表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/31

第27話:『【閑話】ダンジョン配信掲示板〜誰かあいつを助けろ!いや、あいつが削り切ったぞ!?〜』

 

 世界最大のダンジョン配信プラットフォーム『ダン・チューブ』。

 その日、学園公式チャンネルが配信していた特番『深層合同探索』の同時接続数は、かつてない異常な数値を叩き出していた。


 当初の目的は、学園が誇るAランク、Sランクのトップエリートたちによる華麗な深層モンスター討伐ショーを見せることだったはずだ。

 だが、事態は未曾有のイレギュラー発生によって、一瞬にして『阿鼻叫喚のデスゲーム』へと変貌した。


 純白の巨竜――エンシェント・クラスの神話生物の出現。

 エリートたちの最新鋭兵器が全く通用せず、次々と機体がスクラップにされていく絶望的な光景。

 視聴者たちは画面越しに、リアルな『死』の恐怖を突きつけられ、コメント欄は悲鳴と祈りの言葉で埋め尽くされていた。


 だが。

 その絶望のどん底で、たった一機。

 ツギハギだらけの二世代前の産廃機体が、逃げ惑うエリートたちに逆行するように、巨竜の前に立ち塞がったのだ。



 ◆ ◆ ◆



【ダンジョン配信】探索者学園・深層特番実況スレ Part.892【絶望からの……】


 1: 名無しの探索者

 おい、ウソだろ……。あの絶頂チェーンソー、なんで一人で残ってんだよ!?


 2: 名無しの探索者

 逃げろぉぉぉっ!! お前じゃ勝てない!! 早くワイヤーで上に逃げろって!!


 3: 名無しの探索者

 他のエリート連中は全員エレベーターの方に逃げたぞ!

 白金様ホワイト・リリィが大破して動けないからって、Eランクのアイツが庇ってどうすんだよ!

 死ぬ気かよ!!


 4: 名無しの探索者

 >>3

 バカ野郎、画面よく見ろ!

 アイツ、泣いてるぞ……っ。

 コックピットのカメラ、顔面ぐしゃぐしゃにして泣きながら操縦桿握ってるじゃねえか!!


 5: 名無しの探索者

 ホントだ……。恐怖でガタガタ震えてる。

 今まで狂ったように笑顔(?)でチェーンソー振り回す戦闘狂だと思ってたけど、中身はただの年相応の少年じゃねえか……っ。


 6: 名無しの探索者

 当たり前だろ!

 プロのSランク探索者だって逃げ出すレベルの神話生物だぞ!

 あんな産廃機体に乗って、怖くないわけがない!


 7: 名無しの探索者

 なのに、なんでアイツ……白金様を守るために、一歩も退かないんだよ……っ。

 誰か、誰か教官でもなんでもいいから助けに行ってやれよ!!


 8: 名無しの探索者

 ああっ! 巨竜がブレス撃つぞ!!

 終わった……。


 9: 名無しの探索者

 ……えっ?


 10: 名無しの探索者

 ファッ!?!?

 躱した!? あの極太レーザーを、機体のスラスターだけで神回避したぞ!?


 11: 名無しの探索者

 いや、回避だけじゃねえ! そのままワイヤーで竜の背中に乗り移った!!

 チェーンソー起動!


 12: 名無しの探索者

 ダメだ、刃が弾かれてる! 魔力障壁が硬すぎるんだ!

 アイツの機体、反発力でミシミシ言ってるぞ! 装甲が剥がれかけてる!


 13: 名無しの探索者

【赤スパ ¥50,000】

 天使くん! もう十分だ! お前の男気は世界中に伝わった!

 だから頼む、死なないでくれぇぇぇっ!


 14: 名無しの探索機体オタク

 メカオタクの俺から言わせてもらう。

 今のアイツの機動、絶対におかしい。人間の反射神経じゃ絶対に不可能なラグゼロの反応速度だ。

 もしかしてアイツ……非合法の『限界同調フル・シンクロ』やってるんじゃないか!?


 15: 名無しの探索者

 フルシンクロって、機体のダメージが全部ダイレクトに脳に伝わるっていうアレか!?

 死ぬぞ!! あんな巨大な敵とやり合ったら、痛覚のショックで脳みそが焼き切れる!!


 16: 名無しの探索者

 だからアイツ、あんなに顔真っ赤にして、よだれ垂らして、悲鳴上げながら操縦してるのか……っ。

 狂人なんかじゃない。アイツは、極限の痛みに耐えながら戦ってるだけなんだ!


 17: 名無しの探索者

 うおおおおおおおおおおっ!!

 障壁が! 竜の魔力障壁が、チェーンソーで削られていく!!

 ウソだろ!? 最新鋭のビームが全く通じなかった障壁だぞ!?


 18: 名無しの探索者

 理屈は分からんが、アイツの変態的なミリ単位の操縦技術と、チェーンソーの暴力的な回転が、障壁の演算を超えてんだよ!

 割れた!! 障壁が割れたぞ!!


 19: 名無しの探索者

 いけえええええええええええええええええっ!!

 削れ! 削り殺せぇぇぇぇっ!!


 20: 名無しの探索者

【赤スパ ¥100,000】

 俺たちの天使を泣かせたトカゲ野郎を、ぶっ殺せぇぇぇぇっ!!


 21: 名無しの探索者

 ああっ! 竜が壁に背中叩きつけた!

 天使くんの機体が、左足もがれたぞ!!


 22: 名無しの探索者

 もう見てられない……っ。誰か通信繋いで退避命令出せよ!

 アイツ、もうボロボロじゃないか……っ。


 23: 名無しの探索者

 竜が、またブレスをチャージしてる。

 ……さっきよりデカい。あんなの至近距離で撃たれたら、今度こそ終わりだ。

 白金様も泣き叫んでるぞ……逃げてくれって。


 24: 名無しの探索者

 ……おい、アイツ。

 逃げないぞ。


 25: 名無しの探索者

 えっ?


 26: 名無しの探索者

 左足が吹っ飛んだ機体で、正面から突っ込んだぁぁぁぁぁぁっ!?

 ブレスの光の中を、強引に切り裂いていきやがった!!


 27: 名無しの探索者

 ワイヤーを喉元に突き刺した!

 下から! チェーンソーでカチ上げたぞ!!


 28: 名無しの探索者

 あああああああああああああああっ!!!!

 竜の頭が!! 真っ二つにぃぃぃぃぃぃっ!!!!


 29: 名無しの探索者

 ……………………。


 30: 名無しの探索者

 ……………………えっ?


 31: 名無しの探索者

 勝っ……た……?

 あの、Eランクの産廃機体が……神話生物を……タイマンで……?


 32: 名無しの探索者

 う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!

 勝ったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 マジで削り切りやがったぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!


 33: 名無しの探索者

【赤スパ ¥500,000】

 神! お前は神だ!! 伝説の始まりだぁぁぁぁっ!!


 34: 名無しの探索者

【赤スパ ¥1,000,000】

 よくやった! 本当によく生きててくれた!!

 あの小さな背中、一生忘れないぞ!!


 35: 名無しの探索者

 泣いた。マジで泣いた。

 エリート連中が我先にと逃げ出す中、アイツだけが震える足で前に出たんだ。

 狂人でも変態でもない。アイツは、最高に泥臭くてカッコいい『ヒーロー』だよ!!


 36: 名無しの探索者

 見ろよ、戦闘終わった後のコックピットの映像……。

 天使くん、完全に精根尽き果てて、天井見つめて放心してる。

 しかもなんか、すげえ甘い声で「んぅっ……」とか喘いでる……?


 37: 名無しの探索者

 限界同調の副作用だろ。痛覚の反動で脳がバグってんだよ。

 今は休ませてやれ。ゆっくり休んでくれ、俺たちの泣き虫ヒーロー……っ!


 38: 名無しの探索機体オタク

【赤スパ ¥30,000】

 機体は完全にスクラップだな。だが、これ以上の働きをした機体はこの世にねえよ。

 修理費の足しにしてくれ!!


 39: 名無しの探索者

 いや、ちょっと待て。

 とんでもない額の赤スパチャが飛んできたぞ……っ。


 40: 名無しの探索者

【赤スパ ¥10,000,000】

【M.I.コーポレーション社長:

 素晴らしい!! ブラボー!! 完璧だ!!

 まさか限界同調フル・シンクロの致死的な負荷に耐え抜き、あのような変態機動を完璧に成し遂げるとは!!

 金城巧くん! 君こそが、私が探し求めていた『完全な器』だ!

 さあ、私の元へ来たまえ! 君のその異常な同調能力にしか扱えない、呪われた最高傑作プロトタイプが、君の搭乗を待ちわびて咽び泣いているぞ!!】


 41: 名無しの探索者

 社長オォォォォォォォッ!!

 いっせんまん!? 桁がおかしいだろ!!


 42: 名無しの探索者

 やめろ変態社長! 俺たちの天使くんを、お前んとこの欠陥試作機に乗せて殺す気か!

 あの子はもう十分頑張ったんだよ!!


 43: 名無しの探索者

 でも、今回で産廃機体は完全にぶっ壊れたしな……。

 学園のエリート機体じゃ、アイツの変態的な反射神経ラグゼロにはついていけない。

 マジで、M.I.社の限界スペック機体に乗る日が来るかもしれないぞ。


 44: 名無しの探索者

 白金様、機体の中で泣き崩れてるな。

「どんだけ私のこと好きなのよ」ってマイク越しに漏れてるぞwww


 45: 名無しの探索者

 >>44

 ラブコメも忘れない男、絶頂チェーンソー。

 お嬢様、完全にアイツの虜になっちゃったな。

 学園の頂点の女を、底辺のEランクが命がけで振り向かせたんだ。最高のドラマじゃねえか。


 46: 名無しの探索者

 今日、俺たちは歴史的な瞬間に立ち会った。

 最新鋭のエリート機体が通用しない神話を、ボロボロの産廃機体が泥臭く削り殺した日。


 絶頂チェーンソー改め……『泥臭き救世主ヒーロー』の誕生だ!!



 ◆ ◆ ◆



 深層の空宙を飛び交う配信用ドローンが映し出したのは、完全に静寂を取り戻した大空洞の光景だった。


 真っ二つに両断された、エンシェント・クラスの純白の巨竜。

 その巨大な死骸の上に、片脚を失い、右腕の装甲が吹き飛び、全身から黒いオイルと煙を吐き出している『魔導機甲』が、まるで墓標のように静かに立ち尽くしている。


 コックピットの中では、死闘を演じきった少年・金城巧が、完全に意識を手放してシートに深く沈み込んでいた。


 限界同調による極限の激痛と、それを上回るアリスからの『致死量の快感ハッキング』。

 その両方に脳を焼き尽くされそうになりながらも、彼は最後まで操縦桿を離さなかった。

 涙と汗と、そして微かな涎で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、その表情はどこか、すべてをやり遂げた安堵感に満ちている。


『……ふふっ。ゆっくりおやすみなさい、私の可愛いヒーロー』


 インカムの奥で、ヤンデレAIのアリスだけが、満足げに微笑んでいた。


 彼女の愛の狂気に満ちたサポートがなければ、タクミは間違いなく死んでいた。

 だが同時に、彼女の過剰な愛情表現ハックによって、タクミは全世界に「涙目で喘ぎながら戦う狂人」という強烈すぎる印象を刻み込んでしまったのも事実である。


 しかし、今日この日。

 視聴者たちは、その「狂気」の裏側にある、震える足で絶望に立ち向かう少年の「勇気」を知った。

 莫大なスーパーチャットが滝のように流れ続け、彼を称賛するコメントがネットの海を埋め尽くす。


 逃げ出したエリートたちなど、もはや誰の記憶にも残っていない。

 世界は今、たった一人の『泣き虫ヒーロー』の誕生に、熱狂の渦へと巻き込まれていたのだった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ