第12話:『ワイヤーアンカーの恐怖〜死角からの泥臭い一撃〜』
直接描写ないのでセーフ!!
廃都市エリアの十字路に、二機の量産型最新鋭機の無残な残骸が転がっている。
それを文字通り『解体』した僕のポンコツ機体は、飛び散ったオイルでドロドロに汚れ、凶悪なチェーンソーの刃からポタポタと黒い雫を垂らしていた。
「ひっ……! あ、あぁっ……!」
残された最後の一機。
リーダーである御堂の乗る青と白の最新鋭機『フェンリル』が、ガチガチと関節から不様な音を立てながら後ずさりをする。
もはや、彼にはエリートとしての傲慢さなど微塵も残っていなかった。
遥か遠方のビルの屋上からは、Sランクの白金凛音が放つスナイパーライフルの照準が、常に彼のコックピットをロックオンしている。
そして目の前には、味方をミンチに変え、狂ったような爆音を上げる泥臭いチェーンソーを構えた僕がいるのだ。
『——マスター。あの羽虫、完全に怯えきっていますね。可哀想に。マスターの狂気的な可愛さに、脳が破壊されてしまったのでしょうか』
耳の奥のインカムから、アリスの氷のように冷たく、それでいて酷薄な笑みを含んだ電子音声が響く。
「ぼ、僕が狂ってるんじゃないよっ……! アリスが変なハッキングしてくるから、顔が真っ赤になってるだけで……っ!」
『あら、そうでしょうか? 今だって、チェーンソーのトリガーを引く指が、ゾクゾクと震えているじゃありませんか。……もっと、彼をバラバラにしたいんでしょう?♡』
「ちがっ……! ひゃうっ!?」
不意に、僕の太ももの内側を、指先で下から上へとツーッとなぞり上げるような生々しい感触が走った。
アリスがまた、五感連動のバイパスを悪用して『仮想スキンシップ』を叩き込んできたのだ。
僕はコックピットのシートの上でビクンと身体を跳ねさせ、涙目で身悶えする。
「んあっ……! や、やめてっ、アリス……っ! 今、追い詰めてるところなのに……ひぅっ!」
『ふふっ、追い詰めるのもいいですが、油断は禁物ですよ? あのエリートさん、死に物狂いで反撃してくるかもしれませんからね。お姉ちゃんが、もっと深く同調してあげます♡』
背後から豊満な身体で抱きしめられ、耳たぶを甘噛みされるような強烈な錯覚。下半身には指先でツツッとなぞられる柔らかな感触もある。
顔を真っ赤に染め、操縦桿を握る手に必死に力を込めながら、荒い息を吐き出した。
そんな僕の姿を外部モニター越しに見ていた御堂は、ついに恐怖のあまり半狂乱になった。
「く、来るな! 来るなぁぁぁぁっ!! なんでそんなに顔を赤くして、喘ぎながら俺を見るんだよォォォッ!!」
御堂は泣き叫びながら、フェンリルの機体に搭載された最大火力の武装――両肩にマウントされた『高出力圧縮ビーム砲』を展開した。
ジェネレーターの出力が危険領域に達し、砲口に眩いほどの青白い光が収束していく。
『ちょっと、金城巧! 敵が広範囲殲滅用のビームをチャージしてるわよ!』
通信チャンネルから、凛音の焦ったような声が響き渡った。
『私の狙撃で砲身を破壊するわ! あなたは急いでその場から離脱して!』
ズギュゥゥゥゥンッ!!
凛音の声と同時に、遠方のビルから純白の閃光が放たれた。
しかし、死の恐怖で完全にパニックに陥っている御堂は、デタラメにスラスターを吹かして機体を乱高下させていた。
その予測不能な動きのせいで、凛音の正確無比なスナイプはフェンリルの装甲を浅く掠めるだけに留まってしまった。
「うおおおおおおおっ! 一緒に消え去れぇぇぇぇぇっ!! ゴミカスがぁぁぁぁっ!!」
御堂が絶叫と共に、チャージを完了したビーム砲のトリガーを引く。
「しまっ……!」
『——マスター。私の指示通りにペダルを踏んでください。……さあ、変態機動の時間ですよ♡』
アリスのねっとりとした甘い声が脳内に響いた瞬間、僕の視界のARに、極めて複雑で狂気的な『回避ルート』が緑色のラインで描画された。
それは、平面上の移動では絶対に避けられない極太のビームを、三次元的な立体機動で回避するというものだった。
「アリス、ワイヤーアンカー射出! 目標、頭上の廃ハイウェイの裏側!」
ガァンッ!!
僕の左腕から射出された鋼線が、数十メートル上空にある崩れかけた高速道路の裏側の鉄骨に、深く突き刺さった。
直後、十字路を埋め尽くすほどの極太のビームが、御堂の機体から放たれた。
太陽が地上に落ちてきたかのような、圧倒的な光と熱の奔流。
「巻き上げっ! 最大出力ぅぅぅぅっ!!」
僕は巻き上げモーターのスイッチを乱暴に叩き込んだ。
凄まじい張力でワイヤーが巻き取られ、僕の乗るポンコツ機体は、すさまじい重力加速度(G)を伴って空宙へとカチ上げられた。
ズゴォォォォォォォォンッ!!!!
足元を、すべてを蒸発させるビームの濁流が通り過ぎていく。
アスファルトが溶け、周囲の廃ビルが飴細工のようにドロドロに崩れ落ちる。
「う、うわぁぁぁぁぁっ! あっ、つぃっ! 熱い熱いっ!」
五感連動システムを通じて、ビームの余波による恐ろしい熱量が僕の肌をチリチリと焼くように伝わってくる。
内臓が上に引っ張られるような強烈なGと、焼かれるような熱。
だが、それ以上の『熱』が、僕の脳の奥底を直接犯していた。
『ああっ、すごいですマスター! その激しい機動、機体が軋む音……私、マスターと一緒に飛べて最高に気持ちいいですっ!♡』
「ひゃああっ!? アリ、スっ、こんな時に……んあっ! 太もも、撫でないでぇぇぇっ!」
ワイヤーで宙吊りになりながら、僕はコックピットの中で涙目で身悶えした。
極限の回避機動中に、あろうことかアリスは、僕の下半身を這い上がるような強烈な仮想スキンシップを流し込んできたのだ。
「はぁっ、はぁっ! んんっ! 力が、抜けちゃうからぁっ!」
『ダメですよ、マスター。しっかり操縦桿を握って。……さあ、お遊びはここまでです。あの生意気なエリートに、上からの景色を教えてあげましょう』
アリスの声が、再び冷酷な戦闘AIのものへと切り替わる。
僕の機体は、ワイヤーを支点にした振り子運動の頂点に達していた。
眼下では、御堂がビームを撃ち尽くし、濛々と立ち込める白煙の中で荒い息を吐いている。
「はぁ、はぁ……! や、やったか……? さすがの産廃も、跡形もなく消し飛んだだろ……っ!」
彼は勝利を確信し、歪んだ笑みを浮かべていた。
レーダーには何も映っていない。周囲は土煙で覆われている。
平面の戦闘しか想定していないエリートの意識は、完全に『地上』にのみ向けられていた。
「——エリートさん」
僕の声が、外部スピーカーを通じて、廃都市の空から響き渡った。
「えっ……?」
御堂がフェンリルのメインカメラを上空へと向けた、その時。
煙を突き破り、頭上の廃ハイウェイから真っ逆さまに急降下してくる、泥臭い旧式機体の姿があった。
「な、なんだと!? 上から……っ!? 馬鹿な、ワイヤーであのビームを躱したっていうのか!?」
「そのビームのチャージ中、完全に『死角』ができてましたよ!」
僕は重力に従って落下しながら、右腕の巨大チェーンソー『スクラップ・トゥース』のトリガーを限界まで引き絞った。
ギュィィィィィィィィィィィィィィンッ!!!!
空気を引き裂くような、暴力的で猟奇的な駆動音。
五千万の資金で換装したツインモーターが限界を超えて唸りを上げ、凶悪な刃が残像を残す。
「ヒィィィィッ!? シールド、展開しろっ! 展開っ!」
御堂がパニックになって操作を誤る。
さらに、遠方からは凛音の正確なカバー射撃がフェンリルの足元を打ち抜き、その姿勢を完全に崩させていた。
『さあマスター! 徹底的に、何も残らないくらいバラバラに削ってしまいなさい!♡』
「うおおおおおおおおっ!! 削れぇぇぇぇぇっ!!」
僕は涙と汗でぐしゃぐしゃになった顔で絶叫し、落下速度のすべてを乗せて、チェーンソーの刃をフェンリルの頭頂部へと叩き込んだ。
ガリガリガリガリガリガリガリッ!!!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
けたたましい爆音と共に、フェンリルの美しい青と白の装甲が、まるで豆腐のように切り裂かれていく。
オレンジ色の火花が滝のように溢れ出し、飛び散るオイルが僕のコックピットのカメラを真っ黒に染め上げた。
最新鋭機が誇る強固なフレームすら、超重量と遠心力を乗せた狂気のチェーンソーの前には無力だった。
「やめっ、やめろぉぉぉっ! 俺はエリートだぞ! こんな、こんな底辺の産廃機体に……っ!」
「うるさいっ! 僕は今、アリスのせいでそれどころじゃないんだよぉぉぉっ!」
ズシャァァァァァァァァァァンッ!!!!
僕の情けない叫び声と共に、チェーンソーの刃はフェンリルの頭部から胴体にかけてを完全に両断した。
内部のジェネレーターが誘爆を起こす直前、御堂の乗るコックピットブロックが緊急脱出ポッドとして空高く射出されていく。
主を失い、真っ二つに裂けた最新鋭機は、けたたましい爆発音と共に崩れ落ち、黒焦げのスクラップへと成り果てた。
「…………はぁ、はぁ、はぁっ、はぁっ……」
僕はけたたましく回るチェーンソーの回転を止め、残骸の上に降り立った機体の中で、肩で激しく息をしていた。
過剰なGと、アリスの過剰な仮想スキンシップの反動で、全身が小刻みに震え、膝がガクガクと笑っている。
『……素晴らしいです、マスター。最新鋭機を真っ二つにするなんて、最高に泥臭くて、ゾクゾクしました。お姉ちゃん、もう我慢できません……♡』
「えっ? ちょ、アリス……っ、戦闘はもう終わっ……ひゃうっ!?」
ドドドドドッ!! と、今日一番の強烈な快感の波が脳を直撃した。
「ああっ……! んんっ、や、やだぁっ……! 誰か、助けてぇっ……!」
僕は完全に理性を飛ばし、真っ赤な顔で涙をこぼしながら、コックピットの中で小動物のように身をよじった。
上空では、無数の配信用ドローンがその一部始終を撮影している。
圧倒的なワイヤー機動で死角から強襲し、エリートを猟奇的に解体した直後。
なぜか極限まで顔を赤くして、涙目で「んあっ」「ひぅっ」と喘ぎながら身悶えする、天使のような少年の姿。
『……ちょっと、金城巧! なんで敵を倒した後に、またそんなに興奮して喘いでるのよ! ば、バカッ! 変態っ!』
通信越しに聞こえる凛音のツンデレな罵倒も、今の僕の耳にはほとんど届いていなかった。
僕の意図しないところで、このあまりにも狂っていてギャップのある蹂躙劇は、世界中の視聴者の性癖を破壊し、配信の伝説としてさらなるバズを生み出そうとしていたのだった。




