雅樹、始動開始!
ついに雅樹は商談をはじめる…
~第15話~
『雅樹ぃ~!待ってよ~!お嫁さんって~。』
『雅樹、もう少しゆっくり歩け!』
セルマとグロウは、先を歩く雅樹を呼び止めようとするが、先程の失言を誤魔化したい雅樹の歩調は変わらず速い。
息切れする二人を置き去りに近い形で雅樹は街の門をくぐり、二人の到着を待つ事となる。
《コレだけ急がしたらさっきの失言…忘れてくれるかな…》
置いてけぼりをくらう父と娘は追いつく事を諦めた…
『なぁ、セルマ…雅樹なんだけどよぉ。』
『雅樹凄いよね~。弓だけでなく、鹿の解体もあっという間だったし、鹿の肉のほとんどを雅樹が担いであんなに速く歩くんだもんね~』
『お前が雅樹に真剣に惚れたのは、よくわかったよ…』
『んなぁ!惚れ…惚れたって!』
『隠すな隠すな。俺にもファイスにもバレバレだ。ただな…あまり雅樹にグイグイ行くとな…』
『なによ?雅樹がチャンスは逃すなって昨日言ってたでしょ?』
『それは商売の話だ…恋愛は別だろ…』
グロウはセルマに言い聞かせるように優しく話す。
『雅樹…向こうの嫁さんの話をすると顔は笑ってても目がよぉ…泣いてるんだよ。俺も訳も分からん所へいきなり連れて行かれて、結婚がどうの…とかいきなり言われたらファイスを思うとよぉ…』
グロウは昨夜見た雅樹とセルマの一件には触れない様に話す。
セルマはグロウの言葉に思い当たる節がある。
『だから私が向こうの奥さん以上の存在になればいいんでしょ?』
『そうだな…だけどな?死別や離婚ではないんだぞ?さっきまで最愛の妻がいて、いきなり離れ離れにされて…そこにセルマ、お前が雅樹の傷ついた心を利用して女を使って落としたら…』
『おっ、女って…』
『雅樹は違う。この世界は重婚O.K.!ハーレムだ!って男か?そんな男なら俺は婿として欲しがらんぞ。それはセルマ、お前が一番わかってるんじゃないか?』
『雅樹は女なら何でもいいって人じゃない!』
『だろう?もしも、お前が女…身体を使って雅樹を篭絡したら…雅樹は事あるごとに嫁さんを思い出す。そして悲しみは雅樹の心を壊す…セルマ、お前にそれを一生見続ける覚悟はあるのか?』
『そんな事、やってみないとわかんないよ。そうならないかもしれないでしょ?』
『それが起こったら?セルマ、恋は一人で出来る。愛は一人ではなく、相手あってだ。お前は恋に突っ走るイノシシなんだよ。』
『イッ…イノシシ?』
『本当にお前はファイスにそっくりだ…俺は独身で付き合ってた女もいなかったからよかったがな。そりゃあとんでもなかったんだぞ?あの手この手で…気が付いたらベッドの上だったよ…』
『親のそんな話は聞きたくない…むしろいい歳して二人ともイチャコラし過ぎ。毎晩ギシギシ、アンアンって…だからお兄ちゃん達は家を出たんだよ…』
『ちょっ、お前!』
『さぁ、街が見えてきたよ!あっ、雅樹だ!』
手を振る雅樹にセルマは手を振り返す。
やっと雅樹と合流したセルマ親子。これからはグロウが先導して肉屋に向かう。
『ここだ。ここの肉屋に肉を卸してるんだ。』
グロウは親指を立て、背にした肉屋を指す。
『おい!いるか?ローム!』
ロームと呼ばれた、人の良さそうな中年男性が、ゆっくりと現れる。
『おう、グロウ。今日は遅かったなぁ。獲物はなんだ?』
『ローム、コイツは雅樹だ!転移者だ。今日は雅樹がロームに話しがあるってよ。』
『ロームさん、はじめまして。英雅樹と言います。』
『ロームだ。よろしくな。それで話ってなんだ?』
『さっき鹿を狩ってきたんですが、ロームさん、丸ごと買取りと部位ごとに切り分けて若干の手数料を払ってもロームさんが必要と思う部位だけを買う。叶うならどっちがイイですか?』
『そりゃあ、俺の店で売れる部位だけを買いたいねぇ。スネとか首とかは売れないから、いらないんだよ。』
『となると、ヒレやロースが人気ですかね?』
『鹿ならな。ヒレはキロ4000円、ロースなら3500円でウチは売ってる。モモはシンタマとソトモモ、ウチモモでも値段が違う。』
『モモならランプは?イチボとかは、後は肩だとミスジは?』
『なんだ?その部位は?』
『俺の国では部位ごとに細かい分け方するんですよ。食べ方も部位によって変わってきます。』
『そうなのか?まぁ鹿を見せてくれるか?』
この言葉に雅樹は待ってましたと鹿肉を広げる。
そこにはロームが予想していたのは大きな適当な塊ではなく、肉の筋や繊維を知っているプロの手による部位ごとのブロックであった。
『グロウさんから買い取る時は約50キロの鹿を10万円…と言うことはキロ単価2000円です。ここから歩留まり、不要部分を切り落とす。すると約40キロ。するとキロ単価2500円。仮にこのまま全量買い取ったとして、粗利率30%で約3500円。粗利率40%だと4170円。』
『ウチはそれでも構わないが…この肉を見るとそんな簡単な商売ではなさそうだな…ヒレならその値段が適正かもしれんが…モモならそんな高額では売れんぞ?』
『そこで部位ごとの販売です。一頭買いのメリットは安く買える事。デメリットは不要な在庫を抱え込む事。ロームさん、一番人気はどこの部位ですか?』
『ウチで鹿ならロースだな。』
『でしたらロースは2500円。さっきの計算で粗利率30%なら売価で3550円と言った所ですね。ヒレなら2800円。これも粗利率30%で4000円ジャストです。』
『これ、ウチは損してないぞ?粗利率変わらんから。逆に雅樹が損してるんじゃないか?』
『俺も商売人です。損する取引はしません。でも、俺だけが得する取引も絶対にしません。するなら、俺、ロームさん、この店のお客さん、全てが笑顔になる!三方良しです。』
ロームは目を輝かせて雅樹を見つめる。
その様子を見ていたセルマ親子…
『なぁ、セルマ…雅樹は何を言ってたんだ…?』
『そっそっ、そんな事もわからなかった?わわわ、私はわかったけどなぁ~』
挙動不審なセルマのセリフ。目は明後日の方を向き、グロウと顔を合わせない。
『ロームさん、この店で内臓はどうしてますか?』
『全部廃棄してるよ。』
『腸詰めとかはやらないんですか?』
『手間がかかりすぎる。腸を塩漬け、肉を叩く(ミンチ)、乾かして燻製。利益なんか出やしない。』
『確かにね。ですが、その手間を俺から材料を仕入れる事で解消出来るとしたら?』
『どう言う事だ?』
『調理場を見て気が付いたんですが、ミンサーってないですよね?』
『なんだ?ソイツは。』
『ひき肉を作る機械です。』
『そんなモンあるのか?』
『無ければ作るまでです。ミンサーがあればひき肉を作るのはあっという間です。スネや肩もひき肉で販売する事も、腸詰めに変えることも出来ます。』
『ソイツはすぐに出来るのか?』
『まず職人さんからですが…構造は簡単です。』
『分かった。先ずはミンサー?が出来たら腸詰めの話を再開だな。で、ウチがいらないって言った部位はどうするんだ?』
『単純に欲しい店を探します。ロースだって1本丸ごとではなく半量、ヒレなんか特にそうじゃないです?』
『そうだな。それが可能なら助かる。』
『それでも残る部位。これは腸詰めと同じで加工します。』
『なるほどなぁ。雅樹、早くミンサーを作ってくれ。腸詰めも教えてくれよ?それから、今日は初取引だからロースぜんぶ、ヒレも全部。モモも全部くれ。』
『毎度あり!ミンサーは近いうちに。』
こうして雅樹の初取引は成功を収める。
『グロウさん、ありがとうございます。おかげでロームさんと出会えて、イイ商談が出来ました。先ずは鹿の買取価格です。およそ28キロ、部位ごとの販売で合計6万円と言った所ですね。』
『まだおれが損をしてる気がするが…』
『まだまだ、これからですよ。さあ、次は別の肉屋を案内して下さい。それから、剥製工房、鍛冶屋…』
『おっ、おう…』
この会話をロームは楽しそうに眺める。ロームはグロウに声を掛けた。
『おい、グロウ。今日の本当の獲物…雅樹だろ?セルマちゃんの婿にって。』
『セルマも俺もその気だがなぁ、コレばっかりは雅樹の気持ちが大事だ。』
『そうか、見た目は脳筋の熊、ろくに計算もできないクセに…よく考えてるなぁ』
『うるせぇ!』
そんな呑気な会話を余所に雅樹がグロウに話しかける。
『そう言えば、肉の買取価格は、内訳でモモ23キロ、キロ単価2000円で4万6000円。ロース4キロ、キロ単価2500円で1万円。ヒレ1.5キロ、キロ単価2800円で4200円。合計6万飛んで200円です。』
『後、12キロで4万行くのか?』
『我に勝算ありです。さぁ、張り切っていきますよ~!』
『まだ続くの~?』
セルマの叫び声が街に木霊する…
一方で雅樹の事故現場では…
香奈は雅樹が痕跡を残さずに消えてしまったショックで意識を失う…
『ママ!ママ!』
『香奈さん!』
由香と瞬も雅樹が消えた事にショックを隠せない…が、香奈が倒れた事で何とか正気を保っていた。
その後救急車で病院に搬送された香奈は治療を受ける…
瞬は香奈の治療中病院で警察から事情聴取を受ける。
『トラックのドライブレコーダーを確認しました。運転中のドライバーさん、画面が光った途端に消えていました。同じ様に英雅樹さん、衝突の瞬間に画面が光り、消えてしまいました。我々も捜索を続けますので何かありましたら、私の名刺に警察署の番号がありますので一報下さい。』
『雅樹さん…』
そう呟く瞬は雅樹と同じように突然消えた自分の両親と重ね合わせていた…
その頃香奈の治療中待合室で不安に押し潰されそうになり、涙を流し続ける由香。ガラッとドアが開き若い医師が由香を中に招き入れる。
若い医師が由香に告げる。
『英香奈さん…危なかったですよ。指、相当深く切ってます。幸い《神経は無事》でしたので縫合だけで済みましたが…今夜は入院で様子を見させてください。意識が戻り、状態を確認でき次第退院ですね。』
『はい…よろしくお願いします…』
~香奈の記憶~
『英雅樹さん、あなたを愛しています。私と結婚して下さい!』
ああ、懐かしいなぁ…本当は雅樹にプロポーズして欲しかったけど、雅樹を誰にも渡したくない!って、私からプロポーズしたんだよね…
そしたら雅樹ったら…
『このプロポーズの返事は…結城香奈さん。俺も世界中の誰よりもあなたを愛しています。これからもずっと俺と一緒にいて下さい!』
ポケットから突然指輪を出してきて…ビックリしちゃったなぁ…
逆プロポーズで押し切るつもりだったけど、雅樹ったら指輪まで用意してたんだよね~
『うん!雅樹っ、愛してる!』
『俺も香奈を愛してる。もう絶対に一人にさせないからね。』
『約束…破ったらどこまででも追いかけるんだから…』
昨日の夜も、由香も瞬君も遅かったから久しぶりに雅樹に甘えたんだよね。
雅樹が椅子に座ってたから驚かせようかなぁって後から抱きついたら…
『ま~さき、愛してる。』
『俺も香奈を愛してるよ。』
って雅樹は驚かなくって、逆に私の手に優しく手を重ねて…
さすがにあの二人がいると素の私をだせないんだもん。
由香は私の素顔って知らないんだよね~
雅樹にしか見せないんだ~。
なのに…
雅樹…約束…したじゃない…
昔、ひとりぼっちになった私をずっと追いかけてくれたじゃない…
雅樹…雅樹…初めて出会ったのは中学の時…あれからずっと一緒にいたのに…なんで私といてくれたんだろう?
雅樹は友達もたくさんいて、影でモテまくってたんだよね。なのに私をずっと追いかけてくれた…
嬉しかったなぁ。でも、最初は子犬とか、弟みたいな男の子って感じだったなぁ…
雅樹の商談とセルマの攻防、更には日本の香奈…作者の頭の中はグチャグチャに…




