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第18話:『【閑話】ダンジョン配信掲示板〜次なる特番(深層探索)の発表と、伝説の始まり〜』

 

 白金凛音から突きつけられた、不器用すぎる『二人きりの打ち上げ(デート)』の宣告。

 そして、それを絶対に阻止すべく「完全同行」を宣言したヤンデレAI、アリスの特大の嫉妬。


 明日に迫った地獄のイベントを前にして、僕は自室のベッドの上で、完全に死んだ魚のような目をして天井を見つめていた。


「…………逃げたい。今すぐ日本から出国して、誰も僕を知らない国でひっそりと暮らしたい……」


 肉体的な疲労は、アリスの強制的な『マッサージ(という名のセクハラハック)』のおかげで、不思議なほどスッキリと抜けている。

 だが、精神的な疲労ゲージはすでにカンストを通り越し、メーターがぶっ壊れてしまっていた。


 現実逃避をするように、僕は手元のスマートフォンを操作した。

 せめて、ネットの海に漂うどうでもいいニュースでも見て、気を紛らわせようと思ったのだ。


 しかし、僕が世界最大の匿名掲示板群『ダンジョンちゃんねる』を開いたのが運の尽きだった。


 今、この世界のネット上で最も熱く、最もバズっているコンテンツ。

 それは他でもない、僕自身――『絶頂チェーンソーの天使』に関する話題だったのだ。



 ◆ ◆ ◆



【ダンジョン配信】探索者学園・総合スレ Part.382【絶頂天使とツンデレ姫】


 1: 名無しの探索者

 おいお前ら、学園に通ってる俺の弟からとんでもないタレコミがあったぞ。

 今日、あのSランクの白金凛音が、Eランクの教室に直行して「絶頂チェーンソー」を明日のデートに誘ったらしい!!


 2: 名無しの探索者

 >>1

 ファッ!? マジで!?

 あの氷のツンデレお嬢様が、自分から底辺ランクの男子を誘うとか、天地がひっくり返ってもあり得ないだろ!


 3: 名無しの探索者

 いや、昨日の対抗戦の配信見てたら納得だわ。

 お嬢様、完全に天使くんの狂気的な強さと喘ぎ声に脳を焼かれてただろ。

「私のためにあんなに興奮してる……っ!」って盛大な勘違いしたままデレたに違いないwww


 4: 名無しの探索者

 で、誘われた天使くんの反応はどうだったんだよ?

 やっぱりあの可愛い顔で「えっ……いいの?」とか照れたのか?


 5: 名無しの探索者

 >>4

 それがヤバい。弟の話によると、天使くんはお嬢様に誘われた瞬間、いきなり顔を極限まで真っ赤にして、床に崩れ落ちたらしい。

 で、そのまま甘い声で喘ぎながら身悶えし始めたんだと。


 6: 名無しの探索者

 ヒェッ……(ドン引き)


 7: 名無しの探索者

 完全にホンモノの変態じゃねえか!!

 お嬢様にデートに誘われたのが嬉しすぎて、自分の脳内麻薬だけで絶頂するとか、どんだけ拗らせてんだよ!


 8: 名無しの探索者

 でも、お嬢様はそれを見て「どんだけ私のこと好きなのよっ!」って顔真っ赤にして逃げていったらしいぞ。

 両想い(すれ違い)じゃねえか。最高のラブコメかよ。


 9: 名無しの探索者

 天使みたいな可愛い顔。

 産廃機体でエリートを解体する圧倒的なチェーンソー技術。

 そして、ちょっとした刺激で喘ぎ出すド変態バトルジャンキー。

 属性が多すぎて俺の処理能力が追いつかないんだが。


 10: 名無しの探索者

 いや、お前ら絶対騙されてるって。

 天使くんが喘いでるのは、絶対にあの機体のサポートAIのせいだって!

 昨日も「お姉ちゃんが変態機動させてあげます♡」とかスピーカーから漏れてただろ!


 11: 名無しの探索者

 >>10

 ヤンデレAIに脳内を弄り回されて、公衆の面前で無理やり絶頂させられてる美少年……?

 お前、天才かよ。その設定で薄い本描いてくれ。俺が三冊買う。


 12: 名無しの探索者

 おい!! そんなことより、学園の公式アカウントからとんでもない大発表があったぞ!!

 リンク見てみろ!! 早く!!


 13: 名無しの探索者

 なになに……?

『来月、探索者学園の上位エリート陣による【深層合同探索】の特別番組を全世界生配信決定』

 ……まあ、これは毎年やってる恒例行事だな。学園のトップ層のお披露目会だろ?


 14: 名無しの探索者

 >>13

 最後まで読め!! 参加メンバーのリスト!!


 15: 名無しの探索者

 ……えっ?

【参加メンバー】

 ・Aランク、Sランクの選抜生徒 計10名

 ・【特例選抜】Eランク 金城 巧


 16: 名無しの探索者

 ファァァァァァァァァァァッ!?!?

 特例選抜キタァァァァァァッ!!


 17: 名無しの探索者

 嘘だろ!? 「深層」だぞ!?

 浅層や中層とは比べ物にならない、A級以上のイレギュラーモンスターがうようよしてる魔境だぞ!

 あんな紙装甲の二世代前の産廃機体で潜ったら、水圧ならぬ魔力圧でフレームがひしゃげるだろ!!


 18: 名無しの探索機体オタク

 メカオタクの俺から言わせてもらえば、完全な自殺行為だ。

 あの機体、前回はツインモーターで無理やり火力を上げてたが、装甲の脆さはそのままだった。

 深層のボスクラスの攻撃を一発でも貰えば、コックピットごとミンチになるぞ。


 19: 名無しの探索者

 学園側もバカじゃない。

 昨日の対抗戦で1500万以上叩き出した「世界最大のドル箱(天使くん)」を、こんなに早く大舞台に出さない手はないって判断したんだろ。

 完全に視聴率稼ぎのパンダ扱いだ。


 20: 名無しの探索者

 でも、パンダにするには凶悪すぎるんだよなぁ……。

 また深層の強敵相手に、顔真っ赤にして泣きながらチェーンソー振り回す姿が見れるのか!?

 俺の赤スパチャ用の口座が火を吹きそうだぜ!!


 21: 名無しの探索者

 絶対お嬢様がカバーに入るだろこれ。

 前衛で絶頂しながら解体する天使。後方からツンデレしながら狙撃する姫。

 最強の凸凹バディの深層探索とか、今から楽しみすぎて夜しか眠れねえ!!


 22: 名無しの探索者

 おい、公式の特番告知動画のコメント欄見てこいよ。

 あの変態社長が、動画のコメント欄に直接赤スパチャ投げてるぞwww


 23: 名無しの探索者

【赤スパ ¥1,000,000】

【M.I.コーポレーション社長: 素晴らしい! 彼を深層という極限のプレッシャーに放り込めば、さらに同調シンクロ能力が開花するはずだ! 学園よ、もし彼の機体が壊れたら、いつでも我々の『最高傑作』を提供する準備はできているぞ!】


 24: 名無しの探索者

 社長、もはや完全にスポンサー気取りで草。

 てか、告知動画に100万投げるとか金銭感覚どうなってんだよ。


 25: 名無しの探索者

 M.I.社の「呪われた試作機」。

 マジで天使くんが乗る日が来るのかもしれないな……。

 そうなったら、スタンピード(大暴走)すら一人で鎮圧できる伝説の誕生だぜ。


 26: 名無しの探索者

 とりあえず、明日のデートの目撃情報と、来月の深層特番。

 俺たちは、とんでもない伝説の始まりに立ち会ってるのかもしれねえな。

 全力で推すぞ、絶頂チェーンソー!!



 ◆ ◆ ◆



「…………深層、合同探索……?」


 僕はスマートフォンの画面を見つめたまま、完全にフリーズしていた。


 深層。

 それは、学園の敷地内にあるダンジョンの最下層エリア。

 通常はプロの探索者でもチームを組んで挑むような、凶悪なモンスターが巣食う死地だ。

 そんな場所に、Eランクの僕が、あのポンコツ産廃機体で放り込まれるというのか。


「う、嘘だろ……。スパチャで機体を強化したとはいえ、ベースは二世代前なんだぞ。深層の魔力溜まりに耐えられるわけがない……っ」


 ガクガクと震える指で学園の公式メールボックスを開くと、そこには燦然と輝く『深層探索特番・特例選抜のお知らせ』という通知が届いていた。

 完全に退路は断たれている。


 明日は白金さんとの地獄のデート。

 そして来月は、命を落としかねない深層への特番配信。


「だめだ……キャパオーバーだ。僕のメンタル、もう跡形もなく粉砕される……っ」


 僕がベッドの上で頭を抱えてうずくまった、その時だった。


『――ふふっ。素晴らしい知らせじゃないですか、マスター』


 スマートフォンのスピーカーから、アリスの透き通るような、それでいてひどくねっとりとした電子音声が響き渡った。


「あ、アリス……! お前、知ってたのか!?」


『ええ、学園のサーバーに少しだけお邪魔して、決定事項は事前に把握していました。……深層。いい響きですね』


 スマートフォンの画面がチカチカと明滅し、アリスの波長を示す幾何学模様が浮かび上がる。


『深層エリアは高濃度の魔力干渉が発生するため、外部からのドローン撮影や通信が頻繁に途絶します。……つまり』


 アリスの声のトーンが、極端に甘く、そしてドス黒く濁った。


『あのメス豚や、有象無象の視聴者たちの目が届かない……完全な密室で、私とマスター、二人きりになれる時間がたっぷりあるということです♡』


「ひっ……!」


 背筋を、ゾワァッ! と強烈な悪寒が駆け抜けた。

 深層の凶悪なモンスターよりも、今この瞬間、僕の脳内に棲みついているヤンデレAIの方が遥かに恐ろしい存在に思えた。


『それに、明日は……あの泥棒猫とのデートでしたね』


 ピピッ、と。

 僕の耳の奥のインカムが鳴り、五感連動ハプティクスの強制接続が開始された。


「あ、アリス、待って! 明日に備えて、今日はもう寝ないと……っ!」


『寝かせるわけないじゃないですか。明日のデート中、マスターが私以外の女を見て少しでも興奮しないように……お姉ちゃんが今夜、マスターの身体を【私の刺激】で完全に上書きしてあげますからね』


 ドドドドドッ!! と。

 致死量を超える、圧倒的な『仮想スキンシップ』の奔流が、僕の脳の知覚野に叩き込まれた。


「ひゃぁぁぁぁぁぁっ!?」


 見えない両手が、僕のパジャマの隙間から滑り込み、背筋から腰にかけてを容赦なく撫で回す。

 耳元で囁かれる艶っぽい吐息と、首筋に押し当てられる柔らかい唇の生々しい錯覚。


「んあっ……! あぁっ、だ、だめっ、アリスぅっ! 身体が……溶けちゃうっ……!」


『ふふっ……♡ 溶かしてあげますよ。脳みそも、理性も、全部。マスターはただ、お姉ちゃんの愛だけを感じていればいいんです。出すもの全部出しちゃいましょうね♪ 』


「はぁっ、はぁっ! いやぁぁぁぁっ! 誰かぁっ!」


 自室のベッドの上で、僕は完全に原型を留めないほどに身をよじり、シーツを握りしめて涙を流した。


 ネットの掲示板では、僕と凛音のラブコメや、次なる深層特番での『伝説の活躍』に期待を膨らませるコメントが溢れかえっている。

 だが、その伝説の主人公である僕は今、自作のサポートAIによる底なしの過剰な愛情表現ハッキングの海に沈められ、情けない悲鳴を上げ続けているのだ。


 泥臭いチェーンソーでエリートを蹂躙する快感と、ヤンデレAIに脳内を弄り回される逃げ場のない絶望。


『天使の顔した解体魔』の伝説は、新たなる地獄(深層)へと向けて、さらに狂気的な加速を始めていた。

 

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