うん、俺の知ってる弓の音ではないな。
『セルマ、なんで真っ正面を向いて弓を構えるん?射ちにくくない?』
『射ちにくい…』
『でしょ?まずは足を肩幅に開く、身体は正面を向かずに左足だけ残して右足は引く。やってみて。』
『弓は?撃たないの?』
『まずは足だけ。』
不満そうなセルマを宥めつつ30分程…ようやく姿勢が整い始める。
『よし、じゃあ次は弓を引いてみよう。』
『わかった。』
ようやく弓に触れるとわかるとセルマの機嫌は良くなってくる。
しかし、弓を引くその動作、無駄と無理の塊であった。
『弓は腕の力だけで引かない。持つときの角度、背中から肘、手首、この形を意識して、身体全体で引く!』
あまりの基本のなさに俺も指導が熱くなる。
『こっ、これでいい?』
『そう!それで射って!』
バシュッ!
先程の間延びした音とは違い聞き覚えのある音に変わる。
弓道の所作や考え方を教えた所で理解が簡単に及ばない事をわかっていた俺は弓矢の構造を加味した物理と人間工学に基づく指導をしたのが正解と感じた。
それに伴い飛距離も圧倒的に伸び始める。
『雅樹、遠くまで飛んだ!的にはまだ当たらないけど…』
『そこまで出来たら後は狙いだな…』
正直、ここが一番難しい。
『セルマ、後から補助するから今の流れをもう一回!』
そうセルマに伝える。セルマの後から身体を重ねるように弓を支える。
『ちょっ、何すんの!雅樹の変態!私だって
まだまだ結婚もできない行き遅れでも女の子なんだよ!』
セルマは顔を真っ赤にして、今までに見せた事のない早口で慌てる…
『いいから、弓に集中!まず深呼吸。』
スー、ハー、スー、ハー…
『落ち着いた?そしたら矢尻を見る。そして的と合わせる。この時矢尻と的重なる様に見える?』
『何となく…』
『ヨシ!じゃあその感覚覚えて。俺は危ないから離れるよ。』
『そのまま的を射って!』
『うん!』
セルマは少しづつ弓に馴れる感覚を覚えた。
雅樹の言葉を思い出し、矢を射る。
バシュッ!…シュッ…タン!
中心ではないが的の中に命中する。
『雅樹ぃ~産まれて初めて当たった…』
セルマは涙を流しながら嬉しそうに俺に振り向く。
『やったな!コレを何度も練習したらもっと上手くなるよ!』
『うん!頑張る!』
こうして夕方まで弓を撃ち続けるセルマの姿を見守る。
『さすがに腹が減ったな…』
セルマはまだ集中している。先程よりも更に的の中心近くに当たる様になっている。
俺の独り言が聞こえたセルマは口を開く。
『そう言えば何も食べてなかったね。私もお腹減った。』
『じゃあ晩飯にするか…』
その時、セルマは高い木の上に何かを見つけた。
『雅樹、あの木の上…何かある…今なら弓で落とせそう!』
『よし、やってみよう!』
セルマはおよそ20メートル位の高さに成る木の実を見つけた。
集中して狙いを定める…
バシュッ!…高所にある木の実の近くに当たり、枝ごと木の実が落下する。
『これ、ジャックフルーツだ!ご馳走なんだよ~』
嬉しそうに初めての弓での獲物を抱えるセルマからピコン!と音がする…
雅樹とセルマはいいコンビになりそうな予感が…




