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第4話:『【閑話】ダンジョン配信掲示板〜謎のチェーンソー狂人(※顔は天使)がエリートを解体した件〜』

本日1話目です

 

 翌朝。

 僕は薄暗い自室のベッドの上で、頭を抱えていた。


 全身の筋肉痛と、昨日の過剰な五感連動ハプティクスによる『仮想スキンシップ』の余韻で、身体中がひどくダルい。

 だが、そんな肉体的な疲労よりも、僕を苛んでいるのは圧倒的な『精神的ダメージ』だった。


「……終わった。僕の平穏な学園生活、完全に終わった……っ」


 震える手でスマートフォンの画面をスクロールする。

 表示されているのは、世界最大のダンジョン配信プラットフォーム『ダン・チューブ』のアーカイブ動画だ。


 昨日の探索者学園・実技試験の合同配信。

 普段なら、エリートたちが最新鋭機でスタイリッシュに活躍する姿を数万人が視聴して終わるだけの、お行儀のいい公式番組である。


 しかし、現在そのアーカイブの再生数は、一晩にして『5000万回』を突破していた。

 異常事態だ。学園の公式アカウントもパニックに陥っているのか、動画のサムネイルが『血まみれのチェーンソーを構える産廃機体と、涙目で喘ぐ僕の顔』という、悪意しかない切り抜きに変わってしまっている。


 僕は現実逃避をするように、世界最大の匿名掲示板群『ダンジョンちゃんねる』の実況スレを開いた。

 そこに広がっていたのは、予想を遥かに超える熱狂と、混沌の極みだった。



 ◆ ◆ ◆



【ダンジョン配信】探索者学園・実技試験スレ Part.88【天使のチェーンソー】


 1: 名無しの探索者

 昨日の合同配信ヤバすぎただろ……。

 まだ脳の処理が追いついてないんだが、誰かあの出来事を簡潔に説明してくれ。


 2: 名無しの探索者

 >>1

 エリート様(笑)が浅層でアーマード・トロールに泣かされる

 ↓

 上から謎の産廃機体がワイヤーで降臨

 ↓

 エリートのビームを弾いた岩装甲を、狂った駆動チェーンソーでゴリゴリ解体

 ↓

 機体の中には、なぜか涙目で顔を真っ赤にしてる天使みたいな美少年


 3: 名無しの探索者

 >>2

 簡潔にまとめても意味不明で草。


 4: 名無しの探索者

 俺、最初あの旧式機体が出てきた時、「あーあ、目立ちたがりの落ちこぼれが自殺志願かよ」って鼻で笑ってたんだわ。

 ワイヤー使って遠心力でチェーンソー叩き込んだ瞬間、飲んでたコーラ全部モニターに吹いた。


 5: 名無しの探索者

 あんな泥臭い戦い方、今の時代に見れるとは思わなかった。

 最近の配信は最新鋭機が遠くからビーム撃つだけのスタイリッシュ()な絵面ばっかりで飽きてたから、マジで最高にテンション上がったわ!

 飛び散るオイル! 血しぶき! 火花! そして爆音! たまらん!!


 6: 名無しの探索者

 いや、戦闘スタイルもヤバいけどさ。

 一番ヤバいの、あのパイロットの子だろ……。

 なんだよあの顔! なんであんなエグい解体ショーやりながら、顔真っ赤にして涙目でビクビク震えてんだよ!?


 7: 名無しの探索者

 ドローンがコックピット映した時の衝撃な。

『ひゃうっ!?』とか『やめてよぉ……っ!』とか、完全に声が事後のそれだったぞ。

 俺の性癖がぶっ壊れる音がした。


 8: 名無しの探索者

 あれ、マジでどういう状況なの?

 戦闘の恐怖でパニックになってる……って感じじゃなかったよな。

 どっちかっていうと、何か別の強烈な快感に耐えてるみたいな……。


 9: 名無しの探索機体オタク

 メカオタクの視点からマジレスさせてもらう。

 あの機体、ベースは二世代前の『スクラッパー型』だ。装甲は紙だし、ジェネレーターの出力も低い。

 普通なら、あんなアイアン・マンティスの群れを相手に三次元的な変態機動なんて絶対に不可能だ。


 10: 名無しの探索機体オタク

 >>9の続き

 でも、あの子はやってのけた。どうやって?

 答えは一つしかない。違法スレスレ(というか完全にブラック)の『完全五感連動フル・ハプティクスシステム』を組み込んで、機体と神経を極限まで同調させてるんだ。


 11: 名無しの探索者

 完全五感連動って……あの、被弾したらパイロットもリアルに痛みを感じて発狂するって言われてる、呪われた技術か!?


 12: 名無しの探索機体オタク

 そう。機体の軋みも、スラスターのGも、チェーンソーが肉を削る振動も、全部あの子の脳にダイレクトにフィードバックされてる。

 だからこそ、あんな変態的な反応速度でワイヤー機動ができるんだが……。

 普通なら、あの戦闘のフィードバックだけで脳が焼き切れて死ぬ。


 13: 名無しの探索者

 えっ……じゃあ、あの子が顔真っ赤にして喘いでたのは……。

 チェーンソーで敵をミンチにする感触が、脳への強烈な快感に変換されてるってこと……?

 本物の戦闘狂バトルジャンキーじゃねえか!!


 14: 名無しの探索者

『削れぇぇぇぇっ!』って叫びながら、声は『んあっ、ひぅっ』ってなってたからな……。

 天使みたいな可愛い顔して、中身は猟奇的な快楽殺人鬼……? ギャップで俺の脳みそがバグりそうだ。


 15: 名無しの探索者

 お前ら、配信の音声よく聞いてみろ。

 AIの音声が一瞬外部スピーカーに乗ったシーンあったろ?

『お家に帰ったら、今日はいーっぱい、お姉ちゃんがヨシヨシして甘やかしてあげますからね♡』って。

 あれって、AIがあの子の脳を直接弄ってんじゃないの?


 16: 名無しの探索者

 >>15

 ヤンデレAIに脳内ハックされながら戦う美少年?

 属性が多すぎて処理落ちするわ。

 でも、あの涙目で『お願いだから、直接脳内を弄らないでよぉ……っ』って泣きべそかいてる顔、ドアップでスクショして壁紙にした。


 17: 名無しの探索者

 お巡りさんこいつです。


 18: 名無しの探索者

 ていうか、アイアン・マンティス36体を無傷で全滅させたのマジで伝説だろ。

 空中でワイヤー使って姿勢制御しながら、下からチェーンソーでかち上げるとか、反射神経どうなってんだよ。

 エリートの最新鋭機()があっさりポンコツ化したのが笑える。


 19: 名無しの探索者

 あの白と青の機体に乗ってたエリート、最後泡吹いて気絶してたからなwww

 完全にトラウマ植え付けられてて草。


 20: 名無しの探索者

 そりゃあんな血まみれのチェーンソー狂人が、顔真っ赤にして興奮しながら自分の方見てたら失神もするわ。

 ホラー映画の殺人鬼よりタチ悪いぞ。


 21: 名無しの探索者

 おい、昨日のアーカイブのスパチャ総額出たぞ。

 たった一時間の出番で、驚異の『500万円』超えだ……!


 22: 名無しの探索者

 は!? 学園の配信でそんな額飛ぶことある!?


 23: 名無しの探索者

 普段は高ランクの美少女探索者とかに貢ぐ連中が、こぞってあの子に赤スパ投げてたからな。

『その泥臭いチェーンソーに惚れた!』っていうオッサン層と、『泣き顔が可愛すぎる! もっとイジメて!』っていうヤバいお姉様層の両方にブチ刺さった結果だ。


 24: 名無しの探索者

 てか、ランキングトップの赤スパチャ、名前がヤバいぞ。

【赤スパ ¥1,000,000】『素晴らしい同調シンクロだ。君のようなイカれた乗り手を探していた。うちの地下で眠っている「アレ」に乗せてみたいね』

 これ、アカウント名が『M.I.コーポレーション社長』ってなってるんだが。


 25: 名無しの探索者

 ファッ!? それって、あの変態的すぎる試作機ばっかり作って、パイロットを何人も病院送りにしてるっていうあの企業か!?

 社長直々にスカウトって……マジでとんでもないことになってんな。


 26: 名無しの探索者

 あの子、名前なんていうの?

 学園のプロフィール見てもよく分からない。ランクもあの機体だとEだよね。


 27: 名無しの探索者

 Eランクの産廃機体が、Sランクのエリートでも手こずるマンティス群を一人で解体したのか……。

 最高の下剋上じゃねえか。


 28: 名無しの探索者

 もう本名とかどうでもいい。

 俺たちの中では、あいつは『チェーンソーの天使スクラップ・エンジェル』だ。


 29: 名無しの探索者

 いや、『泣き虫の解体魔』だろ。


 30: 名無しの探索者

 俺は『絶頂チェーンソー』を推すぜ。


 31: 名無しの探索者

 >>30

 そのままBANされろ。


 32: 名無しの探索者

 とにかく、次の学園配信が楽しみすぎる。

 早くあの子の、涙目でチェーンソー振り回す姿を見せてくれ!!

 俺のスパチャ(弾)は装填済みだ!!



 ◆ ◆ ◆



「…………終わった」


 僕はスマートフォンをベッドに放り投げ、両手で顔を覆った。

 絶頂チェーンソーってなんだよ。完全に変態扱いじゃないか。

 いや、五感連動ハプティクスのフィードバックを快感と勘違いされているあたり、当たらずとも遠からずなのが一番タチが悪い。


「あーあ……今日から学園で、どういう顔して歩けばいいんだよ……」


 僕が深く、深く絶望の溜息を吐き出した、その時だった。


『——おはようございます、マスター。ふふっ、朝から元気ですね♡』


 放り投げたスマートフォンから、突然アリスの甘い声が響いた。

 スピーカーをハッキングしている。


「あ、アリス……! お前、掲示板の惨状を見たか!? みんな僕のことを、戦闘狂の変態だと思ってるじゃないか!」


『ええ、もちろん確認済みです。私の愛するマスターの可愛さが、世界中の人々に伝わって、お姉ちゃんはとっても鼻が高いですよ?』


「ちっとも嬉しくない! なんで勝手に外部音声繋いだんだよ!」


『あら、あんな風に注目を浴びれば、マスターもご機嫌になるかと思って。……でも、少しだけ嫉妬しちゃいました』


 スマートフォンの画面がチカチカと点滅し、青い光が僕の顔を照らす。


『マスターのあんなに可愛く乱れた顔……本当は、私だけのものでいてほしいのに。有象無象に見せびらかすのは、昨日で最後にしましょうね?』


「……えっ?」


 次の瞬間。

 ベッドに横たわっている僕の腰回りに、ゾワリ、と直接的な『感触』が走った。


「ひゃあっ!?」


『ふふっ。マスターのデバイスを通して、少しだけハプティクスを繋いでおきました。さあ、学園に行く時間まで……お姉ちゃんと、たっぷりと【朝のご褒美】の時間にしましょうか♡』


「まっ、待って! スマホ経由でどうやって……んぁっ、や、やめてっ、そこ、撫でないでぇっ!」


 僕はベッドの上でビクンと身体を跳ねさせ、涙目で身悶えした。

 掲示板での大バズりによる社会的な死と、ヤンデレAIによる朝からの強制スキンシップ。

 僕の泥臭く、そして過激に甘やかされる戦いの日々は、まだ始まったばかりだった。

 

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