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ガインとサリィママ

グロウの言いつけを守り夕方までに帰り着いた二人は…

~18話~ 



セルマと雅樹はルリの店を後にする…

二人とも疲労の色が濃く見える。

もっとも、雅樹とセルマでは疲労の意味合いが全く違うのだが…


『雅樹?ルリの言ってた事、暫定彼氏…本気にしてないよね?雅樹は胸がペッタンコの方が好きなの?』


『ブフォ!何言ってんの?なんで突然…』


『どっちなの?雅樹の奥さん…香奈さんの胸をジロジロ見てたんでしょ?それに私の胸も何度もチラチラ見てるし…そうかと思えばルリのペッタンコも…』


『あっ、あのなぁ、《街中》で…しかもまだ《明るい時間》…《シラフ》でする話しか?』


『なに?《夜》、《二人きり》で、《お酒》でも飲んでたら答えてくれるの?』


『いやいや、言葉を額面通りに受け取るな!』


『雅樹は…モテるんだね…』


『どこが?ルリ…日本にいた時の瑠璃だって趣味が合うから…って言っただろ?時代が合えばもっとハイスペックな男を…って。俺は代替品!』


『雅樹は…自己評価がメチャクチャ低いよね…』


『そんな事はないと思うよ?俺の周りには俺なんか及びもつかない人がいたから、俺は普通なんだよ。』


『はぁ~…もういいや…早く帰ろ?お父さんが待ってるし。』


セルマは雅樹の自己評価が異常に低い事が気になる。セルマからしたら雅樹は異常な位、それこそセルマが恋に堕ちてしまった位…凄い男なのにと感じる。


セルマは雅樹の前を楽しそうに歩く。

セルマの家に到着し、ドアを開けた時…ゴ~ン…ゴ~ン…ゴ~ン…ゴ~ン…ゴ〜ン…

夕方の鐘が街に響く。この世界では時計は高級品で庶民は置き時計を買うのが精一杯、懐中時計は富裕層が所持する程度、羨望のアイテムだ。


『ただいま~!』


『ただいま帰りました。』


二人は家の中に聞こえるように《ただいま》と言う。


『お帰り、二人とも。グロウは一緒じゃなかった?』


家の奥からグロウの妻、セルマの母のファイスが明るい声で出迎える。


『先に帰るって言ってたんですけど…コレから鍛冶屋を紹介したいから夕方の鐘が鳴る前に家に帰れと言われたんですが…』


『カイおじさんの店で別れたよ?』


『グロウは…どこで遊んでるのかしら…』


ガチャン…ドアの開く音がする。


『ただいま~、セルマと雅樹は帰ってるか?』


『あら、人に時間を指定しておいて遅れて帰ってきた約束も守れないロクデナシなオヤジが帰ってきたわねぇ~』


『ファイス、何を言ってるんだ…』


ここでグロウはファイスの頬にキスをし、小声で話しかける。


「セルマが雅樹をホテルに連れ込まないか監視してたに決まってるだろ!」


「ああ…そう言う事ね。何もなかったの?」


「悲しい位にな…」


グロウは内心雅樹の身の安全を喜んでいたがファイスに悟られない様にガッカリしたフリをする。

そんなグロウの報告を聞き、ファイスはため息を漏らす。


『はぁ~、セルマ、恋は駆け引きよ?強引に行く時、引く時、良く考えなさい?』


「それと…雅樹は搦め手が効くと思うわ。」


この一言は雅樹とグロウに聞こえない小声でセルマに囁く…


『それじゃあ、雅樹、出掛けるぞ!例の鍛冶屋を紹介するよ。』


『うん、分かった。』


『じゃあ私も行く!』


『セルマは留守番だ。』


グロウは先程、雅樹達の会話を盗み聞きしていた…意図的に《夜》、《二人きり》で、《お酒》を避ける為、留守番を命じる。



『なんで?』


『鍛冶屋で分からんか?アイツの行き先…』


『あ…うん、やっぱり私留守番してる。』


『そうね…セルマは行かない方がいいわねぇ。』


『そうだろ?俺だってセルマを連れて行きたくないからな…』


この会話を雅樹は…


《おいおい、どんな所に俺を連れてく気なんだよ…》


雅樹は複雑な顔で聞いている…


『じゃあ、話がまとまった所で…雅樹、行くぞ?』


『いや、まとまったのはグロウ達だけだ!俺は何も分からん!』


『…まぁ…行けばわかるさ…』


『雅樹…気をつけなさいね?』


『雅樹…ご武運を!』


『俺をどこに連れて行く気なんだよ~!』


こうして無理矢理グロウに引っ張られ…雅樹は連行されて夕闇に染まる街に…


繁華街の外れ…怪しい雰囲気が漂う店…バーだろうか?

看板を見る雅樹…

それを気にする事なく、グロウはバーを背中にして右手の親指でココだとジェスチャーで示す。


『バー…マカオ?地球のマカオ?』


『まぁ、入ればわかるさ…』


いつものグロウとは歯切れの悪さが残る話し方だ…


カランカラン…扉が開かれると想像以上に明るい店内…むしろ明るすぎる。


『あら~、グロウちゃん!いらっしゃ~い!そちらのイケメンはだぁ~れ~?』


妙に甲高い男の声がする…

声の主を見つめる雅樹…

やたらメイクの濃い、がっしりした筋肉質の…男?


《あっ、コレ…地球で言うところの、三丁目によくあるオカマバーだ…》


『コイツはマスターのガインだ…』


『ヤッダ~、マスターじゃなくて…マ・マよ?それにガインじゃなくて~、サリィって呼んで?それであなたは?』


中々濃い自己紹介だが雅樹は動じてない。


『はじめまして、俺は英雅樹です。お見知りおきを。ママ、コレからよろしくお願いします。』


『ヤッダ~、ステキ~!グロウちゃんが連れてきたからどんなデスペラード(ならず者)かと思ったわ~』


『おい!ガイン、俺を何だと思ってやがる!』


『キャ~、グロウちゃんが怖いわ~、助けて雅樹ちゃん~』


『アハハハハ…』


雅樹は乾いた笑い声を出す。


『それで~?今日は何しに来たのかしら~?お酒?それとも…ワ・タ・シ・に愛(会)に来てくれたのかしら?』


『まぁ、愛ではないが…会いに来たのは間違いじゃねぇな…サリィではなくて鍛冶職人のガインにだ!』


その言葉を聞いたサリィママ…急に真面目な顔に変わる。そして甲高かった声が落ち着いた低い声へと変わる。


『ふぅ~、で?話ってなんだよ…グロウ、お前じゃなくてそっちの雅樹の方が用件があるようだな…』


『さすがだな、ガイン。雅樹は転移者だ。今日一日で俺は狩人って存在に疑問を持った。気ままに得物を狩り、適当に売って…それを雅樹が俺の常識を叩き壊しやがった…その中でも新しい調理機材を使ってロームや他の肉屋が更に売上をあげる…そうすると客がより生活の質が上がる。そうなると俺の肉の価値が上がる…』


『俺はそんな大層な事は言ってないよ?ただ、無駄な事を有効活用して、売り手、買い手、お客さん全てが笑顔にって言っただけだよ。』


『なんだぁ?そんな考え方…はじめて聞いた。商売人なんてなぁ、テメェがまずは儲ける。そんなヤツばかり見てきたがなぁ。』


『だろ?そんな雅樹にウチのセルマがガチ惚れしやがった。』


嬉しそうにグロウは付け加える。


『雅樹の何がスゲえって、鹿を一頭ロームんとこに卸す。すると大体10万…雅樹がやったやり方だと、おおよそ30万…三倍だ。俺は目から鱗が落ちる思いだった。』


『そりゃあ、スゲェな…どんな売り方したんだ?押し売りや詐欺をした訳じゃないだろうしな。そうならグロウがすぐに気がついて、ぶん殴ってるな。』


『いいか?雅樹は鹿を…』


今日一日の雅樹をグロウがガインに語る…


『でな?何が一番腹が立ったかと言うと!カイのヤロー…』


シラフでグロウはガインに語り続ける。

そんなガインは雅樹の行動に興味を持つ。


『雅樹、サリィママではなくて、鍛冶職人のガインに何を頼みたい?お前の人柄、能力はこの脳筋馬鹿が全て語った。後は雅樹、お前の言葉で話せ。』


ガインから、鋭い視線を向けられる。


『俺は向こうの機械、ミンサーを作って欲しい。』


『それで?何に使う?』


『今、ひき肉は包丁で細かく叩く事で作られる。けど、それは凄く手間がかかる。それをミンサーを使う事で簡単に、手早く出来る。』


『ほう…』


『簡単にひき肉が作れるなら、クズ肉とされている部位も有効活用出来る。ひき肉はレシピがたくさんある。肉屋も、料理を作る人も、俺のやり方で肉を卸す人も全て無駄がなくなる。』


『しかし…ソイツを一つ作ったって、そんなに変わらんだろ?』


『なんで一台だけ?業務用から、一般家庭用、需要はかなりあると思うけど。』


『そうか…じゃあ、まずは一台だけ作ってやるか…』


『雅樹、明日グロウと一緒に俺の工房に来い。』


『ああ、必ず。』


『それじゃあ、そろそろ帰るか…』


『あらぁ~?グロウちゃん?折角来たのに何も食べずに、飲まずに帰る気~?それはないんじゃないの~?』


『そうだね。折角だからサリィママのオススメの酒とご飯、ご馳走になって帰ろうか?

ねぇグロウ?』


『敵わねぇなぁ…』


こうして、何度もグロウ、サリィママと乾杯をしたか…


『雅樹ちゃ~ん?呑んでる~?ハイ、おかわりのウイスキー、もちろんグロウの払いよ~!』


『ママありがとう。グロウもありがとう。』


『そう思ってるなら手加減しろよ!何杯目だよ!』


『あら~?《まだ》ウイスキーロック、8杯よ?』


『何言ってやがる!《もう8杯も》だ!一杯いくらなんだよ…』


『ウチは明朗会計…全部時価よ?』


『アハハハハ…明朗会計じゃないアハハハハ…』


『ああもう!俺も呑む!』


『ハ~イ、グロウちゃんにはカクテルのアースシェイカーと、XYZ、オ・マ・タ・セ』


『どっちもクソ強い酒じゃねぇか!ちなみにガインがマスターなら…俺に何を呑ますんだ?』


『俺なら…か?スピリタスだな…』


『俺を殺す気か!』


『違うわよ~!酔い潰してぼったくるだけよ~』


『どのみち死ぬじゃねぇか!』


雅樹はこのやり取りで涙を浮かべて笑う。

それを見てグロウが静かに優しく雅樹に話しかける。


『雅樹、やっと笑ったな…昨日から見てたが、やっぱり無理してたんだな…』


ピタリと雅樹の動きが止まる。


『そんな事はないよ?』


『お前の嫁さんの話、辛そうに語ってた。俺もファイスがいるからな…よくわかる。』


その言葉に雅樹の肩がビクッと震える…

涙声で雅樹は漏らす…


『俺は…香奈に会いたい…声だけでもいい…』


グロウが雅樹の肩に優しく手を乗せる。


『なぁ、雅樹の気持ちの整理がついたらセルマの事、考えてやってくれんか?』


『俺には…香奈が…』


『ああ、知ってる。よく知ってるよ。雅樹が嫁さんを一途に愛しているのを…な。今すぐじゃねぇ。いつかお前の心が…震えた時でいい。』


そしてグロウは一呼吸おき、続ける。


『だが…流されて…だけはイケねぇ。セルマは母親のファイスに似てイノシシだ。欲望や寂しさから手を出したら…終わりだ…』


『あらぁ~?グロウちゃん、経験者は語るって、ヤツかしらぁ~?ファイスちゃんに迫られて、押し切られていつの間にかベッドイン…気が付いたら結婚して~』


『ああ…俺はファイスを愛していたし、何より独り身だったからな…だが、雅樹は違う。セルマを愛せるなら後悔なく幸せになってもらいたい。いいか?セルマとファイスには気をつけろ!まるで蜘蛛の巣だ…絡め取られたら…終わりだ…』


その言葉を最後にグロウは酒に負け…深い眠りに落ちる…


『あら~、グロウちゃんったら…しょうがないわねぇ~。ツケにしとこうかしら。如何しましょう、雅樹ちゃん…10万円とでもしとく?』


『さすがに10万は…せめて半分の5万に。』


『アハハハハ、雅樹ちゃん少し晴れやかな顔になったわねぇ~、今夜は私の奢りでいいわ!それじゃあ、グロウちゃんをファイスの元に届けてあげましょうか?』


バー・マカオは閉店の看板を出し店内の照明は落とされた。


二人は酔い潰れたグロウを両肩で抱え家路に向かう。


『ふぅ~、ったく、グロウ、重すぎるぞ…』


『ガインがいてくれてよかったよ。』


『じゃあ、玄関先だが、もう大丈夫だろう?』


『ええ。ありがとう。明日必ず伺うから。』


『ああ、今日は雅樹と出会えてよかったよ。お休み』


『俺もだよ。お休み』


雅樹はグロウを担ぎ、何とか家に帰る。


『あらぁ、グロウったら。雅樹、一緒にベッドに運ぶの手伝ってくれる?』


『はい。行きますよ?せーの!』


グロウを寝かしやっと身体が軽くなる。


『雅樹、お風呂入る?それとも呑んだ後だから止める?』


『呑んだので身体を拭くだけにします。』


『そう。それなら私はもう寝るけど、後はよろしくね?』


『はい。おやすみなさい。』


雅樹はバスルームへ向かう前に着替えを取りに部屋に向かう。

ピコン!またステータスから呼び出し音が…


『ステータスオープン!』


そこにはスキルが点滅し、new!の文字が…


『スキル…《危険予測》、《気配察知》、《緊急脱出》…一気に三つも…《危険予測》から見てみるか…』


《危険予測》…多方向からの情報を拾い、危機を察知する…

《気配察知》…物陰に潜む気配を感じる事ができる。レベルが上がれば対象の形、姿が感覚で分かる。

《緊急脱出》…身の危険を感じた時、いち早く、自然に脱出可能。


『今日、一日で…気配察知は鹿の気配を感じた…危険予測…これはグロウとの会話か?最後の緊急脱出…これは…セルマを躱し続けたから…か?』


その頃…

ファイスはセルマが入浴中なのを思い出した…


《そう言えばさっきセルマがお風呂に…まぁ、いいか。なるようになるでしょ♪もしかしたら雅樹も酔ってるし♪》


ファイスは嬉しそうにクスクスと笑っていた…

雅樹はファイスが張り巡らせた蜘蛛の巣に足を踏み入れようとしていた…


ファイスが良からぬ悪巧みを考えていた頃、雅樹は着替えを手にして、バスルームへ向かおうとしていた…


ピコン!雅樹もステータスから再び呼び出し音が…


『今度は何だ?初心者パック…new!か…』


雅樹は初心者パックに指を伸ばす…


《初心者パックからのお知らせです。マスターの昨日からの行動結果に伴いスキル三種が付与されました。《脇の甘い》マスターの為、常時発動とさせてもらいます。通知音はマスターの中だけで聞こえるか、マスターの身体から直接鳴るか、選択可能です。《以後、要注意…ですよ?》


『初心者パック…こんな文章だった…かな…?』


雅樹は釈然としないままバスルームへ再び向かう。


バスルームの鍵は掛かってないのを目視で確認すると雅樹は扉に手をかけようとする。

突然雅樹の脳内で…ピコン…ピコン…ピコン、ピコン、ピコピコ…懐かしの特撮ヒーローのタイマーそっくりな音が響く…


『うわ!…何だ?』


その瞬間、雅樹は日本の英家の風呂場の前にいた…


『雅樹?由香がお風呂に入ってるわよ?ノックしたのかしら~?』


《か…香奈?香奈の声が聞こえる?香奈…香奈ー!》


気が付くと目の前にはセルマの家のバスルームの扉が…


雅樹は日本の自宅のバスルームと同じ感覚で扉をノックする…コンコンコン…


《香奈に、よく叱られたなぁ…》


誰もいないと思っていたバスルームからセルマの声が返ってくる…


『は~い、入ってるよ~』


《あっ危なかった!香奈の声が聞こえて良かった…》


『ああ、ゴメン、誰も入ってないかと思った。セルマ、おやすみ!』


《危ない!日中セルマの言ってた《夜》、《二人きり》、《お酒》全てのワードが揃ってた…コレは、危険予測、気配察知、緊急脱出…全て役にたった…》


危うく、グロウの忠告を忘れていた事に気が付き、セルマに声を掛けると大慌てで部屋に戻り、眠れぬ夜を過ごす事となった…


その裏でファイスが恋愛戦争の黒幕である事を雅樹は知らない…

そしてまた、夜が明けた…


ガインもサリィママもキャラが濃い…

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