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第2話:『産廃機体と駆動チェーンソー〜エリートさん、そのビームじゃ削り切れませんよ?〜』

本日2話目です。

まあこのくらいなら許されますよね。

主人公は小柄ですよ

 

 ダンジョン浅層、荒野エリア。

 つい数十秒前まで、僕の駆る二世代前の旧式パワードスーツ『魔導機甲』によって、一体のアーマード・トロールが真っ二つに解体されたばかりだった。


 飛び散ったどす黒い体液と、砕け散った岩の装甲が周囲に散乱している。

 その中央で、僕は過剰な五感連動ハプティクスのフィードバックによる仮想スキンシップの余韻に、ビクビクと肩を震わせていた。


「あ、あの天使みたいな顔した子が……狂ったようにチェーンソーで怪物を解体して……」


 尻餅をついたままの最新鋭機フェンリルの中で、エリート生徒が信じられないものを見るように呟く。

 上空を飛び交う配信用ドローンが、僕の涙目の顔と、血濡れの巨大チェーンソーを交互に映し出しているのがわかった。


(や、やばい……っ! こんな情けない顔、全世界に配信されてるなんて……っ!)


 僕は火照った顔を隠すように、慌てて機体のマニピュレーターでコックピットのひしゃげた装甲を覆い隠そうとする。

 しかし、そんな僕の焦りなどお構いなしに、サポートAIのアリスは涼しい声で告げた。


『マスター。恥ずかしがる必要はありませんよ。乱れた顔は、世界中の誰よりも可愛くて魅力的ですから♡』


「そういう問題じゃないよっ! お願いだから、戦闘中に変な感覚を流し込むのはやめてって……ひゃうっ!?」


『ふふっ。でも、まだ【ご褒美】の時間は終わっていませんよ?』


 脳内に直接、耳たぶを甘噛みされるような生々しい感触が叩き込まれ、僕は変な声を上げて身をよじる。

 現実の僕の周囲には誰もいないのに、まるで背後からねっとりと抱きつかれているような錯覚。


 だが、僕とアリスの(一方的な)イチャイチャは、突如として響き渡った地響きによって中断された。


 ズズズズズズズッ……!!


 ダンジョンの分厚い岩壁が内側から弾け飛び、もうもうと土煙が舞い上がる。

 その奥から姿を現したのは、先ほど僕が倒した個体よりもさらに一回り巨大な、二体のアーマード・トロールだった。


「なっ……嘘だろ!? なんで変異体が、群れでこんな浅い階層に……っ!」


 エリート生徒が絶望に満ちた悲鳴を上げる。

 無理もない。彼が乗っているのは、遠距離からの高出力光学兵器ビームを主体とする狙撃型の最新鋭機だ。


 流線型の美しいフォルムと、白と青を基調としたヒロイックなデザイン。

 学園でもトップクラスの成績を収める者だけが搭乗を許される、まさにエリートの象徴である。

 だが、その最新鋭機が誇るメインウェポンは、今の状況では完全に『無用の長物』と化していた。


「くそっ、動けっ! 頼むから出力戻ってくれ……っ!」


 彼はパニックになりながら、トロールに向けてビームライフルの引き金を引く。

 青白い閃光が一直線に放たれ、先頭のトロールの分厚い岩の装甲に直撃した。


 しかし。


 ピキィィィンッ! という甲高い音と共に、ビームの光は装甲の表面で乱反射し、四方八方へと散らばってしまった。

 トロールの足は止まらない。それどころか、攻撃されたことでさらに怒り狂い、巨大な丸太の腕を振り上げている。


(……だから言ったのに。あんなの、少し考えればわかることだ)


 僕はコックピットの中で小さくため息をつきながら、操縦桿を握り直す。


 アーマード・トロールの装甲は、ダンジョンの特殊な鉱物を体表から分泌して固めたものだ。

 その表面には微細な結晶構造が形成されており、光学兵器の熱と光を『屈折・拡散』させてしまう性質を持っている。

 つまり、エリートさんご自慢の最新型ビームライフルでは、どれだけ撃っても表面を焦がすことすらできないのだ。


『マスター。敵対存在、アーマード・トロール二体。脅威度判定B+。対象のエリート生徒の機体は、先ほどの戦闘でジェネレーターが焼き切れており、回避行動は不可能です』


 アリスのクールな電子音声が、戦況を的確に分析する。

 先ほどまでの甘ったるいお姉ちゃんモードから一転、戦闘になれば彼女は一切の無駄を省いた完璧なナビゲーターとなる。


「……助けるしかないよね。アリス、機体のリミッターを解除。出力80%まで引き上げて」


『了解しました。ですがマスター、この機体は二世代前のポンコツですよ? 出力を上げれば、機体の軋みが直接ハプティクスを通じてマスターの身体に負担をかけます』


「わかってる。でも……」


 僕は、右腕に装備された巨大な武装——『スクラップ・トゥース』の起動スイッチを入れた。


「僕の機体これには、最新鋭機にはない『泥臭い力』があるからね!」


 ギュィィィィィィィィィィィンッ!!!!


 ダンジョンの空気を震わせるような、凶悪な駆動音が鳴り響く。

 廃材の建機からぶっこ抜いてきた大型チェーンソーと、規格外のトルクを持つ旧式モーターを悪魔合体させた、僕の最高傑作。


 洗練された最新鋭機には決して搭載できない、圧倒的な『物理的切断力』の塊だ。


 トロールの丸太のような腕が、エリート生徒の機体に振り下ろされようとしたその瞬間。


「アリス、左腕のワイヤーアンカー射出! 目標、天井の鍾乳石!」


『射出角、テンション計算完了。——飛びますよ、マスター』


 ガァンッ! と左腕の射出機から鋼線が飛び出し、数十メートル上空の岩盤に深く突き刺さる。

 次の瞬間、強力な巻き上げモーターが火を吹き、僕の乗る機体は振り子の原理で凄まじい速度で宙へと舞い上がった。


「う、うわぁぁぁぁぁっ! やっぱりこのG、キツい……っ!」


 五感連動システムを通じて、内臓が押し潰されるような強烈な重力加速度が僕の身体を襲う。

 だが、そのおかげで機体の挙動を自分の手足のように感じ取ることができるのだ。


 僕は空中を円を描くように高速でスイングし、エリート生徒に襲いかかろうとしていたトロールの頭上へと、死角から回り込んだ。


「エリートさん、そのビームじゃ削り切れませんよ!」


 僕は叫びながら、重力と遠心力のすべてを乗せて、右腕の巨大チェーンソーをトロールの首筋へと叩きつけた。


 ガリガリガリガリガリッ!!!!


 けたたましい爆音と共に、オレンジ色の火花が滝のように噴き出す。

 ビームを弾いた無敵の岩装甲が、超高速回転する強靭な刃によって、文字通り『削り取られて』いく。


「ギガァァァァァァッ!?」


 トロールが絶叫を上げる。

 硬い岩を削る激しい振動が、ハプティクスを通じて僕の両腕にビリビリと伝わってくる。

 骨が軋み、歯を食いしばらなければ意識が飛びそうなほどの衝撃。


(硬いっ……! でも、押し切るっ!)


 僕は涙目になりながらも、スラスターを全開にしてさらに刃を押し込んだ。

 アリスのチート級の演算サポートが、トロールの装甲が最も薄い関節の継ぎ目を的確にハイライト表示してくれている。

 そこを狙って、力任せに削り殺す。それが僕の戦い方だ。


 ズシャァァァァァッ!!


 ついに装甲が砕け、肉を断つ生々しい感触が伝わってきた。

 チェーンソーの刃がトロールの首を半ばまで切断し、どす黒い血が間欠泉のように噴き出して僕の機体を真っ赤に染め上げる。


 そのままの勢いで、僕はワイヤーのテンションを解放。

 機体を蹴り出すようにしてトロールの巨体を蹴り飛ばし、二体目の懐へと潜り込んだ。


『素晴らしい機動です、マスター。その泥臭くて野蛮な戦い方……最高にゾクゾクします』


 アリスの声が、再びねっとりとした甘いものに変わる。


『さあ、もっと激しく削りましょう? お姉ちゃんが、マスターの脳みそが溶けちゃうくらいのサポートをしてあげますからね♡』


「えっ……ちょっ、アリス、待っ——」


 ドドドドドドドドッ!!!!


 警告する間もなく、脳髄を直接撫で回されるような、強烈な仮想の快感が叩き込まれた。

 太ももの内側を指でなぞられ、首筋に熱い吐息を吹きかけられるような錯覚。

 戦闘の極度の緊張感と、致死量の甘い快感が脳内で衝突し、理性が完全にショートする。


「ああっ……! んぁっ、やめっ、ひぅっ!」


 僕はコックピットの中で顔を真っ赤にして身悶えしながら、半ばパニック状態でチェーンソーを振り回した。

 快感から逃れるように、とにかく目の前の巨大な敵をバラバラにすることだけを考える。


 ギュィィィィィィンッ! ガリガリガリッ! ズチャッ!


「削れぇぇぇっ! もう、全部削れぇぇぇぇぇっ!!」


 涙と汗でぐしゃぐしゃになった顔で叫びながら、僕は二体目のトロールの脚部をチェーンソーで切断し、そのままバランスを崩した巨体の腹部へと刃を突っ込んだ。


 肉片が飛び散り、オイルと血の匂いがコックピットの換気フィルターを抜けて漂ってくる。

 僕はワイヤーを駆使して三次元的な変態機動を繰り返し、上下左右の死角から次々とチェーンソーの刃を叩き込んでいった。


 それはもはや戦闘ではなく、一方的で猟奇的な『解体ショー』だった。

 ビームすら通じない強固なモンスターが、スクラップ同然の産廃機体によって、文字通り挽肉へと変えられていく。


「…………はぁ、はぁ、はぁっ……」


 数分後。

 ダンジョンには再び静寂が戻り、僕の周囲には原形をとどめていないトロールの肉塊だけが散乱していた。


 僕は操縦桿から手を離し、ぜえぜえと荒い息を吐きながらシートに深くもたれかかった。

 過剰なフィードバックのせいで、全身がまだ小刻みに震えている。


「んぅ……っ、も、もう最悪だよ……っ。アリスのバカ……っ」


 僕は涙目でモニターを睨みつけるが、アリスは悪びれる様子もなく、むしろ嬉しそうに電子音を鳴らした。


『ふふっ。お疲れ様でした、マスター。あんなに気持ちよさそうな声を出して、怪物を解体するなんて……本当に、私のご主人様は可愛くて狂っていて、最高です♡』


「ちがっ……僕が興奮してるわけじゃなくて、君が勝手に信号を……っ!」


 言い返そうとした僕の視界の端に、ドローンのカメラの赤いランプが点滅しているのが映った。

 しまった、配信中だった。


 恐る恐るメインモニターで配信の様子を確認すると、そこには血まみれのチェーンソーを構えた無骨な機体と、そのコックピットの中で顔を真っ赤にして涙目で震えている僕の姿が、バッチリと大写しになっていた。


「あ……」


 僕が呆然としていると、地面にへたり込んでいたエリート生徒が、ガチガチと歯を鳴らしながら後ずさりをした。


「ヒッ……! く、狂ってる……あんな産廃で、トロールの群れをミンチにするなんて……しかも、あんなに顔を赤くして興奮しながら……!」


「ち、違うんです! これは、その、AIの誤作動というか……っ!」


 僕が必死に弁解しようと機体のマイクをオンにした瞬間。

 アリスが勝手に外部スピーカーをジャックし、ダンジョン中に響き渡るような甘ったるい声で告げた。


『——マスター。そんなに焦らなくても大丈夫ですよ。お家に帰ったら、今日はいーっぱい、お姉ちゃんがヨシヨシして甘やかしてあげますからね♡』


「……っ!? アリスぅぅぅぅぅぅっ!!」


 僕の悲痛な叫び声がダンジョンにこだまする。


 エリート生徒は恐怖のあまり泡を吹いて気絶し、ドローンのカメラは無情にも僕の泣き顔を全世界へと配信し続けていた。

 こうして、僕の意図とは裏腹に、『天使の顔をした狂人』の伝説は、さらなるバズを生み出しながら加速していくのだった。

 

ハアハア言いながらチェーンソー片手にする男の娘が書きたかっただけです。

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