ミンサー計画始動
グロウは案の定二日酔い、雅樹は昨夜サリィママ(ガイン)との約束の為に外出、セルマとファイスは…
~19話~
二日続けてよく眠れぬ夜を過ごした雅樹。
朝食の時間になってもグロウは起きてこない。
『全く…グロウったら二日酔いなんだって。』
ファイスは呆れ顔だ。
セルマはセルマで…
『全く、雅樹は早起きなのに、お父さん何やってるんだか…』
『いやいや、グロウはサリィママにかなり呑まされてたから。最後はアースシェイカーとか、XYZとか…』
『あら?雅樹は呑まなかったの?あの呑ませ魔のサリィママにやられなかった…?』
『ウソ、サリィママに会って無傷って…』
『《そこそこ》呑んだけど、サリィママにおかわりよぉ~、ってウイスキー8杯かな?』
『雅樹…8杯はかなり、結構な量だよ…』
『そりゃあグロウも潰されるわ…サリィママも喜んでたでしょうねぇ…』
この後セルマとファイスは小声で雅樹に聞こえない様に話す。
「雅樹は酔わせて…って無理っぽい」
「そうねぇ、そこは作戦変更ね…」
『どうしたの?二人とも?』
『なんでもないわ。今日はガインの所に行くんでしょ?セルマはどうするの?行かないなら《二人でお茶》でもしない?』
『そうだね、ガインさんの所なら雅樹もわかるもんね?今日は案内はいらないかな?』
そう…ファイスの御茶の誘いは作戦会議のサインでもあった。セルマはそれを見逃さなかった。
『今日はガインの所と、多分、《ルリの所》も行かないといけないだろうけど…うん、どっちも道はわかるから大丈夫だよ。』
雅樹は道順を思い出しながら応える。
ミンサー…家庭用ならガインだけでも大丈夫だが、業務用ならルリの歯車の技術も必要と雅樹は直感で感じていた。大量の肉を扱うには家庭用ではパワー不足。この問題は歯車によるギア比などで解消される…しかし…ルリの所…この一言でセルマが動揺しはじめる。
『ルリ?あっ、あそこは道が…紛らわしくなかった?』
『確か…大通りから一本入ったところだよね?』
『その入る場所!そこが紛らわしいよね?ね?』
『そうだっけ?パン屋かな?アレを曲がればすぐだったよね?』
『そっ、そのパン屋…名前は覚えてる?何件もあるよ?』
『迷ったら大通りにある《マリー》さんに聞くよ。』
『マリーだって忙しいの!仕事の邪魔はしちゃダメだよ!』
口元を隠してファイスは声を殺して笑う。
『雅樹、ゴメンね。お茶はキャンセルで。セルマが雅樹と他の女を二人きりで合わせたくないって慌ててるのを見ちゃったら…』
またもファイスは笑う。
『お母さん!何言い出すのよ!他の女って…』
セルマは頬を赤く染め、少し俯きながら、人差し指の先をツンツンと合わせ、雅樹をチラチラと見つめる。
その様子を満足そうに見つめるファイスは更なる追撃を放つ。
『雅樹はルリを恋愛の対象にしてないわよ?もちろんマリーもね?だけど…二人に嫉妬したんでしょ?ねぇ、セルマ?』
ファイスはセルマに言い聞かせる様に見せ、実際には雅樹がセルマの嫉妬を意識するように言葉を選ぶ。
この時、雅樹の頭には…ヴィーン、ヴィーン、日本でよく見て考察を重ねたアニメのパターン青!使徒です!のサイレンが響く…
雅樹はスキルによるモノなのか…本能なのか…わからないが危機を察知し、回避運動に舵を切る。
『そっ、そうだ!もうガインの所に…行かないと!いってきます!』
『雅樹!私も行くから!』
こうしてドタバタと慌てて家を飛びだす二人は猛スピードでガインの待つ工房へ向かう。
徒歩15分…しかし猛スピードで走り抜けた二人は5分程で到着する。
『ガイン、おはよう!昨日はご馳走さま!』
雅樹は息切れもせず余裕の表情…セルマは呼吸もまともに出来ない状態でヒューヒューと喉を鳴らす…
『おお…雅樹おはよう。セルマはどうしたんだ?』
『あっ…セルマ…ゴメン…《普通》に走っちゃった…』
『ヒューヒュー…ヒューヒュー(雅樹…それ《普通》のスピードじゃない…)』
セルマは声にならない声で返事?を返す。
『セルマはそこで休んでて?ガイン、昨日のミンサーなんだけど…』
雅樹はブーツを取り出すとガインに説明をはじめる。
『まず、ブーツの足を入れる所、ここから肉を入れるイメージ。つま先からひき肉が出る感じをイメージして欲しいんだ。』
『ああ、何となくわかる。』
『つま先なんだけど、ここに沢山穴の空いたプレート、その内側にカッター。投入された肉が外に押し出される時に回転するカッターで細かく切り刻まれて穴から出てくる…』
雅樹は図面を簡単に書きながらミンサーの基本構造をガインに伝えた。
『なるほどな…カッターにこの棒、スクリュー状のモノをとりつけて…スクリューが肉を奥に運ぶ…』
『そう!肝心なのはカッターとプレートにすき間があるとダメなんだよ。』
『たしかにな…それとこのブーツ状の部分、スクリューを使うなら中にも溝、コレを付けないと…』
『ご明察!』
『だとしたらブーツ状の本体、スクリュー、プレートは鋳型がいいな…鋳型は型が作れれば比較的簡単にできる。問題は…型をどうするか…』
『そこでだ!ルリって細工職人がいるんだけど、かなりの腕前だ。コレから呼びに行くよ。』
ここで少しだけ回復したセルマが…
『まっ、まさ、雅樹、ルリの…所に…行く…なら私も…一緒に…』
『セルマ…大丈夫?無理しなくていいよ?俺がルリの所に行くから。』
何が何でも雅樹とルリを二人きりにしたくないセルマは必死で訴える。
『だ…大丈夫…だから…だから…私も…』
『そっ…そう?だったらセルマ…申し訳ないけど、ルリを呼んできてくれる?』
セルマは《思っていた答えじゃない!》心で叫びながら…
『まっ…任せて!』
とふらつく足取りでルリの所へ一人で向かう。
内心では《雅樹とルリを二人っきりにする位なら…》とフラフラしながら思うのだった。
『なぁ、雅樹…セルマをあえて遠ざけてないか…?』
『そんな事はないよ…』
『俺はお前が必死にセルマに惹かれない様にしている様にしか見えないぞ?』
雅樹は日本に残された妻、香奈を思うと胸が張り裂けそうになる気持ちを心の奥にそっと隠す。
『セルマはイイ子なんだよ。俺よりももっとステキな相手が…』
『おい、雅樹。お前は肉を切るときに無理矢理切断するのか?俺は肉はよくわからんが、包丁の走りやすい動き、肉の繊維は見ないのか?俺が鉄を打つ時は少なくとも鉄の声を聞くぞ?セルマにはそれが出来てるのか?』
雅樹は言葉を飲み込む…
『俺は…』
『別に今すぐに答えを探す必要は無い。グロウはお前を何でも出来る器用な男と評価してるが…俺は真逆だ…何でも出来るようにひたすら努力を重ね続けている究極の不器用な男。器用貧乏だとな。俺は小器用な男よりも器用貧乏な男が好きだがな。』
『ガイン…ありがとう…』
雅樹は自分の心の内を見透かされた様な…恥ずかしいがヤケにスッキリした気持ちになった。
『しかし、ガイン、よく見てるね。昨日会ったばかりとは思えないよ…』
『あら?雅樹ちゃん?私のもう一つの顔…忘れたのかしらぁ~?』
急にガインからサリィママに変わったガイン。
『プッ…さすがだな…接客のプロだって忘れてたよ。』
『焦るなよ?ゆっくりでいいんだ。ゆっくりで…』
その後セルマの帰りを待たされる二人であった。
セルマは女性と雅樹を二人っきりで合わせたく無かった…しかし、先程まで雅樹はサリィママと二人っきりであった…
今回もセルマが酷い目に…
決してセルマが嫌いではないんです!
ただ、そうなってしまって…
セルマ…不憫な子!




