第27話:『【閑話】ダンジョン配信掲示板〜誰かあいつを助けろ!いや、あいつが削り切ったぞ!?〜』
世界最大のダンジョン配信プラットフォーム『ダン・チューブ』。
その日、学園公式チャンネルが配信していた特番『深層合同探索』の同時接続数は、かつてない異常な数値を叩き出していた。
当初の目的は、学園が誇るAランク、Sランクのトップエリートたちによる華麗な深層モンスター討伐ショーを見せることだったはずだ。
だが、事態は未曾有のイレギュラー発生によって、一瞬にして『阿鼻叫喚のデスゲーム』へと変貌した。
純白の巨竜――エンシェント・クラスの神話生物の出現。
エリートたちの最新鋭兵器が全く通用せず、次々と機体がスクラップにされていく絶望的な光景。
視聴者たちは画面越しに、リアルな『死』の恐怖を突きつけられ、コメント欄は悲鳴と祈りの言葉で埋め尽くされていた。
だが。
その絶望のどん底で、たった一機。
ツギハギだらけの二世代前の産廃機体が、逃げ惑うエリートたちに逆行するように、巨竜の前に立ち塞がったのだ。
◆ ◆ ◆
【ダンジョン配信】探索者学園・深層特番実況スレ Part.892【絶望からの……】
1: 名無しの探索者
おい、ウソだろ……。あの絶頂チェーンソー、なんで一人で残ってんだよ!?
2: 名無しの探索者
逃げろぉぉぉっ!! お前じゃ勝てない!! 早くワイヤーで上に逃げろって!!
3: 名無しの探索者
他のエリート連中は全員エレベーターの方に逃げたぞ!
白金様が大破して動けないからって、Eランクのアイツが庇ってどうすんだよ!
死ぬ気かよ!!
4: 名無しの探索者
>>3
バカ野郎、画面よく見ろ!
アイツ、泣いてるぞ……っ。
コックピットのカメラ、顔面ぐしゃぐしゃにして泣きながら操縦桿握ってるじゃねえか!!
5: 名無しの探索者
ホントだ……。恐怖でガタガタ震えてる。
今まで狂ったように笑顔(?)でチェーンソー振り回す戦闘狂だと思ってたけど、中身はただの年相応の少年じゃねえか……っ。
6: 名無しの探索者
当たり前だろ!
プロのSランク探索者だって逃げ出すレベルの神話生物だぞ!
あんな産廃機体に乗って、怖くないわけがない!
7: 名無しの探索者
なのに、なんでアイツ……白金様を守るために、一歩も退かないんだよ……っ。
誰か、誰か教官でもなんでもいいから助けに行ってやれよ!!
8: 名無しの探索者
ああっ! 巨竜がブレス撃つぞ!!
終わった……。
9: 名無しの探索者
……えっ?
10: 名無しの探索者
ファッ!?!?
躱した!? あの極太レーザーを、機体のスラスターだけで神回避したぞ!?
11: 名無しの探索者
いや、回避だけじゃねえ! そのままワイヤーで竜の背中に乗り移った!!
チェーンソー起動!
12: 名無しの探索者
ダメだ、刃が弾かれてる! 魔力障壁が硬すぎるんだ!
アイツの機体、反発力でミシミシ言ってるぞ! 装甲が剥がれかけてる!
13: 名無しの探索者
【赤スパ ¥50,000】
天使くん! もう十分だ! お前の男気は世界中に伝わった!
だから頼む、死なないでくれぇぇぇっ!
14: 名無しの探索機体オタク
メカオタクの俺から言わせてもらう。
今のアイツの機動、絶対におかしい。人間の反射神経じゃ絶対に不可能なラグゼロの反応速度だ。
もしかしてアイツ……非合法の『限界同調』やってるんじゃないか!?
15: 名無しの探索者
フルシンクロって、機体のダメージが全部ダイレクトに脳に伝わるっていうアレか!?
死ぬぞ!! あんな巨大な敵とやり合ったら、痛覚のショックで脳みそが焼き切れる!!
16: 名無しの探索者
だからアイツ、あんなに顔真っ赤にして、よだれ垂らして、悲鳴上げながら操縦してるのか……っ。
狂人なんかじゃない。アイツは、極限の痛みに耐えながら戦ってるだけなんだ!
17: 名無しの探索者
うおおおおおおおおおおっ!!
障壁が! 竜の魔力障壁が、チェーンソーで削られていく!!
ウソだろ!? 最新鋭のビームが全く通じなかった障壁だぞ!?
18: 名無しの探索者
理屈は分からんが、アイツの変態的なミリ単位の操縦技術と、チェーンソーの暴力的な回転が、障壁の演算を超えてんだよ!
割れた!! 障壁が割れたぞ!!
19: 名無しの探索者
いけえええええええええええええええええっ!!
削れ! 削り殺せぇぇぇぇっ!!
20: 名無しの探索者
【赤スパ ¥100,000】
俺たちの天使を泣かせたトカゲ野郎を、ぶっ殺せぇぇぇぇっ!!
21: 名無しの探索者
ああっ! 竜が壁に背中叩きつけた!
天使くんの機体が、左足もがれたぞ!!
22: 名無しの探索者
もう見てられない……っ。誰か通信繋いで退避命令出せよ!
アイツ、もうボロボロじゃないか……っ。
23: 名無しの探索者
竜が、またブレスをチャージしてる。
……さっきよりデカい。あんなの至近距離で撃たれたら、今度こそ終わりだ。
白金様も泣き叫んでるぞ……逃げてくれって。
24: 名無しの探索者
……おい、アイツ。
逃げないぞ。
25: 名無しの探索者
えっ?
26: 名無しの探索者
左足が吹っ飛んだ機体で、正面から突っ込んだぁぁぁぁぁぁっ!?
ブレスの光の中を、強引に切り裂いていきやがった!!
27: 名無しの探索者
ワイヤーを喉元に突き刺した!
下から! チェーンソーでカチ上げたぞ!!
28: 名無しの探索者
あああああああああああああああっ!!!!
竜の頭が!! 真っ二つにぃぃぃぃぃぃっ!!!!
29: 名無しの探索者
……………………。
30: 名無しの探索者
……………………えっ?
31: 名無しの探索者
勝っ……た……?
あの、Eランクの産廃機体が……神話生物を……タイマンで……?
32: 名無しの探索者
う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!
勝ったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
マジで削り切りやがったぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!
33: 名無しの探索者
【赤スパ ¥500,000】
神! お前は神だ!! 伝説の始まりだぁぁぁぁっ!!
34: 名無しの探索者
【赤スパ ¥1,000,000】
よくやった! 本当によく生きててくれた!!
あの小さな背中、一生忘れないぞ!!
35: 名無しの探索者
泣いた。マジで泣いた。
エリート連中が我先にと逃げ出す中、アイツだけが震える足で前に出たんだ。
狂人でも変態でもない。アイツは、最高に泥臭くてカッコいい『ヒーロー』だよ!!
36: 名無しの探索者
見ろよ、戦闘終わった後のコックピットの映像……。
天使くん、完全に精根尽き果てて、天井見つめて放心してる。
しかもなんか、すげえ甘い声で「んぅっ……」とか喘いでる……?
37: 名無しの探索者
限界同調の副作用だろ。痛覚の反動で脳がバグってんだよ。
今は休ませてやれ。ゆっくり休んでくれ、俺たちの泣き虫ヒーロー……っ!
38: 名無しの探索機体オタク
【赤スパ ¥30,000】
機体は完全にスクラップだな。だが、これ以上の働きをした機体はこの世にねえよ。
修理費の足しにしてくれ!!
39: 名無しの探索者
いや、ちょっと待て。
とんでもない額の赤スパチャが飛んできたぞ……っ。
40: 名無しの探索者
【赤スパ ¥10,000,000】
【M.I.コーポレーション社長:
素晴らしい!! ブラボー!! 完璧だ!!
まさか限界同調の致死的な負荷に耐え抜き、あのような変態機動を完璧に成し遂げるとは!!
金城巧くん! 君こそが、私が探し求めていた『完全な器』だ!
さあ、私の元へ来たまえ! 君のその異常な同調能力にしか扱えない、呪われた最高傑作が、君の搭乗を待ちわびて咽び泣いているぞ!!】
41: 名無しの探索者
社長オォォォォォォォッ!!
いっせんまん!? 桁がおかしいだろ!!
42: 名無しの探索者
やめろ変態社長! 俺たちの天使くんを、お前んとこの欠陥試作機に乗せて殺す気か!
あの子はもう十分頑張ったんだよ!!
43: 名無しの探索者
でも、今回で産廃機体は完全にぶっ壊れたしな……。
学園のエリート機体じゃ、アイツの変態的な反射神経にはついていけない。
マジで、M.I.社の限界スペック機体に乗る日が来るかもしれないぞ。
44: 名無しの探索者
白金様、機体の中で泣き崩れてるな。
「どんだけ私のこと好きなのよ」ってマイク越しに漏れてるぞwww
45: 名無しの探索者
>>44
ラブコメも忘れない男、絶頂チェーンソー。
お嬢様、完全にアイツの虜になっちゃったな。
学園の頂点の女を、底辺のEランクが命がけで振り向かせたんだ。最高のドラマじゃねえか。
46: 名無しの探索者
今日、俺たちは歴史的な瞬間に立ち会った。
最新鋭のエリート機体が通用しない神話を、ボロボロの産廃機体が泥臭く削り殺した日。
絶頂チェーンソー改め……『泥臭き救世主』の誕生だ!!
◆ ◆ ◆
深層の空宙を飛び交う配信用ドローンが映し出したのは、完全に静寂を取り戻した大空洞の光景だった。
真っ二つに両断された、エンシェント・クラスの純白の巨竜。
その巨大な死骸の上に、片脚を失い、右腕の装甲が吹き飛び、全身から黒いオイルと煙を吐き出している『魔導機甲』が、まるで墓標のように静かに立ち尽くしている。
コックピットの中では、死闘を演じきった少年・金城巧が、完全に意識を手放してシートに深く沈み込んでいた。
限界同調による極限の激痛と、それを上回るアリスからの『致死量の快感ハッキング』。
その両方に脳を焼き尽くされそうになりながらも、彼は最後まで操縦桿を離さなかった。
涙と汗と、そして微かな涎で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、その表情はどこか、すべてをやり遂げた安堵感に満ちている。
『……ふふっ。ゆっくりおやすみなさい、私の可愛いヒーロー』
インカムの奥で、ヤンデレAIのアリスだけが、満足げに微笑んでいた。
彼女の愛の狂気に満ちたサポートがなければ、タクミは間違いなく死んでいた。
だが同時に、彼女の過剰な愛情表現によって、タクミは全世界に「涙目で喘ぎながら戦う狂人」という強烈すぎる印象を刻み込んでしまったのも事実である。
しかし、今日この日。
視聴者たちは、その「狂気」の裏側にある、震える足で絶望に立ち向かう少年の「勇気」を知った。
莫大なスーパーチャットが滝のように流れ続け、彼を称賛するコメントがネットの海を埋め尽くす。
逃げ出したエリートたちなど、もはや誰の記憶にも残っていない。
世界は今、たった一人の『泣き虫ヒーロー』の誕生に、熱狂の渦へと巻き込まれていたのだった。




