雅樹が《そこそこ》と言う、弓の実力
急接近した雅樹とセルマ…
今後の二人の関係は…
~12話~
商売の楽しさ…
セルマの父であるグロウとの交渉…
セルマとの結婚話…
そして…
雅樹の感情がグチャグチャにかき回された夜が終わりを迎え、朝日が周囲を茜色に染める…
『結局…全く眠れなかった…』
あれから雅樹は目を閉じるとセルマの顔がちらつき、睡魔を蹴散らす…
『何で俺は…香奈…ゴメン…』
昨夜の出来事を繰り返し思い出した雅樹は香奈に謝罪の言葉を口にする…
パタパタと雅樹の部屋の前まで軽やかな足音が聞こえる。
コンコン…
『雅樹~、起きてる?入るわよ~』
返事を待たずにセルマがドアを元気よく開ける。
『アレ?雅樹も起きてた?私、なんだか眠れなくて起きてた!』
《朝から元気だと思ったが徹夜か…って俺も徹夜したんだけど…アレ?徹夜をした割りに身体が動くぞ?今まで徹夜なんてしたら身体が動かなかったのに…》
雅樹は戸惑いながらセルマに挨拶する。
『セルマおはよう。どうしたの?こんな朝早くに…』
『もしかしたら雅樹が起きてるかも…って!』
『うん…俺も眠れなかった…』
『もし、昨日の事、気にしてるなら、私は気にしてないから雅樹も気にしなくてイイからね?』
セルマの言葉に少しだけ罪悪感が薄れる。
『うん、ありがとう。でも、こんなに早くどうしたの?』
『狩人の朝は早いんだよ。お父さんも、お母さんも起きてるよ。雅樹が大丈夫なら朝ご飯食べよ?』
『うん、そうするよ。』
『じゃあ、顔を洗ったら早く来てね。』
こうして雅樹は身支度を整えてみんなが待つ食卓に向かう。
『おう!雅樹夕べは眠れたか?』
『雅樹、おはよう。朝ご飯用意できてるから座ってね~』
『グロウさん、ファイスさん、おはようございます。なんだか枕が変わると寝付けない体質みたいです。』
『そうか?ウチの枕に早く慣れるといいな?』
《俺をまだココにいさせてくれるのか?俺、セルマと一緒にいて…俺は…大丈夫なのか…?』
『あら?眠れなかったのは枕のせいかしら?』
『『えっ?』』
雅樹とセルマは同時に声を上げる…
『雅樹がホームシックになったんじゃないかなぁ~って思ったのよ~。昨日凄くさみしそうな顔してたから~』
雅樹とセルマは一瞬、驚きを隠せない表情を浮かべる…
『セルマは雅樹の部屋に行ったのかしら?ねぇ、雅樹?』
途轍もなく返答に困るファイスのイタズラ心に満ちた視線が雅樹を襲う…
『ファイス、あんまり二人を揶揄うなよ…セルマだって《まだ》嫁入り前だぞ…』
《ナイスだ!グロウ!》
雅樹は咄嗟のグロウの言葉に救われた。
『雅樹だって急に結婚とか言われたって混乱するよな?心の整理をする時間だって必要だしな?』
《ちょっと待て!グロウ!結婚が前提の話になっているぞ…》
『そうですね、俺もセルマも急な話だから驚いていますよ。』
『あら、そう?結婚って勢いも大切よ?二人とも大人なんだから、周りに流されずによく考えてね?』
『私は…雅樹と出会って僅かな時間だけど、雅樹の事をよくわかったし…スキルの事だけじゃなくて、尊敬できる男性だなぁ~って。』
『分かった、分かった。朝からノロケ話は終わりにして飯だ。雅樹、結婚には大賛成だが…順番は守れよ?それじゃファイス、頼む。』
『はいはい。じゃあ、セルマも手伝ってね?』
『は~い!』
ファイスはセルマを伴って台所へ行く。
『雅樹、さっきの事だが…お前なら解っていると思うが…順番…結婚前に妊娠させるなよ?って意味じゃあないぞ?お前の気持ちの問題だからな。流されるなよ…セルマはファイスの娘だ。手強いぞ…』
『重々承知してます…ファイスさん…向こうの俺の妻…香奈によく似ているんです…』
『そりゃあ、かなり手強いな…しかしファイスに似ているって事はイイ女って事だな。雅樹、お前…苦労…』
ドン!とファイスがテーブルに料理を置き始める。
スープの温かい湯気…キャベツだろうか…甘みのある匂いがする。
その横でセルマは目玉焼きを運んでくる。
『なんだい?男二人で悪巧みかい?』
『いやいや、雅樹にセルマに主導権を渡すなよ!押し倒すならお前からだぞ!ってなぁ、雅樹?』
グロウの言葉に雅樹は下手な言い訳はファイスには絶対に通用しない…香奈と同じだと察し、しきりに首を激しく縦に振る。
《日本では、ウチがこんな感じだったな…香奈がいて、由香がいて、そして瞬がいて…》
ほんの数日前まで当たり前だった光景が懐かしい。
『雅樹、コレからなんだが…昨日セルマの弓のウデが上達したって言ってたよな?セルマ、コレから三人で近くの森に狩りに行くぞ。飯を食ったら出発だからな!』
焼きたてのパンを頬張りながらグロウは言う。
その横ではセルマがファイスと何やら小声ではなしている。
『そうですね、昨日の話、セルマの成長をみてもらいたいですしね。ファイスさん、このスープキャベツの甘みが出ていて美味しいですね。』
『このスープ、セルマが作ったんだよ~。』
『エヘヘ~。《青果物管理》使ってオススメの食べ方を調べたんだ~!雅樹…この味…好き…?』
『凄く美味しい。コレ、好きな味だなぁ。』
『良かったわね。セルマ。』
この時、セルマはキャベツを《青果物管理》の調理方法(指定…人物…雅樹)でキャベツの旨みを最大限引き出し、雅樹の好みの味を調べる…現在のスキルの上限まで使いこなしていた。
朝食を終えて、雅樹達は近くの森に狩りに出掛ける。
『セルマ…そこにウサギ…わかるよな?やってみろ…』
セルマは雅樹から教わった弓の撃ち方を思い出しながら矢をつがえる…
ギュリィ~…弓を引く。
雅樹に教わった通りに身体を動かすが…
グロウはセルマの緊張を見抜いていた
《ありゃあ、前よりも格段に良くなってるが、力が入りすぎだ…外すな…》
グロウの見立て通り、セルマは身体に余計な力が入っている事に気が付く。
《狙いが定まらない…ブレる…外すのが怖い…》
セルマは緊張のせいか、弓を持つ手が震えている。
《どうしよう…このままだとウサギが逃げちゃう…打っても当たらない…雅樹に教えてもらった事…》
フッとセルマの身体から無駄な力が抜ける…
セルマは雅樹が後ろから支えてくれた時の事を思い出す。そしてセルマは微笑む。
《雅樹…ありがとう!行ける!大丈夫!》
その姿を見たグロウは先程とは違うセルマを見てニコリと微笑む。
《おっ?余計な力が抜けた…当たるぞ!》
《足の位置、身体の向き、腕、手首、ヨシ!狙い…ヨシ!撃つ!》
バシュッ!矢を放ったセルマは獲物のウサギを目で追う。
ヒュ…!今までの軌道や音とは違い、矢は真っ直ぐ一直線にウサギに吸い込まれる様に向かう…
タン!命中!ウサギの胴体に当たり、ウサギは倒れ込む。生きているがもう動けない様だ。
それを見てグロウはセルマに駆け寄ると…
『セルマ~!お前!当たったじゃねぇか!良かったなぁ~』
グロウは男泣きでセルマを抱きしめる…
『お父さん…これで私も無駄飯喰らいじゃないよね?』
『誰が無駄飯喰らいだって?俺達は誰もそんな事を思った事もないぞ!』
『だってお父さん…狩人が獲物を狩れないのは無駄飯喰らいだ!って…』
『セルマは獲物を狩れないだけで、草や木の実(野菜やフルーツ)は狩れているだろ?』
『・・・・・』
『セルマ、良かったな。グロウさんは元々セルマを認めてたんだよ。さぁ、ウサギが生きてる内に仕留めないと!血抜きしないとね。』
『肉屋に持ってくだけじゃダメなのか?』
『血抜きをするかしないかで肉の味が大きく変わります。価値云々よりもセルマの初の成果、最高の味で食べたいじゃないですか!』
『そうだな。雅樹の言う通りだ!』
その後雅樹の指導で獲物の血抜き、内臓の処理を、終える。
『雅樹、セルマに弓を教えてコレだけの結果を残したんだ。雅樹も弓、イケるんだろ?』
『まぁ、《ソコソコ》ですがね。それにこの弓矢は使った事のないタイプですが…まぁ大丈夫かと…』
『ソコソコねぇ。あのセルマのヘッポコな弓を短期間で使い物にするってかなりだぞ?そこに鹿がいるのがわかるか?』
グロウは親指を立てて近くの茂みを指す。
『姿は見えないですが、茂みの中に大きな動物の気配はわかります。』
『よし、仕留めろ。』
『やってみます。』
雅樹はまだ姿の見えない鹿が潜んでいる茂みに、鹿の気配を頼りに弓を構える。
それはセルマとは比べものにならない洗練されたフォームであった。
《なんだ?初めての弓とは思えんぞ…》
《雅樹の弓…初めて見るけど…キレイ…》
流れるように弓を構えた雅樹。自分の知っている弓との違いを感覚を頼りに微調整する。
雅樹の周りの温度が下がる感覚をセルマとグロウは感じ取った。
《おいおい、なんて集中力だよ…見てるコッチが吸い込まれちまう…》
《私なんて足下にも及ばない…》
ギュリィィィィ
雅樹は全身をくまなく使い、弓を効率よく引く。
弓が限界まで大きくしなる。弓が蓄えた力を使い右手の弦を流れる様に滑らかに放す。
ドシュッッッ
矢を放つと甲高い弦音が静かな森に響く。
放たれた矢は、一瞬で消える…
ビシュッ…ドン!
吸い込まれる様に茂みに消えた矢は何かに突き刺さる音を立てた。
雅樹の《そこそこ》のの弓の実力…
雅樹の《そこそこ》とは…




