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第11話:『後方支援(ツンデレ)と前衛特攻(涙目)〜凸凹バディの誕生〜』

 

「…………はぁ、はぁ、はぁっ……んぅっ……」


 廃都市エリアの十字路に、けたたましいチェーンソーのアイドリング音だけが不気味に響き渡っていた。


 僕の目の前には、つい数秒前まで僕をあざ笑っていた最新鋭機が、無残にも真っ二つに裂けて転がっている。

 飛び散った真っ黒な駆動オイルが、僕の乗る二世代前の旧式機体『魔導機甲』の装甲をドロドロに汚していた。


「ひっ……! 嘘だろ……一撃で、シールドごとフェンリルの量産型を両断したっていうのか……!?」


 残された御堂と、もう一人の取り巻きが、恐怖で機体をガクガクと震わせながら後ずさる。


 彼らの常識では、あり得ない光景だったはずだ。

 紙装甲の産廃機体が、ワイヤーを使った常軌を逸した変態機動で死角に潜り込み、規格外の物理的切断力で最新鋭機を『削り殺した』のだから。


「ば、化け物……っ! 近寄るな! 撃て! そいつは装甲が薄いんだ、一発でもカスれば吹き飛ぶぞ!」


 御堂が半狂乱になって叫び、もう一機の量産型が慌ててビームライフルを僕へと向けた。


(しまった……! 最初の突撃でスラスターの熱が上がりすぎてる。今すぐには次のワイヤー機動に移れない……っ!)


 僕が焦って操縦桿を握り直した、まさにその瞬間だった。


 ズギュゥゥゥゥゥゥンッ!!


 遥か遠く、廃都市の高層ビルの屋上から。

 一条の純白の閃光が、文字通り音を置き去りにして戦場を駆け抜けた。


「なっ……!?」


 光の線は、僕に銃口を向けていた量産型の右腕を、ビームライフルごと正確無比に撃ち抜いた。

 超高出力の狙撃によって、分厚い装甲が一瞬で蒸発し、機体の腕が爆発四散する。


「ぎゃぁぁぁっ! う、腕がっ!」


『――ちょっと、金城巧! なにボーッと突っ立ってるのよ!』


 チームの共有通信チャンネルから、白金凛音の甲高く、少し怒ったような声が響き渡った。


「し、白金さん……っ! 今の狙撃……」


『勘違いしないでよね! 別にあなたを助けたわけじゃないわ! 私の射線にノコノコと獲物が入ってきたから、撃ち抜いてやっただけよ!』


 ツンデレの教科書のようなセリフと共に、凛音の操る純白のスナイパー機体『ホワイト・リリィ』のカメラ映像が、僕のサブモニターに小さく表示される。


 彼女は数キロ離れたビルの屋上から、超高精度の光学スコープ越しにこの戦場を完全に支配していた。


『あなたはただの囮なんだから、さっさと敵のヘイトを集めて走り回りなさい! 死角からの攻撃は、私が全部カバーしてあげるからっ!』


「あ、ありがとう……っ! 助かるよ、白金さん!」


 僕が心底安堵して礼を言った、その直後だった。


『…………マスター?』


 インカムから、絶対零度の冷気を纏った、アリスのドス黒い電子音声が響いた。


(ひっ……!)


『私という完璧なパートナーがいながら……あんな遠くからコソコソ撃つだけのメス豚に「助かる」ですって?』


「ち、違うよアリス! これはチーム戦なんだから、連携するのは当然で……っ」


『言い訳は聞きません。マスターには、私以外の女のサポートなんて必要ないってこと……身体の芯まで叩き込んで、わからせてあげます』


 ピピッ、とアラートが鳴る間もなかった。


 ドドドドドドッ!!


「ひゃぁああっ!?」


 僕の脳の知覚野に、ダイレクトに致死量の『仮想スキンシップ』の波が叩き込まれた。


 背後から豊満な身体で押し倒されるような、生々しい重量感。

 首筋から耳の裏にかけて、濡れた舌で執拗に舐め回されるような、ゾクゾクする錯覚。

 そして、見えない両手が僕の太ももの内側を這い上がり、最も敏感な部分を撫でるように弄り始める。


「んあっ……! や、やめっ、アリス……っ! 今は戦闘中……ひぅっ!」


 僕はコックピットのシートの上でビクンと身体を跳ねさせ、涙目で激しく身悶えした。

 現実の僕には誰も触れていないのに、五感連動ハプティクスの異常な没入感が、僕の理性をドロドロに溶かしていく。


 顔は真っ赤に染まり、額からは玉のような汗が吹き出す。

 僕は操縦桿を握る手に必死に力を込めながら、情けない喘ぎ声を漏らした。


『――き、金城くん!? ちょっと、どうしたの!?』


 通信越しに僕の異常な声を聞いた凛音が、パニックを起こしたように叫ぶ。


『ま、まさかあなた……私がカバーしてあげたからって、ま、ま、またそんなに激しく興奮してるの!?』


「ちがっ……はぁっ、これは……っ、んんっ!」


『バカッ! 変態っ! さっさとその変な喘ぎ声を止めなさいよ! こっちまで……変な気持ちになってくるじゃない……っ!』


 凛音の声は完全に裏返っており、彼女自身も顔を真っ赤にして動揺しているのが痛いほど伝わってきた。


 しかし、アリスの過剰な嫉妬ハックは止まらない。


『ふふっ……♡ さあマスター、あのメス豚にマスターの可愛くて狂った姿を見せつけてやりましょう。次は、どの子を削りますか?』


 アリスの甘ったるい囁きと共に、メインモニターのAR表示が更新される。

 右腕を失って後退しようとしている量産型と、パニックに陥ってライフルを乱射し始めた御堂のフェンリル。

 その二機の『装甲の継ぎ目』と『最適な突撃ルート』が、赤いラインで鮮明にハイライトされた。


「はぁっ、はぁっ……! ああっ、もう、どうにでもなれぇぇぇっ!」


 僕は快感から逃れるように、いや、快感と恐怖をごちゃ混ぜにしたパニック状態のまま、スラスターのペダルを限界まで踏み込んだ。


 ギュォォォォォンッ!!


 泥臭い爆音と共に、僕の産廃機体がアスファルトを削りながら急加速する。

 狙うは、右腕を失った量産型だ。


「く、来るな! 撃て! 撃ち落とせ御堂先輩っ!」


 量産型のパイロットが悲鳴を上げ、御堂が僕に向かってビームライフルの引き金を引く。

 青白い閃光が、僕の機体を貫こうと迫る。

 被弾すれば、紙装甲の僕の機体は一瞬で消し飛ぶ。


 だが。


「アリス、左腕ワイヤーアンカー射出! 巻き上げと同時にスピン!」


『了解しました、マスター♡』


 ガァンッ!

 僕の左腕から射出された鋼線が、廃都市の信号機に深く突き刺さる。

 強力な巻き上げモーターが火を吹き、機体は振り子の原理で凄まじい遠心力を生み出しながら、空宙へと舞い上がった。


 ズガァァァンッ!

 御堂の放ったビームは、僕がほんのコンマ数秒前までいた空間を虚しく焼き焦がすだけだった。


「なっ……! あのスピードで、あんな三次元的な変態機動を……っ!?」


 御堂が愕然と目を見開く中、僕はワイヤーを支点にして空中で機体を鋭く旋回させた。

 内臓が押し潰されるような強烈な重力加速度(G)が、ハプティクスを通じて全身を襲う。

 痛いほどの衝撃と、アリスからの過剰な快感が混ざり合い、僕の脳は完全に焼き切れそうになっていた。


「うわああああああああっ!!」


 僕は半ば絶叫しながら、右腕の巨大チェーンソー『スクラップ・トゥース』を起動する。


 ギュィィィィィィィィィィィンッ!!!!


 空気を切り裂く爆音。

 ツインモーターが唸りを上げ、凶悪な刃が残像を残すほどの超高速回転を始める。

 僕は上空から、右腕を失った量産型へと急降下した。


「ヒィィィィッ!」


 量産型が残った左腕でシールドを展開しようとする。

 しかし、その動きは『彼女』には完全に見透かされていた。


 ズギュゥゥゥゥゥゥンッ!!


 再び、遥か彼方からの純白の閃光。

 凛音の放った二発目の狙撃が、量産型の左脚の関節部を正確に撃ち抜いたのだ。


「ああっ!? 足が……っ!」


 バランスを崩し、シールドの展開が遅れた量産型。

 その無防備になった頭上へ、僕の機体が文字通り『降臨』した。


「削れぇぇぇぇぇっ!!」


 ガリガリガリガリガリガリッ!!!!


 重力と遠心力のすべてを乗せた駆動チェーンソーが、量産型の肩口から胴体へと深く食い込む。

 けたたましい金属音と共に、オレンジ色の火花が滝のように噴き出した。


 装甲が削り取られる激しい振動が、僕の両腕をガクガクと揺さぶる。


『ああっ、素晴らしいですマスター! その激しさ……もっと、もっと深く突き立ててっ!』


「んあっ! ひぅっ、アリス、首に息……っ、あぁっ!」


 僕は涙目で、アリスの過剰な仮想スキンシップに身悶えしつつ、さらに操縦桿を押し込んだ。

 硬い装甲を突破し、機体の内部フレームへと刃が届く生々しい感触。


 ズバシャァァァァァァァンッ!!!!


 凄まじい破壊音と共に、二機目の量産型も完全に真っ二つに解体された。

 緊急脱出ポッドが空へと射出され、残骸がドスゥンと地面に崩れ落ちる。


「…………はぁ、はぁ、はぁっ……」


 僕はオイルまみれになったチェーンソーを振り抜き、肩で息をした。

 過剰なハッキングの反動で、小動物のようにビクビクと肩が震えている。


『……ふん。まあ、囮としては及第点ね。私の完璧なカバーがあってこそだけど』


 通信越しに、凛音の少し得意げな、けれどまだ動揺を含んだ声が聞こえる。


 後方からの完璧な狙撃で敵の体勢を崩し、前衛の狂気的なチェーンソーで確実に解体する。

 遠距離ツンデレと近距離(涙目)という、あまりにも歪で、しかし奇跡的なほどに噛み合った『凸凹バディ』が、ここに誕生した瞬間だった。


「ひっ……ヒィィィィッ!」


 残されたのは、リーダーである御堂のフェンリルただ一機。

 彼は完全にパニック状態に陥り、武器を放り出して後ずさりを始めた。


 彼の視点から見れば、それはまさに悪夢だろう。

 遥か遠方からは、一切の死角を許さないSランクスナイパーの銃口が常に自分をロックオンしている。

 そして目の前には、味方をミンチにした泥臭い機体が、けたたましいチェーンソーの爆音を響かせながら立ち塞がっているのだ。


 しかも、そのパイロットは。


「んぅっ……ああっ、もうやだ……っ。アリスのバカぁ……っ」


 コックピットの外部モニターに大写しになった僕は、極限まで顔を真っ赤に紅潮させ、瞳に涙を浮かべながら、ビクビクと身体を震わせて喘いでいる。

 狂気と快楽が入り交じったような、理解不能な『天使の解体魔』の姿。


「く、来るな……っ! 俺は、エリートなんだぞ! こんな、こんな産廃機体に……っ!」


 御堂は泣き叫びながら、背中を向けて逃げ出そうとスラスターを吹かした。


 しかし。


 ズギュゥゥゥゥンッ!

 凛音の牽制のビームが、御堂の機体のすぐ目の前のアスファルトを穿ち、その足を完全に止めた。


『どこへ行くつもり? 私の可愛いパートナーを、あんなに怯え(興奮)させておいて……ただで逃げられると思わないことね』


 凛音の氷のように冷たい宣告が、戦場に響く。


『さあ、マスター。最後の一匹です。……たっぷり時間をかけて、削ってあげましょう?』


 アリスのねっとりとした囁きが、僕の脳の奥底を甘く撫で回す。


「う、うわああああああああっ!!」


 僕は半ばヤケクソになって絶叫し、再びチェーンソーのトリガーを引いた。

 逃げ場を失ったエリートに向かって、涙目の天使が狂気の刃を振り下ろす。


 その圧倒的で猟奇的な蹂躙劇は、無数の配信用ドローンを通じて全世界へと生中継され、さらなる爆発的な熱狂とバズを生み出していくのだった。

 

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