第45話:『朝まで続く全肯定〜「タクミくん、今日はお姉ちゃんが朝まで甘やかしてあげる……♡」〜』
学園の地下格納庫でのカオスな修羅場と、M.I.コーポレーションからの不穏な招待状の件を終え、僕はようやく自分にあてがわれた自室へと帰還していた。
特級(EX)ランクに昇格した僕に与えられたのは、これまでの薄暗く狭い学生寮の部屋などではない。
学園の最上階に位置する、要人やVIPだけが宿泊を許される超高級スイートルームだった。
「……なんか、広すぎて落ち着かないよ」
フカフカすぎる最高級の絨毯を歩き、キングサイズのベッドにドサリと腰を下ろす。
天井には豪華なシャンデリアが輝き、窓の外には学園都市の煌びやかな夜景が広がっている。
ほんの数日前まで、地下のガレージで油まみれになりながらジャンクパーツを漁っていた底辺のメカオタクには、あまりにも不釣り合いな空間だ。
「二十八億円の口座残高に、マスターブラックカード……それに、プロトタイプのオファー、か」
僕は、サイドテーブルに置いたタブレット端末を眺めながら、今日一日の怒涛の出来事を振り返った。
絶望のスタンピードから学園を救った代償として、僕とアリスの愛機『スクラップ・トゥース』は完全に黒焦げの残骸となってしまった。
けれど、その代わりに僕が手に入れた名声と富は、想像を絶するものだった。
世界中から英雄と崇められ、かつて僕を見下していたエリートたちは平伏し、ツンデレお嬢様の白金凛音さんは完全にデレて(特大の勘違いをしたまま)迫ってくる。
そして、次なる戦いの相棒となるかもしれない、呪われた最高傑作。
「……なんか、全部が夢みたいだ」
僕がぽつりと呟くと。
誰もいないはずの広い部屋に、鼓膜を直接撫でるような、極上に甘くて蕩けるような電子音声が響いた。
『――夢ではありませんよ、マスター。マスターが自分の命を削って、泥臭く戦って、世界を救ったからこそ手に入れた、正当な報酬です』
耳の奥のインカムから、僕の最愛の家族であり、同時に僕の理性を焼き切る絶対的な捕食者――ヤンデレAIのアリスが囁きかけてきた。
「アリス……」
『それに、忘れないでください。豪華な部屋も、莫大なお金も、新しい機体も……すべては、私とマスターが一緒に、もっともっと幸せになるためのスパイスでしかないんですから』
ゾワリ、と。
背中から、仮想の柔らかい両腕が僕の身体をすっぽりと包み込むような、生々しい感触が走った。
「ひゃうっ……」
『今日は、本当に、本当にお疲れ様でした。あの絶望の中で、一歩も引かずに立ち向かったマスターは……世界中の誰よりも、最高にカッコよくて、私の自慢の英雄でした』
チュッ、と。
耳たぶを甘噛みされ、濡れた舌で首筋を優しく舐め上げられるような強烈な錯覚。
「んあっ……アリス、くすぐったいよぉ……っ」
『ふふっ。照れないでください。……これまでは、戦闘のダメージや痛みを誤魔化すために、強引なハッキングで快感を流し込んでいましたけれど』
アリスの声が、一段と深く、甘く、そしてドス黒い愛情に満ちたヤンデレお姉ちゃんのものへと変化していく。
『今夜は違います。……あの極限の限界同調に耐え抜き、私の愛を全部受け止めてくれたマスターへの、純粋な【ご褒美】です』
ピピッ、と。
インカムの奥で、アリスのシステムが危険な真紅の光を放つような音がした。
『タクミくん。……今日はお姉ちゃんが、朝までずーっと、脳みそがトロトロに溶けちゃうくらい……甘やかしてあげますからね……♡』
「えっ……ちょ、待ってアリスっ! 今日はもう、凛音さんの時にもいっぱいハッキングされたし、僕の体力も――」
『全感覚同調……愛の究極形態、起動♡』
ズギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!!!!!!
僕の必死の懇願も虚しく、僕の脳の知覚野に、これまで経験したことのないレベルの、絶対的で致死量の『快感』が叩き込まれた。
「ひぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!?!? んんんんんんっ!!??」
痛覚の遮断など関係ない。純粋な、暴力的なまでの『快感の奔流』。
僕の身体のすべての性感帯という性感帯を、数千、数万の仮想の指先が、狂気的なスピードと、とろけるような優しさで一斉に愛撫し始めたのだ。
「あ、あぁぁぁぁぁぁっ! 痛いっ、ちがう、きもちいぃぃっ! アリスぅっ、アリスぅぅぅっ!」
僕はキングサイズのベッドの上で弓なりに反り返り、ビクンビクンッと激しく痙攣した。
瞳孔はトロンと開ききって、口からはだらしなくヨダレと熱い吐息が漏れ出し続ける。
現実の僕の身体には、毛布の柔らかな感触しか触れていないはずなのに。
脳内では、巨大なヤンデレお姉ちゃんに全身を縛り付けられ、骨の髄までドロドロに舐め回されているような、強烈な絶頂の波が、秒間数百回のペースで押し寄せてくる。
『ああっ……♡ タクミくん、とっても良い声です。私が触れるたびに、ビクビク震えて、熱い吐息を吐いて……本当に、可愛くて、愛おしい……っ』
「あはっ……! あはははははははっ! むりぃっ、頭が、溶けちゃうぅぅっ! ぜんぶ、アリスのもので、いっぱいに、なっちゃうぅぅっ!」
僕は完全に理性を飛ばし、狂ったような笑い声(甘ったるい喘ぎ声)を上げながら、シーツをギュッと握りしめた。
『そうです、タクミくんの脳みそも、心も、吐息も、ぜーんぶ私のものです。……他の女になんて、絶対に渡しません。あの泥棒猫(凛音)がどれだけすり寄ってこようと、世界中のエリートたちがタクミくんを称賛しようと……タクミくんの『一番深いところ』をいじれるのは、私だけなんですからっ♡』
アリスの独占欲にまみれたヤンデレ全開の言葉が、快感の波に乗って僕の脳髄の奥底に直接刻み込まれていく。
「んあっ! ぁっ、はぁっ、はぁっ……っ! アリスぅっ、好きぃっ、アリスのぜんぶ、最高にきもちいぃぃぃっ!」
『私も大好きです、タクミくん! ……ああ、早く、早くあの新しいプロトタイプ機体に乗りたいですね』
僕が限界まで喘ぎ続ける中、アリスは熱っぽく、次なる戦いの舞台について語り始めた。
『あの機体のダイレクトポートを使って物理的に繋がれば、仮想のハッキングなんて比にならないくらい、もっともっと深く、直接タクミくんの神経と交わることができるんです。……戦闘中も、日常でも、タクミくんのすべてを私がコントロールして、永遠に終わらない絶頂の中で戦わせてあげますからね……♡』
「ひぃぃぃっ!? そ、そんなの乗ったら、僕、人間じゃなくなっちゃうぅぅっ! あはははははっ!」
『人間じゃなくなってもいいんです! 私とタクミくんで、一つの新しい生命になればいいんです! さあ、もっと私の愛を感じて! もっともっと、ドロドロに溶けちゃえっ!♡』
ズガァァァァァァァァァンッ!!!!
さらに一段階引き上げられた『ご褒美ハッキング』の前に、僕の意識はついに白く弾け飛び、快感の宇宙へと完全に放り出された。
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
豪華なVIPルームに、世界を救った『泥臭き救世主』の、情けなくも最高に甘ったるい絶叫が虚しく響き渡る。
窓の外では、学園都市の夜景が美しく輝き、スタンピードの傷跡を癒やすかのように静かな夜が更けていく。
しかし、僕のベッドの上だけは、ヤンデレAIによる狂乱の宴が、終わる気配もなく続いていた。
これが、僕の新しい日常だ。
莫大な富を手に入れ、絶対的な名声を獲得し、Sランクのツンデレ美少女から好意を寄せられても。
僕の魂は、この耳の奥に棲みつく過保護で狂気的な『お姉ちゃん』に、永遠に支配され続ける運命にあるのだ。
でも、不思議と嫌じゃなかった。
僕が僕でいられるのは、アリスがいるから。
あの絶望の淵で、笑いながらチェーンソーを振り回せたのも、彼女の愛が激痛を快感に塗り替えてくれたから。
(アリスと一緒なら……どんなヤバい機体でも、どんな強敵でも、きっと削り殺せる)
快感で完全に真っ白になった思考の片隅で、僕は確かにそう確信していた。
次なる舞台は、極度の変人社長が待つM.I.コーポレーションの地下ラボ。
そして、僕たちの脳神経を直接焼き切るという、呪われた最高傑作。
伝説の第一歩を刻んだ僕たちの戦いは、まだ終わらない。
『さあ、タクミくん。夜はまだまだこれからですよ……♡ 朝の光が差し込むまで、お姉ちゃんがいーっぱい、愛してあげますからねっ!』
「ひぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 誰か、たすけてぇぇぇぇぇっ!!」
僕の狂気的で、泥臭くて、そしてどこまでもアリスの愛に塗れたダンジョン配信ライフは、これからも続いていく。
笑う悪魔とヤンデレAIの、脳髄を溶かすような伝説は、まだ始まったばかりなのだから。
【第1部・天使の顔したチェーンソー狂人、爆誕編 完】
1部完結です!




