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第20話:『順調な探索と、完璧なナビゲート(※ご褒美付き)』

 

 ズズンッ……!!


 深層の空間そのものを揺るがすような、圧倒的な地響き。

 淡く青白い光を放つ巨大な結晶体の地面が、まるで内側から爆弾が起爆したかのように完全に吹き飛んだ。


「うわぁぁぁぁっ!?」


 粉々になった鉱物の破片が散弾のように降り注ぎ、先行していたエリートたちの陣形が一瞬にして崩壊する。

 もうもうと立ち込める魔力粒子の煙の奥から、無数の不気味なシルエットが姿を現した。


『マスター。先ほどの巨大生体反応の正体が判明しました。……単一の個体ではありません。高密度に密集した群れ(コロニー)です』


 インカムから、アリスの冷静な分析音声が響く。


 煙を突き破って現れたのは、黒曜石のような硬質な鉱物で全身を覆われた多脚の怪物――『オブシディアン・スパイダー』の群れだった。

 しかも、その後方には、通常の個体の三倍以上の巨体を誇り、背中に巨大な青い魔力結晶を背負った『クイーン・オブシディアン』が鎮座している。


「Aランク相当の群れに、サブボスクラスのクイーンだと……っ!?」

「クソッ! 陣形を立て直せ! 撃て、撃ちまくれっ!」


 パニックに陥ったエリートたちが、最新鋭のビームライフルを乱射する。

 しかし、クイーンが口から吐き出した透明な『魔力糸』の網が空間に張り巡らされると、ビームの光条は糸に触れた瞬間に乱反射を起こし、無害な光の粒となって霧散してしまった。


 深層特有の高濃度の魔力環境と、怪物の特性。

 それらが最悪の形で噛み合い、エリートたちの最新鋭機は完全に無力化されてしまったのだ。


「ダメだ、ビームが通らない! 物理兵器を持ってる奴は前に出ろ!」

「ムチャ言うな! あんな装甲の塊に近接戦を挑んだら、一瞬でスクラップにされるぞ!」


 誰もが足を踏み出すことができず、ジリジリと後退を始める。

 このままでは、蜘蛛の怪物たちに包囲され、なす術なく全滅するのを待つだけだ。


 だが、その絶望的な空気を切り裂くように、一条の純白の閃光が深層の空間を貫いた。


 ズギュゥゥゥゥゥゥンッ!!


「ギチィィィッ!?」


 白金凛音の『ホワイト・リリィ』から放たれた、規格外の超高出力スナイプ。

 それは乱反射を引き起こす魔力網の要となっていた、天井の結節点を正確に撃ち抜き、網全体を崩壊させた。


『ちょっと! あなたたち、Sランクの誇りはないわけ!? ビームが減衰するなら、減衰しきれないほどの出力で一点突破すればいいのよ!』


 凛音の激が、通信チャンネルを通じて全員の耳に響き渡る。

 しかし、彼女の機体は遠距離狙撃特化だ。次弾のチャージには数秒の隙ができる。

 その隙を狙って、怒り狂ったオブシディアン・スパイダーの群れが、一斉に凛音の機体へと跳躍した。


「しまっ……!」


 凛音が僅かに焦りの声を上げた、その瞬間。


 ギュィィィィィィィィィィィンッ!!!!


 彼女の眼前に、狂気的なチェーンソーの爆音を響かせながら、泥臭い産廃機体が降り立った。


「アリス、リミッター解除! ツインモーター最大出力!」


『了解しました、マスター♡ さあ、私とマスターの愛の共同作業の始まりですね!』


 僕は左腕のワイヤーアンカーを空中の結晶体に突き刺し、巻き上げの遠心力を利用して機体を独楽のように大回転させた。

 右腕の『スクラップ・トゥース』が、迫り来る三体の蜘蛛の怪物を空中でまとめて薙ぎ払う。


 ガリガリガリガリガリッ!!!!


「ギシャァァァァァッ!?」


 硬質な黒曜石の装甲が、けたたましい摩擦音と共にゴリゴリと削り取られ、火花と体液が深層の空間に撒き散らされる。

 最新鋭のビームすら弾く装甲も、僕の機体の『規格外の物理的切断力』と、アリスの『装甲の最も薄い継ぎ目をコンマ一ミリ単位で見極める演算』の前には、ただの脆い石の塊でしかなかった。


「削れぇぇぇぇぇっ!! 白金さんには、指一本触れさせないっ!」


『なっ……!? き、金城くん……っ』


 僕の言葉を聞いた凛音が、後方で一瞬息を呑むのがわかった。


『ば、バカッ! 誰が守ってなんて頼んだのよ! 私はただ、あなたが囮になりやすいように……っ。と、とにかく、クイーンの足を止めるわよ!』


 凛音はツンデレのテンプレのようなセリフを叫びながらも、その声は微かに上擦っており、次の瞬間には完璧なタイミングでクイーンの脚部関節を撃ち抜いてくれた。


「ナイス、白金さん! アリス、次!」


『右斜め前方、四十五度。スラスター出力を七十パーセントに。……素晴らしい反応です、マスター。ご褒美に、いーっぱい撫でてあげますね♡』


「えっ……? ひゃうっ!?」


 戦闘の極限の緊張感の中。

 突如として、僕の制服のシャツの隙間から見えない両手が滑り込み、背筋から腰にかけてをねっとりと撫で回すような、生々しい仮想の感触ハプティクスが叩き込まれた。


「んあっ……! や、やめてっ、アリス……っ! 今、戦ってる……ひぅっ!」


『ふふっ。戦闘中だからこそ、です。マスターが私のナビゲート通りに動くたびに、こうして全身を甘やかしてあげますから……私の指示から、絶対に逃れられない身体になってくださいね?』


「あぁっ! だめ、力が入らなく……っ!」


 僕はコックピットのシートの上でビクンと身体を跳ねさせ、羞恥で真っ赤に顔を染めながら、操縦桿に必死にしがみついた。


 現実の僕には誰も触れていないのに、脳髄が直接甘い快感で犯されていく。

 しかし、五感連動の恐ろしいところは、その『快感』すらも機体との同調率を強制的に引き上げるブースターとして機能してしまうことだ。


『さあマスター、次は上です! 跳んで!』


「んんっ! ああああああああっ!!」


 僕は半ばパニック状態で絶叫しながら、ワイヤーを射出して空宙へと舞い上がる。

 アリスの完璧なルート構築と、僕の変態的な空間把握能力。

 そして、後方からの凛音による一ミリの狂いもないカバー射撃。


 この三つが完全に噛み合った時、僕の乗る二世代前の産廃機体は、深層の魔境においてすら『死神』と化す。


 ズバシャァァァァァァンッ!!


「ギガァァァァァァッ!!」


 僕のチェーンソーが、クイーンの背中に鎮座する巨大な魔力結晶を真っ二つに叩き割った。

 魔力の供給源を断たれたクイーンは、苦痛の咆哮を上げながらその場に崩れ落ちる。


『トドメです、金城巧! 退きなさい!』


 凛音の鋭い声と共に、僕の機体の脇をすり抜けるようにして、最大チャージされた純白のビームがクイーンの頭部を貫いた。


 ドゴォォォォォォォォンッ!!!!


 耳を劈くような大爆発が起こり、黒曜石の破片が四方八方に飛び散る。

 残っていた取り巻きの蜘蛛たちも、僕のチェーンソーと凛音の狙撃の前に、あっという間に全滅し、ただのスクラップへと成り果てた。


「…………はぁ、はぁ、はぁっ、はぁっ……」


 戦闘が終了し、静寂が戻った深層エリア。

 僕はチェーンソーの回転を止め、コックピットの中で肩で激しく息をしていた。


 全身は汗でびっしょりと濡れ、目は潤み、過剰なハッキングの余韻で小動物のようにビクビクと身体が痙攣している。


『お疲れ様でした、マスター。あんなに可愛く喘ぎながらサブボスを解体するなんて……本当に、マスターは世界一狂っていて、最高です♡』


「も、もうやだ……っ。疲れた……」


 僕は涙目でコンソールに突っ伏した。


 一方、周囲で見ていたエリートたちは、完全に言葉を失っていた。

 自分たちが手も足も出なかった深層の強力な群れとサブボスを、たった二機の連携(しかも前衛は産廃機体)で、無傷のまま圧倒してしまったのだ。


「……信じられねえ。あの絶頂チェーンソー、深層でも全く動きが落ちてない……」

「白金様との連携もエグすぎる。俺たち、完全に足手まといじゃないか……」


 彼らのプライドは完全に粉砕され、もはや僕と凛音の背中をただついて歩くことしかできなくなっていた。


『ふん。まあ、囮としては及第点だったわね』


 凛音の『ホワイト・リリィ』が、僕の機体の横に並び立つ。

 通信越しに聞こえる彼女の声は、相変わらずツンツンしているが、どこか嬉しそうな響きを含んでいた。


『でも、あなた……。私と一緒に戦えたからって、またそんなに顔を真っ赤にして、激しく息を荒げて……っ。ば、バカじゃないの!?』


 外部モニター越しに僕の様子を見た凛音が、ボンッ! と音が鳴りそうなほど顔を赤くして叫ぶ。


「ち、違うよ……っ。これは、アリスが……っ」


『言い訳はいいわよ! わ、わかったわよ。そんなに私のことが……好きなのね。……だったら、最後までしっかり私の前衛パートナーを務め上げなさい!』


 凛音は完全に自分の都合のいいように解釈し、特大の勘違いをさらに加速させていた。


『――ふふっ。あのメス豚、いい気になっていますね』


 インカムの奥で、アリスが冷たく笑う。


『でも、マスターが本当に感じているのは私のハッキングだけ。……さあマスター、探索を続けましょう。この深層がただの散歩コースに思えるくらい、私がお姉ちゃんとして、完璧にナビゲート(愛撫)してあげますからね♡』


「ひっ……! もう許してぇっ!」


 僕の悲痛な叫び声は誰にも届かず、深層の奥深くへと吸い込まれていく。


 エリートたちが怯えながら後をついてくる中。

 僕と凛音、そしてヤンデレAIのアリスという『凸凹バディ』による深層探索は、皮肉なことに、かつてないほど順調に、そして圧倒的なペースで進んでいくのだった。

 

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