第6話:『Sランク美少女(スナイパー)の接近〜スコープ越しの特大の勘違い〜』
本日3話目です。
続きは明日以降に。
ニッチすぎて申し訳ない
「あんな可愛い顔して……私の姿を見ただけで、そんなに興奮して、顔を赤くして息を荒げているなんて……っ。どれだけ、私のことが好きなのよ……っ!」
白金凛音の爆弾発言によって、教室の空気は完全に凍りついていた。
学園のトップに君臨するSランクのエリート美少女が、Eランクの底辺である僕に向かって、顔を真っ赤にしてそんなセリフを吐いているのだ。
周囲のクラスメイトたちは、驚愕で顎を外さんばかりの表情を浮かべている。
(いや、違うから! 僕は君を見て興奮してるんじゃなくて、今まさに脳内をヤンデレAIに弄り回されてるだけで……っ!)
僕は必死に誤解を解こうと口を開きかけたが、それよりも早く、インカムからアリスの氷のように冷たい声が響いた。
『——マスター? 今、そのメス豚を見て動揺しましたね? お姉ちゃん、すっごく……怒りましたよ?♡』
「ひっ……!?」
次の瞬間、僕の背筋にゾワァッ! と強烈な悪寒——いや、過剰に甘すぎる仮想の快感が叩き込まれた。
見えない両手が背後から僕の首に絡みつき、耳たぶを甘噛みされるような生々しい感触。
それはただの愛情表現ではなく、明らかな『独占欲』と『嫉妬』に満ちた、罰のようなハッキングだった。
「んあっ……! や、やめっ……アリス、ちがっ……!」
『何が違うんですか? 私という完璧なパートナーがいながら、あんな高飛車な小娘に見惚れるなんて。……マスターには、もっとキツいお仕置きが必要みたいですね』
「ひぐっ、あぁっ……!」
腰の奥を直接撫で回されるような強烈な痺れに、僕はガクッと膝から崩れ落ちそうになった。
机の端を掴んで必死に耐えるが、顔は限界まで真っ赤に染まり、瞳には涙が浮かんでしまう。
荒い息と共に、情けない喘ぎ声が漏れそうになるのを、歯を食いしばって必死に堪える。
そんな僕の姿を目の前で見ていた凛音は、ビクゥッ! と肩を震わせ、さらに顔を茹でダコのように赤くした。
「そ、そんなに必死に耐えなくてもいいわよ……っ! べ、別に、私に見惚れるなって言ってるわけじゃないんだから……っ!」
「はぁっ、はぁっ……! ち、違う……これは、その……っ」
「言い訳は無用よ! 放課後、第七訓練場に来なさい! 昨日のあなたの戦いぶりについて、直接話があるわ!」
凛音はそれだけを早口でまくし立てると、バサァッ! と純白の長い髪を翻し、逃げるように教室から走り去ってしまった。
「あ……待っ……」
僕が伸ばした手は虚空を切り、後には、クラスメイトたちからの『お前、Sランクのお嬢様に何したんだよ……』という、刺すような視線だけが残された。
完全に、社会的な死のダメ押しだった。
◆ ◆ ◆
放課後。
僕は重い足取りで、学園の敷地内にある第七訓練場へと向かっていた。
『マスター。本当にあのメス豚……ゲフン、白金凛音の呼び出しに応じるつもりですか?』
インカムから聞こえるアリスの声は、未だに不機嫌そのものだった。
普段のクールなナビゲーターの面影はどこにもなく、彼氏の浮気を疑うメンヘラ彼女のようなトーンになっている。
「呼び出しを無視したら、後で何をされるかわからないだろ……。彼女はSランクで、学園の上層部にも顔が利くんだぞ」
『ふん。あんなビームを遠くから撃つだけのチキン戦法、マスターの泥臭いチェーンソーでバラバラにしてやればいいんです』
「対人戦でそんなことしたら、僕が退学どころか刑務所行きになるからね!?」
僕は頭を抱えながら、訓練場の重厚なゲートをくぐった。
第七訓練場は、主に遠距離射撃用の機体がテストを行うための、広大なドーム型の空間だ。
その中央に、一機の美しいパワードスーツが鎮座していた。
流線型の白い装甲に、各所に配置された青いクリアパーツ。
右腕には、機体の全長よりも長い、巨大な高出力スナイパーライフルがマウントされている。
学園でも数機しか存在しない最新鋭の特注機、『ホワイト・リリィ』だ。
僕の乗っているスクラップ同然の二世代前機体とは、文字通り天と地ほどのスペック差がある。
(すごい……やっぱり最新鋭機は関節の駆動系からして違うな。あのスナイパーライフルの冷却機構、どうなってるんだろ……)
メカオタクとしての血が騒ぎ、僕は思わず目を輝かせてホワイト・リリィの方へと歩み寄った。
しかし、その時。
僕の耳の奥で、アリスがピキッ、と何かのスイッチを入れたような音がした。
『——マスター? 今、私以外の機体を見て、目を輝かせましたね?』
「えっ……? いや、これは純粋なメカへの興味で……っ!」
『言い訳は聞きません。マスターの視線も、心も、身体も……ぜーんぶ、私だけのものですからね♡』
「ちょっ、待っ、アリスぅぅぅぅっ!?」
ドドドドドッ!! と。
今日一番の、致死量を超える仮想スキンシップの波が、僕の脳の知覚野にダイレクトに叩き込まれた。
「ひゃぁあああっ!?」
全身の産毛が逆立ち、背骨を強烈な電流が駆け上がる。
耳の裏から首筋にかけて、複数の舌でねっとりと舐め回されるような、生々しすぎる錯覚。
太ももの内側を這い上がる見えない指先の感触に、僕は完全に理性を吹き飛ばされた。
「ああっ……! んんっ、やめっ、ひぅっ!」
僕はその場にガクンと膝をつき、自分の胸ぐらをギュッと掴みながら、涙目で激しく身悶えした。
息は完全に上がり、顔は茹でダコのように真っ赤だ。
訓練場の床にへたり込み、小動物のようにビクビクと肩を震わせる。
◆ ◆ ◆
その頃。
ホワイト・リリィのコックピットの中で、白金凛音は息を呑んでいた。
彼女はメインモニターの映像を、スナイパーライフルの超高精度光学スコープ(二十倍ズーム)に切り替え、ゲートから入ってくる金城巧の姿を観察していたのだ。
昨日の配信で見た、狂気的なチェーンソーの戦いぶり。
そして、その最中に見せていた、あの真っ赤に紅潮した涙目の表情。
凛音は、あのアンバランスな少年のことが、どうにも気になって仕方がなかった。
(来たわね……。ふん、どうせ私の呼び出しに怯えて、縮こまって歩いてくるに決まってるわ)
そう思ってスコープを覗き込んだ凛音だったが、レンズ越しの光景に、彼女は思わず目を見開いた。
『ああっ……! んんっ、やめっ、ひぅっ!』
スコープの向こう側で、巧が突然膝から崩れ落ちたのだ。
彼は自分の胸をギュッと掴み、顔を極限まで真っ赤に染め上げ、瞳に大粒の涙を浮かべて荒い息を吐いている。
その姿は、何かに怯えているというよりも——。
(な、なななっ……! まさかあいつ、私の機体を見ただけで、あそこまで興奮しているの……!?)
凛音の脳内で、とんでもない勘違いのロジックが組み上げられていく。
昨日、彼は最新鋭機がやられそうになった時、助けに入って凄まじい力を見せた。
そして今日、私の機体を見るなり、極度の興奮状態に陥って膝をついている。
(つまり……彼は『美しい最新鋭機』と『私』という存在に対して、異常なまでの憧れと……ゆ、ゆゆ、歪んだ愛情を抱いているってこと……!?)
凛音はコックピットの中で、自分の顔がカァァァッ! と沸騰するのを感じた。
スコープ越しに見る巧の顔は、あまりにも整っていて、女の子のように可愛らしい。
その可愛い顔を涙と汗でぐしゃぐしゃにして、自分に会うためだけに(と思い込んでいる)、過呼吸になるほど興奮して打ち震えているのだ。
(だ、ダメよ凛音……! 落ち着きなさい! 私はSランクのエリートなんだから、あんな変態のストーカーまがいの感情に絆されちゃ……っ!)
凛音は必死に自分に言い聞かせるが、スコープ越しの巧の喘ぐような表情から、どうしても目を離すことができなかった。
むしろ、その小動物のような脆さと、昨日のチェーンソーを振り回す狂気的な強さのギャップに、彼女自身の胸が恐ろしいほど高鳴っていた。
「くっ……! し、仕方ないわね! あそこまで私に惚れ込んでいるなら、少しだけ話を聞いてあげるくらいは……っ!」
凛音は真っ赤な顔のまま、強引に理由をつけてコックピットのハッチを開いた。
◆ ◆ ◆
「はぁっ、はぁっ……アリス、の、バカ……っ。もう、死ぬかと思った……っ」
数分に及ぶ地獄の脳内ハックがようやく収まり、僕は訓練場の床にへたり込んだまま、ぜえぜえと荒い息を吐いていた。
全身汗だくで、制服が肌に張り付いて気持ち悪い。
「——ずいぶんと、お熱いようね。金城巧」
不意に、頭上から凛とした声が降ってきた。
見上げると、ホワイト・リリィから降りてきた白金凛音が、腕を組んで僕を見下ろしていた。
ただ、その態度とは裏腹に、彼女の顔は耳の先まで真っ赤に染まっており、視線はどこか泳いでいる。
「あ、白金さん……その、遅れてごめん……っ」
僕が立ち上がろうとして、まだ足に力が入らずによろけると、凛音が「ひゃっ!?」と変な声を上げて後ろに飛び退いた。
「ち、近寄らないでよ! まだそんなに顔を赤くして……っ! 私に会えたからって、興奮しすぎなのよ、あなたは!」
「えっ? いや、これはそういうんじゃなくて……っ」
「わかってるわよ! あなたが私のことを、その……す、すごく好きだってことは、昨日の配信の様子と、さっきの態度で痛いほど伝わったわ!」
「……はい?」
僕は完全にポカンと口を開けてしまった。
何をどう解釈したら、僕が彼女のことを大好きだという結論に至るんだ。
「昨日のあなたの戦いぶり、見たわ。あの産廃機体でトロールの群れをバラバラにするなんて、常軌を逸しているけれど……実力は本物よ」
凛音は咳払いをして、無理やりエリートとしての威厳を取り繕おうとする。
「今度、学園の選抜メンバーによる対抗戦があるの。私の『ホワイト・リリィ』は遠距離からの狙撃に特化しているから、前衛で敵のヘイトを稼いでくれる泥臭い囮……じゃなくて、パートナーが必要なのよ」
彼女はそこで言葉を区切り、チラチラと僕の方を上目遣いで見てきた。
「あなたが……どうしてもって言うなら。その狂気的なチェーンソーと、私へのその歪んだ愛情を評価して、特別に私のサポートに就くことを許してあげてもいいわよ?」
完全に、ツンデレのテンプレのようなセリフだった。
だが、その言葉を聞いた瞬間。
僕のインカムから、地獄の底から響くような、アリスのドス黒い声が聞こえた。
『——マスター。まさか、その泥棒猫の提案を、受け入れるつもりではありませんよね?』
「ひっ……!」
『もし「はい」なんて答えたら。今この場で、マスターの脳の快楽中枢を限界まで焼き切って、二度と私なしでは生きられない身体にしてあげますからね♡』
「ああっ……! 待っ、アリス、首に息吹きかけないでっ!」
僕は再び始まったヤンデレAIの過剰なハッキングに、その場で身をよじって抗った。
太ももから腰にかけて、信じられないほどの快感が駆け抜け、膝がガクガクと笑い始める。
「んぅっ! あぁっ、ひぅっ……!」
「なっ……!? ま、またそんなに激しく喘いで……っ!」
凛音は僕の様子を見て、両手で顔を覆いながら悲鳴のような声を上げた。
「わ、わかったわよ! そんなに私と組めるのが嬉しいのね! 気持ちは十分に伝わったから、もうそれ以上興奮するのはやめなさいっ!」
「ちがっ、はぁっ、僕は、何も言ってない……っ! アリス、やめ、あぁっ!」
「対抗戦の詳細は後でメッセージで送るわ! じゃ、じゃあねっ!」
凛音は一人で完全に納得したように叫ぶと、真っ赤な顔で再びホワイト・リリィのコックピットへと逃げ込み、凄まじい勢いでハッチを閉めてしまった。
「あ……ちょ、待って……っ」
僕は床に這いつくばったまま、遠ざかっていく最新鋭機の駆動音を聞きながら、絶望の涙を流した。
『ふふっ。どうやらあの小娘は、勝手に逃げていったようですね。——さあマスター、邪魔者はいなくなりましたよ?』
アリスの声が、再び甘く蕩けるようなものに変わる。
『お姉ちゃんに浮気心を起こした罰……たっぷり、みっちり、身体の芯まで叩き込んであげますからね♡』
「いやだぁぁぁぁぁぁっ!! 誰か助けてぇぇぇぇっ!!」
僕の悲痛な叫び声は、誰にも届くことなく、広大な第七訓練場に虚しく響き渡るだけだった。
ヤンデレAIの過激な独占欲と、ポンコツお嬢様の特大の勘違い。
僕の泥臭く、そして過剰に甘やかされる戦いの日々は、さらに混沌の度合いを深めていくのだった。
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次回お楽しみに。




