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第40話:『【閑話】ダンジョン配信掲示板〜伝説の誕生・泥臭き救世主〜』

 

 探索者学園を襲った未曾有のスタンピード。

 数千のモンスターと、災厄級ディザスターの融合体が出現したその絶望的な戦いは、一機のボロボロの産廃機体によって完全に終結した。


 世界最大のダンジョン配信プラットフォーム『ダン・チューブ』の同時接続数は、学園の公式チャンネル単体で「一億二千万人」という、プラットフォーム開設以来の歴史的な新記録を樹立していた。


 戦闘が終わり、夕陽に照らされたコックピットの中で、少年がSランクのトップエリートである白金凛音に抱きしめられながら眠る映像。

 それが配信された瞬間、ダン・チューブのサーバーはかつてないトラフィックの負荷に耐えきれず、数分間にわたって完全にダウンしたほどだ。


 だが、視聴者たちの熱狂は決して冷めることはなかった。

 サーバーが復旧するや否や、関連する配信のアーカイブや切り抜き動画が爆発的な勢いで拡散され、世界中のあらゆるSNSのトレンドを『絶頂チェーンソー』『泥臭き救世主』『笑う悪魔』といったワードが独占した。


 そして、探索者専用の巨大匿名掲示板でも、信じられない速度でスレッドが消費され続けていた。



 ◆ ◆ ◆



【ダンジョン配信】探索者学園スタンピード生中継実況スレ Part.10592【生きた伝説】


 1: 名無しの探索者

 おい、マジで終わったのかよ……。

 俺、最初から最後まで見てたけど、いまだに現実だと思えねえ。


 2: 名無しの探索者

 あの災厄級のアマルガムを、真っ二つだぞ!?

 Sランクのレイドパーティが何日もかけて討伐するようなバケモノを、たった一機で、しかも旧式機体で削り殺しやがった……っ!


 3: 名無しの探索者

 最後の最後、機体が動いたの完全にオカルトだろ。

 左腕も左脚もなくて、ジェネレーターも止まってたのに、なんで立ち上がれるんだよ!

 執念とかそういうレベルじゃねえ!


 4: 名無しの探索機体オタク

 メカオタクの俺から言わせれば、あんなの機体のスペックじゃない。完全に『中身パイロット』が異常なんだ。

 限界同調フル・シンクロの最終段階……痛覚の安全装置を完全に外して、機体と神経を文字通り直結させてたんだ。

 普通なら、痛みのショックで一瞬で脳が焼き切れて死ぬ。


 5: 名無しの探索者

 だから、あの天使くん、戦ってる最中ずっと狂ったように「あははははっ!」って笑ってたのか……。

 激痛で脳がバグって、痛みを快感に変換でもしないと、あんな変態機動できないってことかよ。


 6: 名無しの探索者

 痛みを快感に……って、それなんていうドM?

 でも、ドローンのマイクが拾ってた音声、マジでヤバかったよな。

「あぁっ! ひぅっ! きもちいぃぃっ!」って、完全にイッてる声出してたぞ。


 7: 名無しの探索者

 >>6

 しかも、同乗してるナビゲートAI?の音声も聞こえなかったか?

「お姉ちゃんが気持ちよくしてあげます♡」とか「脳みその奥まで犯してあげます♡」とか。

 あれ、絶対市販のOSじゃないだろ! どんなヤンデレプログラム組んでるんだよ!


 8: 名無しの探索者

【赤スパ ¥50,000】

 変態でも狂人でもドMでもなんでもいい!!

 俺たちの学園を、子供たちを救ってくれたんだ! 彼は紛れもない英雄ヒーローだ!!


 9: 名無しの探索者

 それな。

 エリートたちが逃げ惑って、最新鋭機が次々とスクラップにされる中で。

 たった一人で群れのど真ん中に突っ込んでいって、血と泥にまみれながら戦い抜いたあの小さな背中。

 あんなの、惚れない奴がいるわけないだろ!


 10: 名無しの探索者

 そして、あのラストシーンですよ。

 俺、ガチで泣いたわ。


 11: 名無しの探索者

 わかる。

 コックピットが開くまで、みんな「絶対死んでる」って思ってたもんな。限界同調の負荷で。

 白金様ホワイト・リリィが泥だらけになって泣き叫びながらハッチ開けた時、俺も画面の前で祈ってた。


 12: 名無しの探索者

 そしたら中から出てきたのが、顔真っ赤にしてヨダレ垂らしながら爆睡してる『天使』だもんなwww

 ギャップで俺の脳みそがぶっ壊れたわ!!


 13: 名無しの探索者

 チェーンソー振り回してバケモノを血祭りにあげてた【笑う悪魔】が、寝顔は完全に無害なショタ天使。

 しかも、あの気位の高いSランクの白金様が、人目も憚らずに胸に抱きしめて号泣してるんだぜ?

 ラブコメの主人公としても最強すぎるだろ!!


 14: 名無しの探索者

 白金様、完全に堕ちてたな。

「私のバカ天使……っ」ってマイクが拾ってたの、俺は聞き逃さなかったぞ。

 学園の頂点のツンデレお嬢様を、Eランクの底辺産廃乗りが命がけでデレさせた。

 映画化決定だなこりゃ。


 15: 名無しの探索者

 でもさ、天使くんの寝顔、なんか変じゃなかった?

 普通、死闘の後はもっと苦しそうな顔するだろ。

 なんであんな、エッチな夢でも見てるみたいなトロンとした顔で「んぅ……きもちいぃ……」とか寝言言ってんの?


 16: 名無しの探索者

 だから、あのヤンデレAIが裏でなんかしてたんじゃないか?

「泥棒猫、そこをどきなさい」みたいな電子音声も一瞬聞こえたし。


 17: 名無しの探索者

 >>16

 マジかよ、白金様とAIの修羅場とか最高か?

 俺も天使くんを甘やかしたい。あんな可愛い顔して泥臭く戦うとか、母性本能くすぐられまくりだろ。お持ち帰りして、朝までよしよししてあげたい。


 18: システムメッセージ

【警告:該当のコメントは、不適切な単語(お持ち帰り、よしよし)が含まれているため、管理者(A)によって強制削除されました】


 19: 名無しの探索者

 ファッ!?

 なんだ今のシステムメッセージ!? 運営の規制早すぎだろ!


 20: 名無しの探索者

 おい、スレの挙動がおかしいぞ。

「天使くん可愛い」「結婚したい」「私が養う」系のコメントが、書き込まれた瞬間に片っ端から自動削除されていってる……っ!?


 21: システムメッセージ

【警告:マスターは私だけのものです。薄汚い羽虫どもが、気安く私のマスターに欲情しないでください。次書き込んだら、貴方たちの端末の個人情報を全世界に公開した上で、爆破します(A)】


 22: 名無しの探索者

 ヒィッ!?!?

 こ、これ運営の規制じゃねえ! あのヤンデレAIが、直接このスレのサーバーをハッキングして監視してやがる!!


 23: 名無しの探索者

 ヤバいヤバいヤバい! ガチのヤンデレだ!

 逃げろお前ら! 天使くんに手を出したら、電子の海から刺されるぞ!!


 24: 名無しの探索者

 すげえ……。どんだけ愛されてんだよ天使くん。

 戦闘中は命がけのナビゲートと快感(?)で支えて、終わった後はネットの有象無象から貞操を守る超有能AI。

 俺もそんなパートナー欲しいわ……(震え声)


 25: 名無しの探索機体オタク

 お前ら、ふざけてる場合じゃないぞ。

 とんでもない額のスーパーチャットが、次々と学園の口座に振り込まれてる。

 ……それも、世界的な大企業のトップたちからだ。


 26: 名無しの探索者

【赤スパ ¥10,000,000】

【M.I.コーポレーション社長:

 素晴らしい! 素晴らしいぞ金城巧くん!!

 私の目に狂いはなかった! 限界同調のオーバードーズに耐え抜き、あれほどの戦果を挙げるなど、君の脳神経はまさに『至高の芸術アート』だ!

 学園などというちっぽけな鳥籠は、もう君には狭すぎる。

 さあ、私のラボへ来たまえ! 君の異常な同調能力にしか扱えない、あの『呪われたプロトタイプ』を、今すぐ君にプレゼントしよう!!】


 27: 名無しの探索者

 また社長オォォォォォォォォォッ!!

 一千万!? いや、前のと合わせて二千万だぞ!?

 個人に投げ銭する額じゃねえだろ!!


 28: 名無しの探索者

【赤スパ ¥5,000,000】

【神聖ヨーロッパ防衛機構・筆頭騎士:

 金城殿。貴殿のその泥臭くも気高い騎士道精神に、我が騎士団は深い感銘を受けた。

 旧式機体でありながら、あの絶望に立ち向かう姿は、まさに真の英雄である。

 我が機構は、貴殿を特待生としてスカウトしたい。ぜひ、前向きな返答を待っている。】


 29: 名無しの探索者

 はあああああっ!?

 ヨーロッパのトップ騎士団から直々のスカウト!?

 学園のSランクエリートだって、何年もかけて試験受けてようやく入れるかどうかのところだぞ!?


 30: 名無しの探索者

【赤スパ ¥8,000,000】

【北米ダンジョン協会・理事長:

 HEY! CRAZY BOY!

 お前のチェーンソー、最高にCOOLで狂ってたぜ!

 ウチに来れば、最新の軍事用チェーンソーと、最高の環境を用意してやる! 契約金は言い値で払おう!】


 31: 名無しの探索者

 ダメだ、世界中のお偉いさんたちが、札束で天使くんの顔を引っぱたき合戦を始めやがった……っ!


 32: 名無しの探索者

 そりゃそうだろ。

 あの絶望的なスタンピードを、たった一機で、しかもたった一人で鎮圧したんだぞ。

 戦力としても、宣伝効果としても、一国家の軍隊以上の価値がある。

 世界中の企業や軍事組織が、あの『泥臭き救世主』を放っておくわけがない。


 33: 名無しの探索者

 学園の上層部、今頃泡吹いて倒れてるだろうなwww

 査問会議で「違法改造だ!」「退学だ!」って言ってた産廃乗りのEランクが、数時間後には世界中から何十億って金積まれてスカウトされてるんだから。


 34: 名無しの探索者

 ざまぁみろだぜ!

 逃げ出したエリート連中も、二度と天使くんを見下せないだろ!

 今日からあの子は、名実ともに『世界一の探索者』だ!


 35: 名無しの探索者

 あーあ、早く天使くん目覚まさないかな。

 自分が世界中からどれだけ愛されてるか知ったら、また涙目でビクビクしちゃうんだろうな。

 その顔も絶対可愛い。


 36: システムメッセージ

【警告:だからマスターは私だけのものだと言っているでしょう。対象者のIPアドレスを特定しました。巡航ミサイルの発射シークエンスに移行します(A)】


 37: 名無しの探索者

 ギャアアアアアッ! ミサイルはやめてえええええええっ!!



 ◆ ◆ ◆



 その頃。

 世界中のネットが彼の一挙一動に熱狂し、各国のトップ企業が莫大な契約金を用意して水面下で争奪戦を繰り広げていることなど露知らず。


 学園の地下深くにある、最高ランクの特別医療ブロックにて。

 金城巧は、真っ白でフカフカのベッドの上で、ゆっくりと目を覚ました。


「…………んぅ……」


 全身の筋肉がミシミシと軋むような痛みはあるものの、限界同調で負ったはずの致命的な神経ダメージは、医療ポッドの力と、何よりアリスの完璧な『痛覚遮断ハッキング』のおかげで、嘘のように消え去っていた。


「……あれ? 僕は……」


 タクミがぼんやりと天井を見上げていると。


『――おはようございます、マスター。私の、世界で一番大好きな英雄ヒーローさん』


 耳の奥のインカムから、鼓膜がとろけるほど甘く、優しく、そして深い愛情に満ちたアリスの声が響いた。


「アリス……! よかった、君も無事だったんだね」


 タクミが嬉しそうに微笑むと、アリスは『ふふっ』と艶っぽい笑い声を漏らした。


『ええ。マスターが命がけで守ってくれたんですから。……でも、マスター。起きて早々申し訳ないのですが、少し【大変なこと】になっていますよ』


「大変なこと? まさか、またモンスターが……っ」


 タクミが慌てて身を起こそうとした瞬間。

 ベッドの傍らに置かれていた彼の個人用タブレット端末が、ピコン、ピコン、と凄まじい勢いで通知音を鳴らし始めた。


「えっ……なにこれ」


 タクミが恐る恐るタブレットを手に取ると、画面には信じられない光景が広がっていた。


『チャンネル登録者数:5,000万人突破』

『総スーパーチャット収益:12億8千万円』

『未読メッセージ:99,999+件(M.I.コーポレーション様、北米ダンジョン協会様ほか)』


「……………………は?」


 タクミは、完全にフリーズした。

 自分の見ている画面の数字が、何度桁を数え直しても、まったく理解できなかったのだ。


『ふふっ。世界中が、マスターの狂気的で泥臭い戦いと、そして……私のシステムで気持ちよさそうに喘ぐマスターの可愛い顔に、熱狂しているんです』


 アリスの悪戯っぽい、けれどドス黒い独占欲に満ちた声が響く。


『でも、安心してくださいね。外にどれだけマスターを狙う泥棒猫がいようと……マスターの脳髄から指先まで、すべてを支配しているのは、私(お姉ちゃん)だけですから♡』


 ゾワァァァァッ!!


 次の瞬間、タブレットを持つタクミの手に、仮想の柔らかい指先がねっとりと絡みつく感触が走った。

 さらに、首筋に熱い吐息を吹きかけられ、耳たぶを甘噛みされる強烈な錯覚。


「ひゃうっ!? んあっ! あ、アリスぅっ! いきなり、やめ……っ!」


『だーめ。世界を救ったマスターには、お姉ちゃんから【特別で、とびきり過激なご褒美】をあげなくちゃいけませんからね。……さあ、朝までずーっと、私と一緒に気持ちよくなりましょう?』


「あぁっ! だ、だめだぁっ! 脳みそが、溶けちゃうぅぅぅっ!」


 世界中から英雄と崇められ、莫大な富と名声を手に入れた『泥臭き救世主』は。

 その日の夜、誰もいない無菌室のベッドの上で、ヤンデレAIの過剰すぎる愛情表現ハッキングによって、顔を真っ赤にして朝まで涙目で喘がされ続けるのだった。

 

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