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かくや姫は今夜も配信中  作者: ゆずさくら


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戦闘

 一分も経たないうちに、ひかるは息が上がっていた。

 地下七十メートルにある部屋に、ムネタの呼吸音が響く。

 大型の空調設備のような轟音だ。

 ひかるはムネタの攻撃を避けるので限界だった。

 スピードではひかるに分があるのに、まるで読んでいるかのようにカウンターを仕掛けてくる。

 ひかるは思う。

 動きの流れで攻撃箇所を予測するのだろうか。

 ならば、最初の動きを壁にし、突然向きを変えることで攻撃を予測しづらくすればいい。

 ひかるは左右の壁を見た。

 大袈裟に目線を右にして、左の壁に飛び込む。

 もしひかるの様子から行動を予測するなら目線のフェイントでも効果があるはず。

 左の壁を蹴ってムネタの首を蹴りにいく。

 スピードは問題ない。

 今度こそ、決まる。

「!」

 ムネタの右腕があっという間に首への隙間を埋めてしまう。

 同時に、左腕が始動すると、ひかるの顔に拳が飛んできた。

 蹴る足でガードされる右腕を蹴って避けるしかない。

 ひかるは、咄嗟にそう考え、すぐに実行する。

「えっ!?」

 ひかるは左足を掴まれた。

 ムネタの右腕はただまっすぐ振り上げられていたはずだ。

 ひかるが蹴りを中断した瞬間に、右腕が足を取りにきたのだ。

 足を取られたひかるは、そのまま振り回された。

 強く壁に打ち付けられると、ひかるは衝撃で聴覚障害と視野狭窄が起こった。

 これ以上打撃を受けたら……

 もし手術が必要な怪我を負った場合、地球の生物ではないひかる=リスアを治療できるのは『竹』だけだ。

 ここまで『竹』が飛んできたら、某国の思うツボだ。

 これ以上負傷せず、尚且つ、戦いに勝たねばならない。

 強引に体を捻り、ムネタの腕を蹴った。

 よほど痛かったのかムネタはひかるの足を離した。

 落ちるように床に転がると、ムネタとの距離をとる。

 どれくらいの握力があるのだろう。

 ひかるの左足は腫れ上がっていて、さっきと同じように壁を蹴ることはできない。

 ムネタはひかるを見ている。

 ひかるは、エレベーター扉へ向かって走った。

 ムネタはひかるの行動が理解できない。

 ただ逃げた、と思って追ってくるだけだった。

 エレベーター周辺には、複数の所員が倒れたまま存在した。

 軍事基地の所員であり、軍人だった。

 ひかるを撃つつもりで、銃も携帯していた。

「……」

 ムネタはひかるとの間合いを詰めてきた。

 ひかるは気を失っている所員から銃を奪うと、ムネタに狙いをつける。

「それ以上近づくと、撃つわよ」

 止まらない。

 ムネタは銃など目に入らないかのように、前へ進んでくる。

「撃つ……」

 言い終わるより先に、ひかるは銃を捨てて逃げ出した。

 それは『死を恐れない』という言葉だけでは説明できない。

 ムネタは『死』自体を理解していないのかもしれない。

 あるいは『聖戦』の名の下に命をかけて戦う者のような思考かもしれない。

 いずれにせよ、ひかるの『銃』で脅す作戦が、ムネタに対しては何も効果がないことがわかった。

 ひかるは、エレベーターホールを逃げ回りながら、なんとかムネタを回避し、再び桐谷がいる場所に戻ってきた。

 こうなると桐谷を『人質』として利用されないだけマシだと思った。

 ただ、桐谷がいると言うことは、すなわちムネタから逃げる手段がないことを意味する。

 どうやってムネタを抑え込めるだろう。

 ひかるが銃を手にしたとき、殺すと言う選択もあった。

 だが出来ない。ここで犯罪を犯せば、某国にひかるを拘束する正当な理由を与えてしまう。

 それに…… これから子供の親となる者が人殺しであってはいけない。

 これは桐谷との未来を見据えての行動だった。

「!」

 ムネタが容赦なくひかるに手を伸ばしてくる。

 手が届かなければ、足。

 素早い動きと、一つ一つの打撃が強力で、少しでも受けるわけにはいかない。

 かすっても致命傷になりかねないからだ。

 右へ、左へ、ムネタの繰り出す攻撃を避け続ける。

 ひかるは次第に部屋の隅に追い込まれていた。

 痛む足を押して、一撃の攻撃に賭けるべきなのか? それとも……

「あっ!」

 ひかるは、動くこともできないまま足を取られていた。

 足がしっかりと握られていて、体を捻っての受け身は取れない。

 両腕で後頭部を守るのが精一杯だった。

 ムネタが足を高く掲げると、ひかるの体は完全にぶら下がってしまう。

 このままさっきと同じように叩きつけられたら、体が持たない。

1

2

 混ざらない絵の具が、つぼの中でそれぞれの色を主張して浮かんでいる。

 ゆっくりと液体が回転すると、浮かんでいる絵の具が、ズレて伸びていく。

 液体の回転に伴い、色が次第に混じっていく。

 確かこれは……

 いつか見た時と同じ、ムネタの精神世界。

 大きな熊のものと同じ、御することが出来ない難物だった。

 ひかるはこの世界に働きかけ続ける。

 体はムネタの力によって回り始めていた。

 強く壁に打ちつけるための助走。

 ひかるは頭を腕で覆いながら、さらに精神を集中する。

 すると、見えている液体の回転が止まった。

 すると今度は液体の逆回転が始まった。

 最初に液体の上に色を落としていく過程も、逆に色が吸い上がっていくように減っていく。

 ひかるの体は十分な加速が終わった。

 あとはムネタが壁に向けて放つだけ。

 その時、ひかるに見えていた精神世界の色が全て消えた。

 満たされた液体も、底が抜けたように減っていく。

 最後、その底に現れたのは、赤子だった。

 手足を縮め、無力で、ただ泣くだけの存在。

 ひかるは、ムネタの精神世界の底へ下りていく。

 ひかるは赤子に近づいていき、膝をつき、その存在を抱き上げた。

 泣いている赤子は、次第におとなしくなっていく。

 ひかるが顔を覗き込むと、赤子は笑った。

「えっ?」

 赤子が光りながら、薄くなり消えていく。

 ひかるはその空へ上っていく、その光を目で追った。

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