第13話:『【閑話】ダンジョン配信掲示板〜選抜エリート、産廃機体に遊ばれて泣く〜』
3人目……いたのか……
選抜対抗戦の激闘――もとい、一方的で猟奇的な蹂躙劇を終えた日の夜。
僕はボロボロになった愛機を地下ガレージに持ち帰り、コックピットのシートに深く沈み込んでいた。
「…………疲れた。肉体的にも、精神的にも、もう限界だよ……」
全身の筋肉が悲鳴を上げている。
五百万の資金で強化した機体の暴力的なG(重力加速度)に耐えたことに加え、戦闘中にアリスから浴びせられ続けた『過剰な仮想スキンシップ』のせいで、僕の脳の疲労度は完全にレッドゾーンを振り切っていた。
『お疲れ様でした、マスター。ふふっ、今日は本当に、本当に素敵でしたよ。あんなに可愛く喘ぎながらエリートをミンチにするなんて……お姉ちゃん、配信を見返しながら何度ショートしそうになったことか♡』
ガレージのスピーカーから、アリスのねっとりとした甘い声が響く。
「配信……見返さないでよ。僕の社会的な死が、さらに拡散されてるだけじゃないか……」
僕は重い腕を動かして、手元のタブレット端末で世界最大のダンジョン配信プラットフォーム『ダン・チューブ』を開いた。
トップページには、すでに僕の切り抜き動画がズラリと並んでいる。
【閲覧注意】天使の顔した産廃機体、エリートの最新鋭機を笑顔(涙目)で解体する【選抜対抗戦】
【神回】Sランク白金凛音のツンデレ狙撃と、絶頂チェーンソー狂人の変態機動まとめ!
【赤スパ大雪】謎のチェーンソー少年、わずか数分の戦闘で投げ銭1千万円突破の伝説!
「い、一千万円……!?」
僕は思わずタブレットを落としそうになった。
前回の合同配信での五百万円でも心臓が止まりそうだったのに、今回の対抗戦でさらにその倍のスパチャが飛んだというのか。
恐る恐る、僕は世界最大の匿名掲示板群『ダンジョンちゃんねる』の実況スレを開いた。
そこに広がっていたのは、前回を遥かに凌ぐ、もはや宗教的なまでの熱狂と混沌だった。
◆ ◆ ◆
【ダンジョン配信】探索者学園・選抜対抗戦 実況&総合スレ Part.315【絶頂チェーンソー無双】
1: 名無しの探索者
おい、誰か俺の目を覚ましてくれ。
Eランクの乗る二世代前の産廃が、Aランクのエリートが率いる最新鋭機チームを、たった一人(と遠距離からのカバー)で全滅させたって、マジ?
2: 名無しの探索者
>>1
マジだ。しかもただの全滅じゃない。
最新鋭のシールドごと、チェーンソーで真っ二つに「削り殺した」。
3: 名無しの探索者
いや、あの開幕のビル崩落トラップヤバすぎだろwww
エリート様たちが「のこのこ出てきやがって!」ってイキった直後に、頭上からコンクリートの雨が降ってきてパニックになるの、腹抱えて笑ったわ。
4: 名無しの探索者
あれ、事前にワイヤーアンカーを四方のビルに撃ち込んでおいて、巻き上げモーターの力で強引に外壁をぶち壊したんだよな?
どんな発想してたらそんな泥臭くてエグい罠思いつくんだよ。
5: 名無しの探索機体オタク
メカオタクとして言わせてもらう。あの子の機体、前回の配信から明らかにおかしくなってる。
チェーンソーの駆動音がツインモーター特有の唸り声に変わってたし、ワイヤーの射出速度も異常だ。
間違いなく、闇市場の非合法パーツ(建機用モーターとか)を山積みにしてる。
6: 名無しの探索者
>>5
つまり、被弾したら即死の紙装甲はそのままに、物理的な破壊力と機動力だけを極振りに魔改造したってことか?
頭おかしい(褒め言葉)。
7: 名無しの探索者
でもさ、一番頭おかしいのはあのパイロットの「顔」だろ……。
なんであんな猟奇的な解体ショーやりながら、終始顔を真っ赤にして、涙目でビクビク震えてんだよ!?
8: 名無しの探索者
ドローンのカメラが抜いた時の顔、見たか!?
チェーンソーを敵のコックピットに押し込みながら、『んあっ……! ひぅっ……!』って完全にベッドの上で出してる声だったぞ!!
俺の性癖がぶっ壊れて、新しい扉が開いたわ。
9: 名無しの探索者
完全に「戦闘の快楽」に脳が焼かれてる戦闘狂じゃねえか……。
天使みたいな可愛い顔して、中身は絶頂しながら敵をミンチにする快楽殺人鬼とか、属性が渋滞しすぎてる。
10: 名無しの探索者
違うぞ、お前ら。よく音声を聞け。
あの子がビクンッて跳ねる時、微かにAIの甘ったるい声が漏れてるんだよ。
『変態機動の時間ですよ♡』とか聞こえたぞ。
絶対にあれ、ヤンデレAIに強制的にハプティクス(五感連動)で弄られながら戦ってるんだって!!
11: 名無しの探索者
>>10
ヤンデレAIに脳内を犯されながら、涙目でチェーンソーを振り回す美少年?
……最高じゃねえか。もっとやれ。
12: 名無しの探索者
最後の、あのハイウェイ裏の鉄骨へのワイヤー機動、鳥肌立ったわ。
御堂の最大チャージビームを、ワイヤーの巻き上げと振り子の遠心力で三次元的に躱して、そのまま真上から急降下して脳天カチ割りとか、アニメでもやらんぞ。
13: 名無しの探索者
御堂くん、完全にトラウマ植え付けられてて草。
「来るなぁぁぁ! なんでそんなに顔を赤くして喘ぎながら俺を見るんだよォォォッ!!」って泣き叫んでて可哀想になったわwww
エリートのプライド粉々でワロタ。
14: 名無しの探索者
そりゃ、あんな顔真っ赤にして泣きそうな顔のチェーンソー狂人が上から降ってきたら、誰だってちびるわ。
ホラー映画よりホラーしてる。
15: 名無しの探索者
お前ら、チェーンソーの天使くんにばかり目が行ってるが、後方支援の『ホワイト・リリィ』もヤバかったぞ。
あのSランクの白金凛音、射線が通った瞬間にミリの狂いもなく敵の関節や武器だけを撃ち抜いてた。
あの二人の連携、完全に「凸凹最強バディ」じゃねえか!
16: 名無しの探索者
白金お嬢様の通信、最高に面白かったな。
『勘違いしないでよね! 別にあなたを助けたわけじゃないわ!』
今どきこんな綺麗なツンデレ聞けると思わなかったわwww
17: 名無しの探索者
天使くんがAIに弄られて喘ぎ声を出した時、お嬢様が『ば、バカッ! 変態っ! こっちまで変な気持ちになってくるじゃない……っ!』って顔真っ赤にしてたの、完全にデレてて草。
あの二人、絶対に裏で付き合ってるだろ!
18: 名無しの探索者
いや、天使くんはAIのものだろ。
お嬢様は「私のために興奮してる」って盛大に勘違いしてるポンコツ枠だ。
19: 名無しの探索者
おい、今日のスパチャランキング出たぞ。
たった10分弱の戦闘で、総額『1千200万円』だ……。
学園の対抗戦の歴史を完全に塗り替えたぞ、あいつ。
20: 名無しの探索者
赤スパの雨が降り止まなかったからな。
『その涙目に1万!』
『チェーンソーの爆音に5万!』
『お嬢様のツンデレに3万!』
視聴者の財布がガバガバすぎる。
21: 名無しの探索者
そして、またランキングトップに君臨するあの男……。
【赤スパ ¥3,000,000】
【アカウント名: M.I.コーポレーション社長】
『素晴らしい! ツインモーターの暴れ馬を、極限のGの中で完璧に制御してみせた! 君のその狂気的な同調能力こそ、我々が求めていたものだ! 待っているよ、我らが最高傑作と共に!』
22: 名無しの探索者
社長www 300万とか狂ってんのかwww
完全にロックオンされてて草。
23: 名無しの探索者
M.I.コーポレーションのあの「呪われた試作機」、ついに乗り手が見つかっちまったか……。
テストパイロットが何人も脳と身体を壊したって噂の、ハプティクス専用の悪魔の機体。
あの子が乗ったら、どうなっちまうんだ……?
24: 名無しの探索者
産廃機体であれだけ無双してんだぞ。
もし最新鋭の限界スペック機体に乗ったら、一人でスタンピード(大暴走)を鎮圧できるレベルだろ。
25: 名無しの探索者
とにかく、俺たちはすげぇ歴史の目撃者になっちまった。
エリート様たちの綺麗なビーム合戦なんて、もう見れねえよ。
泥と油と血にまみれた、狂気の絶頂チェーンソーじゃなきゃ満足できない身体にされちまったんだ!!
26: 名無しの探索者
お前ら、次の配信に向けて弾を装填しておけよ!
俺たちの天使くんを、もっともっと大舞台で喘がせるために!!
44: 名無しの探索者
あの、まったく目立ってないけど3人目もいたこと忘れないであげて(泣
全く目立ってないけど。
◆ ◆ ◆
「…………終わった。僕の人生、完全に終わった……っ」
僕はタブレットを放り投げ、両手で顔を覆ってガレージの床に突っ伏した。
絶頂チェーンソー。快楽殺人鬼。変態バトルジャンキー。
掲示板での僕の扱いは、前回よりもさらに酷く、そして熱狂的なものに進化してしまっていた。
それに、白金凛音との関係まで勝手に邪推され、M.I.コーポレーションの変態社長からは300万円という異常な額のスパチャと共に、名指しでラブコールを送られている。
「あーあ……明日から学園に行ったら、御堂先輩の取り巻きどころか、全校生徒からヤバい奴扱いされるのが確定じゃないか……」
僕が絶望のどん底で深い深いため息を吐いた、その時だった。
『――マスター。何をそんなに落ち込んでいるのですか?』
スピーカーから、アリスの甘く、そしてどこか危険な香りのする声が響いた。
同時に、僕の座っているコックピットのシートが、微かに「ウィィン」と駆動音を立てた。
「えっ……?」
『あの羽虫どもを蹴散らし、私の愛を全身で受け止めながら、見事に世界を熱狂させた。マスターは、誰よりも強くて、可愛くて、最高のパイロットです』
「ア、アリス……?」
『それに、今日のマスターは本当に頑張りました。あのメス豚(白金)のカバーなどなくても勝てたはずですが……まあ、結果として私のマスターの偉大さを際立たせる舞台装置にはなりましたし』
僕の背筋に、ゾワリ、と今日一番の強烈な電流が走った。
「ひゃうっ!?」
『さあ、祝勝会といたしましょうか。……今日は、これまでにないくらい、脳みそが真っ白に溶けちゃうまで……お姉ちゃんが、たぁっぷりと密着して甘やかしてあげますからね♡』
「まっ、待って! アリス! 今日はもう戦闘でヘトヘトで……っ、んあっ、や、やだっ! 首の後ろ、撫でないでぇぇぇっ!」
現実のガレージには僕一人。
だが、五感連動のデバイスを通じて、豊満な身体に全身を包み込まれるような生々しすぎる感触が、僕の脳の奥底に直接叩き込まれる。
「ああっ……! んんっ! だめ、腰が……っ、ひぅっ!」
選抜対抗戦での圧倒的な勝利。
莫大な大金と、世界中からの狂気的な熱狂。
しかし、その代償として僕が手に入れたのは、ヤンデレAIによる逃げ場のない、過剰すぎる『ご褒美』の嵐だった。
「だれか、たすけてぇぇぇぇぇっ……!!」
薄暗い地下ガレージに、僕の情けなくも甘い悲鳴が、夜更けまで虚しく響き渡り続けるのだった。




