セルマ、雅樹から近江商人の心得、三方良しを習う!
雅樹はセルマの父親、グロウと野菜や果物(彼の言葉では草)の商売の結果を伝える。
~10話~
広場からセルマの家へ向かう二人の足取りは軽かった。
『雅樹、お父さん驚くかな?』
『きっと驚くよ。けど、無理に理由を付けて何かしら言いだすんじゃないかなぁ?』
雅樹は先程会ったばかりのセルマの父親、グロウの性格を分析した結果、素直に褒めないと考える。
『オヤジさん、自分の仕事に誇りを持ってるのは良く分かったからなぁ。きっとセルマにも狩人をやって欲しかったんだと、思うんだよなぁ。』
『そんな事はないよ。私が弓が下手なのを嘆いてたから…』
『そうかぁ…まぁ、会えば分かるよ。』
行きとは違い、荷物はすっかり無くなり身軽に。そして懐と心はずっしりと重い。
『ただいまぁ~』
『あら、セルマ、お帰りなさい!』
元気な女性の声が聞こえる。
『おう!帰ったか!で?1万円は超えたのか?』
セルマの父親、グロウが意地の悪いニヤニヤした顔で二人を出迎える。
その隣にはセルマによく似た女性がいる。年の頃は30前半だろうか?セルマの話では姉はいなかったと思ったのだが…
『お母さんただいま!』
母…だと?かなり若くて美人だぞ?セルマに兄と弟がいるとは聞いたが…
『はじめまして。英雅樹です。セルマに助けてもらい、この街に来ました。』
『はじめまして。私はセルマの母親のファイスよ。あらあら?ふ~ん。セルマにもようやく…』
『ちっ、違うから!』
焦るセルマにグロウは愛娘が男を連れてきた…多分好意を持っている事も理解出来る。
面白くない!これ以上この会話をさせたくないと…被せるように言う。
『そんな話はどうでもいい!セルマ、金は稼げたのか?』
『うん!これから発表するよ!』
セルマはテーブルの上に今日の結果を並べ始める。
両替もしていないので小銭が多い。
『今日の売上…73万円1200円!』
『な…なんだと?』
『あら~、凄いわねぇ~!』
セルマは誇らしげに、《立派な》胸を張る。
すかさず雅樹がグロウに言う。
『これが半日で稼いだ利益です。』
『たかが草を売ってだと…?』
『お父さんが馬鹿にした野菜を売って稼いだんだよ。』
グロウは野菜の売価は低いと、高をくくっていた。
日本のスーパーでも同じく野菜は単価が低い。肉や魚は単価が高くなる傾向にある。
そこが雅樹の狙った盲点でもある。
実際に青果はスーパーの中でも売上はトップクラスになる店舗が多い。生活必需品である野菜を低価格で大量に高速で販売を続ける事を積み重ねた結果として売上を残す。
『たった半日で…いや、仕入れはどうした!売上から仕入れを引かなかったら意味がないぞ!』
『《仕入れには》お金を使ってません。セルマの力量で森で集めましたから。』
雅樹は稼働時間に関する人件費や屋台、設備や木箱などの諸経費をあえて計上せずに伝える。
『そっそうか…』
グロウは悔しそうに呟く。この質問にも雅樹は先を読み、売上金を利益、仕入れ《には》お金を使っていない事をあえて強調する。
『雅樹は誰も見向きもしないマツタケを信じられない高値で売りまくったんだよ!』
『マツタケ~?あんな物…金になるのか?』
『マツタケに価値を感じる人に提供しただけですよ。俺と同郷の転移者にね。』
『しかし、どうやって転移者を見つけたんだ?』
『転移者を呼び込む仕掛けを使いました。転移者が思わず故郷を思い出す文言を。』
『なるほどなぁ。だが、仕入れに金を使って無くても草を集める時間を考えたらどうなんだ?獣は1頭が10万円前後だ。』
『逆に聞きますが、一日にどれ位狩れるモノなんですか?』
『上手く出くわして3~4頭だな。』
『俺達が集めた時間は移動しながらだったから2日、売れた金額で考えると殆ど同じですね?』
『チッ、ああ言えばこう言いやがる…』
『いい加減にしなさい!セルマが努力した結果にケチを付けない!グロウは弓が上達しなかったから狩人を継いでもらえなかった悔しさ、いい男を連れてきた悔しさ、ゴッチャにして雅樹にぶつけてるだけなのはバレバレよ!』
『ちょっ、お母さん!雅樹とはまだ出会ったばっかりだから…』
『あら?恋に落ちるのは一瞬、恋に墜ちたら一生よ?』
『違っ!雅樹は弓の使い方やスキルの使い方を教えてくれたの!恋とか愛とか結婚とか関係ないから!』
ファイスは恋と言葉にしただけだったのだが…セルマは自分の中に恋心が芽生えていたのを意識したせいか…思わず口走る。
『結婚だぁ?…ちょっと待て、雅樹が弓を教えたって?』
『そうだよ!やっとまともに矢が飛ぶようになったんだから!』
グロウもセルマもファイスの言った言葉を否定するチャンスが来たと、同時に必死に話題を変える。
『そっそうか!なら庭に来い、弓を見てやるから!雅樹も一緒にだ!』
『そっそうね!お父さんにも見てもらいたい。さぁ、庭に行こう?』
話題を変えようと必死なセルマとグロウ。しかし雅樹は…
『グロウさん、今の狩猟、やり方を少しだけ変えたら収入アップするかもしれませんよ?』
『なに?それはどうしたらいいんだ?教えてくれ。』
『雅樹、何か作戦があるの?』
渡りに船。雅樹からの提案に飛び付く親子。
『今は狩ってきた獲物を肉屋にそのまま売ってますよね?まずは付加価値を付ける事から始めましょう。野菜みたいに製品化して自分でお客さんに販売する事が一番利益になりますが、それはまだまだ先の話。肉屋に卸す時に肉屋が不要とする部分を外す事です。』
『肉屋が要らない部分って…』
『簡単です。肉屋が解体した時に捨てる部分をこちらから外して持ち込む。その分、手数料を上乗せ、難しい様なら今までの金額で。外した部分はそれぞれ必要とする人に売る。』
『肉屋が捨てる部分…毛皮とか、角とかか?』
『そうです。毛皮は使い道があるので皮を扱う業者に。毛皮も肉屋が解体するのと皮を扱う業者が解体するのとは価値が変わります。角や牙も、同じくですね。こちらで解体出来るなら骨も料理の出汁として使えます。』
『面白そうだな。詳しく聞こう。ファイス、飯を食いながら聞こう。セルマも弓は明日でいいか?』
食事が終わる頃にはすっかり雅樹も一家に馴染んでいた。
中でもグロウは雅樹と仕事観がよく似ている事に興味を持ち、更に仕事人としての誇り、共感する事がとても嬉しくなる。
グロウはすっかり雅樹を気に入り、秘蔵の酒を振る舞う。
そして小声で女性二人に聞こえない様にヒソヒソと話し始める
『雅樹、セルマをどう思う?少しばかり行き遅れだが親のひいき目を除いたとしてもだ、顔立ちは美人、性格も素直。尚且つファイスと同じく胸もデカい。』
『確かに…って胸は関係ないですから!いや、美人で性格も良くって、若いって所は同意ですよ?』
『若いって、異世界じゃどうか知らんが、コッチは女は14位で結婚するからなぁ。』
『14?じゃあファイスさんとは?』
『ファイスが13の時に結婚したぞ。翌年長男、翌々年にセルマが産まれた。』
『ファイスさんが15~6の時の子供?じゃあファイスさんは…』
『雅樹、何か失礼な事を考えてない?』
いつの間にかファイスが隣に座る。
『いやいや、俺はファイスさん、セルマのお姉さんだと最初は思ってましたよ?』
『あらあら、こんなおばさんに何を言ってるのやら。』
『俺はコッチに来たときに創造神から詫びとして30歳に戻してもらったけど、元々50手前だったから…』
『創造神だと?転移者で創造神に会ったなんて聞いた事がないぞ?』
『雅樹は特別な転移者なのねぇ。』
『そうだな、商売の事といい、セルマのスキルといい。雅樹は独身なのか?』
『向こうでは妻も子供もいたんですが…子供って言ってもセルマと年も変わらないけど…』
『雅樹、セルマと結婚してくれないか?』
突然グロウが言い出す。
『ブフォッ…ゲホゲホ』
雅樹はグロウの突然のお願いに飲み物を盛大に吹き出す。
『ちょっと!お父さん!何言い出すの!』
セルマは真っ赤になってグロウに食ってかかるが…チラチラと雅樹を見る。
『そうねぇ、雅樹がセルマをもらってくれるなら私も賛成よ。』
『ちょっと!お母さんまで…』
相変わらずセルマの視線はグロウとファイス、そして雅樹を行ったり来たりしている。
『いや、俺は本当は50歳手前のオッサンで…』
『今は30歳になったんだろ?』
『愛する妻が向こうに…』
『コッチは重婚認められてるわよ~?』
『いやいや、セルマの気持ちも考えて…』
『雅樹も26歳の女は嫌…?』
『そっそんな事はないから!俺の国だと若い!結婚適齢期だから!』
『そっか、なら良いんだけど…』
『なら問題ないだろ?』
『セルマは俺の娘と年が変わらないから!』
『私達は大歓迎だけど、雅樹だっていきなり言われても雅樹もパニックになるわよね~?』
ファイスがひとまずストップをかける。
『た…助かった…』
『まぁ、結婚の話は置いといて、それでも俺は雅樹を気に入った!同じ仕事に誇りを持つ仕事人としてもな。』
『そうねぇ~、グロウの非礼も笑って受け流すどころか、その上でとんでもない結果を持ってくるし、さっきの話だって立派な商人の商談だったわよ?』
『いやいや、向こうでは当たり前にやってた事なので…それに、互いに発展する好機を見つけたら全力でアタックするのは皆さん同じでしょ?』
雅樹は三方良し(買い手良し、売り手良し、世間良し)日本の近江商人の心得を語る。
それを聞いたセルマはボソッと呟く。
『買い手(雅樹)、売り手(私)、世間(両親)良し…チャンスと見たら全力でアタック…』
コッソリとセルマは《買い手》で雅樹を見る…《売り手》で自分の右手を胸の前でギュッと握る。そして《世間》で両親をチラリと…
セルマの独り言はファイスの耳以外には届いていない。
雅樹はこの家族のやり取りを見ながら地球の香奈、由香、瞬を思い出す…
《香奈…会いたいよ…》
雅樹は忘れかけていた悲しみを思い出す…
この雅樹の一瞬の変化を見逃さなかったのはファイスであった。
『雅樹は泊まる所は決まってるの?まだならウチに泊まりなさい!男の子二人は《結婚》して家を出たから部屋は余ってるの。早速準備しなきゃね?』
とセルマにウインクする。
『じゃあ俺達はそれまで呑むか!これからはココに住んでもかまわんぞ?』
『いや、そんなご迷惑を…』
『あ~、気にすんな!俺達は雅樹を気に入ったんだ。セルマと《結婚》しなくても、もう息子みたいなモンだ。』
そしてグロウは口元を手で隠すように小声で雅樹に伝える…
『セルマはファイスによく似てるんだ…』
グロウの親バカな自慢と思った雅樹だが、グロウの顔は真剣だった…
こうしてなし崩し的に宿泊する事となった雅樹。
案内された部屋で独り今までの事を思い出した…
《あのトラックから創造神に出会い、コッチに来て…セルマと出会って…俺、異世界…コッチに来てもスーパーと同じ事をしてるな》
自然と苦笑する雅樹。
緊張が緩んだのか…先程思い出した香奈の顔がしきりに脳裏に浮かぶ…
『香奈…どうして俺が…会いたいよ…香奈…かな…』
雅樹の頬に一筋の涙が流れ落ちる。
雅樹は気が付くと声を殺して嗚咽をもらす…
コンコン…
《雅樹…まだ起きてるよね?チャンスには全力で…。お母さんがくれたチャンス…逃さない!》
セルマは意を決して、返事を待たずドアをそっと開く…
『雅樹…入るわよ?って雅樹?どうしたの?大丈夫?』
慌てて雅樹に寄り添うセルマ…
『ゴメン、向こうの妻や家族を…もう…会えないのかって…俺にもセルマの家族みたいな幸せな時間があったのに…』
雅樹は溜めに溜め込んだ悲しみをセルマに吐き出す…
泣きじゃくる雅樹の頭をそっと抱きしめるセルマ…
小一時間程セルマの胸の中で泣いただろうか…
雅樹は落ち着きを取り戻そうとしていたのだが…
《いい歳したオッサンが娘と年の変わらない娘の胸の中で泣くなんて…しかし、グロウの言っていた胸の…って何考えてるんだ…今まではそんな事考えられなかったぞ…》
雅樹は気付いていなかった…50手前まで生きて蓄積された経験値に肉体的に脂がのりきった状態…精神年齢も若くなりつつある事に…
『セ、セルマ、もう大丈夫!落ち着いた!少し離れて!』
『本当に大丈夫?』
雅樹の顔を抱えたまま、少し離れて雅樹の顔を覗き込むセルマ…
《マズい!今までは意識してなかったが…》
雅樹の顔が朱に染まる。
それを見逃すセルマではなかった…
《雅樹の表情…泣いて顔が赤くなったんじゃないよね…?私を意識してくれてる…?》
僅かな時が流れる。それは数秒とも無限にも感じる不思議な時間の流れ…
見つめ合う二人は少しづつ顔が近づく…
唇が触れあうその瞬間…
ギュイン!ギュイン!ギュイン!
ピコン!ピコン!ピコン!
雅樹のステータスがけたたましい通知音を鳴らす。
その音で二人は同時に慌てて離れる…
今回はセルマが一段と成長?してしまいました。
私の中ではセルマ…ココまで積極的にならなかったハズなのに…




