雅樹…人妻から求められる?
グロウの心配を余所に雅樹は上機嫌で街を歩く…
~16話~
雅樹は張り切っていた。
ロームの肉屋だけではなく、その他にも何件か取引出来そうな店をみつける。それは鹿だけではなく、それぞれが得意とする牛、豚、鳥と。
上機嫌な雅樹はグロウに声を掛ける。
『次は…鍛冶屋ですね。』
『ああ…雅樹よ…お前さんの体力どうなってんだ…?』
さすがに疲れたのかグロウも口数が少なくなる。
その後をトボトボと付いてくるセルマに至ってはほぼ無言だ。
『雅樹、もう疲れた…帰ろうよ…』
その時、ピコン!と聞き慣れたステータスの通知音が…
その音を聞いた途端にグロウとセルマは休むチャンス到来と雅樹に話しかける。
『雅樹!ステータスの確認なら落ち着いて座ってやらんとな!そこ、あそこの店がコーヒーが旨いんだ!』
『雅樹、お父さんの言うとおり!コーヒーがイヤなら、向こうの食堂は?煮込み料理が美味しいの!』
二人は兎に角座りたい…
『煮込み料理?それってシチューとか?』
雅樹の疑問を聞き、二人は首を縦にブンブンと激しく振る。
二人の様子を見て雅樹は、ずっと休憩も取らずに二人を連れ回していた事に気が付く。
『そうですね。じゃあ煮込み料理でも頼んで、ゆっくりステータスの確認でもしますか?』
またもや二人は首を縦にブンブンと振る。
そのままセルマに引っ張られるように雅樹は煮込み料理が美味しいと言われた店に引きずり込まれていく。
『へぇ~、落ち着いた店ですね。お客は結構入っているのに騒がしくない…食堂ってより少し敷居の高いレストランって感じかな?』
『おう、俺もファイスとたまに来るんだ。』
『そうそう、お父さんとお母さん、未だデートしてるから。夜もね…』
『あ~、セルマは雅樹とデートしたいんだろ?だから俺達が羨ましいんだよなぁ?』
グロウは何故かセルマの言葉を遮るように煽った。
『セッ、セルマ、レストランの人とは仲が良いの?知り合いなら紹介してくれる?』
雅樹も自分に不利な会話のネタが出た為、慌てて話を差し替える。
『うん、ココのオーナーの奥さん、私の同級生なんだよ~!あっ、マリー!』
『アレ?セルマ~!いらっしゃい!どうしたの?』
『はじめまして、マリーさん。俺は英雅樹です。昨日この街にやって来ました。』
『私はマリー。この店の料理は私が作ってるの。セルマの高校の同級生。よろしくね。ねぇ、セルマ…私を呼んだって事は…雅樹を紹介?』
『うん…』
嬉しそうにマリーの言葉を肯定しようとするセルマに雅樹は言葉を被せた。
『今日は、グロウさんの獲ってきた肉の話を!
その前に煮込み料理が美味しいって聞きました。それを三人前お願いします。』
『は~い、それではテーブルにご案内するわね。煮込み料理は、シチュー、ポトフ、鶏のトマト煮込みがあるけど、どれにする?』
『シチューはどの肉を?』
『今回は牛のスネ肉よ。その時の仕入れで使う肉はかわるけどね。鹿もたまに使うわよ?』
『そうですか。でしたらシチューでお願いします。』
席に案内された三人はテーブルを囲む。
『なあ、雅樹はさっき我に勝算あり!って言ってたけど…どうするんだ?まだスネ肉や肩、首が残ってるぞ?』
『大丈夫。まずは料理が来るのを待ちましょう。』
『雅樹の事は信じてるけど…大丈夫?』
『任せて!』
『雅樹、お前の口調、俺にもセルマに話すようにしてくれていいぞ。まだるっこしい。』
『そう?遠慮しないけど、大丈夫?』
『ああ、それでいい。』
『じゃあコレからは普通に喋るよ。』
『は~い、お待たせしました。牛スネ肉のシチューです。』
『マリー、ありがとう!雅樹もお父さんも食べよう!』
三人は遅めの昼食を食べ始める。
グロウは旨い旨いと一気に食べ進める。
セルマはシチューが気に入ったらしくマリーにレシピを教わる。
雅樹はシチューの味を確かめながら、シチューのスネ肉の味もゆっくりと確認しながら食べ終える。
『それじゃあステータスの確認するよ。ステータスオープン!』
雅樹は見慣れたステータスを確認する。スキルにnew!と、初心者パックにnew!が点滅している。
まずはスキルから…
『あっ、スキル《解体》獲物の血抜きから、解体全て無駄なく行う事が出来る。次は…《運搬》物を運ぶ時に重量が軽くなりたくさん運べる…次は《交渉》相手の懐に入りやすい…』
『なあ…雅樹、スキルが発現してめでたい事なんだろうけど…スキルが現れる前にお前、スキルと同じ事が出来てたよな?』
『私もそれ、不思議だった。今なら弓術スキルあるけど、私に弓を教えてくれた時はスキルなかったよね?』
『俺には元々地球で経験積んでたからね。それがたまたま発現した…かな?』
あまり不思議に思わない雅樹…続いて初心者パックを開く
《今回発現したスキルは、マスターが学んだ事が相互作用により発現しました。今後スキルを使い続けると更に上位スキルに発展します。また、昨夜のスキルはマスターの悲しみだけではなく、《地球に残された者の悲しみ》も同時に背負う事により発現しています。》
『なんだか今までの説明より親切な説明だね?雅樹。』
『なんだろう…少し違和感を感じるけど…』
ステータスの確認を終えた雅樹達は次の目的に向かって行動に移す。
『マリー!ごちそう様でした~!』
『マリーちゃん、旨かった。次はファイスと来るよ。』
『マリーさん、美味しかったです。それで、今日ここに寄らせてもらったのは…』
『セルマとの結婚の挨拶かしら?』
『違いますから!ココの煮込み料理、かなり丁寧な作り方ですよね?多分血抜き、アク抜きに時間を掛けてるんじゃないですか?』
『あら?よくわかったわね。』
『まず、肉に生臭さが残っていなかった。血抜きが不十分な肉がかなり出回ってると、この街に来て俺は思いました。』
『それでウチの料理を食べて、血抜きをしっかりやってると気が付いたと。』
『そこで、今日持ってきたこの鹿のスネ肉、肩肉、クビです。まずはマリーさん、見てくれますか?』
『全部すじが多い部分ね。ウチの料理に向いてるわね。ん…?この肉は血抜きしてある?』
『ご明察!さすがですね。優れた料理人のマリーさんなら見ただけで気が付くと思いました。』
『これは〆た時に血抜きしたのよね?肉屋は十分に血抜きをしてない獲物をそのまま解体するから生臭さが残ってる…雅樹の持ってきた肉は違う!コレを使えば手間だけではなく、無駄な血抜きで肉の味が損なわれない!』
『そこです!手間だけではなく、肉の味が深くなる。しかも、この肉は今朝仕留めたばかり。多少熟成に時間はかかるかもしれませんが、クビやスネ肉ならそこまで熟成を必要としません。ステーキとかなら話は変わりますけどね。ちなみにバラも骨付きでありますよ?』
『何でウチが欲しい物を全部分かった上で最高の状態で…セルマ…雅樹を頂戴!』
『ダメェ~!雅樹は、雅樹は渡さない!』
『あらら…残念ね。最高の肉の仕入担当になりそうなのに。すっかりセルマの家に囲われてるのね?』
マリーはセルマを揶揄うように意地の悪い言い方をする。
『雅樹、いいわ!あなたの言い値で買う。』
『ありがとうございます。スネは相場だと1100円ですがキロ単価1200円でどうでしょうか?肩肉、クビはキロ単価1500円で。バラは骨付きなので1300…如何ですか?』
『O.K.肉の品質の手数料としても安いわね。全部買うわ。』
『でしたら…スネは3キロ3600円、クビ、肩合わせて7キロ、1万飛んで500円、バラは1.5キロ、1950円ですね。合計1万6050円です。』
『O.K.すぐに用意するわね。』
こうしてマリーとの交渉も無事に終えた。
店の外に出ると…
『雅樹、肉は全部売れたな…俺の言いたい事…分かってるよな?』
『まだ2万5000円近く足りないって事だよね?次は剥製工房だよ。案内よろしく!』
こうして雅樹は二人を引っ張るように先に進む。
『雅樹…お前って男は…セルマ…コイツは相当苦労するぞ…大丈夫か?』
『雅樹が大丈夫って言うなら大丈夫!私は信じてる。無茶な事を成し遂げる人って分かってるから。』
『そうか…なら何も言わんよ…さあ、雅樹が迷子になる前に追いつくか…』
『ココが剥製工房…』
『どうした?入らんのか?』
『いや、思ったより大きいな…って。』
『そうか?貴族御用達だから儲かってるのもあるが…ココの職人は腕っききだから繁盛してるからなぁ。』
ガランガラン…扉を開けると音がなる。
『よぉ!グロウじゃねぇか!ファイスに追い出されたのか?』
『バカ野郎!そんな訳あるか!今日はコイツを連れてきたんだ!雅樹、コイツはカイ。見ての通りアホだ。』
『はじめまして英雅樹です。』
『おお、筋肉馬鹿のグロウのツレなのに礼儀正しいじゃねぇか!俺はカイ。敬語もいらねぇ。よろしくな。』
『じゃあ、遠慮なく。今日は鹿の頭を持ってきたんだ。どうかな?剥製…出来そう?』
『まだ鮮度もいいし、立派なのができそうだな。何より頭に傷が付いてないのがイイ。』
『仕留めたのは雅樹か?グロウなら剥製とか関係なく頭を狙うからな。』
『獲物を一発で仕留めるなら頭を狙うだろ!剥製は貴族の嗜みかもしれんが、平民は生きるために狩りをするんだぞ!』
『俺が初めて仕留めたんだけど…よかった、使い物になるなら。』
『で?コイツはどうするんだ?剥製にして欲しいのか?それとも買い取って欲しいのか?』
『買取なら、いくらで買ってくれる?』
『コレだけの上物なら…5万だな。』
『ウソだろ!俺が持ってきた時は2万だったじゃねぇか!』
『そりゃ状態で決まるさ。お前はヘッドショットだから顔が潰れてる。けど、これは美品だぜ~?価値が違うのよ!』
『クッソー、鹿の頭の買い取り価格も、売上も簡単に10万いっちまった…全部雅樹の掌の上か…』
『あっ、グロウ…狩りのウデならグロウの圧勝だよ。俺は鹿を余す所なく利用したかったからこのやり方をしただけだから。』
『雅樹、グロウは馬鹿だから、商品価値が分かってねぇんだよ。だから、効率命でヘッドショット決めるんだ。今回は雅樹にヘッドショットを打ち込まれたみてぇだがなぁ。』
カイは落ち込むグロウを見て、心底楽しそうに笑う。
『雅樹、お前まだ隠し球持ってんじゃねぇのか?』
『実は…毛皮が丸っと。クビから下全部。もちろん切り取ったりしてないよ。』
『やるじゃねぇか!見せてみな。』
雅樹から鹿の毛皮を受け取るカイ。
『雅樹、お前、これは肉を獲らなかったのか?』
『もちろん全部取って、肉屋や料理屋に卸した残りが頭と毛皮だよ。ちなみに、これはモモ肉運ぶのに骨があった方が楽だから付けたままだったんだけど、ロームさんの所で外した大腿骨。』
『とんでもねぇな…普通、食肉に加工するなら肉の鮮度が優先でここまで見事な解体は中々出来ねぇんだよ。毛皮なんか切れっ端にされちまう。しかもこの大腿骨。骨にも傷がない。』
『よかった…俺の予想だけで皮を剥いだから。褒めてもらえて嬉しいよ。』
『こいつぁ、15万でどうだ?』
『そんなに価値が?それで!』
『ウソだろ!肉屋で10万が…頭じゃなくてクビを狙ったならカイに20万で売れたのか?』
『バカ野郎、処理が丁寧だったのも加味してだ!頭も血抜きしてあるからすぐに作業に入れる。ちなみになんだが…骨以外にも何かあるのか?』
『今回は頭と毛皮と大腿骨しか持ってきてないよ、クビや肋骨は売ってしまったから。』
『そうか…大腿骨は細工職人がいるからソイツを紹介してやる。雅樹の仕事ならヤツも気に入るハズだ。地図書いてやるから行ってきな。』
雅樹は地図を受け取り、場所を確認すると…
それまで置物と化したセルマがようやく動き出す。
『カイのおじさん、ここって…』
『おっ!セルマ、ようやく動いたか?商売の話で目が死んでたぞ?グロウとそっくりだなぁ。顔や胸のデカさはファイスそっくりだけどなぁ』
カイはセルマを揶揄い、豪快に笑う。
セルマは両手で胸を隠す…
『おじさん!奥さんに言いつけるよ!』
『ソイツはイケねぇ。ウチのからファイスに話が行っちまう!雅樹、細工職人は若くて美人だぞ?それこそセルマと同じ位のな!まぁ、胸は薄いけどな…』
雅樹は状況が飲み込めず、隣のグロウを見ると、グロウは無言でカイの話に首を縦に何度も振っている。一方でセルマは落ちつかない様子で、何度もチラチラと雅樹を眺める。
『この細工職人…私の後輩…スッゴい美人で、私と同じ独身…』
何となく状況を察した雅樹…
『そこ、行きにくくないか?』
そんな雅樹を余所にグロウが雅樹の背中を叩く。
『気にするな、雅樹が胸のない女が好みならアレだがな!兎に角会ってこい。俺は一旦帰る。セルマ、後は頼むぞ?間違ってもヘンな所に雅樹を連れていくなよ?』
『ヘンな所って…なによ…いか…ない…わ…よ?うん、行かないから!』
雅樹の考え方…手間を掛けて利益を高くするか…それとも、手間を惜しんで確実に取れる利益をもとめるか…みなさんならどっちですか?




